お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

羽月ちゃんのお兄ちゃん…

「羽月ちゃん、いるかな~?」
「いるよ~絶対。だって、休日はあのお兄ちゃんにべったりのはずだもん」
「そっか、だよね~」
「うん」

高宮家で、十数年ぶりに自宅に帰ってきた父、翔羽がひたすらに息子である涼羽と、娘である羽月を可愛がっている頃。
その高宮家を目指して、和気藹々としながら歩を進めていく二人の美少女。

羽月ほどではないが、かなり小柄で…
茶系色のショートヘア、スレンダーなスタイルが活発なイメージをかもし出していて…
しかも、二人共瓜二つと言えるほどそっくりな容姿。

違いは、前髪の分け目を右側にしているか、左側にしているかの一点だけ。

服装も、水色の半袖パーカーに、白に近い水色のショートパンツ。
二人がお揃いのペアルックとなっている。

ほっそりとしていて、それでいて形のいい脚線美が、周囲の男性の視線を惹きつける。

「羽月ちゃん、休みの日とかぜ~んぜん遊びに行かなくなっちゃったもんね」
「それに、家にもぜ~んぜん連れてってくれないし」
「ぜ~ったい、あのお兄ちゃんを独り占めしたいからに決まってるもん」
「あんな可愛いお兄ちゃんを独り占めなんて、ずるいよね~」
「ね~」

涼羽もそうだったが、羽月も自宅に友達を連れてくる、ということが全くなく…
それでも以前は、休日になるとそれなりに友達と遊びに行ったりは、していた。

だが、兄、涼羽の母性が目覚め…
ひたすらに妹である自分を甘えさせてくれるようになってからは…
友達と遊びにいくことすら、まれな状態になってしまったのだ。

大好きで大好きでたまらないお兄ちゃんに、べったりと甘えることのできる休日。

今の羽月は、ひたすらに涼羽にべったりと甘えるために、休日を過ごしているのだ。

そのため、これまで一番遊びに行っていたこの二人…

髪の分け目を右側にしている、双子の姉である、佐倉 柚宇。
髪の分け目を左側にしている、双子の妹である、佐倉 柚依。

羽月にとって、学校で一番仲のいい、この佐倉姉妹。

もう数ヶ月以上も前になるが、たまたま羽月の兄である涼羽に会うことのできた日…
心底嬉しそうに、幸せそうにべったりと甘えてくる妹を慈愛の女神のように優しく包み込んでいる兄、涼羽の姿…
さらには、みんなに詰め寄られて困ってしまっていた時の涼羽の可愛らしさ…

あれ以来、羽月や佐倉姉妹の学校では、何気に涼羽のことを気に入ってしまった女子が多く…
ことあるごとに、羽月から涼羽について聞こうとする女子が増えたのだ。

羽月自身も、その時は特に疑問も持たず、軽く聞かれたことについて答えてはいた。

しかし、女子とはおしゃべり好きな存在。

そうして羽月から引き出された内容が、女子の間で瞬く間に広がってしまい…
今では、学校内で高宮 羽月の兄という存在が、クローズアップされていっている状態なのだ。

実際に涼羽を見ることのできた女子達は、うっとりとした表情であの時のことを思い出し…
羽月から聞いた話で、さらに想いが膨れ上がっていってしまい…
それを人づてに聞いた女子も、『何それ!?見たかったよ~!』と、涼羽にただならぬ興味を持ってしまっている。

ついには、そんな女子達の秘密のグループ、『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』が結成されてしまい…
昼休みや、放課後などに集まれるメンバーで集まって、ひたすらに涼羽のことで盛り上がる会として、活動が活発になっている状態なのだ。

もちろん、その中で羽月から引き出した情報の展開も行うため…
メンバーがそれぞれ情報をしっかりと共有できている状態だ。

もちろん、この佐倉姉妹もこの会の一員であり…
ひたすらに、羽月から引き出されたエピソードを聞いて、うっとりとした表情になってしまっている。

ただ、それ以降は羽月が友達と遊びに行くこと自体が激減してしまい…
さらには、羽月から聞ける内容にも限界があり…
かといって、あまり根掘り葉掘り聞くのも警戒されてしまいそうで…

