お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話
うわ…すっげー可愛い保母さん…
「や~!!りょうせんせーと、おうちかえりゅの~!!」
「まあまあ、この子ったら…ほら、先生も困ってるでしょ?」
「や~なの~!!」
「この子ったら、本当にもう…すみませんね、高宮先生。聞き分けのない娘で…」
「あ、はは…」
唐沢母娘が、さんざん涼羽を可愛がって、娘である彩華が、さんざん涼羽と一緒に家に帰る、と…
ひたすら駄々をこねていたところを、涼羽がどうにかあやして…
やっとの思いで帰ってもらえたその直後。
今度は、別の女児が、彩華と同じように駄々をこね始め…
それをその女児の母親が懸命に言い聞かせているところなのだ。
もうひたすらに涼羽にべったりと抱きついたまま、離れようともせずに駄々をこねて泣き喚くその女児。
元々がおっとりなのか、言い聞かせるのも非常に優しい感じで、なかなか娘と一緒に帰ることのできない母親。
その母親も、涼羽のことは一目で気に入った様子で、こんな風に娘が懐いてくれるのは内心嬉しいとは、思っているようだ。
だが、こんな風に懐いているがゆえに、一緒に帰ってもらえないとなると…
さすがに、母親の顔に困った感じの表情が浮かんでしまう。
そんな母娘の様子に、当の涼羽もさすがに苦笑いしか出てこない。
大好きで大好きでたまらない涼羽とさよならするのが心底嫌で嫌で仕方ないらしく…
その涼羽の胸に顔を埋めて、べったりと抱きついて離れようとしない女児。
そんな女児に、涼羽もどうしていいのか分からず…
ただ、苦笑いしか出てこない。
「ほらほら、あんまりわがまま言ってたら、涼羽先生に嫌われちゃうかも知れないよ?」
そんなところに、助け舟といった感じで、珠江が声をかけてくる。
少し冗談交じりの口調だが、しっかりと言い聞かせようとする意思が込められているその声。
もちろん、涼羽がこういった可愛い盛りの子供を嫌うなどということは決してありえないのだが…
だからこそ、こういったことを言える、というのはあるのだろう。
現に、自分にべったりと抱きついたまま離してくれない女児をなだめるように…
優しく、温かく、包み込むように抱きしめ、頭を撫でている涼羽なのだから。
しかし、当の声をかけられた女児の方は…
涼羽に嫌われる、という部分におおげさすぎるほどの反応を示してしまう。
「!え…りょうせんせー…わたちのこと、きらいになっちゃうの?」
それまで泣き喚いて駄々をこねていたのが嘘のようにしおらしくなってしまい…
まるで、すがりつくかのように涼羽の方をじーっと見つめては、そのご機嫌を伺うかのようにしてしまう。
そんな女児が可愛くて、涼羽の方は思わず目いっぱいの慈愛がこもった笑顔をその美少女顔に浮かべようとしてしまうのだが…
「そうだよ~。このままあんたが、泣いてわがままばっかり言ってたら、涼羽先生に嫌われちゃうよ~?」
それを制するかのように、珠江はわざとおおげさに涼羽の前に出てその女児を覗き込むように見つめ…
冗談交じりの口調でありながら、しっかりと言い聞かせるように…
その女児に、その声をかけていく。
「あ、あの…市川さん…」
自分がこんなにも可愛い子供を嫌う、なんてこと、するはずもないのだから…
慌ててそれを訂正しようとする涼羽。
その訂正の声を出したくて、珠江の方に小さな声をかけてしまうのだが…
「シッ!あんたは黙ってな」
涼羽と同じような小声で、そこから先は言わせない、というように…
ピシャリとした物言いで、涼羽の言葉を封じてしまう。
「ほら、どうする?このままわがままばかり言って、涼羽先生に嫌われても、いいのかい?」
そして、ここでしっかりと、その女児に言い聞かせるかのように…
しっかりとした、問いかけの言葉を、珠江はその女児に向ける。
涼羽に嫌われる。
その言葉が幼い脳裏の中で繰り返しのカセットテープのように響いてくる。
そして、幼いながらにそれがどういうことなのかを思い、背筋に氷水をかけられたかのように…
幼いながらに、それは絶対にだめだと、思ってしまう。
そして、あれほどべったりと抱きついて、ぐずっていたのが嘘のように素直に涼羽から離れ…
どこか、後ろ髪ひかれるかのような未練を残した雰囲気でありながらも、自分の母親の方へと、とてとてと歩いていく。
「うん!あんたいい子だね~。涼羽先生も、あんたみたいないい子は大好きだからね~」
そんな女児を見て、まさによくできました、といった感じで…
お褒めの言葉をその女児に向ける珠江。
珠江のその言葉に、女児の浮かない表情が、一気にぱあっと明るく純真な笑顔に変わる。
