お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽君の仕事っぷりを、見に来てはどうかな?

「お兄ちゃん、遅いね~」
「ん?おお、そうだな~…」

涼羽と志郎が、高校生にして人生初となるモデルに挑戦しようとしているその頃。
涼羽の自宅となる高宮家では、涼羽の父である翔羽と、妹である羽月が、揃って涼羽の帰りを待っている。
この日、クラスの友達に誘われて合コンに行っているのは、他ならぬ涼羽自身から聞いている。
だが、その時に聞いていた終了予定の時間を過ぎているにも関わらず、未だに最愛の息子である涼羽が帰ってこないことが、翔羽と羽月の心に芽生えている寂しさを、より増長させるものとなっている。

いつだって涼羽のことが大好きで大好きでたまらないこの二人。
もう常日頃から、涼羽のことを可愛がって、目一杯愛している状態。
それゆえに、涼羽がいないとすぐに寂しくなってしまう。
だから、早く帰ってきて欲しいとずっと思っているのだが、終了予定の時刻を過ぎているにも関わらず涼羽が帰ってこないため、その寂しさがどんどん大きくなっていってしまう。

「もしかして…涼羽に何かあったんだろうか…」

涼羽ほどに可愛くて、誰からも愛されてしまう息子なら、誰かよからぬことをしてしまっても不思議ではないと、常日頃から思っている翔羽。
そんな翔羽の不安から来る思いが、ぽつりとその口から音となって漏れ出てしまう。

「!え!?お兄ちゃん、まさか…」

そんな父のぽつりと漏れ出た一言に、羽月も反応してしまう。
あんなにも可愛い兄なのだから、どこの馬の骨とも分からないような人間に声をかけられても不思議ではない。
あんなにも愛されキャラな兄なのだから、誰にさらわれてもおかしくなどない。

やっぱり、合コンになんか行かせるんじゃなかった、などという思いまで浮かんできてしまう、翔羽と羽月の二人。

そうして、いてもたってもいられなくなってしまい、涼羽に連絡を取ろうと、翔羽と羽月が同時に自分のスマホから、涼羽に連絡を取ろうとした、その瞬間だった。

「!電話?…」

父、翔羽のスマホに、電話の着信を告げるコールが、鳴り響いたのは。

そして、着信のコールをリビングに鳴り響かせるスマホのディスプレイに映っている名前を見て、翔羽の顔に驚きの表情が浮かんでしまう。

「え…専務?」

そう、今翔羽のスマホに電話をかけているのは、翔羽の上司であり、翔羽の会社の専務である、藤堂 幸介。
だが、基本的に非常に子煩悩でとにかく家庭を優先したがる翔羽の性質を知っており、それを常に考慮して休みの日には連絡などすることのない相手。
かけてくるとすれば、よっぽどの状況なのだろうが、翔羽が知る限りでは、そんな事態が起こるような要素など、ないと断言できるはず。

とはいえ、今となっては常に目をかけてもらっていて、日々の業務の中でも社内の風土を改善しようと、共に戦っている、いわば戦友のような存在である幸介。
そんな幸介からの着信なのだからと、とにかく急いでスマホの操作をその長く整った造詣の指で行い、通話の状態にする。

「もしもし、高宮です」
「おお、高宮君。休日のところ、すまないね」

そして、専務である幸介に対しての敬意を忘れず、改まった形で応答の声を発する翔羽。
そんな翔羽に対し、あくまで威圧感を与えない、それどころか親しみすら込められていることを感じさせる、柔らかい口調と声で、翔羽に話しかける幸介。