結局、会のメンバーが、新たなる情報に飢えてしまっている今日この頃。

そこで立ち上がったのが、この佐倉姉妹。



――――話が聞けないのなら、自ら出向いていけばいいじゃない――――



ということで、どこかのタイミングで不意打ちで高宮家にお邪魔しようという…
そんな計画を立て、進めていたのだ。
それも、羽月に気づかれないように。

とはいえ、ただでさえ情報化社会となっていて…
しかも、それに関わる、情報流出の話題が絶えない今のご時勢。

そんなコンプライアンスのために、当然学校内でも生徒の個人情報を公開するようなことは厳禁となっており…
住所を担任の教師から聞き出すことは、できなかった。

なので、羽月がそそくさと自宅に帰っていくその後を気づかれないように尾行して…
どうにか、高宮家の住所を割り出すことに成功。

そうして、ようやくこの日、計画を実行するにまで至ることができたのだ。

そして――――



「ついたね~」
「うん、ついた」



――――ついに、『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』の聖地とも言える場所にまでなっている…

羽月の自宅であり、その兄である涼羽の自宅…
高宮家に、到着したのだ。

「わ~、なんか古い感じのお家~」
「でも、古臭いって感じだけど、綺麗にされてるね~」
「インターホンとか…ないね~」
「じゃあ、そのまま入って、声かけるしかないね~」
「だね~」
「うん」

そんなやりとりの後、意を決して、姉である柚宇がその横開きの扉に手をかけ…
ゆっくりと、開いていく。

そして、整然と、それでいて綺麗にされている玄関に踏み込んで行く二人。
そこから、妹である柚依が、呼びかけの声を出す。

「こんにちは~」



――――



「えへへ~♪お兄ちゃん♪」
「ふふ、はいはい」

一方、高宮家のリビングでは…

妹である羽月が、ひたすらに兄である涼羽に甘えている。

いつも通りに。

しかし、今日の涼羽は妹とお揃いのオーバーオールに、白の大きなリボンというオプション付きのツインテールという…
どこからどう見ても、中学生くらいの美少女にしか見えない状態だ。

そんな兄に、ひたすらにべったりと抱きつき…
その華奢な胸に顔を埋めて…
幸せいっぱいといわんばかりの天真爛漫な笑顔で…
全力で、兄の甘やかしを独り占めしている。

そんな妹を慈愛の女神のような優しい笑顔で…
その小柄な妹の身体を優しく抱きしめ…
その頭を優しく撫でて…
ひたすらに、幼い娘を胸に抱くお母さんみたいに、妹を可愛がっている。