「ほんと?りょうせんせー、わたちのこと、しゅき?」
その笑顔を涼羽に向けて、珠江の言葉を確認するように、涼羽に問いかける女児。
その表情がまた可愛らしく、本当に幼い子供らしい純粋さに満ち溢れ…
そんな表情を向けられて、涼羽の顔にも優しい笑顔が浮かんでしまい…
「うん、こんな風にお母さんを困らせない子は、先生、大好きだよ」
目線を合わせるようにしゃがみこみ、その満面の笑顔を向けて…
目いっぱいの優しい声で、その女児の望む言葉を贈る涼羽。
「!えへへ~♪」
「よかったね~、涼羽先生がちゃ~んと大好きって言ってくれてね~」
「ほんとね~。お母さん高宮先生にやきもち焼いちゃいそうなくらいだわ~」
「わたちもりょうせんせー、ら~いしゅき~♪」
涼羽のそんな言葉に、女児はもう、有頂天と言えるほどご機嫌な状態に。
すぐそばで見ていた珠江も、そんな可愛すぎる二人のやりとりに頬を緩めてしまい…
母親は、ここまで娘が涼羽にべったりなのを見て、思わずやきもち、などと言い出す始末。
そんな珠江と母親に構うことなく、涼羽のことが大好きだと、舌足らずの言葉で伝えてくる女児。
そんな女児が可愛くて、また優しい声で…
「ほら、お母さんが待ってるから、一緒に帰ろうね」
「うん!」
「それじゃあ、また明日」
「は~い!りょうせんせー、またあちた~!」
迎えに来てくれた母親を待たせないように、一緒に帰るように女児に言い聞かせ…
そんな涼羽の言葉に、素直に返事し、母親と手をつないで…
非常にご機嫌な様子で、教室を後にした。
「…ふ~…」
さすがに、ここまで駄々をこねられるとは思っていなかったのか…
涼羽から、少し疲れたかのような溜息が一つ、漏れ出てしまう。
「涼羽ちゃん、あんたが本当に優しいのは分かるけど…」
「!は、はい…」
「ああいう時は、あんな風に言い聞かせることも、大事だからね?」
「あ…」
「あんた、あたしがあの子にあんな風に言った時、慌てて訂正しようとしてたでしょ?」
「は、はい…」
「ああいう時はね、あんな風に言ってでも、子供を親御さんと一緒に帰らせるようにしないと」
「す、すみません…」
「でないと、お母さんは家に帰ってから食事の準備もあるし、子供もいつまでたっても家に帰れないし…」
「は、はい…」
「何より、あたし達は他にも面倒を見なけりゃいけない子供達がいるんだから…」
「すみません…」
「分かった?」
「はい、分かりました」
そんな状態の涼羽に、珠江からの指摘が飛んでくる。
口調は決して叩き付けたり、怒鳴り倒したり、というものではないが…
一つ一つを、言い聞かせるように突きつけてくる珠江の言葉に…
涼羽自身、まさにその通りだと、反省の色濃い表情を浮かべ、素直に謝罪する。
それでも、さすがに今日初めて業務についた…
ましてや、現役の高校生のアルバイトに対しては、いささか厳しすぎるであろうその指摘。
であるにも関わらず、涼羽はそれをしっかりと自分の落ち度として受け止め…
この次に活かそうと、意識を切り替えて頑張ろうとしている。
そこに、少しの不平不満を見せることもなく…
むしろ、自分の落ち度を指摘してもらって…
自分に足りないところが分かって嬉しいのか…
しっかりとその指摘の言葉を受け止め、さらに向上していかんとするその姿勢。
「(やっぱり、この子は拾い物だね。初日の子にここまで物言いしたのは初めてだったけど…)」
珠江自身も、業務初日の人間にここまでの指摘をしたことなど、なかったのだ。
何せ、これまで求人で雇った人間は、最初から不平不満の色を濃く見せていたこともあり…
そういった指摘は、すぐにやめさせてしまうだろうと、珠江自身が抑えていたのだ。
しかし、それにも関わらず、ちょっとしたことで不満を隠すこともなく…
しかも、それを預かっている子供達に見せてしまう有様。
さすがにそういうのに対して、珠江も指摘をしないわけにもいかず…
子供達のいないところで、しっかりと指摘し、場合によっては怒りもしていたのだ。
ただ、そうなった翌日には、もう辞表が出されていたり…
ひどくなると、いきなり音信普通になって、出勤してこなくなったり…
まるで、働こうとする意思が見えない人材ばかりだったのだ。
そんな人材ばかりを相手にしてきた珠江であるがゆえに…
こんな風に、初日から言うべきことを言ってあげられるということが…
本当に、本当に嬉しかったのだ。
ましてや、当の言われた側である涼羽が、自分の指摘、そして言葉に不平不満を持つどころか…
その指摘、そして言葉をしっかりと受け止め…
より、子供達によき保育をしてあげられるように、と…
