お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

ふ、二人とも…やめて…

「あ~、おいしかった~」
「ほんと、おいしかった」

物が少なく、少し殺風景な感じのリビング。
中心にあるテーブルの上の食器は全て片付けられており、さらにはしっかりと拭かれて綺麗な状態になっている。

そのテーブルのそばでゆったりと腰を落ち着け、美味しい食事の余韻に浸る二人。

一人は、この家――――高宮家――――の住人の一人で、長女である高宮 羽月。
今年で十五歳になる、中学三年生。
パッと見では小学生に見えてしまうほどの幼さが色濃い容姿。
しかし、造りそのものは非常に整っており、子供っぽさもあるがまさに美少女といえるもの。

もう一人は、この家の長男である高宮 涼羽のクラスメイトである柊 美鈴。
今年で十八歳になる、高校三年生。
歳の割には幼げで、童顔なため、中学生に見られることもよくある容姿。
しかし、やはり造りそのものは非常に整っており、校内でも人気の美少女といえる存在である。

ちなみに、この家の長男である高宮 涼羽は、現在食事が終わった後の食器を台所で洗っているため、リビングにはいない。
他が腰を落ち着けている中、そそくさと後片付けをし始め、テキパキと動くその姿…
まさに、みんなのために動くお母さんとも言える姿だった。

そんな涼羽の姿を見て、美鈴も手伝おうとすぐに腰を上げたのだが、涼羽の…



「美鈴ちゃんはお客様だから、ゆっくりしててね」



…という、優しげな笑顔付きのこのセリフにより、リビングで寛ぐこととなっている。

あんな優しい笑顔であんなこというなんて、ずるい。

と思いながらも、結局は涼羽の言うとおりにせざるを得なかったのだ。

ちなみに、羽月はよほど手先が不器用らしく、美鈴がそそくさと手伝おうとしたところに自分も手伝うと乗り上げたところ――――



「羽月は本当にケガしそうで見ててヒヤヒヤするから」



――――と、最愛の兄に言われてしまい、がっくりと肩を落とすという事態に。

実際、一度は涼羽の手伝いをしたことはあったのだが…
その時に、手がすべって洗った食器を派手に床に落として割ってしまい…
そのあげくに、割れた食器を慌てて片付けようとして、手をかなり深く切ってしまったことがある。

それも、利き手である左手を。

そのせいで、しばらくは箸を使うこともできず、涼羽が極力フォークやスプーンで食べられる料理にしてくれたり…
どうしても、というときは羽月に『あーん』をして食べさせてくれたりと、非常に甲斐甲斐しく世話をしていたのだ。

本質的にはかなり過保護な涼羽であるため、羽月がケガをした瞬間は文字通り、血の気が引くような顔色になっていた。
以降、このことが頭から離れないのか、涼羽は羽月に家事というものをさせなくなってしまったのだ。

羽月からすれば、涼羽のそんなところにも言いようのないほどの愛情を感じてしまい、その可愛らしい顔にずっとふにゃりとした笑顔が絶えなかった。

でも、さすがにこうピシャリと言われると、羽月も女の子であるがゆえに、ショックを隠せなかった。

まあ、ショックを隠せなかったのはほんの少しの間だけで…
すぐにいつもの天真爛漫な羽月に戻っていたのだが。

「涼羽ちゃんって、本当に可愛くて…家庭的で…いいなあ~」

そんな涼羽のことを考えていたのか、美鈴からポツリと漏れる言葉。
女子である自分よりもずっと家庭的で…
校内でも有数の美少女と評されている自分でも自信を失いそうになるほどの美少女な容姿で…

なにより、その慈愛と優しさに満ちたひとつひとつの動作…
そして、その笑顔…

何もかもが、本当の女子よりも素晴らしいもので。

男子であるはずの涼羽が、ここまでの大和撫子というのが、本当に羨ましくなる。

涼羽からすれば、自覚なしの無意識でやっていることなので…
それでどれだけ、『女子として』素晴らしいと評されても、実感など持てるわけもなく…
逆に、自分は男だと、声高々に主張してしまうのだが。

「私も、あんな風になれたら…」

今の美鈴からすれば、高宮 涼羽は本当に憧れとも言える存在となってきている。

美味しい料理が作れて…
入った部屋の状態で分かるくらい、掃除が得意で…
洗濯もこまめにできて…
妹の面倒もこれでもかというほどに見られて…
世話焼きで、自分が動くことを微塵も疑わずに動けて…

