お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

なあ、合コンって、なんなんだ?

「はあ?合コン?」

涼羽との心温まるやりとりのおかげで、また一つやる気にさせてもらえたその日の放課後。
すぐに帰って、孤児院のためにできることに取り組もうとしたところ…
最近、よく会話をするようになってきた、同じクラスの男子達に呼び止められ、話を聞くことになった志郎。

以前までのような、思わず目を背けてしまうほどの氷のような瞳と、能面のような表情。
それがなくなって、本当に人間らしい、喜怒哀楽がはっきりとした、親しみやすさが滲み出ている今の志郎。

それゆえに、今ではクラスメイトとの会話、やりとりも多くなっており、少しずつではあるものの、友好な人間関係を築くことができつつある。

そんな志郎が、そのクラスメイトの男子から聞かされた言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「そうなんだよ、鷺宮」
「合コンだぜ!合コン!」

ちなみにこの時、志郎に声をかけてきた男子達は、全員彼女がいない暦と年齢が一致する者ばかり。
特に不細工というわけではないのだが、だからといってイケメンというわけでもない普通の容姿。
加えて、その割には異性に対してがっついており、それが少し女子達の嫌悪感を生んでしまっている、ということにまるで自覚がない状態となっている。

「なあ、合コンって、なんなんだ?」

今は孤児院のために、現在の院長と、秋月保育園の園長である秋月 祥吾に素直に教えを請いながら、孤児院にいる、自分と同じ境遇の子供達の相手をしている志郎。
特別、異性に興味がない、というわけではないのだが、獰猛な肉食獣なイメージでありながら、意外にも彼女が欲しい、とか、恋愛がしたい、といった感覚がかなり希薄。

むしろ最強の不良という称号に相応しい、獰猛で貪欲で肉食獣なイメージとは却って間逆な、草食系男子と言えるような状態となっている。

やはり、もともとが喧嘩のみに明け暮れていて、目の前に立ちふさがるのなら、それが異性であってもお構いなしなところがあったというのもあり、さらには思春期のほぼ全てを喧嘩に捧げてきたため、まともな恋愛感覚など、養われるはずもなかった。

周囲からずっと敬遠され続け、ずっと孤独に生きてきたのも、それに拍車をかけることとなってしまっている。

加えて、そんな人生から救われることとなった今では、ひたすらに孤児院のために自らを向上させようと、努力を惜しまない状態。
すごく親しみやすい雰囲気に満ち溢れていて、ルックスも割とイケメンに分類されるのにも関わらず、本人が今は恋愛方面にまるで意識がいかない状況。

男女のお付き合いに関してはほぼ真っ白な状態であり、さらには世間一般のことに疎い面も多い志郎であるがゆえに、合コンと言われても、それが何なのかすら、全く分からないため、それが何なのかを聞き返すという事態にしか、ならなかった。

「え?…」
「え…鷺宮、お前それ、本気で言ってる?」
「じょ、冗談だよな?」

志郎に声をかけた男子達も、志郎の言葉にさすがに動揺を隠せない。
むしろ、そんなことも知らないのか、と思ってしまっており、さらには冗談で言ってるとしか思えない…
むしろ、そうであってほしい、という願望から、そんな言葉が出て来てしまう。

だが、当の志郎は至って真面目で、少しも冗談を言っている素振りが見えない。
本当にそんな言葉を知らないのだから、無理もないのだが。

「冗談?冗談って、何がだ?」
「い…いや、合コンって、マジで知らないのか?」
「ああ、そんな言葉、初めて聞いた」
「…おいおい…」
「…ウソだろ…」

今時の男子高校生がそんなことも知らない、などと思いたくないのか、確認の意味を込めて再度、志郎に問いかけてみるクラスメイトの男子。
だが、そんな男子の言葉に対し、志郎から返ってきたのは、合コンという言葉自体、聞いたのは初めてというもの。
さすがに、そんな志郎に対し、驚きを隠せない男子達。

