お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽ちゃん…本当にありがとうね…

「おいし~!」
「ふふ、かなちゃん、おいしい?」
「うん!す~っごくおいしい!」
「そっか、かなちゃんが手伝ってくれたおかげだね」
「!えへへ、りょうおねえちゃんがす~っごくやさしくおしえてくれたからなの!」
「そお?それならよかった」
「ありがとうなの!りょうおねえちゃん!」

リビングに置かれている、長方形のシンプルでスタイリッシュな白のダイニングテーブルに、涼羽と香奈が共同作業で作った料理が並び、この日の水神家での夕食が始まっている。

長方形となる形状の、長い辺の片側に、永蓮と水蓮の二人が並んで座り、その反対側に涼羽と香奈が並んで座る形になっている。

テーブルの上に所狭しと並んでいる料理が非常に美味しそうに見えたのか、四人全員で『いただきます』の合唱をした直後に、その小さな手に持たれた箸をすぐさま動かして、結構な勢いで夕食を食べ始めることとなった。

そして、ひとつ口にしてしっかりと咀嚼していき、味わうごとにその美味が伝わってくる。

普段、この家で食べる料理よりもずっと美味しいと感じているのか、香奈はいつもよりも本当に美味しそうで、幸せそうな可愛らしい笑顔を浮かべながら、ぱくぱくと食べ続ける。

そんなところに、隣に座っている涼羽が優しい笑顔で香奈に問いかけてみると…
まさにその美味しさと堪能していると言わんばかりの、元気いい返事が返ってくる。

香奈がお利口さんに手伝ってくれたからだと、本当に思っている涼羽が、そのことを口に出すと…
香奈の方からは、涼羽が優しく教えてくれたからだと、本当に嬉しそうに返してくる。

まるで本当の姉妹のように、仲睦まじくお互いを思い合う涼羽と香奈のやりとり。

そんな二人のやりとりを見せられて、水蓮と永蓮の二人の頬もとろとろに緩んでしまっている。

「あ~もお!涼羽ちゃんも香奈もなんでそんなに可愛くて、仲良しなの~!」
「本当ね~…涼羽ちゃんがこんなにも香奈に優しく接してくれて…香奈もそんな涼羽ちゃんにべったりって言えるくらい懐いてくれて…見てるだけで幸せな気持ちになれちゃうわ~」

この日、本当に可愛いやりとりをずっと見せてくれる涼羽と香奈のことを、これでもかと言えるほどに可愛がっている水蓮と永蓮の二人なのだが…
またしてもこんなやりとりを見せ付けられて、夕食の途中であるにも関わらず、二人のことを思いっきり抱きしめて可愛がりたくてたまらなくなってしまっている。

しかも、ぱっと見では今でも十分に美人と言える、初老の女性である永蓮。
今本当に女盛りの年頃で、周囲からは魅力的な女性として、その目を惹き付ける美人である水蓮。
そんな水蓮の娘であり、母親譲りの整った可愛らしい顔立ちと、持ち前の天真爛漫さで常にチャームを振りまいている香奈。
そして、どこからどう見ても、幼げな顔立ちで非常に可愛らしく、しかも健気でお淑やかで、まさに大和撫子な美少女女子学生にしか見えない涼羽。

この四人が揃っている空間は、まさに美女美少女の集まりだろうと、そうとしか言えないような空間になってしまっている。

おそらく、誰がどう見ても、この中に男子がいるなどとは、決して思うことのない…
そんな光景に、なってしまっている。

「りょうおねえちゃん」
「?なあに?かなちゃん?」
「きょうは、かなにおりょうりおしえてくれて、ほんとうにありがとうなの!」
「!かなちゃん…」
「こ~んなにおいしいおりょうりたべさせてくれて、ほんとうにありがとうなの!」
「………」
「だから、これからも、かなのだあいすきなおねえちゃんで、いてほしいの!」
「かなちゃん…」
「かな、これからもりょうおねえちゃんにい~っぱい、おりょうりとかおしえてほしいの!」
「………」
「りょうおねえちゃん、だいだいだいだいだあ~いすきなの!」