そして、そんな涼羽の背後からは…

「ああ~…なんて可愛いんだ。お前達は~」

十数年にも及ぶ単身赴任がようやく終了し…
この日、ついに帰ってくることのできた父、翔羽。

最愛の妻である水月と瓜二つと言えるほどそっくりな息子、涼羽。
最愛の妻である水月をもっと幼くした感じで、よく似ている娘、羽月。

そんな息子と娘を、二人まとめて抱きしめている。

息子である涼羽の背後からぎゅうっと抱きしめる…
俗に言う、あすなろ抱き。

高身長で、細身だが筋肉質な翔羽の身体。
その身体に、小柄で華奢な涼羽の身体はすっぽりと収まるように抱きしめられている。

「すん…あ~、いい匂い。それに、なんて抱き心地のよさなんだ…」

息子である涼羽のうなじに顔を埋め、その芳しい匂い…
そして、その華奢で女性的なスタイルの身体の抱き心地…
それらを、余すことなく堪能している父、翔羽。

どう考えても、今年十八歳の息子にするようなことではなく…
さすがに、客観的にちょっと危ない人に見えてしまっている。

「!もう、お父さん…匂いなんてかがないでよ…」

当然、この恥ずかしがりやの涼羽が父のそんな行為に何の突っ込みも入れないはずがなく…
恥じらいに頬を染め、少し拗ねたような声で父に抗議する。

「!な、なんてこというんだ…涼羽…」
「だ、だって…恥ずかしいし…」
「こんなにもいい匂いと抱き心地を堪能できないなんて…ああ、俺はなんて不幸なんだ」
「!な、何言ってるの!お父さん!」
「そうか…涼羽は、そんなにお父さんのことが嫌いなのか…」
「!ち、違うよ!そんなわけ…」
「じゃあ、いいよな?」
「!~~~~~~~」

父、翔羽も、ひたすらに涼羽にちょっかいをかけ…
恥ずかしがらせて、困らせて…
その度に可愛すぎる姿を見せる息子に、もうデレデレを隠せない状態。

「も、もう…知らない」

そんな意地悪な父に対して、拗ねたようにそっぽを向いてしまう涼羽。
本当にこれが今年十八歳の男子の見せる姿なのだろうか。

誰が見ても、くっそ可愛いとしか言い様がないその姿。

「あ~もう!可愛いなあ…涼羽は」

そんな息子、涼羽の姿に、父、翔羽のデレデレは止まらない。

「えへへ♪お兄ちゃん本当に可愛い♪」

そんな兄の姿に、妹、羽月もご満悦。
こんなに可愛い兄がいて、心底幸せだと、その顔に笑顔として浮かんでいる。

と、そんな風に父がさんざん息子を可愛がり…
そんな風に妹がさんざん兄に甘えつつも可愛がり…

親子三人水入らずで、ほのぼのとやりとりしていた所に…



「こんにちは~」



…と、可愛らしさに満ちた女の子の声。

「ん?」
「あれ?」

突然の訪問の声に、翔羽と涼羽から疑問の声があがる。

父、翔羽は単身赴任でずっとここにはいなかった。
兄、涼羽はここに友達を呼ぶことをしなかった。

…柊 美鈴という例外を除いて。

妹、羽月も涼羽同様にここに友達を招くことをしなかった。

つまり、この高宮家に訪問があること自体、非常にレアな状況なのだ。

…が、この声は、羽月の知っている声。

「!あ!」

その声を聞いて、羽月は飛び上がるように玄関の方へと向かっていった。
ぱたぱたと、可愛らしい足音を鳴らしながら。

「なんだ?羽月の友達か?」
「…みたい、だね」

来客が羽月の友達のようだと察した二人。

「じゃあ、俺がお茶やお菓子でも用意しとくよ」

すぐさま、来客を迎えるおもてなしモードに切り替えた翔羽が、そそくさと動き始める。

「ありがとう、お父さん。じゃあ俺は、羽月と一緒にお出迎えに行ってくるよ」

そして、涼羽は、羽月の後を追って玄関の方に向かっていった。



――――



「あ~!やっぱり!」
「えへへ~、羽月ちゃん♪」
「来ちゃった♪」

来客が自分の知っている人物だと分かり、羽月の顔に笑顔が浮かぶ。
そして、その来客である佐倉姉妹にも、同じように笑顔が浮かぶ。

「柚宇ちゃんに柚依ちゃん、どうしたの?いきなり」

しかし、さすがにいきなりな訪問だったため、羽月から疑問の声があがる。

「最近、羽月ちゃんとぜんぜん遊べてないから~」
「羽月ちゃんと遊びたくて、つい来ちゃったの♪」

非常に当たり障りのない受け応えをする、佐倉姉妹。
実際、今日の目的として、それも含まれていたのは事実だから。

しかし、それとは別の本命となる人物…
その人物に会えるのを、今か今かと待ち望んでいる二人でもある。

ちなみに、羽月も佐倉姉妹も、学校の成績は優秀と言える方ではある。
もう三年生なので受験の年なのだが、それぞれで勉強はしっかりと行なっており…
常に余裕、とまではいかないが、普通に遊ぶくらいの余裕は作れているようだ。

