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聞こえない僕と見えない君の空想物語

朝比奈 江

10話 分からない事だらけの世界

「お前さ、最近よく笑うようになったよな」
購買で春汰が勝ち取ってきたカツサンドを頬張る直前だった。
唐突に、そんなような事を春汰は僕に聞いた。
首を傾げると続けざまに春汰は話した。
「いや、絶対そうだよ。風澄ちゃん来てから笑うようになった」
確かに、笑う回数は増えたのかもしれないな。
「それに俺に対しても、すこーしだけ優しくなった!」
それは気のせいだ。
まぁ、でも風澄に会ってから学校が少し楽しくなったのかもしれない。
今日は、春汰が勝ち取ったカツサンドも食べれることだし。
「よかったな、お前のこと俺以外に分かってくれるやつがいて」
僕の肩を強く叩きながらそういった。


放課後、春汰は部活へ行って僕は1人教室で帰り支度をしていた。
不意に、僕の前の席に座る人影があった。
春汰かと思ったが、違った。
全然知らない人だった。

「篠原くんでしょ?」
春汰とは違い、真面目そうな雰囲気をまとっていて黒縁のメガネを掛けている。委員長的な人だ。
僕が頷き返さずに顔をまじまじと見ているとその人は笑顔でこういった。

「なんで、お前みたいなやつが宮村さんと一緒にいるんだよ。普通に考えて俺と一緒にいるべきなんだよ。こんな"耳の聞こえないやつ"なんかより俺の方がよっぽどな」
笑顔のままで、僕が聞こえている事を知らずまるでセリフを読むようにスラスラと言った。
「宮村さんは変わったよ。こんな変人と付き合うなんてさ。あいつも頭がおかしくなったんだな。でも、もう大丈夫だから。俺が宮村さんを守るから」
笑顔は、深くなっていった。
「お前なんかよりずっと俺の方が宮村さんのことを思ってるんだ」
この言葉は、愛情と言うより狂気じみている。
「こんな事言っても聞こえないんだよな」
彼は、紙に殴り書きで【宮村さんは用事で先に帰った】書いて教室から出ていった。

久々にすごい人を見た。
あれほどの暴言を言いながら笑顔を崩さない彼は、何者だったのだろうか。
暴言の内容については、もう聞き飽きた言葉を繰り返されただけなので傷つきはしない。
ただ、1つ気になるところがあった。

「お前なんかよりずっと俺の方が宮村さんのことを思っているだ」

普通に見れば、そこまで好きなんだと思うが彼の顔は歪んでいた。
その顔は、歓喜の顔にも思えた。
彼を引き止めるべきだったのか、いや引き止めたところで何になるのだろう。
僕は風澄のなんだと言うのだ。
そうだ、そもそも何でもないのだ僕らは。

僕は、彼のように風澄の事を思っていない。
ただ、僕は風澄の笑顔を見たいと思った。
もう少し喋りたいと思った。
ただ、そばにいたいと思っただけだ。

帰り際にB組の靴箱をみると、風澄の靴は綺麗に揃えられたまま置いてあった。
僕は晴れない思いを胸に学校を後にした。

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「宮村さん、今日一緒に帰らない?」
俺が宮村さんを守らないと、何としても。
君は俺だのものだから。

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