ずっと食事に夢中だった香奈が、その手を止めて涼羽に向き直る。
そんな香奈の様子に、一体なんだろうと思いながらも、優しく反応を返す涼羽。

幼いゆえに本当に純粋で真っ直ぐな、香奈の涼羽への感謝の言葉。
そして、涼羽への真っ直ぐな、大好きの言葉。

本当に嬉しそうで幸せそうな、香奈の幼く可愛らしい笑顔。
そんな笑顔で、そんなことを言われて、最初は驚きを隠せないでいた涼羽の顔に、花が咲き綻ばんかのごとく、美しい笑顔が浮かんでくる。

「…ふふ…ありがとう、かなちゃん」
「!えへへ~」
「こっちこそ、今日はい~っぱいお手伝いしてくれて、本当にありがとう、かなちゃん」
「!りょうおねえちゃん…」
「かなちゃんはいつも可愛くて、お利口さんだから、お…お姉ちゃんもかなちゃんのこと、大好きで大好きでたまらないんだよ?」
「!かな、す~っごくうれしいの!」
「だから、かなちゃんも、お…お姉ちゃんの大好きなかなちゃんでいてね?」
「はいなの!りょうおねえちゃん!」

香奈に言われたことが本当に嬉しかったのか…
涼羽も、香奈に負けじと、と言わんばかりにその思いを言葉にして返していく。

優しく頭をなでながら、自分のことが大好きだと、可愛くてお利口さんだと言ってくれる涼羽の言葉が本当に嬉しくて、嬉しくて嬉しくてたまらなくて、もう我慢ができなくなってしまった香奈。

きちんと箸をテーブルの上に置くと、隣に座っている涼羽の胸に思いっきり甘えるように抱きついてしまう。

「ふふ…かなちゃん、まだご飯食べてる途中だよ?」
「ごめんなさいなの、でも…りょうおねえちゃんがだいすきだから、ちょっとだけこうさせてほしいの!」
「そう…じゃあ、ちょっとだけぎゅうってしてあげるね?」
「!わ~い!だからりょうおねえちゃん、だあ~いすきなの!」

涼羽のことが大好きで大好きでたまらなくなって、ついつい食事の手を止めて抱きついてきた香奈に、たしなめるような言葉を声にする涼羽。

だが、たしなめているのは言葉だけで、口調、表情、何をどう見ても母性と慈愛に満ち溢れた、優しさ満点のものになってしまっており、まるでたしなめているようには見えない。

そんな涼羽の言葉に、素直にごめんなさいといいながらも、結局はぎゅうっとさせてほしい、という香奈。

そんな香奈が本当に可愛くて可愛くてたまらないのか、ちょっとだけといいながら、優しく香奈のことを抱きしめてしまう涼羽。

本当に仲睦まじい、少し歳の離れた姉妹にしか見えないやりとりと、なってしまっている。

この水神家にちょっとした理由で現れて、この家の住人を本当に幸せに導いているその姿。
まるで、訪れたところに幸運をもたらし、去っていくという、座敷わらしのような存在となっている涼羽。

常に誰かを思い、誰かのために動くという…
それを当然、そして必然としている涼羽の本質が、この日はこの水神家のみんなを、幸せにしていっているのかもしれない。

その本質でも、そしてその容姿でも、自分達を幸せにしてくれる涼羽のことが、本当に大好きで大好きでたまらなくなっている永蓮、水蓮、香奈。

そんな幸せな雰囲気に満ち溢れた中で、この日の夕食は、進んでいくこととなった。



――――



「りょうおねえちゃん、かなもおかたづけする!」

言いようのない幸福感に満ち溢れた夕食も終わり、いそいそと後片付けを始めようとする涼羽。
その動きは、まさに甲斐甲斐しさに満ち溢れており、本当に理想のお嫁さんと言えるほどの姿となっている。

ちなみに、涼羽の学校では今、彼女にしたいランキング、お姉ちゃんになってほしいランキング、お嫁さんにしたいランキングなど、そんな男子生徒の理想の女子を各ランキングであげていくというイベントが、こっそりと校内で行なわれている。

当然、ランキングの対象は女子生徒に限られており、そのランキングの趣旨に相応しい女子を、男子達が投票形式であげて言っているのだ。

だが、そんな趣旨のランキングであるにも関わらず、彼女にしたいランキング、お姉ちゃんになってほしいランキング、お嫁さんにしたいランキングでは、男子生徒である涼羽が、異論なしの満場一致の状態で、トップに輝いてしまっている。

理由はもちろん、その容姿もさることながら、普段から常に誰かのために動いているその健気さ、そして甲斐甲斐しさ。
さらには、まるで全てを包み込んでくれるかのようなその包容力。

