都市伝説の魔術師

巫夏希

エンディング002 少し幸せな光景

 やっぱりいつもの屋上にて。
 香月と春歌は弁当を広げて昼食を取っていた。

「ところで、夢実ちゃんは?」
「夢実なら課題が終わっていないからって言って、それと立ち向かっているところだよ。今は教室でおにぎり片手に課題してるんじゃないかな」
「香月クンは?」
「僕はとっくに終わっているよ」

 そう言って卵焼きを口に放り込む香月。
 春歌は空を見つめて、水筒を傾ける。

「平和ね……」
「そうだねえ……」
「……そういえば、その弁当ってお母さんが作っているの?」

 春歌の問いに香月は頷いて、今度はウインナーを頬張る。

「そうだよ。母さん、なんだかんだで料理は得意だからね」
「ふーん……、そうなんだ」

 ただ、静寂な空間が場を支配していた。
 それと裏腹に、春歌の胸はドキドキと心拍数が高まっていた。
 理由は単純明快。これから何を実行しようとしているのか、理解しているからだ。

「……ねえ」

 そして彼女は。
 その言葉を口にする。

「私……あなたが好き」
「え……?」
「魔術師としてのあなたももちろん好きだし、学生として一緒に居るときのあなたも大好き。全部大好き。昨日までは伝えたくても思いがうまくまとまらなかった。……けれど、思いをまとめる時間があるのなら、すぐにあなたに伝えるべきだと思ったの。だから、あなたに伝える、私の思いを」
「……マジか」

 香月は頭を掻いて、春歌の表情を見た。
 春歌は頬を真っ赤にしていた。きっと気づいていないのだろう。だから、きっと今彼女に伝えたらもっと恥ずかしがるのだろうか。香月はそんなことを考えていたが――それよりも返事をすべきではないか、と結論付けてそれについての自問自答は終了した。
 返事。
 イエスかノーか。
 どういう返事を返せばいいのか。
 どういったニュアンスで返せばいいのか。
 春歌が精いっぱいの気持ちを伝えているのだから、自分もその思いにこたえなくてはならない。
 そして、彼は。
 香月は。
 その思いにこたえるべく、立ち上がる。
 春歌はそれを見て驚いて、彼女も立ち上がった。

「あ、あの――」

 どうかしたの? と言いたかったが、今の彼女にはすべてしどろもどろで何も言えなかった。正確に言えば、はっきりと言葉を紡ぐことが出来なかったといえばいいだろうか。
 そして、香月は再び頭を掻いて――その言葉を口にした。

「春歌、さっきの言葉に対する答えを言うよ。俺はお前のことが――」

 彼は、その言葉に対する返事を――彼女にはっきりと告げた。

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