お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話
あの…私の顔に何かついてるのでしょうか?
「初めまして。藤堂専務から紹介されて、こちらにきました、高宮 翔羽です」
「初めまして。藤堂様にこの別荘の管理と、お客様のおもてなしを仰せつかっています、青山 健吾(あおやま けんご)と申します」
まるで魔法使いの住処を思わせる、神秘的な佇まいのログハウスに足を踏み入れた高宮一家。
その中の造りを見て、三人は感嘆の溜息をつくこととなる。
正規のホテルや旅館などではなく、ただの別荘であるため、受付ありのエントランスではなく、普通の玄関となる入り口。
表面からは全て木材を組み合わせたと思われる内装が見えていて、森林の中にいる雰囲気と匂いが漂っている。
金持ちの虚栄心を満たすかのような、高級な絵画などの装飾品などはなく、本当に一つの住居としての自然な姿のままの内装。
間取りは一階と二階があり、一階にリビングとキッチンがあり、二階にプライベートルームが数部屋、存在している。
ログハウスとしては敷地面積は大きめではあるものの、中の間取りは広々としたもので窮屈な感じがなく、どの部屋も広々としている。
加えてこんな山の中であるにも関わらず、このログハウスを作った時に並行して作った発電設備があるので電化製品も問題なく使える。
幸助が持つ、通信会社の知人というコネを活かして個人的な通信設備も提供してもらっており、電波が届かなさそうな山の中であるにも関わらず、インターネット環境もWi-Fi環境も構築されている。
都心から連絡を取り合うためにというのと、ログハウス及び関連設備、施設の管理のため管理業務用のPCも設置されており、自然に溶け込んだ雰囲気の建物でありながら、決して不便さは感じさせないものとなっている。
いい意味でシンプルで、自然との同調感を強く感じられるログハウスの中を、涼羽は非常に興味津々で、そのこぼれそうなほどに大きな目を輝かせながら見回している。
中から三人を出迎えたのは、適度な長さに切り揃えたまっすぐな、色の抜けた白い髪を後ろにきちんと撫で付けた老紳士。
年齢は幸助よりも年上のようで、その顔や首にその刻んだ年輪の多さを感じさせる皺やたるみなどが見られるものの、普段からこのログハウス内や周辺で管理業務や雑務をこなしているからか、背筋は真っ直ぐに伸びており、体格も痩せて見えるものの決して貧相な感じはない。
顔立ちはいい歳の取り方をしていると、誰が見ても思えるようなものであり、若い頃はかなりの美男子だったことがうかがえる。
翔羽ほどではないものの身長は高く、180cm前後はあると思われる。
青山 健吾と名乗ったその老紳士は、柔和で優しげな笑顔を浮かべながら翔羽とお互いに自己紹介を済ませる。
ただ、その笑顔を崩さぬまま自分の顔を、まるで底の方まで覗き込んでくるような健吾の視線が翔羽は気になってしまう。
「?あの…私の顔に何かついてるのでしょうか?」
「はい?…ああ、これはこれは申し訳ございません。藤堂様が手放しで絶賛される社内のエースのことを常に聞かされておりましたもので」
「え?…専務が、ですか?」
「はい。つい最近部長にまで昇進されたと聞きましたもので…実は私自身、その当人にお会いできると思うと、年甲斐もなく非常に楽しみになってましたものでつい…お気を悪くされたようでしたら申し訳ございません」
「い、いえ!そんなことは…」
「まさか、これほどに若いお方だとは思ってもいませんでしたもので…ついついじろじろと…」
「?若い…ですか?」
「はい、私がお見立てしたところ、三十になるかならないかの年齢だと思いますが、そんな若さで管理職を担当されるとは…よほど優秀な方なのかと思いまして」
「…あ、あの…すみません…」
「?はい?」
「私、今年で四十三になりますので、そんなに若いかと言われると…」
かなりのやり手オーラを漂わせていた老紳士、健吾も、さすがに年齢詐称を地でしてしまっている高宮親子の年齢は初見では分からなかったようだ。