もはや涼羽が男子であることを、本当に忘れてしまっているかのような状態となっており…
涼羽に投票した男子達は、常日頃から、涼羽との甘いやりとりを夢見て、妄想しては身悶えている状態と、なってしまっている。

ちなみに、彼女にしたいランキングでは現在、僅差で二位に、美鈴と愛理の二人が同数の得票数で入っている。
この二人は完全にタイプが対極的と言うこともあり、完全にファンも二極化してしまっている。

お姉ちゃんになってほしいランキングでは、二位にこれまた僅差で、愛理がランクインしている。
もとがしっかり者で、家では家事手伝いをしていることもあって家庭的であり、最近はどこか丸くなってきた感があって、非常に人気が高くなってきている。
美鈴はどちらかと言うと妹にしたいタイプ、という意見が多く、このランキングでは圏外となっている。

お嫁さんにしたいランキングでは涼羽がぶっちぎりとなってしまっているため、ランキングそのものが破綻してしまっている状態となっている。

また余談だが、女子側ではお兄ちゃんにしたいランキングが行なわれており、そこで涼羽がぶっちぎりのトップとなっている。
つい最近、涼羽が実の妹である羽月のことを優しく包み込んで、可愛がっている姿を多くの生徒が目撃しており、そのために涼羽の得票数が激増してしまったものと、思われる。

「ありがとう、かなちゃん。じゃあ、これとこれ、キッチンに持っていってくれる?」

食事が終わった直後にいそいそと動き始める涼羽を見て、自分もと動き始める香奈。
そんな香奈に、涼羽は優しい笑顔でお礼を言いながら、香奈が持っても大丈夫な範囲で、お願いをしていく。

「うん!わかった!」

涼羽のお願いとも言える指示に、笑顔で素直に頷く香奈。
そして、涼羽に言われた通り、テーブルの上にある片付け物を少しずつ、キッチンに運んでいく。

「涼羽ちゃん達にばっかりさせてたら、本当に申し訳ないから、あたしも運ぶね!」

本来ならば客人である涼羽が、家の住人である自分達よりもテキパキと動いており、さらには幼い娘である香奈まで、涼羽と同じように、それが当然と言わんばかりに動いているところを見て、いつもならそんなことしないはずの水蓮まで、そそくさと動き始める。

「ありがとうございます、す…水蓮…お姉ちゃん…」
「ううん!むしろこっちがありがとうだもの!ごめんね、涼羽ちゃんにばっかりさせちゃって」
「そ、そんな…これは僕の…」
「だあめ!こんなだらしないお姉ちゃんでごめんね?可愛い可愛い涼羽ちゃんと香奈にばっかりなんて、本当にいたたまれなくなっちゃうから、あたしにもさせて?ね?」
「…ふふ、ありがとうございます」

昼食だけでなく、夕食まで作ってくれて、昼食に関しては後片付けまで涼羽一人にさせることになってしまって…
それでも何を言うどころか、すごく幸せそうな顔で一人で全てをやってくれる涼羽の姿を見て、もういたたまれなくなって、自分も動かないと申し訳ないとさえ思っていた水蓮。

ただでさえ、家事全般に関してはできることなど本当に知れたものではあるのだが、それでもできることはしてあげたい。
そんな思いから、自ら腰を上げて、娘の香奈と一緒に洗い物をキッチンに運んでいく水蓮。

