お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

…部長って、本当に子供のこと大好きなのね…

「えへへ♪楽しみだね~、お兄ちゃん♪」
「うん、楽しみだね」

父、翔羽に連れられて、父の就業する社内を、社内食堂目指して歩いていく涼羽と羽月。
相変わらず、羽月は涼羽の右腕に抱きついて離れようとせず…
まるで、遠距離恋愛で滅多に会えない恋人に会えたかのような嬉しそうな笑顔で…
嬉々としながら、ゆっくりと歩いていく。

そんな妹に、べったりとされながら…
以前から自分の舌で確かめてみようと、楽しみにしていた外食にわくわくしながら…
妹の羽月とそっくりな顔に、嬉々とした表情を浮かべて、妹のペースに合わせながら歩いていく。

本当に仲睦まじい、兄妹のそんな姿に…

「あ~、いつ見ても本当に可愛いなあ~」

先頭を歩きながら、ちらりと後ろを振り返り…
可愛らしさ満点の我が子を眺めながら…
その精悍で整った造りの顔をゆるゆるに緩ませて…
まさに、眼福眼福と言わんばかりにしている。

「ね~、ほんとですよね~」
「部長ったら、こ~んなに可愛いお子さんがいたなんて…」
「ずるいですよ、こ~んなに可愛い子達を独り占めしちゃうなんて~」
「ほんと、ずるいですよ~」
「ね~」
「ね~」

そして、そんな翔羽の両側をそれぞれ陣取るかのように…
涼羽と羽月の二人をお出迎えした、二人の受付嬢も…
昼休みということで、翔羽に同行し、昼食を取ろうと…
そうするのが当然、と言わんばかりに高宮一家についてきたのだ。

「…別にいいっちゃいいんだが…なんで君達まで、俺と子供達についてきてるんだ?」

そんな二人の受付嬢に、翔羽はゆるゆるに緩ませていた顔を少しげんなりとした感じにして…
あきらかに、自分と可愛い子供達との触れ合いの邪魔をしやがって、というような…
そんな、棘のある口調で問いかけの言葉を放つ。

「え~、いいじゃないですか~」
「どうせ私達も同じところに行くんですし~」
「せっかくですから、仲良くお昼にしましょうよ~」
「しましょうよ~」

社内で、親子水入らずで、たまには子供達に質の高い外食を…
そんな思惑を出鼻からくじかれた翔羽のことなど気にも止めず…
むしろ、こんなにも可愛らしい子供達がいることを知って、より翔羽に自分達を意識してもらおうと…
図々しい感じで、積極的に踏み込もうと…
楽しそうな表情で、それぞれが翔羽の両側から絡んでいっている。

「…く…(せっかく、涼羽と羽月がここまで来てくれて、たまには美味しい外食でもご馳走してやろうと…家の中とはまた違う、親子水入らずで仲良く触れ合おうと思っていたのに…)」

翔羽としても、特別断る理由もなく…
同じ社内で、社の窓口として日々奮闘してくれている彼女達を無碍にすることもできず…
結局のところ、彼女達の同行を許さないわけにはいかなくなり…
内心非常に不本意ながらも、渋々同行させている、そんな状態である。

「(うふふ…こうして、高宮部長にアピールすると同時に、部長のお子さんにも、お姉さんがいかに優しいかをアピールすることができれば…)」
「(部長ったら、本当に分かりやすいくらいお子さんが大好きだし…あの子達ともっと仲良くなれたら…)」

受付嬢の二人は、先程までのやりとりで翔羽がいかに自分の子供達を愛しているのか…
どれほどに、自分の子供達を可愛がっているのか…
それを目の当たりにし、翔羽とお近づきになる最高のきっかけとして…
この機に、翔羽の子供である涼羽と羽月と、目一杯仲良くなっておこう、という…
そんな思惑を、お互いに秘めている。

「(だって、あんなにも可愛くていい子達と家族になれて…)」
「(しかも、この浮気とは無縁で、こんなにもカッコよくて能力も高い部長が、旦那様になってくれたら…)」
「(もうぜ~ったいに、幸せ絶頂な家庭を築ける未来しか見えないんだもん!!)」
「(だから、このチャンスを活かさない手なんて、ないんだから!!)」