実年齢よりも一回り以上も若い年齢で見られていたことに、翔羽は言いようのない罪悪感を覚えてしまい、申し訳なさそうに自身の実年齢を自己申告することとなった。
「………はい?」
そんな翔羽の自己申告に、健吾は柔和な笑顔のまま、間の抜けた声をあげてしまう。
「はて…私の耳がおかしくなってしまったのかな?…四十三?…まさか…」
「いえ…間違いではないです」
「え?…」
「私は今年で四十三になります」
「…………」
申し訳なさそうに、しかしきっぱりと言い切る翔羽の言葉に、健吾は絶句してしまう。
もうそれなりに、人よりも長い年月を生きてきただけに人を見る目はあると思ってはいた健吾。
それも、元はこうして人と接する業務に長く携わっていただけに。
確かにその経験の中には、色々な意味で容姿と年齢が一致しない人間と会ってきたこともあるのだが…
さすがに、翔羽ほど見た目と実年齢が一致しない、実年齢を言われても詐欺としか思えない人間に会ったは初めてだったようだ。
柔和な笑顔を崩すことなく、しかし思考は混乱の渦に落とされている状況。
あまりと言えばあまりな容姿と年齢の乖離に驚き、健吾はつい翔羽のことをまじまじと見つめてしまう。
「いやはや…これは驚きました…以前にも年齢よりお若い容姿の方にお会いしたことはあったのですが…さすがに高宮様ほどお若い容姿の方とお会いしたのは、今回が初めてです」
「お恥ずかしい…今でも三十代前半くらいの社員には年下に見られることがあるもので…」
「!それはそれは…高宮様の実年齢を聞かれたならば、その方は非常に驚きになられるでしょう」
「最初の一度では全く信じてもらえずで…最低でも二度三度伝えてようやく、と言った感じです」
「なるほど…しかし確かに…そうなってしまうのも無理はありませんな」
「そうでしょうか?」
「はい、正直二十代でも十分に通用するほどお若い見た目でいらっしゃいますゆえ」
「…そうですか」
翔羽の過ぎたほどに若々しい容姿に感嘆の言葉をあげる健吾。
その容姿ゆえに、自身の実年齢にそぐわない扱いをされることが多いという翔羽の言葉にも、深くうなづいて心底と言った感じで納得してしまう。
さらには二十代でも通用する、という健吾のお墨付きの言葉までもらってしまう、翔羽は複雑そうな表情を隠せず、露にしてしまう。
「しかし…となりますと…」
「?なんでしょう?」
「高宮様のお連れの方は、もしや高宮様のお子様でしょうか?正直、高宮様の見た目の年齢からして、私は歳の離れたご兄弟だと思っておりました」
「そ、そうですか…仰るとおり、あの二人は私の子供です」
「!左様でございますか…これはまた、お可愛らしいお子様ですな」
「ええ…あの二人は本当に私には過ぎたほどにできた、可愛らしい子達です…おーい、二人共」
健吾に涼羽と羽月のことを歳の離れた兄弟だと言われ、またしても複雑な表情を浮かべてしまう翔羽だが、気を取り直して二人が自分の子供だということを健吾に告げる。
二人の可愛らしさに思わず表情そのものを緩めてしまう健吾の二人を褒める言葉に、翔羽も気をよくしてついつい親馬鹿を発揮してしまう。
「は~い」
「なあに?お父さん?」
父の自分を呼ぶ声にすぐに気づき、物珍しそうにログハウスの中を見ていた涼羽と羽月の二人がぱたぱたと翔羽のそばへと寄っていく。
そんな二人の姿に、翔羽はもちろん健吾も思わず頬を緩めてしまう。
「二人共、この人がいろいろとお父さん達のお世話をしてくださる青山さんだ。ご挨拶しなさい」
「そうなんですね。はじめまして。高宮 涼羽と申します」
「はじめまして!高宮 羽月です!」
「これはこれはご丁寧に…はじめまして、青山 健吾と申します」
父、翔羽の言葉に素直に頷き、涼羽も羽月も健吾に挨拶と自己紹介をしていく。
非常に素直に、可愛らしい笑顔を浮かべての挨拶に健吾も気をよくしたのか、目に入れても痛くないほどに可愛い孫を見るかのような目を向けながら自己紹介を二人に向けて行なう。
「いやあ…しかし本当に可愛らしいお嬢さん達ですなあ」