「羽月?誰が来てるの?」

そして、羽月の後ろから響く、優しげな声。

その声が響く中、声の主がその姿を現していく。

「あ!お兄ちゃん!」

そんな声に、羽月が嬉々として反応する。

「!え…」
「!うそ…」

声の主は、佐倉姉妹が本命の目的としていた人物。
羽月の兄である、涼羽。

しかし、今の涼羽の姿を見て、思わず驚きの声をあげてしまう。

以前見た時は、確かに可愛らしい容姿だったけど…
その時はまだ、男子か女子か、どちらかで危うい両性感があった。

しかし、今の涼羽は…
そのバランスが、完全に女子の方へと向いてしまっていた。

何より、今目の前にいる可愛らしい友人とお揃いのオーバーオールに…
以前見た時より、ずっと長くなっているその髪を大きな白のリボンでツインテールにしている…

もう、どこからどう見ても完全無欠の美少女にしか見えないのだ。

「あ、あれ?この子たち、確か…」

一度だけ…
それも、結構前の時だが、面識のある二人。

「羽月、この子たちって、確か…」
「うん!わたしのお友達!」

そう。
確か、あの時羽月と一緒に帰ろうとしていた子達だ。

そして、羽月の友達ということで…

「こんにちは。わざわざ羽月と遊びに来てくれたの?」

…優しげな笑顔に、優しげな声。
自分の容姿を自覚していない涼羽の、お出迎えスマイル。

それを目の当たりにしてしまった佐倉姉妹。
その笑顔が、あまりにも素敵過ぎて…
あまりにも可愛すぎて…

「「~~~~~可愛い~~~~~~!!!!!!!」」

思わず、友人の兄である涼羽に、べったりと抱きついてしまった。

「!!??」

そんないきなりな展開に、何がなんだか分からず…
その意識が、混乱に落とされてしまう涼羽。

「な、何これ!?何なの~!?この可愛らしさ!!」
「すっご~い!!あの時もめっちゃ可愛かったけど、今はもっと可愛い~!!」
「え?え?あ、あの…」
「羽月ちゃんのお兄ちゃん、可愛すぎだよ~!!」
「もう、すっごく可愛い~!!」

そんな涼羽を置いてけぼりにする勢いで、ひたすら涼羽の可愛らしさを堪能する二人。

柚宇は、涼羽の右側に…
柚依は、涼羽の左側に…

それぞれべったりとくっついて、その肌や匂いを堪能し始める。

「わ~、お肌すべすべのぷにぷに~♪しかも、びっくりするくらい白くて綺麗~♪」
「!ひゃっ!ちょ、ちょっと…」
「しかも何、この匂い!ふんわりしてて、ほんのり甘くて…すっごくいい匂い~!!」
「!や、やめて…」

まるで人形で遊ぶかのように、涼羽にべったりとしつつ…
首筋に顔を埋めたり、そこから匂いをかいだり…

ひたすら、涼羽のことを堪能し続ける柚宇と柚依。

もちろん、そんな光景を見せられて、涼羽の妹である羽月が黙ってられるはずもなく…

「だ、だめ~!!お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんなの~!!」

ついには、羽月までもが涼羽にべったりと抱きついてくる始末。

「!は、羽月まで…」
「羽月ちゃんのお兄ちゃん、可愛い~♪」
「こんなに可愛いお兄ちゃんなんて、うらやましすぎるよ~♪」
「柚宇ちゃんも、柚依ちゃんも、お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんなの!」

実の妹である羽月…
その羽月の友達である、柚宇と柚依の姉妹…

その三人にべったりと抱きつかれ…
どうすることもできずにおたおたとしていることしかできない涼羽。

せっかくののんびりとした土曜の昼下がりなのに。
またしても、涼羽にとっては落ち着くことのできないイベントが、発生してしまった。

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