「いえ…何か、御用でしょうか?専務?」
「ああ、そうそう…今君が、業務の応援などに出ている、あの会社なんだが…」
「!何か、こちらに不手際でも、ございましたでしょうか?」
「まさか。いつも君と君の部下がしてくれる仕事は完璧だと、あちらは声を揃えて称賛してくれているよ」
「そうですか…それなら、よろしいのですが…」
「うんうん…で、今あちらに、涼羽君がいてね…」
「!え?涼羽が、ですか?」
「うむ、そうなんだよ。で、その涼羽君が、あちらの会社でちょっと重要な仕事に関わることになってな」
「!え?え?な、なんでまたそんなことに!?」
「まあ、それはちょっとした成り行き、としか言えんのだがね…で、君のことだ…今日も涼羽君の帰りを、一日千秋の思いで、待っていたのだろう?」
「もちろんですとも!私の日常は、あの子がいてくれてこそ成り立っているのですから!」
「そ、そうか…で、君はあの会社とも、もうすでに浅くはない縁もあることだし…せっかくだから、涼羽君の仕事っぷりを、見に来てはどうかな?と思ってね」
「!涼羽の、仕事をですか!?」
「ああ、誠一も君ならば、二つ返事でOKを出してくれるだろう。すでに涼羽君が、君の息子であることも、私の口から伝えているからね」
「そ、そういうことでしたら、ぜひ!」
「ふふ…君ならそういうと思っていたよ。で、せっかくなんだし、羽月ちゃんも一緒に連れてきてあげたら、どうかね?」
「!は、羽月も一緒でよろしいのですか!?」
「ああ、誠一には私から伝えておくよ。それに、羽月ちゃんも涼羽君がいなくて、寂しいのだろう?」
「は、はい!」
「なら話は決まりだ。一階の奥にあるイベントホールで、業務が行なわれているから、そこまで来てくれたらいい」
「分かりました!すぐに行きます!」
「うむ、待っているよ」
「はい!ありがとうございます!」

そのうきうきとした様子を表したかのような弾んだ声で、通話を切る。
最近、業務応援のために少なくない頻度で出入りしている会社の方で、最愛の息子である涼羽が、何かの仕事に関わるということを、専務である幸介から聞かされた翔羽。
そして、その仕事風景を見に来ては、ということまで、幸介から言ってもらえた。

一体、自分の息子がどんな仕事をするのか、見てみたくて仕方がない、といった感じの翔羽。
二つ返事で、幸介の申し出に対し、肯定の意を声にする。
さらには、羽月も一緒に、とまで言ってもらえたので、願ってもない申し出となったのだ。

「お父さん?電話、誰からだったの?」

最初は怪訝な表情を浮かべながらのやりとりだったのが、通話が進むうちにどんどんテンションが上がっていっていた父を見て、一体誰からの電話だったのかが聞きたくなって、問いかけの声を父に向ける羽月。
やりとりの最中で、自分の名前が聞こえてきたのもあり、余計に聞いておきたかったのだろう。

「羽月!今からお出かけするから、すぐに支度をしてきなさい!」

だが、妙にテンションが上がっている父、翔羽は娘である羽月の問いかけに答えず、すぐにお出かけの準備をするようにと、促してくる。

「え?え?」

そんな父に、一体何がなんだか分からなくなってしまう羽月。

「今、専務から電話があってな」
「!専務って、お父さんの会社の専務さん?」
「ああ、そうだ!で、今お父さんが業務のお手伝いなどで出入りしている会社があってな…今そこで涼羽が、何か仕事に関わっているらしい」
「!お兄ちゃんが?」
「そうだ。で、お父さんと羽月で、涼羽の仕事を見に来るか、って言って下さってな」
「!そうなの!?」
「ああ!もうすぐにでも行くから、お父さんも急いで支度する!だから、羽月も急いで支度してくれ!」
「!うん!分かった!」

疑問符がそのまま表情に出てしまった羽月、幸介との電話のやりとりの内容を簡潔に伝える翔羽。
そんな電話の内容を聞かされて、羽月も父、翔羽と同じようにテンションが上がってしまう。