「!!………」
「え?あ、あの…」
「しかし、涼羽様…ですかな?これほどに見目麗しく可愛らしいお嬢さんですのに…もしや、着飾ることはお嫌なのでしょうか?」
涼羽と羽月の二人を見て、健吾は本当に目の保養と言わんばかりに微笑みが絶えない。
そして、涼羽が初対面の人間に美少女に間違えられるのもいつも通り。
自分のことを女の子だと認識していることが分かる健吾の言葉に、涼羽は思わずその笑顔をぴしりと引きつらせてしまう。
そんな涼羽の顔を見て、慌てて翔羽がフォローを入れようとするも、その前に健吾が言葉を声にしていく。
いつも通りの野暮ったい、地味なファッションを健吾が指摘する言葉を紡いでいく。
人よりは長い自分の人生の中で、これほどの美少女に出会ったのは本当に数えるほどしかないと思えるくらい、涼羽は健吾にとってはハイレベルな美少女なようで…
そんな美少女な涼羽が、あまりと言えばあまりな地味で野暮ったいファッションに身を包んでいることが、健吾は気になって仕方がなかったようだ。
「しかし、これはこれで素材が引き立つと言いますか…妹の羽月様も非常にお可愛らしい方ですし、涼羽様は本当に美少女と言う言葉が相応しい方といいますか…」
「あ…あの…」
「高宮様…高宮様のご息女はとても見目麗しく、お可愛らしいですね…私失礼ながら溜息が出てしまいそうで…?はい?なんでしょうか?涼羽様?」
「す…すみません…僕…男です…」
その野暮ったい服装も、涼羽の容姿のよさをひきたたせていると思えば、逆に素晴らしいとさえ健吾は思ってしまう。
まるで非常に価値の高い美術品を目の当たりにしたコレクターのように、その目を輝かせながら涼羽と羽月のことをベタ褒めし続けている。
そんな健吾を止めようとせんがごとく、これでもかと言うほどに美少女だなんだと言われ、女の子として褒められてしまい、恥ずかしさにその顔を染めながらも涼羽が言葉を発する。
そして、どうにか搾り出すように自分が男であるということを、健吾に言葉で伝える。
そんな涼羽の言葉が耳に届いた健吾のうっとりとした表情が、一瞬何を言われたのか分からないと言わんばかりに困惑の表情に変わっていく。
「…はい?…今何か…涼羽様が男だなどと、幻聴が聞こえたような…」
「げ、幻聴じゃありません…」
「え?…」
「本当に僕、男なんです…」
「…え?え?…」
「もう一度言います…僕、男なんです」
「………は?………」
自分の耳に入ってきた言葉の意味が本当に分からないといわんばかりの状態に陥ってしまう健吾。
涼羽の言葉がしっかりと耳に入ってきたにも関わらず、幻聴が聞こえてきたとまで言い出す始末。
そんな健吾に現実を突きつけるかのように、懸命に自分が男であることを涼羽は伝える。
他でもない涼羽本人からの自己申告に、健吾の意識は完全にパニックに陥ってしまう。
「た、高宮様…」
「!は、はい…」
「…これは何かの冗談、でしょうか?」
「え?」
「これほどにお可愛らしい、美少女な涼羽様が男だなどと…」
「…あ~…残念ですが、涼羽はうちの長男でして…正真正銘の男子です」
「!な、なんと…」
まるで助け舟を求めるかのように、今度は翔羽に問いかける健吾。
涼羽の自己申告が、何かの冗談であってほしい。
そんな願いを込めているかのような、健吾の言葉。
しかし、その願いを打ち砕くかのように告げられる翔羽の言葉に、健吾はもはや驚きを隠せず、先ほどまで見せていた一流の使用人の雰囲気すら霧散してしまっている。
「えへへ…お兄ちゃん可愛いって♪よかったね♪」
「!よ、よくないよ…俺、男なのに…って羽月、匂いなんてかがないで…」
「お兄ちゃんいいにお~い♪だあい好き♪」
半ば放心してしまったかのような健吾の目に映るのは、恥ずかしがりやの姉にべったりと抱きつき、甘えている妹の図にしか見えない可愛らしい兄妹の姿。
羽月に抱きつかれて胸の中に顔を埋められ、さらに自身の匂いまでかがれて恥ずかしさに顔を染めている涼羽の姿がまた可愛らしくて、どう見ても男子には見えないという思いがさらに強くなってしまう健吾なので、あった。