ただただ、自らを向上させていこうとしているのだ。
これだけでも、本当に拾い物だと思えてしまう。
この子は、これからももっと向上していける。
そして、決してここにはなくてはならない人材になってくれる。
母性、そして庇護欲を刺激される、非常におしとやかで控えめで…
それでいて、本当に可愛らしい…
そんな涼羽を見ていて、ついついその頭を撫でてしまう。
「?市川さん?」
「ん?なんだい?」
「な、なんで僕の頭を撫でてるんですか?」
「いや~…あんたが本当に可愛くて、いい子だからね~」
いきなりな珠江の行動に、涼羽が疑問を隠せず、問いかけてくるが…
そんな涼羽に、まるでそうするのが当然と言わんばかりの表情で、あっさりと返したその言葉。
「!そ、そんな風に言われたら…」
「?言われたら?」
「な、なんか…恥ずかしい…です…」
当の涼羽は、やはり男としての意識が強いこともあり…
まして、自分は子供でもない、という意識も強いため…
こういった風に扱われることに、激しい抵抗感を感じてしまう。
それが、羞恥となって、すぐに涼羽の顔に浮かんでくる。
しかし、涼羽以外の人間から見れば、そんな涼羽の表情や仕草そのものはあまりにも可愛らしく映ってしまい…
余計に、そうしたくなってしまう。
「…涼羽ちゃん」
「は、はい?…」
「あんた、どんだけ可愛かったら気が済むのさ」
「!え…そ、そんな…」
「あんた、本当にどんだけ可愛くていい子だったら気が済むのさ」
「だ、だからそんな…」
「もう!本当に可愛すぎだね!あんたったら!」
自分の行動にすぐに頬を染めて俯いていしまう涼羽が可愛すぎてたまらなくなったのか…
涼羽の小柄で華奢な身体をぎゅうっと抱きしめ…
さらには、もうこれでもかと言わんばかりの優しい手つきで、その頭を撫で続けてしまう。
「い、市川さん…やめて…」
「なんてことを言うんだい!あんたがこんなにも可愛すぎるからいけないんでしょうが!」
「そ、そんなの…知りませんよ…」
「こんなにも可愛い子を可愛がれないなんて…あんた、あたしにお預けさせる気なのかい!?」
「だ、だからそんなの…」
「え~い、お黙り!黙ってあたしに可愛がられてな!」
「そ、そんな…」
「あ~…涼羽ちゃんが可愛すぎて、本当に幸せだよ~」
まるで自分の腕の中の涼羽を堪能するかのように…
べったりと抱きついては、その頭を優しく撫で…
本当のわが子に愛情を注ぐかのように、ひたすらに可愛がってしまう珠江。
「すみませ~ん。迎えに来ました~」
そんなところに、園児を迎えに来た保護者の声。
今度の来訪者は男性のようで…
低く男らしい声でありながら、若々しさに満ちている、そんな声。
「!は、は~い」
その声に、まさに助かったと言わんばかりに涼羽が反応し…
すぐさま珠江の腕から抜け出て、教室のドアの方に向かっていく。
「ち…余計な邪魔が入ったね…」
涼羽を可愛がることに夢中になっていたところに邪魔が入った形となってしまい…
およそこういった職業では絶対に吐いてはならない言葉を音にしてしまう珠江。
普段ならそんな言葉を出すことなど絶対にない珠江であるだけに…
よほど、涼羽を可愛がることを邪魔されたのが癇に障ったようだ。
しかしそれでも、すぐに切り替えて表情を改め…
いつも通りの職務中という、真面目な顔になる。
「どうぞ~」
その優しげな可愛らしい声を響かせながら…
涼羽が教室のドアを開けていく。
開いたドアから入ってくるのは、長身で細身の男性。
無造作に長く伸びた髪が、どことなくオタクのような雰囲気を出してはいるが…
顔自体はそれなりに整っており、ちゃんとすれば格好良くなるのでないか。
そんな期待値のある容姿では、ある。
服装も、部屋着としても使っていそうな黒のジャージの上下。
本人としては、身だしなみや見てくれにまるで気を使っておらず…
そして、そこをどうにかしようという意識もないようだ。
「あ!にーちゃんだ~!」
そんな残念系の男性を見て、一人の男の子がぱあっと明るい表情になり…
たたたたと、軽い足音を響かせながら、その男性の元へと走っていく。
「よお、迎えにきたぞ」
「えへへ~♪にーちゃんがきてくれた~♪」
「はは。お前はなんだって俺にこんなに懐いてるんだろうな~…」
自分事以外にまるで興味のなさそうな感じの男性だが…
そんな容姿、雰囲気とは違って、面倒見はいいらしく…
その高く伸びた身体を折り曲げるようにしゃがみこんで、自分の元へとやってきた男児の頭を、わしゃわしゃと撫でる。
「おやおや、今日はあんたがお迎えなのかい?」
「どうもご無沙汰してます、市川先生」