そして、晴れて翔羽と結ばれて…
涼羽と羽月と家族になれた…
そんな、最高の未来予想図を頭の中に描くだけで…
これでもかというくらいの幸福感が、彼女達を包み込んでしまう。

そんな幸福感に、彼女達の整った顔も、盛大に緩んでしまう。

「…ねえ、お兄ちゃん」
「?なあに?羽月?」
「やっぱり、お父さんって、女の人にモテるよね」
「ん?ああ、やっぱりお父さん、男としてかっこいいもん」
「あのお姉さん達、あきらかにお父さんのこと、すっごく意識しちゃってるし」
「だよね…あきらかにお父さんとお近づきになりたそうな感じだもん」
「…………」
「でも、それがどうかしたの?羽月?」
「わたし、新しいお母さん、別にほしくない」
「え?なんで?」
「だって、わたしにはお兄ちゃんがいるから…」
「え?」
「わたしにとったら、お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんで、わたしのお母さんでもあるんだから」
「!べ、別にそんなこと、ないよ…」
「ううん、そうなの。だからわたし、新しいお母さんって、別にほしくないもん」

そんな受付嬢達の様子を後ろから見ていた羽月の、何気ない発言。
そんな発言に、涼羽も同じように思っていたらしく、同意の反応が返ってくる。

だが、羽月の、新しいお母さんは別にほしくない、という台詞には…
さすがに疑問に思ってしまう涼羽。

男であり、兄である自分にあんなにも母親として求めてくる妹なだけに…
実はお母さんがほしくてほしくてたまらないはず、と思っていたからだ。

そんな妹、羽月の言葉に、疑問を隠せず、思わず聞き返してしまう涼羽。

羽月にとっては、お母さんというのは誰でもいいわけではなく…
今となっては、兄である涼羽が、羽月にとって最も理想的で最高のお母さんとなっているのだ。

しかも、羽月としてはお母さんとして最高に理想的でありながら…
お兄ちゃんとしても最高に理想的である存在に、涼羽はもう、なってしまっている。

男嫌いの傾向がある羽月にとって、その容姿からして男を感じさせることがなく…
しかも、本当に母性的で包容力があり…
家庭的で可愛らしく、清楚な雰囲気に満ち溢れ…
それでいて、ちゃんと自分のことを護ってくれる兄、涼羽。

血のつながった兄妹であるため、当然といえば当然なのだが…
周囲の男子から、思春期特有の異性としての視線に晒されている自分を…
決してそんな目で見ることもなく、逆に本当に壊れ物を扱うかのように包み込んで、大切にしてくれる。

まさに、理想が服を着て歩いているかのような存在であるため…
羽月としては、涼羽がそばにいてくれてたら、それでいいのだ。

ゆえに、羽月は新しいお母さん、という存在を望むことがなくなってしまい…
むしろ、逆に拒んでしまうようになってしまっている。

しかも、もし本当に新しいお母さんが来てしまったら…
自分と兄、涼羽との触れ合いが減ってしまうのではないか…
男でありながら、これほどまでに可愛らしい兄、涼羽のことを奪られてしまうのではないか…

そう思うと、兄のそばにいるには自分だけでいいと本気で思っている妹、羽月なだけに…
新しいお母さんなんて、来てほしくなんかない、と思ってしまうのも、無理はないと言えるだろう。

「ね、お兄ちゃん」
「?な、なあに?」
「お兄ちゃんは、ず~~~~~~っとわたしだけのお兄ちゃんなんだから、ぜ~~~~~~ったいにわたしから離れないでね?」
「!は、羽月…それは…」
「離れないでね?ず~~~~~っとわたしのそばにいてくれなくちゃ、やだよ?」
「…羽月…」

よほど兄が自分のそばから離れてしまうことが怖いのか…
とにかく、言葉でひたすらに兄に釘を刺すかのように確認を取ろうとしてしまい…
さらには、行動でも、兄の胸に顔を埋めてべったりと抱きついて…
何が何でも、兄を自分のそばに縛り付けておこうとする羽月。