「…ふふ…あの水蓮がそんな風に動くようになるなんて…本当に涼羽ちゃんさまさまね」

そんな娘、水蓮の姿を見て、本当に嬉しそうな笑顔を見せる永蓮。
そんな笑顔を見せながら、自分もと言わんばかりに、テーブルの上を片付けていく。

「お、お婆ちゃん…置いててくれたら、僕が…」
「何を言ってるの、涼羽ちゃん。お昼の時なんか、全部涼羽ちゃんがしてくれてたじゃない」
「そ、それは…」
「本当にありがとう、涼羽ちゃん。あなたのおかげで、香奈だけじゃなくて、水蓮までこんな風にしてくれるようになって…お婆ちゃん、本当に涼羽ちゃんのおかげだと思ってるの」
「!そ、そんなことは…」
「涼羽ちゃんって、なんだか座敷わらしみたいに思えちゃうの」
「え?」
「座敷わらしって、訪れた家に幸せをもたらしてくれる、っていう、すごくいい妖怪じゃない。でね?今日は涼羽ちゃんのおかげで、本当にこの家、ずっと幸せに満ち溢れていたと思うの」
「………」
「涼羽ちゃんのおかげで、私も、水蓮も、香奈もずっと笑顔が絶えなかった…涼羽ちゃんのおかげで、香奈があんなにも嬉しそうにお料理のお手伝いをしてくれるようになった…それどころか、あの水蓮まで、あんな風に嬉しそうに後片付けをしてくれるようになった…」
「…お婆ちゃん…」
「これってね…涼羽ちゃんからしたら些細なことかも知れないけど、私とこの家の人間からすれば、下手をしたらどんなにお金を積んでも手に入らないほどの、大きなことなのよ」
「………」
「だから…ね?そんなにも大きな幸せを、この家にもたらしてくれた涼羽ちゃんには、本当に言っても言っても言い尽くせないくらいに、ありがとうって思ってるの」
「…僕、そんな…」
「でもね…それでも何にも返せなくて…だからせめて、思いっきりあなたのことを愛してあげる、もう本当にそれだけなの…」
「!………」
「それは、水蓮も香奈も…本当に同じだと思うのよ。だから、あなたのそばで、あんなにも幸せな笑顔になれると思うわ」
「…お婆ちゃん…」
「ありがとう…そして、本当に本当に大好きよ、涼羽ちゃん。お婆ちゃん、あなたのためなら、何だってしてあげたい…あなたが望むことなら、何だって叶えてあげたい…だから、もうちょっと、わがまま言って困らせてくれるくらいで、ちょうどいいくらいなの」
「………」

後片付けの手伝いに来た永蓮に、自分がやるからと言ったところ…
永蓮がぽつりぽつりと出してくる、涼羽へのどうしようもないほどの感謝の思い。
そして、どうしようもないほどの親愛の情。

涼羽のことを座敷わらしだと比喩し、そして、まさに自分達にとってはそんな存在だと、言い切ってしまう。

涼羽のおかげで、この日この家はどれほどに幸せに満ち溢れていたのか…
涼羽のおかげで、この日この家はどれほどにいい影響を受けることができたのか…

そんなたくさんの思いを、ひとつずつ、優しい口調で伝えてくる永蓮。

そんな永蓮に、涼羽は思わずその大きくくりっとした瞳が潤んでしまっていた。

「…僕、お婆ちゃんにひとつ、お願いしても、いいですか?」
「!まあ、なになに?お婆ちゃん、涼羽ちゃんのお願いなら、なんだって聞いてあげるわ!」
「…これからも、僕にお料理、教えて頂いても、よろしいですか?」
「!涼羽ちゃん…」
「…もっと、家族や、他の人に美味しい料理を食べてもらいたいから…もっともっとお婆ちゃんに教わって、勉強していきたいんです」
「!!…本当に、あなたって子は…」

涼羽の口からお願いと言う言葉が出てきて、途端にテンションが上がってくる永蓮。
いつもいつも、人のためばかりで、自分のためというのがない涼羽のそんな言葉。
一体、どんなお願いなのかと、心躍る永蓮だったのだが…

涼羽のお願いを聞いて、そして、その理由も聞いて、今度は永蓮がその目を潤ませてしまう。

自分のために使えばいいお願いですら、人の為に使おうとするその純粋で綺麗な思い。
本当に、人の為に徹していこうとする、そんな涼羽の姿。

それを見せられて、もう我慢ができなくなってしまった永蓮。

涙が溢れているのも構わずに、涼羽のことを優しく包み込むように抱きしめてしまう。

「ばかね…そんなこと…こっちからお願いしたいくらいなのに…」
「…お願い、聞いてくれるんですか?」
「当たり前じゃない…どこまでいい子なら気が済むのよ、涼羽ちゃんったら」
「…ありがとうございます。お願い、聞いてくれて」
「涼羽ちゃん、本当に大好きよ…お婆ちゃん、これからもう~んと涼羽ちゃんのこと、愛してあげるからね」

もはや実の子供と言っても過言ではないくらいの思いが、永蓮の心に溢れている。
こんなにも健気で可愛い子、何が何でも包み込んで、愛してあげたい。

そんな永蓮の思いが伝わってくるのか…
涼羽はしばらく、永蓮の思うがままに、されることとなった。

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