「本当に久しぶりだね~。大学はちゃんと行ってるのかい?」
「そりゃあ行ってますよ。親に金払ってもらってるんだから、ちゃんと行って、ちゃんと勉強しないと」
「そうかい、やっぱあんた、真面目だね」
そんな残念男子に、珠江の方から声がかかる。
面識はそれなりにあるようで、お互いに気さくなやりとりをしている。
ただ、そんなに頻繁にこの保育園に来る、というわけでもなく…
本当にたまに、といった感じで、歳の離れた弟を迎えに来ているようだ。
容姿や雰囲気から来る第一印象とは裏腹に…
周りが思うよりもずっと真面目で、面倒見もいい青年のようだ。
「しかしあんた…いまだにそんなむさくてださい格好なんかしてんのかい?」
「むさくてださいって…別に俺は着飾ることに興味はないんですけど…」
「あんた…せめてもうちょっとまともな格好したらどうだい?その方が女の子にもモテると思うよ?」
「あ~…今は特にそんな気はないし…大学で真面目に勉強してるだけで精一杯なんですよ」
「そうかい、なんかもったいない気はするんだけどね」
この野暮ったい服装や容姿のことを、珠江も気に掛けている様子で…
顔を見る度に、それを指摘するようなことを言っているようだ。
だが、肝心の彼にその気がなく…
今は、大学の勉強に打ち込むことで精一杯のようで…
どうしても、今のスタイルからの脱却を図るつもりはないようだ。
「あ、そうそう」
「?」
「今日から、新しい先生来てるんだよ」
「!そうなんですか?」
「ああ、紹介するよ。ほら、おいで。涼羽ちゃん」
「は、はい」
そんなやりとりの最中、珠江が思い出したように、今日からここに来ている涼羽のことを紹介しようとする。
その珠江の言葉に、彼も興味がそっちにいったようで…
珠江が呼びかけ、そそくさとそこに来た人物をじっと見つめる。
「今日からここで働かせて頂きます、高宮 涼羽といいます。まだまだ未熟者ですが、これからよろしくお願いします」
人当たりのいい笑顔と、聞いていて耳あたりのいいその声。
まして、自分からすればTVに出てくるアイドルのような、可憐で美しく、可愛らしい容姿の…
少し幼さの色濃い、童顔な美少女。
そんな容姿の涼羽を見て、思わず感心の声をあげてしまう。
「うわ~…」
「?な、何か…」
「え?あ、ああ!見ててすっごく可愛いなあ、と思ってしまって…」
彼自身、歳の近い異性とのやりとりに慣れていないのか…
動揺を隠せない口調のまま、思ったことを声に出して、涼羽に伝えてしまう。
「!べ、別にそんなこと…」
そんな彼の言葉に、涼羽もついつい顔を赤らめてしまう。
「ふふふ…どうだい?びっくりするほど可愛いだろ?この子?」
「!い、市川さん…」
「ええ。マジでそう思っちゃいましたよ、ほんと」
「だろ?」
「!ふ、二人とも…」
「この子、現役の高校生なのよ。だから、非常勤のアルバイトになるんだけどね」
「!え…高校生…なんですか?」
「そうだよ?」
「マジすか…俺、中学生くらいかと思いましたよ…」
「!うう…」
「はは、そうだね。確かにそのくらいにしか、見えないわね」
自分達の言葉に恥じらい、頬を赤らめている涼羽を差し置いて…
涼羽の可愛らしさを語り合う珠江と残念男子の二人。
ところどころで、恥じらいながらも涼羽が懸命にツッコミを入れようとするも…
そんな可愛らしいツッコミにまるで動じることもなく…
ただただ、目の前にいる驚くほどの美少女のことについて、語り合うことをやめない二人。
「(う、うわ~…なんか恥ずかしがってるところがすごく可愛い…なんか、すっごくタイプ…)」
ひたすら恥ずかしがる涼羽を無遠慮にじろじろと見つめながら…
涼羽の可愛らしさを堪能するかのようにしている残念男子。
この日は、たまたま自宅で食事の準備中な母親に代わって、弟のお迎えに来ただけのこと。
そういう意味では、来たくて来たわけでは、なかったのだ。
それが、こうして自分のタイプと思えるほどの美少女が、ここで働くことになったと知ることができ…
内心、自分でも分からない喜びが芽生えてくる。
これから、毎回でも自分がこの弟を迎えに来るという口実で…
この自分の好みドストライクの新人アルバイトの美少女に会いにこよう。
大学の勉強に集中していて、異性に対してそこまで興味を示すことのなかった彼。
そんな彼が、今ここにいる涼羽のために、これから毎日でもここに足を運ぼうと、思ってしまっている。
ここから彼の自宅は近いこともあり…
何より、こうして勉学に行き詰った時の気分転換としても最高だと思えてしまっている。
そんな彼が、涼羽が自分と同じ性を持つ男子だと知ってしまったらどうなってしまうのか…