そんな、あまりにも兄である自分に対する執着心が強すぎる妹に…
一体、何をどういってあげたらいいのか、まるで分からず…
ただただ、困ってしまって、どうすることもできずにいる涼羽。

「わ~~~…妹ちゃんってば、本当にお兄ちゃんのことが好きで好きでたまらないのね~~~…」
「本当…いくらまだちっちゃいからって、異常なくらいだと思うわ~~~…」
「でも、なんか見ててすっごく可愛いって思えちゃうから、不思議よね」
「うん、もうお兄ちゃんにべったりな妹ちゃんも可愛ければ、妹ちゃんにべったりされて困ってるお兄ちゃんも可愛すぎて…」
「ほんと、たまんないわ~~~~…」
「そうよね~~~~~…」

そんな、仲睦まじすぎる兄妹のやりとりをこっそり前から覗き込むように見ている受付嬢達は…
異常とも言えるくらいに兄のことが大好きで大好きでたまらない妹、羽月のことが可愛すぎて…
さらには、そんな風にひたすらに妹に愛されて、求められて、すっかり困ってしまっている兄、涼羽のことも可愛すぎて…

ますます、この高宮家の一員として、翔羽にもらわれたい、という思いが強くなってしまう。

「あのお兄ちゃん…どう見ても童顔な美少女だけど…あの子、めっちゃくちゃに可愛がってあげたいわ~~~」
「そうよね~~~…お人形さんみたいに綺麗で可愛いし…女の子の格好とか、すっごく似合いそう~~」
「似合うっていうより、まるで違和感ない、が正解だと思うわ~~」
「よね~~。絶対女の子にしか見えないもん~~」

さらには、あまりにも可愛すぎる男の娘である涼羽のことも、相当に気に入っているようで…
もう、めちゃくちゃに可愛がってあげたくてたまらない…
女の子の格好をさせて、うんと可愛がってあげたくてたまらない…

そんな感じで、涼羽の可愛らしさにもう心を鷲掴みにされてしまっているようで…
涼羽を見つめる二人の視線も、自然と熱を持ってしまっている。

「…(俺の可愛い涼羽と羽月にちょっかいかけるようなら、この二人…どうしてくれようか…)」

そんな欲望に満ち溢れた両側の二人の様子をずっと見ている翔羽は…
自分の可愛い子供達が、この二人の毒牙にかかることのないよう…
いざとなったら、今の立場を利用してでも、この二人をどうにかしてくれよう…

そんな思いまで、出てきてしまっている。

翔羽とお近づきになろうとして、かえって翔羽の好感度を下げてしまっていることに、まるで気づくことのない彼女達。
そんな翔羽の視線と思惑に気づくことなどなく、ただひたすらに涼羽に熱い視線を送り続ける、受付嬢二人なのであった。



――――



「わ~~~、きれ~~~~い」
「うん、大きくて、すっごく綺麗…なんか、すっごく高級なお店みたい」

なんやかんやと、いろいろなやりとりを繰り広げながら…
ようやく、といった感じで、社内食堂の方へとたどり着いた翔羽達一向。

ちょっとした、高級レストランな装いの食堂を初めて目の当たりにする涼羽と羽月の二人は…
その外見年齢に相応な子供っぽさを色濃く見せる笑顔で、周囲をきょろきょろと見回してしまう。

非常に仲がよすぎる兄妹である二人なので…
妹、羽月は当然のことながら兄、涼羽にべったりと抱きついたまま、となっている。

「ハハハ、そうだろそうだろ」

そんな二人の子供の頭を優しく撫でながら、自慢げに翔羽が声をかける。

「お父さん、いつもこんな綺麗なところでお弁当食べてるの?」
「ああ、そうだぞ」
「…こんな綺麗なところだと、俺のお弁当って、なんか見栄え悪くなっちゃいそうで…」
「!な、何を言ってるんだ!涼羽!俺にとっては、お前の弁当が一番なんだぞ!」
「そお?」
「ああ、そうだとも。俺にとっては、お前の弁当が一番、美味しい!」
「…そっか…なんか、嬉しい…」
「!ああ~~~~~、もう!!お前は本当に可愛いなあ~~~!!」