「初めまして。藤堂様にこの別荘の管理と、お客様のおもてなしを仰せつかっています、青山 健吾(あおやま けんご)と申します」
まるで魔法使いの住処を思わせる、神秘的な佇まいのログハウスに足を踏み入れた高宮一家。
その中の造りを見て、三人は感嘆の溜息をつくこととなる。
正規のホテルや旅館などではなく、ただの別荘であるため、受付ありのエントランスではなく、普通の玄関となる入り口。
表面からは全て木材を組み合わせたと思われる内装が見えていて、森林の中にいる雰囲気と匂いが漂っている。
金持ちの虚栄心を満たすかのような、高級な絵画などの装飾品などはなく、本当に一つの住居としての自然な姿のままの内装。
間取りは一階と二階があり、一階にリビングとキッチンがあり、二階にプライベートルームが数部屋、存在している。
ログハウスとしては敷地面積は大きめではあるものの、中の間取りは広々としたもので窮屈な感じがなく、どの部屋も広々としている。
加えてこんな山の中であるにも関わらず、このログハウスを作った時に並行して作った発電設備があるので電化製品も問題なく使える。
幸助が持つ、通信会社の知人というコネを活かして個人的な通信設備も提供してもらっており、電波が届かなさそうな山の中であるにも関わらず、インターネット環境もWi-Fi環境も構築されている。
都心から連絡を取り合うためにというのと、ログハウス及び関連設備、施設の管理のため管理業務用のPCも設置されており、自然に溶け込んだ雰囲気の建物でありながら、決して不便さは感じさせないものとなっている。
いい意味でシンプルで、自然との同調感を強く感じられるログハウスの中を、涼羽は非常に興味津々で、そのこぼれそうなほどに大きな目を輝かせながら見回している。
中から三人を出迎えたのは、適度な長さに切り揃えたまっすぐな、色の抜けた白い髪を後ろにきちんと撫で付けた老紳士。
年齢は幸助よりも年上のようで、その顔や首にその刻んだ年輪の多さを感じさせる皺やたるみなどが見られるものの、普段からこのログハウス内や周辺で管理業務や雑務をこなしているからか、背筋は真っ直ぐに伸びており、体格も痩せて見えるものの決して貧相な感じはない。
顔立ちはいい歳の取り方をしていると、誰が見ても思えるようなものであり、若い頃はかなりの美男子だったことがうかがえる。
翔羽ほどではないものの身長は高く、180cm前後はあると思われる。
青山 健吾と名乗ったその老紳士は、柔和で優しげな笑顔を浮かべながら翔羽とお互いに自己紹介を済ませる。
ただ、その笑顔を崩さぬまま自分の顔を、まるで底の方まで覗き込んでくるような健吾の視線が翔羽は気になってしまう。
「?あの…私の顔に何かついてるのでしょうか?」
「はい?…ああ、これはこれは申し訳ございません。藤堂様が手放しで絶賛される社内のエースのことを常に聞かされておりましたもので」
「え?…専務が、ですか?」
「はい。つい最近部長にまで昇進されたと聞きましたもので…実は私自身、その当人にお会いできると思うと、年甲斐もなく非常に楽しみになってましたものでつい…お気を悪くされたようでしたら申し訳ございません」
「い、いえ!そんなことは…」
「まさか、これほどに若いお方だとは思ってもいませんでしたもので…ついついじろじろと…」
「?若い…ですか?」
「はい、私がお見立てしたところ、三十になるかならないかの年齢だと思いますが、そんな若さで管理職を担当されるとは…よほど優秀な方なのかと思いまして」
「…あ、あの…すみません…」
「?はい?」
「私、今年で四十三になりますので、そんなに若いかと言われると…」
かなりのやり手オーラを漂わせていた老紳士、健吾も、さすがに年齢詐称を地でしてしまっている高宮親子の年齢は初見では分からなかったようだ。
実年齢よりも一回り以上も若い年齢で見られていたことに、翔羽は言いようのない罪悪感を覚えてしまい、申し訳なさそうに自身の実年齢を自己申告することとなった。