そして、二人揃って涼羽の仕事っぷりをすぐにでも見に行こうと、まるで待ちに待っていた旅行の日を迎えた子供のようにはしゃぎながら、大急ぎでそれぞれの部屋へと飛んでいき、すぐに外出の支度を始めるので、あった。



――――



「ほらー!!もうすっごく綺麗ー!!」
「わー!!なにこれなにこれー!!」
「もうすっごく綺麗で、すっごく可愛いー!!」

涼羽の父である翔羽と、妹である羽月が大急ぎで、今、涼羽が女性スタイリスト達に囲まれて、その童顔な美少女顔に絶妙なメイクをほどこされているこの場に来ようとしている頃。

その見事と言えるほどの作品を作り上げたメイキャッパーの女性は、今まで一度もなかった、と言えるほどに自らを褒め称えたくなる声をあげている。
そして、その作品を目の当たりにしたスタイリストの女性達も、とろける、といっても過言ではないほどにその頬を緩めながら、絶賛の声をあげている。

「(え?え?…今、俺の顔、どうなってるのかな?…)」

自分のすぐそばで、わいわいと嬉しそうな表情をしている彼女達の顔を見ながら、一体今の自分がどんな顔になっているのか、非常に気になってしまう涼羽。

今の涼羽は、普段と比べると、明らかに違うと言い切れるほどの状態となっている。

まず、普段は左側で分けられている前髪が、中央で綺麗に分けられ、その髪の先が、涼羽の幼げな輪郭を覆い隠す形になっている。
そして、腰の上まで伸びている後ろ髪は、アップにされてまとめられており、その綺麗なうなじがむき出しになっている。

そして、大きくぱっちりとしている目は、ややそれを抑えて見せるかのようにひかれたアイラインのおかげで、優しげなままではあるものの、少し大人びた印象を感じさせる。
もともとが透き通るように白い肌も、軽く下地を作られて、ほんの少し肌色が強調されている。
そして、そんな肌とのコントラストを強調するかのように、涼羽の艶のいい唇に塗られたルージュ。
明るい感じの、桃色に近い朱色に塗られた唇は、男性はもちろんのこと、女性の目をも惹いてしまうであろうできばえと、なっている。
睫毛はもともとばさばさなので、ほんの少し整えるだけで、よりきらきらとした印象になっている。

普段の可愛らしさを損なわずに、大人びた綺麗さが絶妙な配分で込められており、普段とは別人と言えるほど違う印象となっている。
それでも高校生と言えば十分に通るレベルであり、よく見ても大学生くらいなのだが、普段が中学生くらいにしか見られていないことを考えると、明らかに違う雰囲気になっていると、言えるだろう。

「(うう…化粧なんて初めてされたから…なんか…顔がすっごく違和感が…)」

そんなにがっつりと塗られたわけではなく、至ってナチュラルに仕上げてもらっている、今の涼羽なのだが、やはり化粧そのものが初めてということもあり、違和感が激しく、自分の顔に襲い掛かってきている状態だ。

しかも、もともと女装そのものに激しい抵抗感を感じてしまう涼羽なだけに、今自分が化粧をしているという事実そのものに、激しい羞恥を感じてしまっている。
いつもの地味な普段着のままではあるのだが、首から上はいつもの可愛らしさに、大人びた綺麗さが加えられていて、さらに美少女っぷりが増してしまっている。

これなら、どこに出しても恥ずかしくない花嫁となってしまうであろう確信が、メイキャッパー、スタイリストの女性達にできてしまっている。

「ほ~ら、涼羽ちゃん♪と~っても綺麗で可愛くなっちゃったお顔、見てみて~?」

まだ鏡を見ていないため、自分の顔が一体どんなことになっているのか全く分かっていない涼羽に、メイキャッパーのお姉さんが涼羽をその華奢な身体ごと、鏡の方へと向けてしまう。
そうして、視線を鏡の方に向けられたため、涼羽の視界に、鏡に映った自分の顔が飛び込んでくる。

