聞こえない僕と見えない君の空想物語
17話 躾の出来たいい子
「こんにちは」
扉を開け、入ったのは篠原くんの病室ではなく【よりどころ】。
あの後、やっぱり病室に入ることが出来なかった。
「風澄ちゃんだ、どうもー」
明るい声の主は奥のソファに寝そべっていた佐山くんだ。マスターは相変わらずカウンターにいる。
「ていうか、絢香ちゃんはいないんだね」
「佐山くんは本当に絢香が好きだね」
色が見えない私でもわかる。多分いま、彼の顔は真っ赤になっていると思う。
「バレバレだよ?」とおどけたように言うと、手で顔をおおいながらこちらを見てきた。
「まじで‥‥」
佐山くんが絢香に向ける視線は、私が篠原くんに向ける視線と似ているし、ことある事に絢香のことを聞いてくる辺り、好きなんだなって思った。
「でも、絢香はまだ気づいてないと思うよ」
だけど勘の強い子だからもう少ししたら気づかれてしまう。
「本当はこの前告白しようと思ったんだよ。でも色々あったし、絢香ちゃん俺のこと全然見てないんだよね」だからあの日はやめたんだ。
そういうってソファに仰向けに寝転んだ。
「俺は待てが出来る賢いワンコだからねー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「絢香ちゃん!」
部活の休憩中、サッカー部の俺は外練に出ていたバレー部の彼女に声をかけた。
「佐山‥‥なんか犬みたいだね」
彼女は俺の呼び方をナチュラルに名字呼びにした。
「わんわん!ご主人様!とか言った方がいい?」
しゃがんで彼女の元に近づいて、上目遣いで見てみた。失敗した、すごい顔だ。明らかに引いてる。
「ごめんなさい」
あわてて謝ると、笑いながら許してくれた。
笑顔は本当に可愛くてその顔を許されるまで見ていたかった。
「今日、一緒に帰らない?」
俺の予想外の言葉で言葉につまってしまう。
「嫌ならいいよ、一人で帰るから」
拗ねた声で後ろを向かれた。
「待って待って!!帰る!帰りたい!」
必死に彼女を止めて、こちらを振り向かせた。
そして、部活終わりに俺は中庭のベンチに座り彼女を待っていた。
「先輩!お疲れ様です!」
俺が聞き逃すことのない彼女の声は一つ上の男子バスケ部の柳沢先輩に向けられていた。
「おう、慎田もお疲れー」
誰にでも同じように優しい柳沢先輩は当然のごとくモテる。彼女も例によって柳沢先輩の事が好きらしい。
それを知ったのは、つい最近だった。あんな顔で喋るんだよ。好きな人に見せる顔は特別だ。俺にはあんな顔を見せない。そんなものを見ちゃったら、嫌でも気づく。その後、何となく聞いてみたら案外あっさり教えてくれた。このことを知るのは俺だけらしい。
彼女と俺だけの秘密。それは俺にとっては辛い秘密。
「絢香ちゃん」
意地悪でごめんね。柳沢先輩との会話を邪魔してごめんね。こんな独占欲の塊の俺が君のことを好きでいてくれるのを許してくれるかな。
あぁ、焦ってるな。そりゃそうだよね、好きな人の目の前で他の男に下の名前で呼ばれてるところなんか見られたくないよね。でも、俺はこんな抵抗しか出来ないんだよ。
「帰らないの?」
いつものおどけた俺で彼女の元に駆け寄る。
笑顔で言ったつもりだが、多分俺の目は笑ってないだろう。柳沢先輩にはかわいい同い年の彼女がいるだろ?だから、絢香ちゃんには手を出さないでね。
あー、こりゃ怒ってるな。なんとか学校を出たはいいけど、機嫌はものすごく悪いな。
「さっきはごめんね。怒ってるよね?」
足を止めて、しっかりと彼女と向き合う。
「‥‥別に怒ってないよ」
その間と、その声色で彼女が怒ってることは明白だ。
「誰だって怒るよ。好きな人との会話を遮られたんだから」
まぁ、さっきの俺は完璧に嫉妬だったけどな。
「うるさいな。それに、先輩にはお似合いの彼女がいるじゃん」
俺を追い抜き歩き出した彼女の後ろを付いていく。
「でもさー、好きになったらそんなの関係なくない?だって、俺なんか‥‥」
やばい、ノリで言ってしまいそうになった。
「なに?俺なんかって、もしかして好きな人いるの?」
本当にやばい‥‥これは告白しなくちゃいけない流れ。
「いや、それはさ」
前を歩く彼女に追いつき話を変えようとすると、いたずらっ子の顔で俺を追い越して言った。
「なにー?好きになったら関係ないんでしょ?」
それは、さっき俺が言ったセリフだし。
「その言葉、私も借りていい?諦められるまで、好きでいたい」
諦められるまで、それがいつなのか、本当に諦めてくれるのか‥‥
でも、待つよ。俺は待てが出来る賢いワンコだから。
扉を開け、入ったのは篠原くんの病室ではなく【よりどころ】。
あの後、やっぱり病室に入ることが出来なかった。