「………はい?」
そんな翔羽の自己申告に、健吾は柔和な笑顔のまま、間の抜けた声をあげてしまう。
「はて…私の耳がおかしくなってしまったのかな?…四十三?…まさか…」
「いえ…間違いではないです」
「え?…」
「私は今年で四十三になります」
「…………」
申し訳なさそうに、しかしきっぱりと言い切る翔羽の言葉に、健吾は絶句してしまう。
もうそれなりに、人よりも長い年月を生きてきただけに人を見る目はあると思ってはいた健吾。
それも、元はこうして人と接する業務に長く携わっていただけに。
確かにその経験の中には、色々な意味で容姿と年齢が一致しない人間と会ってきたこともあるのだが…
さすがに、翔羽ほど見た目と実年齢が一致しない、実年齢を言われても詐欺としか思えない人間に会ったは初めてだったようだ。
柔和な笑顔を崩すことなく、しかし思考は混乱の渦に落とされている状況。
あまりと言えばあまりな容姿と年齢の乖離に驚き、健吾はつい翔羽のことをまじまじと見つめてしまう。
「いやはや…これは驚きました…以前にも年齢よりお若い容姿の方にお会いしたことはあったのですが…さすがに高宮様ほどお若い容姿の方とお会いしたのは、今回が初めてです」
「お恥ずかしい…今でも三十代前半くらいの社員には年下に見られることがあるもので…」
「!それはそれは…高宮様の実年齢を聞かれたならば、その方は非常に驚きになられるでしょう」
「最初の一度では全く信じてもらえずで…最低でも二度三度伝えてようやく、と言った感じです」
「なるほど…しかし確かに…そうなってしまうのも無理はありませんな」
「そうでしょうか?」
「はい、正直二十代でも十分に通用するほどお若い見た目でいらっしゃいますゆえ」
「…そうですか」
翔羽の過ぎたほどに若々しい容姿に感嘆の言葉をあげる健吾。
その容姿ゆえに、自身の実年齢にそぐわない扱いをされることが多いという翔羽の言葉にも、深くうなづいて心底と言った感じで納得してしまう。
さらには二十代でも通用する、という健吾のお墨付きの言葉までもらってしまう、翔羽は複雑そうな表情を隠せず、露にしてしまう。
「しかし…となりますと…」
「?なんでしょう?」
「高宮様のお連れの方は、もしや高宮様のお子様でしょうか?正直、高宮様の見た目の年齢からして、私は歳の離れたご兄弟だと思っておりました」
「そ、そうですか…仰るとおり、あの二人は私の子供です」
「!左様でございますか…これはまた、お可愛らしいお子様ですな」
「ええ…あの二人は本当に私には過ぎたほどにできた、可愛らしい子達です…おーい、二人共」
健吾に涼羽と羽月のことを歳の離れた兄弟だと言われ、またしても複雑な表情を浮かべてしまう翔羽だが、気を取り直して二人が自分の子供だということを健吾に告げる。
二人の可愛らしさに思わず表情そのものを緩めてしまう健吾の二人を褒める言葉に、翔羽も気をよくしてついつい親馬鹿を発揮してしまう。
「は~い」
「なあに?お父さん?」
父の自分を呼ぶ声にすぐに気づき、物珍しそうにログハウスの中を見ていた涼羽と羽月の二人がぱたぱたと翔羽のそばへと寄っていく。
そんな二人の姿に、翔羽はもちろん健吾も思わず頬を緩めてしまう。
「二人共、この人がいろいろとお父さん達のお世話をしてくださる青山さんだ。ご挨拶しなさい」
「そうなんですね。はじめまして。高宮 涼羽と申します」
「はじめまして!高宮 羽月です!」
「これはこれはご丁寧に…はじめまして、青山 健吾と申します」
父、翔羽の言葉に素直に頷き、涼羽も羽月も健吾に挨拶と自己紹介をしていく。
非常に素直に、可愛らしい笑顔を浮かべての挨拶に健吾も気をよくしたのか、目に入れても痛くないほどに可愛い孫を見るかのような目を向けながら自己紹介を二人に向けて行なう。
「いやあ…しかし本当に可愛らしいお嬢さん達ですなあ」
「!!………」
「え?あ、あの…」
「しかし、涼羽様…ですかな?これほどに見目麗しく可愛らしいお嬢さんですのに…もしや、着飾ることはお嫌なのでしょうか?」