それをこの時点で知る者は誰も、いなかった。
「まあまあ、この子ったら…ほら、先生も困ってるでしょ?」
「や~なの~!!」
「この子ったら、本当にもう…すみませんね、高宮先生。聞き分けのない娘で…」
「あ、はは…」
唐沢母娘が、さんざん涼羽を可愛がって、娘である彩華が、さんざん涼羽と一緒に家に帰る、と…
ひたすら駄々をこねていたところを、涼羽がどうにかあやして…
やっとの思いで帰ってもらえたその直後。
今度は、別の女児が、彩華と同じように駄々をこね始め…
それをその女児の母親が懸命に言い聞かせているところなのだ。
もうひたすらに涼羽にべったりと抱きついたまま、離れようともせずに駄々をこねて泣き喚くその女児。
元々がおっとりなのか、言い聞かせるのも非常に優しい感じで、なかなか娘と一緒に帰ることのできない母親。
その母親も、涼羽のことは一目で気に入った様子で、こんな風に娘が懐いてくれるのは内心嬉しいとは、思っているようだ。
だが、こんな風に懐いているがゆえに、一緒に帰ってもらえないとなると…
さすがに、母親の顔に困った感じの表情が浮かんでしまう。
そんな母娘の様子に、当の涼羽もさすがに苦笑いしか出てこない。
大好きで大好きでたまらない涼羽とさよならするのが心底嫌で嫌で仕方ないらしく…
その涼羽の胸に顔を埋めて、べったりと抱きついて離れようとしない女児。
そんな女児に、涼羽もどうしていいのか分からず…
ただ、苦笑いしか出てこない。
「ほらほら、あんまりわがまま言ってたら、涼羽先生に嫌われちゃうかも知れないよ?」
そんなところに、助け舟といった感じで、珠江が声をかけてくる。
少し冗談交じりの口調だが、しっかりと言い聞かせようとする意思が込められているその声。
もちろん、涼羽がこういった可愛い盛りの子供を嫌うなどということは決してありえないのだが…
だからこそ、こういったことを言える、というのはあるのだろう。
現に、自分にべったりと抱きついたまま離してくれない女児をなだめるように…
優しく、温かく、包み込むように抱きしめ、頭を撫でている涼羽なのだから。
しかし、当の声をかけられた女児の方は…
涼羽に嫌われる、という部分におおげさすぎるほどの反応を示してしまう。
「!え…りょうせんせー…わたちのこと、きらいになっちゃうの?」
それまで泣き喚いて駄々をこねていたのが嘘のようにしおらしくなってしまい…
まるで、すがりつくかのように涼羽の方をじーっと見つめては、そのご機嫌を伺うかのようにしてしまう。
そんな女児が可愛くて、涼羽の方は思わず目いっぱいの慈愛がこもった笑顔をその美少女顔に浮かべようとしてしまうのだが…
「そうだよ~。このままあんたが、泣いてわがままばっかり言ってたら、涼羽先生に嫌われちゃうよ~?」
それを制するかのように、珠江はわざとおおげさに涼羽の前に出てその女児を覗き込むように見つめ…
冗談交じりの口調でありながら、しっかりと言い聞かせるように…
その女児に、その声をかけていく。
「あ、あの…市川さん…」
自分がこんなにも可愛い子供を嫌う、なんてこと、するはずもないのだから…
慌ててそれを訂正しようとする涼羽。
その訂正の声を出したくて、珠江の方に小さな声をかけてしまうのだが…
「シッ!あんたは黙ってな」
涼羽と同じような小声で、そこから先は言わせない、というように…
ピシャリとした物言いで、涼羽の言葉を封じてしまう。
「ほら、どうする?このままわがままばかり言って、涼羽先生に嫌われても、いいのかい?」
そして、ここでしっかりと、その女児に言い聞かせるかのように…
しっかりとした、問いかけの言葉を、珠江はその女児に向ける。
涼羽に嫌われる。
その言葉が幼い脳裏の中で繰り返しのカセットテープのように響いてくる。
そして、幼いながらにそれがどういうことなのかを思い、背筋に氷水をかけられたかのように…
幼いながらに、それは絶対にだめだと、思ってしまう。
そして、あれほどべったりと抱きついて、ぐずっていたのが嘘のように素直に涼羽から離れ…
どこか、後ろ髪ひかれるかのような未練を残した雰囲気でありながらも、自分の母親の方へと、とてとてと歩いていく。
「うん!あんたいい子だね~。涼羽先生も、あんたみたいないい子は大好きだからね~」
そんな女児を見て、まさによくできました、といった感じで…
お褒めの言葉をその女児に向ける珠江。
珠江のその言葉に、女児の浮かない表情が、一気にぱあっと明るく純真な笑顔に変わる。
「ほんと?りょうせんせー、わたちのこと、しゅき?」
その笑顔を涼羽に向けて、珠江の言葉を確認するように、涼羽に問いかける女児。