「なあ、合コンって、なんなんだ?それって、知らないとだめなことなのか?」

さすがに今初めて聞いた言葉というのと、周囲の男子が知っていて当然、な雰囲気をかもし出していることで興味を持ったのか、本当に素直な様子で男子達に聞いてみる志郎。
日頃から、現在の院長や祥吾に素直に教えを請い、受け入れて取り組んでいることからも、こういった知らないことを知る、その為に聞く、というアクションは常に早くなっている。

ましてや、周囲の男子達が知っていて当然な雰囲気を出していては、自分も知らないとだめなのでは、と思ってしまっても仕方がないものと言える。

本当に知らないばかりか、好奇心、そして教わる意欲に満ち溢れている志郎に対し、動揺を隠せない状態でありながらも、志郎の問いに答えようと、言葉を声にしていく男子達。

「あ、ああ…合コンってのは、同じ人数の男子と女子で、楽しく飲み食いしたり、遊んだりして楽しむ会のことだよ」
「?なんだそれ?要は男と女が揃って遊びにいく、ってことか?」
「まあ、要はそういうことなんだけどな」
「それ、ただ友達が一緒に遊びにいくのと何が違うんだ?それと一緒じゃないのか?」
「いやいや、それが全然違うんだな、これが」
「?何が違うんだ?」
「聞いてて思わないか?」
「??何が?」
「どうしてわざわざ、同じ人数の、って言ったんだと思う?」
「?同じ人数?それって、同じ人数じゃないとだめなのか?」
「ああ」

男子達が教えてくれることに、一つ一つ疑問に思ったことを問いとして返していく志郎。
そんな志郎を見ていて、教え甲斐がある、とでも思っているのか…
途中からは、割と得意げな感じになりながら、素直な生徒役となっている志郎にさらに言葉を紡いでいく。

「何で、同じ人数じゃないとだめなんだ?」
「そこに、合コンの目的があるからさ」
「?目的?」
「要するに、合コンってのは、彼女欲しい男子と、彼氏欲しい女子が集まって、好みの彼氏、彼女を見つけるという…つまりは出会いのイベントってことなんだよ」
「?え?」
「そうそう、そこで意気投合した男女が、連絡先を交換し合って、そこから交際が始まったり、うまくいったらそこからお付き合いが始まったりとかしたりさ…」
「俺らももう高校三年だし、いい加減彼女とか欲しいから、そういうチャンスは逃したくないんだよ」
「?え?なんで彼女欲しいからって、わざわざそんなところに行ったりするんだ?」
「え?」
「そりゃあ、そういう場の方がちゃんとお互い話もできるし、好みもきっかけも掴めるし…」
「何より、普通に女の子と遊んで楽しめるってのもあるし、いろんなタイプの女の子がいるはずだし、もしかしたら美人揃いの女子高から来てくれたり…とかもあるからさ」

実に分かりやすい、男子達の答えにも、どこか納得が言っていない状態の志郎。
彼女が欲しいからそんなところに行く、というところに、やけに引っかかりを覚えているようだ。

そんな志郎に、合コンのメリットをそれぞれ伝えてくる男子達。
まあ、だからといって彼らも、合コンに行きなれているかといえばそうではなく…
たまたま舞い込んだこの話に乗り気になって、初めて超ドキドキ、という心境になってしまっており、まるで遠足を楽しみにして眠れなくなってしまう子供のような状態なのだが。

「そこが分からない」
「は?何が?」
「だってよ、それって集団お見合いみたいなもんだろ?」
「!ま、またそんな身も蓋もない言い方を…」
「なんで、普通に世の中出てりゃ、いくらでも好きな人とめぐり合える可能性なんかあるのに、わざわざそんな自分の選択肢狭めるようなこと、しちまうんだ?」
「!な、なんということを…」
「それによ、好きになったらその場で声かけて、自分から相手に好きになってもらうことをしていくことの方が大事じゃねえのか?合コンっつったって、今聞いた話だけだと、結局はただのきっかけ作りだろ?」
「!う、うぐ…」
「大事なのは彼女ができること、じゃなくて、本当に一生を共に出来る人と、仲良く過ごしていくことじゃないのか?俺、その場の雰囲気で遊びにいっただけで、そんな人見つかるとは、とても思えねえんだけどな」