涼羽と羽月の二人を見て、健吾は本当に目の保養と言わんばかりに微笑みが絶えない。
そして、涼羽が初対面の人間に美少女に間違えられるのもいつも通り。
自分のことを女の子だと認識していることが分かる健吾の言葉に、涼羽は思わずその笑顔をぴしりと引きつらせてしまう。
そんな涼羽の顔を見て、慌てて翔羽がフォローを入れようとするも、その前に健吾が言葉を声にしていく。
いつも通りの野暮ったい、地味なファッションを健吾が指摘する言葉を紡いでいく。
人よりは長い自分の人生の中で、これほどの美少女に出会ったのは本当に数えるほどしかないと思えるくらい、涼羽は健吾にとってはハイレベルな美少女なようで…
そんな美少女な涼羽が、あまりと言えばあまりな地味で野暮ったいファッションに身を包んでいることが、健吾は気になって仕方がなかったようだ。
「しかし、これはこれで素材が引き立つと言いますか…妹の羽月様も非常にお可愛らしい方ですし、涼羽様は本当に美少女と言う言葉が相応しい方といいますか…」
「あ…あの…」
「高宮様…高宮様のご息女はとても見目麗しく、お可愛らしいですね…私失礼ながら溜息が出てしまいそうで…?はい?なんでしょうか?涼羽様?」
「す…すみません…僕…男です…」
その野暮ったい服装も、涼羽の容姿のよさをひきたたせていると思えば、逆に素晴らしいとさえ健吾は思ってしまう。
まるで非常に価値の高い美術品を目の当たりにしたコレクターのように、その目を輝かせながら涼羽と羽月のことをベタ褒めし続けている。
そんな健吾を止めようとせんがごとく、これでもかと言うほどに美少女だなんだと言われ、女の子として褒められてしまい、恥ずかしさにその顔を染めながらも涼羽が言葉を発する。
そして、どうにか搾り出すように自分が男であるということを、健吾に言葉で伝える。
そんな涼羽の言葉が耳に届いた健吾のうっとりとした表情が、一瞬何を言われたのか分からないと言わんばかりに困惑の表情に変わっていく。
「…はい?…今何か…涼羽様が男だなどと、幻聴が聞こえたような…」
「げ、幻聴じゃありません…」
「え?…」
「本当に僕、男なんです…」
「…え?え?…」
「もう一度言います…僕、男なんです」
「………は?………」
自分の耳に入ってきた言葉の意味が本当に分からないといわんばかりの状態に陥ってしまう健吾。
涼羽の言葉がしっかりと耳に入ってきたにも関わらず、幻聴が聞こえてきたとまで言い出す始末。
そんな健吾に現実を突きつけるかのように、懸命に自分が男であることを涼羽は伝える。
他でもない涼羽本人からの自己申告に、健吾の意識は完全にパニックに陥ってしまう。
「た、高宮様…」
「!は、はい…」
「…これは何かの冗談、でしょうか?」
「え?」
「これほどにお可愛らしい、美少女な涼羽様が男だなどと…」
「…あ~…残念ですが、涼羽はうちの長男でして…正真正銘の男子です」
「!な、なんと…」
まるで助け舟を求めるかのように、今度は翔羽に問いかける健吾。
涼羽の自己申告が、何かの冗談であってほしい。
そんな願いを込めているかのような、健吾の言葉。
しかし、その願いを打ち砕くかのように告げられる翔羽の言葉に、健吾はもはや驚きを隠せず、先ほどまで見せていた一流の使用人の雰囲気すら霧散してしまっている。
「えへへ…お兄ちゃん可愛いって♪よかったね♪」
「!よ、よくないよ…俺、男なのに…って羽月、匂いなんてかがないで…」
「お兄ちゃんいいにお~い♪だあい好き♪」
半ば放心してしまったかのような健吾の目に映るのは、恥ずかしがりやの姉にべったりと抱きつき、甘えている妹の図にしか見えない可愛らしい兄妹の姿。
羽月に抱きつかれて胸の中に顔を埋められ、さらに自身の匂いまでかがれて恥ずかしさに顔を染めている涼羽の姿がまた可愛らしくて、どう見ても男子には見えないという思いがさらに強くなってしまう健吾なので、あった。
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