その表情がまた可愛らしく、本当に幼い子供らしい純粋さに満ち溢れ…
そんな表情を向けられて、涼羽の顔にも優しい笑顔が浮かんでしまい…
「うん、こんな風にお母さんを困らせない子は、先生、大好きだよ」
目線を合わせるようにしゃがみこみ、その満面の笑顔を向けて…
目いっぱいの優しい声で、その女児の望む言葉を贈る涼羽。
「!えへへ~♪」
「よかったね~、涼羽先生がちゃ~んと大好きって言ってくれてね~」
「ほんとね~。お母さん高宮先生にやきもち焼いちゃいそうなくらいだわ~」
「わたちもりょうせんせー、ら~いしゅき~♪」
涼羽のそんな言葉に、女児はもう、有頂天と言えるほどご機嫌な状態に。
すぐそばで見ていた珠江も、そんな可愛すぎる二人のやりとりに頬を緩めてしまい…
母親は、ここまで娘が涼羽にべったりなのを見て、思わずやきもち、などと言い出す始末。
そんな珠江と母親に構うことなく、涼羽のことが大好きだと、舌足らずの言葉で伝えてくる女児。
そんな女児が可愛くて、また優しい声で…
「ほら、お母さんが待ってるから、一緒に帰ろうね」
「うん!」
「それじゃあ、また明日」
「は~い!りょうせんせー、またあちた~!」
迎えに来てくれた母親を待たせないように、一緒に帰るように女児に言い聞かせ…
そんな涼羽の言葉に、素直に返事し、母親と手をつないで…
非常にご機嫌な様子で、教室を後にした。
「…ふ~…」
さすがに、ここまで駄々をこねられるとは思っていなかったのか…
涼羽から、少し疲れたかのような溜息が一つ、漏れ出てしまう。
「涼羽ちゃん、あんたが本当に優しいのは分かるけど…」
「!は、はい…」
「ああいう時は、あんな風に言い聞かせることも、大事だからね?」
「あ…」
「あんた、あたしがあの子にあんな風に言った時、慌てて訂正しようとしてたでしょ?」
「は、はい…」
「ああいう時はね、あんな風に言ってでも、子供を親御さんと一緒に帰らせるようにしないと」
「す、すみません…」
「でないと、お母さんは家に帰ってから食事の準備もあるし、子供もいつまでたっても家に帰れないし…」
「は、はい…」
「何より、あたし達は他にも面倒を見なけりゃいけない子供達がいるんだから…」
「すみません…」
「分かった?」
「はい、分かりました」
そんな状態の涼羽に、珠江からの指摘が飛んでくる。
口調は決して叩き付けたり、怒鳴り倒したり、というものではないが…
一つ一つを、言い聞かせるように突きつけてくる珠江の言葉に…
涼羽自身、まさにその通りだと、反省の色濃い表情を浮かべ、素直に謝罪する。
それでも、さすがに今日初めて業務についた…
ましてや、現役の高校生のアルバイトに対しては、いささか厳しすぎるであろうその指摘。
であるにも関わらず、涼羽はそれをしっかりと自分の落ち度として受け止め…
この次に活かそうと、意識を切り替えて頑張ろうとしている。
そこに、少しの不平不満を見せることもなく…
むしろ、自分の落ち度を指摘してもらって…
自分に足りないところが分かって嬉しいのか…
しっかりとその指摘の言葉を受け止め、さらに向上していかんとするその姿勢。
「(やっぱり、この子は拾い物だね。初日の子にここまで物言いしたのは初めてだったけど…)」
珠江自身も、業務初日の人間にここまでの指摘をしたことなど、なかったのだ。
何せ、これまで求人で雇った人間は、最初から不平不満の色を濃く見せていたこともあり…
そういった指摘は、すぐにやめさせてしまうだろうと、珠江自身が抑えていたのだ。
しかし、それにも関わらず、ちょっとしたことで不満を隠すこともなく…
しかも、それを預かっている子供達に見せてしまう有様。
さすがにそういうのに対して、珠江も指摘をしないわけにもいかず…
子供達のいないところで、しっかりと指摘し、場合によっては怒りもしていたのだ。
ただ、そうなった翌日には、もう辞表が出されていたり…
ひどくなると、いきなり音信普通になって、出勤してこなくなったり…
まるで、働こうとする意思が見えない人材ばかりだったのだ。
そんな人材ばかりを相手にしてきた珠江であるがゆえに…
こんな風に、初日から言うべきことを言ってあげられるということが…
本当に、本当に嬉しかったのだ。
ましてや、当の言われた側である涼羽が、自分の指摘、そして言葉に不平不満を持つどころか…
その指摘、そして言葉をしっかりと受け止め…
より、子供達によき保育をしてあげられるように、と…
ただただ、自らを向上させていこうとしているのだ。
これだけでも、本当に拾い物だと思えてしまう。
この子は、これからももっと向上していける。