とてもかつては最強の不良と称され、人々から恐れられ続けてきた男の言葉とは思えない…
むしろ、非常に全うな意見を疑問として述べていく志郎。

志郎にしても、好きになるのはたった一人だけ、という非常に一途な思考が当然のように存在している。
それは、かつて育ての父として、志郎を育んできてくれた、前の院長が教えてくれたこと。
むしろ、女性を自分の慰み者にするようなことは決してしてはならない、とまで教わってきた。

一時は、力の証明のためにひたすらに暴力にその青春を費やしてきたため、その教えを忘れてしまっていたが、現在の院長、そして祥吾が今、かつての父のように自分を育んでくれていて、そのおかげで父の教えを取り戻すことができている。

さらには、あの時涼羽が教えてくれた――――



―――男の強さってね、女の子を…自分の大切な人を…護るために、あるんだよ――――



自分のこれまでの醜く歪んだ価値観を全て打ち砕いてくれた、あの一言。

これが、以前の悪鬼のような状態の志郎とは違い、女性を常に大事にしようとするフェミニストな精神を形成してくれた。
さらには、女性のみならず、その圧倒的なほどの身体能力、戦闘能力を今度は人の役に立つようにしていくことができるようになっている。

だからこそ、そんな軽い気持ちで女子と遊んだり、彼女にするきっかけとしたり、などという考えが、志郎にはいまいち理解できなかった。

ちなみに、志郎と志郎のクラスメイトの男子達が話しているところを、下校中の通りすがりの女子達が聞いてしまっていたりする。
そんな、志郎の純粋な、女性を大切にしようとする思いを聞いてしまい、思わず胸の鼓動が激しくなってしまったり、志郎がそんなフェミニストな精神の持ち主だということを友人の女子達にLINEやメールで拡散したりしてしまっている。

このおかげで、志郎の女子からの人気が一気に高まったりすることとなるのだが、当の志郎がそんなことを知る由もなく、やけに女子が自分に絡んでくるようになってきた、くらいにしか思わないのは、また別の話となる。

「(な、なんだこいつ…なんてまっすぐなやつなんだ…)」
「(以前は最強の不良だったのに…今はむしろ天使のようじゃねーか…)」
「(これが…これが何もしなくても女の子が寄ってくる男ってやつなのか…)」

そんな志郎の言葉に、男子達はすっかり言葉を失ってしまっており…
さらには、志郎の言うような軽い気持ちで合コンに行こうとした自分達が恥ずかしくなってしまう。

以前あれほどに恐ろしいばかりだった志郎の、純粋で真っ直ぐな思い。

これがゆえに、密かに女子からの人気が高いのかと、思わざるを得なくなってしまう。
一途で真っ直ぐで、しかも自分を向上させるための努力を惜しまないイケメンなんて、勝ち目がない、とまで思ってしまう。

しかし、だからといってここで引き下がるわけにはいかない。
今回の合コンは、どうしても参加したくて、女子側にかなり無理を言っているから。
そして、その見返りとして、条件を突きつけられているから。

この条件を達成できなくては、この合コン自体がご破算となってしまう。
だからこそ、ここで『はい、そうですか』と話を終わらせるわけにはいかない。

「な、なあ頼む!本当に人数合わせでいいんだ!」
「俺らと一緒に、合コンに出てくれないか?」
「もちろん、その場にいるだけでいいからさ!」

この男子達がここまで必死になる理由…
それは、今回の合コンをセッティングしてくれる女子達から出された条件の一つがある。

その条件とは、『鷺宮 志郎をこの合コンに出席させること』。

今回の相手側の女子全員が、以前から最強の不良として名高い志郎に対して憧れを持っており…
しかも、たまたまこの話を持ち込んできた男子達が志郎と同じ学校でしかも同じクラスだということを知ったため、男子達が言ってくる無理を叶えてあげるための対価として、その条件を突きつけたのだ。