「風澄ちゃんだ、どうもー」
明るい声の主は奥のソファに寝そべっていた佐山くんだ。マスターは相変わらずカウンターにいる。
「ていうか、絢香ちゃんはいないんだね」
「佐山くんは本当に絢香が好きだね」
色が見えない私でもわかる。多分いま、彼の顔は真っ赤になっていると思う。
「バレバレだよ?」とおどけたように言うと、手で顔をおおいながらこちらを見てきた。
「まじで‥‥」
佐山くんが絢香に向ける視線は、私が篠原くんに向ける視線と似ているし、ことある事に絢香のことを聞いてくる辺り、好きなんだなって思った。
「でも、絢香はまだ気づいてないと思うよ」
だけど勘の強い子だからもう少ししたら気づかれてしまう。
「本当はこの前告白しようと思ったんだよ。でも色々あったし、絢香ちゃん俺のこと全然見てないんだよね」だからあの日はやめたんだ。
そういうってソファに仰向けに寝転んだ。
「俺は待てが出来る賢いワンコだからねー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「絢香ちゃん!」
部活の休憩中、サッカー部の俺は外練に出ていたバレー部の彼女に声をかけた。
「佐山‥‥なんか犬みたいだね」
彼女は俺の呼び方をナチュラルに名字呼びにした。
「わんわん!ご主人様!とか言った方がいい?」
しゃがんで彼女の元に近づいて、上目遣いで見てみた。失敗した、すごい顔だ。明らかに引いてる。
「ごめんなさい」
あわてて謝ると、笑いながら許してくれた。
笑顔は本当に可愛くてその顔を許されるまで見ていたかった。
「今日、一緒に帰らない?」
俺の予想外の言葉で言葉につまってしまう。
「嫌ならいいよ、一人で帰るから」
拗ねた声で後ろを向かれた。
「待って待って!!帰る!帰りたい!」
必死に彼女を止めて、こちらを振り向かせた。
そして、部活終わりに俺は中庭のベンチに座り彼女を待っていた。
「先輩!お疲れ様です!」
俺が聞き逃すことのない彼女の声は一つ上の男子バスケ部の柳沢先輩に向けられていた。
「おう、慎田もお疲れー」
誰にでも同じように優しい柳沢先輩は当然のごとくモテる。彼女も例によって柳沢先輩の事が好きらしい。
それを知ったのは、つい最近だった。あんな顔で喋るんだよ。好きな人に見せる顔は特別だ。俺にはあんな顔を見せない。そんなものを見ちゃったら、嫌でも気づく。その後、何となく聞いてみたら案外あっさり教えてくれた。このことを知るのは俺だけらしい。
彼女と俺だけの秘密。それは俺にとっては辛い秘密。
「絢香ちゃん」
意地悪でごめんね。柳沢先輩との会話を邪魔してごめんね。こんな独占欲の塊の俺が君のことを好きでいてくれるのを許してくれるかな。
あぁ、焦ってるな。そりゃそうだよね、好きな人の目の前で他の男に下の名前で呼ばれてるところなんか見られたくないよね。でも、俺はこんな抵抗しか出来ないんだよ。
「帰らないの?」
いつものおどけた俺で彼女の元に駆け寄る。
笑顔で言ったつもりだが、多分俺の目は笑ってないだろう。柳沢先輩にはかわいい同い年の彼女がいるだろ?だから、絢香ちゃんには手を出さないでね。
あー、こりゃ怒ってるな。なんとか学校を出たはいいけど、機嫌はものすごく悪いな。
「さっきはごめんね。怒ってるよね?」
足を止めて、しっかりと彼女と向き合う。
「‥‥別に怒ってないよ」
その間と、その声色で彼女が怒ってることは明白だ。
「誰だって怒るよ。好きな人との会話を遮られたんだから」
まぁ、さっきの俺は完璧に嫉妬だったけどな。
「うるさいな。それに、先輩にはお似合いの彼女がいるじゃん」
俺を追い抜き歩き出した彼女の後ろを付いていく。
「でもさー、好きになったらそんなの関係なくない?だって、俺なんか‥‥」
やばい、ノリで言ってしまいそうになった。
「なに?俺なんかって、もしかして好きな人いるの?」
本当にやばい‥‥これは告白しなくちゃいけない流れ。
「いや、それはさ」
前を歩く彼女に追いつき話を変えようとすると、いたずらっ子の顔で俺を追い越して言った。
「なにー?好きになったら関係ないんでしょ?」
それは、さっき俺が言ったセリフだし。
「その言葉、私も借りていい?諦められるまで、好きでいたい」
諦められるまで、それがいつなのか、本当に諦めてくれるのか‥‥
でも、待つよ。俺は待てが出来る賢いワンコだから。
「現代ドラマ」の人気作品
-
-
361
-
266
-
-
207
-
139
-
-
159
-
142
-
-
139
-
71
-
-
137
-
123
-
-
111
-
9
-
-
38
-
13
-
-
28
-
42
-
-
28
-
8
コメント