そして、決してここにはなくてはならない人材になってくれる。
母性、そして庇護欲を刺激される、非常におしとやかで控えめで…
それでいて、本当に可愛らしい…
そんな涼羽を見ていて、ついついその頭を撫でてしまう。
「?市川さん?」
「ん?なんだい?」
「な、なんで僕の頭を撫でてるんですか?」
「いや~…あんたが本当に可愛くて、いい子だからね~」
いきなりな珠江の行動に、涼羽が疑問を隠せず、問いかけてくるが…
そんな涼羽に、まるでそうするのが当然と言わんばかりの表情で、あっさりと返したその言葉。
「!そ、そんな風に言われたら…」
「?言われたら?」
「な、なんか…恥ずかしい…です…」
当の涼羽は、やはり男としての意識が強いこともあり…
まして、自分は子供でもない、という意識も強いため…
こういった風に扱われることに、激しい抵抗感を感じてしまう。
それが、羞恥となって、すぐに涼羽の顔に浮かんでくる。
しかし、涼羽以外の人間から見れば、そんな涼羽の表情や仕草そのものはあまりにも可愛らしく映ってしまい…
余計に、そうしたくなってしまう。
「…涼羽ちゃん」
「は、はい?…」
「あんた、どんだけ可愛かったら気が済むのさ」
「!え…そ、そんな…」
「あんた、本当にどんだけ可愛くていい子だったら気が済むのさ」
「だ、だからそんな…」
「もう!本当に可愛すぎだね!あんたったら!」
自分の行動にすぐに頬を染めて俯いていしまう涼羽が可愛すぎてたまらなくなったのか…
涼羽の小柄で華奢な身体をぎゅうっと抱きしめ…
さらには、もうこれでもかと言わんばかりの優しい手つきで、その頭を撫で続けてしまう。
「い、市川さん…やめて…」
「なんてことを言うんだい!あんたがこんなにも可愛すぎるからいけないんでしょうが!」
「そ、そんなの…知りませんよ…」
「こんなにも可愛い子を可愛がれないなんて…あんた、あたしにお預けさせる気なのかい!?」
「だ、だからそんなの…」
「え~い、お黙り!黙ってあたしに可愛がられてな!」
「そ、そんな…」
「あ~…涼羽ちゃんが可愛すぎて、本当に幸せだよ~」
まるで自分の腕の中の涼羽を堪能するかのように…
べったりと抱きついては、その頭を優しく撫で…
本当のわが子に愛情を注ぐかのように、ひたすらに可愛がってしまう珠江。
「すみませ~ん。迎えに来ました~」
そんなところに、園児を迎えに来た保護者の声。
今度の来訪者は男性のようで…
低く男らしい声でありながら、若々しさに満ちている、そんな声。
「!は、は~い」
その声に、まさに助かったと言わんばかりに涼羽が反応し…
すぐさま珠江の腕から抜け出て、教室のドアの方に向かっていく。
「ち…余計な邪魔が入ったね…」
涼羽を可愛がることに夢中になっていたところに邪魔が入った形となってしまい…
およそこういった職業では絶対に吐いてはならない言葉を音にしてしまう珠江。
普段ならそんな言葉を出すことなど絶対にない珠江であるだけに…
よほど、涼羽を可愛がることを邪魔されたのが癇に障ったようだ。
しかしそれでも、すぐに切り替えて表情を改め…
いつも通りの職務中という、真面目な顔になる。
「どうぞ~」
その優しげな可愛らしい声を響かせながら…
涼羽が教室のドアを開けていく。
開いたドアから入ってくるのは、長身で細身の男性。
無造作に長く伸びた髪が、どことなくオタクのような雰囲気を出してはいるが…
顔自体はそれなりに整っており、ちゃんとすれば格好良くなるのでないか。
そんな期待値のある容姿では、ある。
服装も、部屋着としても使っていそうな黒のジャージの上下。
本人としては、身だしなみや見てくれにまるで気を使っておらず…
そして、そこをどうにかしようという意識もないようだ。
「あ!にーちゃんだ~!」
そんな残念系の男性を見て、一人の男の子がぱあっと明るい表情になり…
たたたたと、軽い足音を響かせながら、その男性の元へと走っていく。
「よお、迎えにきたぞ」
「えへへ~♪にーちゃんがきてくれた~♪」
「はは。お前はなんだって俺にこんなに懐いてるんだろうな~…」
自分事以外にまるで興味のなさそうな感じの男性だが…
そんな容姿、雰囲気とは違って、面倒見はいいらしく…
その高く伸びた身体を折り曲げるようにしゃがみこんで、自分の元へとやってきた男児の頭を、わしゃわしゃと撫でる。
「おやおや、今日はあんたがお迎えなのかい?」
「どうもご無沙汰してます、市川先生」
「本当に久しぶりだね~。大学はちゃんと行ってるのかい?」
「そりゃあ行ってますよ。親に金払ってもらってるんだから、ちゃんと行って、ちゃんと勉強しないと」