従って、志郎を連れて来ることができなくなった時点で、合コンの話は消えてなくなってしまう。

だからこそ、もう体裁など構っていられないのか、土下座でもしそうなほどの勢いで志郎に頼み込んでくる男子達に、志郎は思わず引いてしまう。

「お、おいおい…どうしてそこまで俺を出させようとするんだ?」

当然ながら、そこまで自分を出させようとすることに疑問を持った志郎が、その理由について問いかけてくる。
志郎としても、合コンには全く興味がなく、さらりと断ってしまおうと思ってはいたのだが、目の前のクラスメイト達がここまで必死に頼み込んでくるのを見て、まず理由を聞いてみることにした。
もしそこに正当な理由があって、それが破綻したがために彼らの望みがつぶれることとなってしまっては、志郎としても後味が悪いと思ったからである。

「!そ、それは…」

さすがに理由が理由なだけに言い辛く、思わず口ごもってしまう男子。
これでは、完全に志郎を自分達が合コンに参加するためだけに連れて行くことにしかならず、合コンに興味のない志郎にとっては何もプラスになるものがないからだ。

自分達の望みを叶えたいだけで、志郎に不本意なことをさせてしまい、しかもそれで志郎が得るものなど何もない、などとなってしまっては、志郎も怒らずにはいられない、と思ってしまう。

「とりあえず理由を言ってみろ。どうするかはそれを聞いてから判断するから」

まるで親に隠し事をするかのような、口ごもった仕草になってしまう男子達に、決して怒る気などない、という落ち着いた口調で、理由を求める志郎。

「……わ、わかった…」

とりあえずは話を聞いてくれる姿勢の志郎に、ここで口ごもっていても仕方がないと判断したのか、その重い口を開けて、その理由を説明する男子達。

男子達が言う理由を、表情一つ変えることなく静かに聞いていく志郎。

そして、全てを話し終えた男子達に対し、しばらく無言を貫いていた志郎が、その口を開ける。

「…別にいいぜ?」
「!そ、それじゃあ…」
「ああ、俺が出ればいいんだろ?」
「!マ、マジで!?」

こんな理由だと、怒られても仕方がない、と思っていた男子達は、志郎のまさかの肯定の意を示す言葉に、驚きを隠せなかった。

「だって、それってお前らが出たくて仕方がないっていうイベントだろ?」
「あ、ああ…」
「そうだけど…」
「で、それには俺が出ることが必要なわけなんだろ?」
「そうなんだよ…」
「別に合コンとかいうの自体は俺はどうでもいいんだけど、俺が出ないことで、お前らのせっかくの楽しみがつぶれちまうのも、俺としては後味悪いんだよな」
「!さ、鷺宮…」
「だから、そのくらいなら別に構わねえ。ただ、俺は特にしゃべることも関わることもしねえだろうから、遠慮なく女子達と楽しんでてくれ」
「!お、お前…」
「!な、なんていい奴なんだ…」

理由が理由なだけに、怒りを覚えられても仕方がないとさえ思っていた男子達。
だが、怒るどころか自分達を思いやっての志郎の言葉に、感動を覚えてしまう。

「あ、ありがとう!鷺宮!」
「マジでありがとう!」
「俺、この恩は一生忘れねえ!」

志郎の粋な言葉に感動した男子達が、揃って志郎にがっしりと握手し、感謝の言葉を紡いでいく。
そんな男子達を見て、志郎は以前までの自分なら、わざわざこんなことはしなかったな、と…
そして、親友の涼羽、今の孤児院を支えてくれている院長、そして、その孤児院を救ってくれた祥吾がいてくれるから、自分はこんなにも変わることができたのだと思い、その精悍な顔に思わず、穏やかな微笑みが浮かんでいるので、あった。

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