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聞こえない僕と見えない君の空想物語

朝比奈 江

11話 登場

いつからだろう。
こんなに好きになったのは、いつからだろう。
この想いは一方通行だ。彼には届いていない。
私は、篠原くんに名前も呼ばれたことない。
自己紹介をした時、篠原くんから恵でいいと言われたのにも関わらず、私は篠原くん呼びだ。
踏み込みたい気持ちはある。でも、例え名前を呼んだところで彼の心に踏み込んだことにはならない。

彼は私に一線を引いている。それどころか、いつも一緒にいる佐山くんにさえ引いて接している気がする。

初めて喋れた時にはただ、喋りたいと思っていた。
だけど今は、彼の心を変えたいと思った。
でも、踏み込んではいけない気がした。

一緒に帰っている時も、私のすぐ横を彼が歩いている。
ただその少しの間には見えない壁があるように感じた。

こんなに苦しい気持ちになるなんて思わなかった。
「はぁ、なんでこんな好きになったんだろう」
とんでもない発言をしたのを口に出してから初めて気がついた。
幸い、教室には自分しかいなかった。

「よし!篠原くんを迎えに行こう」
マフラーをふわっと巻いて、髪を整えれば準備OKだ。

「宮村さん」
聞きなれた声が後ろから聞こえた。
「安藤くん、どうしたの?」
声の主は、私とクラスの安藤進之介という男子。
真面目で成績優秀でみんなからの評判もいい。
「さっき、篠原くんに頼まれたんだけど」
"篠原くん" 安藤くんの口からその言葉が出るとは予想してなかった。
「急ぎの用事で帰るって」
その言葉にずっしりと心が重くなる。
「そっか‥‥ありがとう、教えてくれて」
篠原くんと帰れないことが分かると凄く、落ち込んでしまう自分がいる。私は重い人なのだろうか。

「よかったら、一緒に帰らない?帰り道一緒だし」
「うん、いいよ」
多少の違和感は感じるものの、安藤くんと学校を後にした。

帰り道、冷たい風が吹き秋なら金色の稲穂が揺れている頃だが残念ながら、私には見えないし

安藤くんと喋っているのに考えているのは篠原くんの事。
この道を一緒に通って、たまに植物の名前教えてくれたりして、それに。
「危ない!」
手をぐっと引っ張られ我に返る。
隣を物凄いスピードを飛ばす自転車が通っていった。
「危ないよね、気おつけてほしいよ」
「そうだね」
この道って意外と飛ばす人が多かったんだ、忘れてた。
しばらく歩いて、ふと思う。
あれ、今日はなんだか帰り道が長い気がする。
「学校から、駅ってこんなに遠かったっけ?」
「え、宮村さんがいつも帰ってる道と同じ道だよ」
また、違和感を覚える。

「そう、なんだ。てっきり違う道かと思った」
どうしてこんなにいつもの道が違って見えるんだろう。
楽しくないんだろう。
なんて、つまらないんだろう。

なんて、くらい世界なんだろう。

「宮村さん、篠原くんのことを考えているんでしょ」
唐突だった。顔を上げると、見たことがない路地にいた。
「えっ‥‥?」
ぐっと両肩を捕まれ、身動きを許されなくされた。
「宮村さんは、あいつに騙されているんだ!目を覚ましてよ!初めてあった時のしっかりしてる宮村さんに戻ってよ!ねぇ!!」
肩に安藤くんの爪がくい込む。
「い、痛いっ‥‥安藤くん!」
安藤くんの腕から逃れようともがくが、びくともしない。
安藤くんの顔を見る、見ないほうがよかった。
笑顔だ。笑顔には違いないけど、その顔はとても優しいとは言いきれない。例えるなら、獲物を捕まえた狩人のよう。

声が出ない。路地から光が消え私の目は暗闇の中を漂った。
「はぁ‥‥宮村さん、2人で誰もいないところへ行こう。2人でずっと一緒にいよう。僕だけの宮村さんになってよ。きみは、もう何も見なくていい。僕が君の目になるよ」

何を勝手に言ってるの。私は自分で選んだ。
この、"色の見えない目"で世界を見ることを。
そこで初めて色のようなものを感じることができた人がいた。

「宮村さん、宮村さん、宮村さん!」
グラッと視界がゆれ、自分の下半身に鈍い痛みが走り、そこで初めて自分が押し倒されたということに気づいた。
その反動で少し光がさす。
安藤くんの顔が明かりに照らされ、より一層狂気の顔で私を見ていた。

ダメだ。ここで逆らわなければ、認めたことになる。
私は振り絞れるだけの声を出した。
「‥‥た、助けてー!だれか、たす‥‥」
口を塞がれるも、次は必死に足を動かす。
覆いかぶさった、安藤くんの体を蹴る。
だが、それも虚しく押さえつけられた。

「かわいい抵抗だね。でも、大丈夫。一緒いこう」
彼は空いている片手からナイフを取り出した。

一緒にいこう。それは死を意味する言葉ということに気づく。
こんな所で私は死ぬのか。突然怖くなり、目をつぶっる。


ドン!!


鈍い音が響き私の上にかかっていた体重が一気に軽くなった。
恐る恐る目を開けると、安藤くんの上に違う男子が馬乗りになり一方的に殴っていた。

すぐに私の方へ歩いてきて、私の手をおもむろに取り走り出した。
路地から伸びる光に向かって。


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