「そうかい、やっぱあんた、真面目だね」
そんな残念男子に、珠江の方から声がかかる。
面識はそれなりにあるようで、お互いに気さくなやりとりをしている。
ただ、そんなに頻繁にこの保育園に来る、というわけでもなく…
本当にたまに、といった感じで、歳の離れた弟を迎えに来ているようだ。
容姿や雰囲気から来る第一印象とは裏腹に…
周りが思うよりもずっと真面目で、面倒見もいい青年のようだ。
「しかしあんた…いまだにそんなむさくてださい格好なんかしてんのかい?」
「むさくてださいって…別に俺は着飾ることに興味はないんですけど…」
「あんた…せめてもうちょっとまともな格好したらどうだい?その方が女の子にもモテると思うよ?」
「あ~…今は特にそんな気はないし…大学で真面目に勉強してるだけで精一杯なんですよ」
「そうかい、なんかもったいない気はするんだけどね」
この野暮ったい服装や容姿のことを、珠江も気に掛けている様子で…
顔を見る度に、それを指摘するようなことを言っているようだ。
だが、肝心の彼にその気がなく…
今は、大学の勉強に打ち込むことで精一杯のようで…
どうしても、今のスタイルからの脱却を図るつもりはないようだ。
「あ、そうそう」
「?」
「今日から、新しい先生来てるんだよ」
「!そうなんですか?」
「ああ、紹介するよ。ほら、おいで。涼羽ちゃん」
「は、はい」
そんなやりとりの最中、珠江が思い出したように、今日からここに来ている涼羽のことを紹介しようとする。
その珠江の言葉に、彼も興味がそっちにいったようで…
珠江が呼びかけ、そそくさとそこに来た人物をじっと見つめる。
「今日からここで働かせて頂きます、高宮 涼羽といいます。まだまだ未熟者ですが、これからよろしくお願いします」
人当たりのいい笑顔と、聞いていて耳あたりのいいその声。
まして、自分からすればTVに出てくるアイドルのような、可憐で美しく、可愛らしい容姿の…
少し幼さの色濃い、童顔な美少女。
そんな容姿の涼羽を見て、思わず感心の声をあげてしまう。
「うわ~…」
「?な、何か…」
「え?あ、ああ!見ててすっごく可愛いなあ、と思ってしまって…」
彼自身、歳の近い異性とのやりとりに慣れていないのか…
動揺を隠せない口調のまま、思ったことを声に出して、涼羽に伝えてしまう。
「!べ、別にそんなこと…」
そんな彼の言葉に、涼羽もついつい顔を赤らめてしまう。
「ふふふ…どうだい?びっくりするほど可愛いだろ?この子?」
「!い、市川さん…」
「ええ。マジでそう思っちゃいましたよ、ほんと」
「だろ?」
「!ふ、二人とも…」
「この子、現役の高校生なのよ。だから、非常勤のアルバイトになるんだけどね」
「!え…高校生…なんですか?」
「そうだよ?」
「マジすか…俺、中学生くらいかと思いましたよ…」
「!うう…」
「はは、そうだね。確かにそのくらいにしか、見えないわね」
自分達の言葉に恥じらい、頬を赤らめている涼羽を差し置いて…
涼羽の可愛らしさを語り合う珠江と残念男子の二人。
ところどころで、恥じらいながらも涼羽が懸命にツッコミを入れようとするも…
そんな可愛らしいツッコミにまるで動じることもなく…
ただただ、目の前にいる驚くほどの美少女のことについて、語り合うことをやめない二人。
「(う、うわ~…なんか恥ずかしがってるところがすごく可愛い…なんか、すっごくタイプ…)」
ひたすら恥ずかしがる涼羽を無遠慮にじろじろと見つめながら…
涼羽の可愛らしさを堪能するかのようにしている残念男子。
この日は、たまたま自宅で食事の準備中な母親に代わって、弟のお迎えに来ただけのこと。
そういう意味では、来たくて来たわけでは、なかったのだ。
それが、こうして自分のタイプと思えるほどの美少女が、ここで働くことになったと知ることができ…
内心、自分でも分からない喜びが芽生えてくる。
これから、毎回でも自分がこの弟を迎えに来るという口実で…
この自分の好みドストライクの新人アルバイトの美少女に会いにこよう。
大学の勉強に集中していて、異性に対してそこまで興味を示すことのなかった彼。
そんな彼が、今ここにいる涼羽のために、これから毎日でもここに足を運ぼうと、思ってしまっている。
ここから彼の自宅は近いこともあり…
何より、こうして勉学に行き詰った時の気分転換としても最高だと思えてしまっている。
そんな彼が、涼羽が自分と同じ性を持つ男子だと知ってしまったらどうなってしまうのか…
それをこの時点で知る者は誰も、いなかった。
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