本当に、理想のお嫁さんの姿だ、と。

美鈴は、本気でそう思ってしまっている。

涼羽本人がそれを知れば、全力で否定するであろうことを。

「お兄ちゃん、本当の女の子よりもず~っと女の子らしいから、大好き」

そんなところに、その涼羽の妹である羽月からもポツリと。

美鈴同様、幼さが色濃い容姿ではあるが、女性として育っているスタイルの持ち主である羽月。
そんな羽月も、やはり年頃の男子達の、思春期真っ盛りな視線に晒されることが多い。

兄の涼羽ほどではないが、性衝動そのものがかなり希薄な羽月。
だからこそ、そういうことに関して妙に潔癖なところがある。

だから、そんな男子の視線が、妙に汚わらしいものに思えてしまうのだ。

それゆえに、普段から女子との交流ばかりで、男子との交流はほぼ断絶してしまっている状態だ。

そんな羽月だからこそ、そういった男の色欲とは無縁とも言える涼羽は逆に自分からべったりとしてしまっている。
兄妹だから、というのもあるが、自分にそういった欲望の視線を向けることなく、自分が心底求めていた『母親の愛情』を目いっぱい与えてくれる兄、涼羽。

言うなれば、嫌いになる要素など何一つない、と言えるほど。

いつも美味しいご飯を食べさせてくれて…
いつも家の中を綺麗にしてくれて…
いつも自分のことを目いっぱい可愛がってくれて…
いつも自分のことを護ってくれて…

しかも、男くささをまるで感じさせない、美少女な容姿。

もともとがお兄ちゃん子だったこともあり、今では涼羽のいない生活など、考えられない羽月。
日頃からずっと『大好き』とぶつけられることにすら、幸せを感じるほど。

兄、涼羽との触れ合いは、羽月にとっては幸せそのもの。
『大好き』なんていう言葉では到底足りないくらいの想いを、その行動で示すかのように…
日々、涼羽にべったりとし、涼羽の胸の中に顔を埋めてぎゅうっと抱きついてしまう。