「!え…」

髪型までいじられていることも大きいのだが、それを差し引いても普段と比べて大きく変わっている今の自分を見て、まるで自分の顔ではないような感覚に陥ってしまう涼羽。
あきらかに「少女」と言える普段の顔が、「少女」と「女性」の中間で、やや「女性」により始めている、と言えるものと、なっている。

しかも、ナチュラルにではあるがメイクまでされていて、ルージュまで引かれているその顔は、いつもより女の子らしさが増しており、誰の目をも惹いてしまうことは間違いないであろうほどの美少女度が、さらに上がってしまっている。

そんな自分の顔が、まるで自分のものではないような感覚がどうしても抜け落ちず、呆気にとられて言葉も出ない状態と、なってしまっている。

「どお~?すごいでしょ~?」
「もうね~、入りたての女子大生か、最高学年くらいの女子高生って感じよね~?」
「それでも、二十台か?って言われたら、やっぱり十台ってなっちゃうけど~」
「それでも、十分にお嫁さんになれちゃう年代には、十分に見られるよね~」

まだ軽くメイクをしてみただけの状態なのだが、それだけでもう、原石が眩いと言えるほどの輝きを見せてしまっている。
これほどの素材を自分達の手で磨くことができて、非常にご満悦の彼女達。
少し大人びた色っぽさも加えられてはいるのだが、決して本来持っているその清楚でお淑やかな雰囲気は損なわれることなどなく、まさに純真無垢な花嫁として、どこに出しても恥ずかしくないようになっている涼羽。

そんな涼羽を見ているだけで、どんどんモチベーション、そしてテンションが上がってくる彼女達。

そして、もう待ちきれないと言わんばかりに鼻息を荒くしてしまっているスタイリストの一人が、これまで見たこともないほどに変えられている自分の顔に驚いて固まったままの涼羽のトレーナーを、せっかく作り上げた作品とも言えるメイクや髪型にまるで影響が出ないほどの素早さと的確さで、すぽんと脱がせてしまう。

それにより、普段から肌を露にすることを嫌い、他人、特に異性の前では見られることがそうそうないはずの涼羽の肌が、露になってしまう。
一応、インナーのタンクトップは着ているものの、丸みを帯びて小さな肩のラインや、ほっそりとしてくびれのある腰、華奢で滑らかなラインの鎖骨など、普段はまず見られないであろう涼羽の上半身の様々な箇所が、彼女達の目に飛び込んでくる。

「わ~!ほんとに綺麗なお肌~!」
「それに、すっごく華奢で細い~!」
「でも、無理に痩せてる感じじゃなくて、自然に細い感じ!」
「胸は…ほんとにぺったんこだから、ここは男の子って感じ、一応するけどね~」

本来は女性のモデルなどが専門の彼女達なので、男性を相手にすることはないのだが…
そうであるにも関わらず、本来は男である涼羽の素肌を見て、むしろ変な方向にテンションが上がっていってしまっている。

一応、涼羽が男だと言う認識はあるものの、実際には同性を相手にしている感覚なのだろう。

「…………はっ!」

普段とまるで違うとまで言い切れるであろう、今の自分の顔に驚いて、その機能を停止していた涼羽が、ようやく今の自分の状況に気づく。

「や、やっ!…」

そして、今ここにいる自分以外の、しかも年上の美人なお姉さん達に、トレーナーを脱がされて露になっている自分の肌を見られて、思わずといった感じで自分の身体を隠すように、その華奢な両腕で、自分を抱きしめるように隠してしまう。

「み、見ないで…ください…」

そして、その顔を熟れた林檎のように真っ赤に染めながら、儚い懇願をそのつやつやとした唇から、震えた声としてその場に響かせてしまう。

そんな涼羽を見て、彼女達はその緩みに緩んでいる頬をますます緩ませてしまい、黄色い声を響かせながら、涼羽の可愛らしさをしっかりと堪能するので、あった。

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