こんな綺麗なところで、いつも自分が作っている弁当を父が広げていると思うと…
ついつい、自分の作った弁当と、この綺麗な食堂がマッチングしないと思ってしまう涼羽。

そんなネガティブな思いにとらわれて、ついつい下を向いてしまう最愛の息子に…
あくまで、涼羽の作った弁当が一番だと、目一杯断言してしまう父、翔羽。

そんな風に、自分が作った弁当が一番だと言ってくれる父の言葉…
それが、なんだかすごく嬉しくて、花が咲き綻ぶかのような笑顔を見せる涼羽。

そんな息子、涼羽があまりにも可愛くてたまらず…
ついつい、自宅で普段からそうしているように、涼羽のことをぎゅうっと抱きしめて…
目一杯頭を優しく撫でて、可愛がってしまう。

ちなみに、涼羽の身体には、妹である羽月がひたすら甘えるようにべったりと抱きついており…
当然ながら、その羽月もろとも、抱きしめる形となっている。

「お、お父さん…離して…恥ずかしいよ…」
「嫌だ!お前が可愛すぎるのが悪い!」
「な、何言って…」
「お父さんは、お前のことが可愛すぎてたまらないんだから、おとなしくこうされてなさい!」

周囲には自分達だけでなく、ここまで一緒に行動を共にした受付嬢達もいる状態。
にも関わらず、自宅でしているのとまるで同じなやりとりをされて…
こんなやりとりを見られていると思うと、恥じらいにその頬を染めてしまう涼羽。

親バカにも程がある、と言いたいところではあるものの…
実際、父親としてこんなにも可愛い子供に、自分の台詞であんなにも嬉しそうな顔をされたら、普通でいられるだろうか?

否!

というのが、翔羽の結論。

だからこそ、周囲のことなど関係なく、思いっきり息子である涼羽のことを可愛がってしまう。
それも、涼羽がこんな風に恥らって、儚い抵抗を見せれば見せるほど…
より、その可愛らしさが増してしまう。

そうなると、余計に可愛がりたくなってしまうのは必然。

もう、ひたすらに涼羽の小柄で華奢な身体を包み込むように抱きしめ…
思いっきり、その頭を優しく撫でて、可愛がってしまう。

「お父さん!わたしも!」
「ああ~~~もちろん!羽月も可愛いな~~~!」
「えへへ~~~♪」

そして、兄である涼羽に対して、超がつくほどの甘えん坊な妹であり…
そんなところが可愛くて可愛くてたまらない、と言えるほどに可愛い娘である羽月からの、自分に甘えてくる声。

もちろん、子供大好きなお父さんがそれを無視するなんてことなど、天地がひっくり返ってもあるはずもなく…
涼羽もろともぎゅうっと抱きしめている羽月の頭も、優しく撫で始めてしまう。

羽月としても、兄の次に大好きな存在である父、翔羽。
その翔羽にこんな風に愛されたら、やっぱり嬉しいのか…
その幼さの色濃い美少女顔に、幸せそうな笑顔が浮かんでくる。

「…なんか、今すっごく部長に対するイメージが…全力で書き換えられていっちゃってるわ…」
「…うん、私も…」
「…でも、あんな部長見てたら、なんだか可愛く思えちゃうんだけど…」
「…うん、私も…」
「…本当に、仲よすぎよね…あの親子…」
「…なんだか、うらやましく思っちゃうわよね…」
「…なんか、ますます部長と一緒になりたくなってきちゃったわ」
「…私も、マジで部長と一緒になりたくなってきちゃってるわ」
「…負けないわよ」
「…私もよ」

そんな幸せオーラ満開の高宮親子のそばで…
その仲睦まじいやりとりを見守っている二人。

そんな、思わずうらやましくなってしまうほどの仲のよさを見せ付けられて…
ますます翔羽の伴侶として選ばれたい、と思ってしまう。

当然、その枠は一つしかないため…
必然的に、二人はいわばライバルとなってしまう。

あの仲睦まじい家族の輪に入れてもらいたい…
そんな想いを膨れ上がらせながら…
今後、同じ想い人を巡るライバルとして、互いに戦線布告する受付嬢達なので、あった。

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