正直、今はそれが待ち遠しくて仕方がない。

洗い物が終わったら、いの一番に兄に抱きついてべったりとしよう。

羽月の頭の中には、それしかない状態だ。

そして、まさにその時だった。

「ふ~、終わった終わった」

涼羽が、洗い物を終えてリビングに姿を現したのは。

それを見た瞬間――――



「お兄ちゃあ~ん!」



――――羽月の小さな身体が目いっぱい動く。

そして――――



「わっ!」



――――兄、涼羽の華奢で小柄な身体にべったりと抱きついてくる。

「えへへ~♪お兄ちゃんお兄ちゃん♪」

突っ込んでいった自身の身体を危なげなく受け止めてくれた涼羽の胸に顔を埋め、ここまで待たされた分もあるのか、目いっぱいといった感じで甘えだす。

「…ふふ。羽月は甘えん坊なんだから」

そして、そんな妹が可愛いのか、涼羽は妹の身体を右腕で優しく抱きしめ、左手で慈しむように自分の胸の中の頭を撫で始める。

その慈愛に満ちた笑顔を、妹に向けながら。

「お兄ちゃん」
「なあに?羽月?」
「大好き」
「ふふ、ありがと」
「ねえ、お兄ちゃんはわたしのこと好き?」
「うん、大好きだよ」
「えへへ~♪」

とろけるかのような甘さ…
周囲全てが癒されるかのようなほのぼのさ…

そんな空気を発しながら、兄妹の固有結界が形成されていく。

純粋に兄を求め、ひたすらに兄を愛し、ひたすらに兄に甘えてくる妹、羽月。
そんな妹を純粋に可愛がり、慈しみ、包み込む兄、涼羽。

年頃の兄妹で、ここまで仲のいい兄妹がいるだろうか。
おそらく、どこの誰に聞いたとしても『いるわけがない』と返ってくるのではないだろうか。

ただ、見た目は完全に美少女姉妹。
やりとりは、完全に母と娘といったもの。

そういう点では、普通の兄妹とはやはり違うのかも知れない。

そんな、普通とは違う兄妹のやりとりを見せ付けられて我慢できなかったのか。
ここで、ついに美鈴も動く。

「涼羽ちゃあ~ん!」

先程の羽月と同じように、その身体を目いっぱい動かして突っ込んでいく。

そして、羽月と涼羽を挟み込むかのように、涼羽のその華奢な背中にべったりと抱きつく。

「み、美鈴ちゃん…」

この一日で驚くほどに縮まった距離感がそうさせるのだろうか。
美鈴は、もう涼羽に抱きついたりすることに対する抵抗感がまるでなくなっている。

涼羽の首筋に顔を埋め、艶のいい肩の下まで真っ直ぐに伸びた黒髪とその肌の匂いをかぎ始める。

「は~、やっぱり涼羽ちゃんって、す~っごく抱き心地いいし、す~っごくいい匂いするね~」

男とは到底思えない、柔らかで、それでいてしなやかな身体。
男くささ、汗くささとは無縁の、ほんのりと甘さのある芳しい匂い。

「!だ、だから年頃の女の子が気安く男に抱きつくとか…」
「え~、だって羽月ちゃんも抱きついてるじゃない」
「は、羽月は妹だから…それに、匂いなんてかがないで…」
「や。こ~んなにいい匂いを堪能させないなんて、それこそひどいよ~」

同性とのスキンシップと同じ感覚で涼羽に抱きつく美鈴。
それとは対照的に、あくまで異性同士だと強調する涼羽。

もともと他人に触れられるのを異常に拒んでいた涼羽なだけに…
妹である羽月以外の人間との触れ合いは、やはり好ましいものではないのだろう。

「お兄ちゃんの匂い…ふんわりとしてて、ほんのり甘くて…大好き♪」

そして、普段から兄である涼羽にべったりとしている羽月からの言葉。

日常的に堪能している匂いではあるが、羽月からすればいつまでも堪能していたい匂い。
だから、べったりと抱きついて、甘えて、匂いまで堪能して…

兄、涼羽を余すことなく堪能している、とでも言うべきなのだろうか。

「ちょ…二人共。匂いなんて、かがないで…」

さすがに実の妹に対しても、匂いまでかがれるのは抵抗があるのか。
涼羽からの、か細い声によるささやかな抵抗。

自身の匂いをかがれるという状況に羞恥を感じているのか…
その幼げな美少女顔がほんのりと桜色に染まっている。

「や。お兄ちゃん大好きだから、もっとい~っぱいお兄ちゃんのこと感じたいもん」
「涼羽ちゃんのこと大好きだから、い~っぱい涼羽ちゃんのこと感じたいの」

恥じらいに頬を染め、困った顔をする涼羽がよほど可愛らしかったのか。
二人共、より涼羽にべったりとしてくる。

正面からは実の妹である羽月が、これでもかといわんばかりに涼羽に抱きつき、その華奢な胸に顔を埋めて思う存分、兄である涼羽を堪能している。

反対の背中側からは、クラスメイトである美鈴が、その細く艶っぽい首筋に顔を埋め、ぎゅうっと抱きついて、目いっぱい涼羽を堪能している。

「んっ!…も、もう、やめ…」

首筋に頬ずりをされたりしたためか、思わず甲高い声を上げてしまう。
そんな声を上げてしまったという事実が、涼羽の羞恥をさらに煽る。

涼羽の童顔な美少女顔が、さらに色濃く羞恥に染まっていく。

「お兄ちゃん、可愛い~」
「涼羽ちゃん、ホントに可愛い~」

そんな涼羽の姿が、二人の心をさらに奪う。

そんな涼羽をもっと見たくて…
そんな涼羽をもっと堪能したくて…

羽月も美鈴も、より涼羽にべったりとくっついて、離れようとしない。

涼羽の恥ずかしがる顔…
涼羽の芳しい匂い…
涼羽の華奢な胸…
涼羽の細くくびれた腰…
涼羽の抱き心地のよさ…

まさに、涼羽の全てを堪能したくて…

涼羽を思う存分堪能することができて、心底幸せそうな表情の二人。

そんな実の妹、羽月と、クラスメイトの美鈴。
その二人の涼羽への愛情は、もはやとどまることを知らず…

もっと、もっと涼羽を恥ずかしがらせて、困らせてみたくなってしまう。

「涼羽ちゃん♪」
「!ふあっ!……だ、だから…」

美鈴が涼羽の首筋にそっと唇を落とせば…

「お兄ちゃん♪」
「!ひっ!…は、羽月まで…」

羽月がその顔を涼羽の胸に埋めてぐりぐりと頬ずりをしてくる。

そんなことをされる度に、涼羽の口から、甲高い声が飛び出してしまう。

「えへへ♪お兄ちゃんす~っごく可愛い♪大好き♪」
「涼羽ちゃんったら、もう可愛すぎ♪大好き♪」

涼羽がそんな反応をすればするほど、二人の涼羽に対する想いが膨れ上がる。

そうして、実の妹とクラスメイトである二人の美少女に、ひたすら愛されることとなってしまう涼羽。

そんなゆりゆりしい、背徳的な光景は、しばらくの間、続くこととなった。

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