都市伝説の魔術師
第五章 少年魔術師と『一度きりの願い事』(4)
「ならば今回は魔神に恩を売っておこうと……そういうことですね?」
こくり、とユウは頷いた。
ユウの考えは、少なくとも果の言った仮説とは若干別物(まさしく、『仮説』に過ぎないもの)だったが、しかしながら彼女の仮説はいいところをついていたといえるだろう。
「魔神に恩を売って、何になるんですか? ……まさか、ある時に魔神が助けてくれるとでも?」
「可能性はあるだろうな。それが確実なものであるかどうかは解らないけれど」
ユウの言葉を聞いて溜息を吐く果。
そもそもあまり魔神について詳しく知らないからかもしれないが、果は半信半疑だった。
魔神を助けたところで、所詮人間とは違う別の存在。カテゴリ。生き物かどうかも危うい存在だ。
もし魔神がそれを忘れていたのならば? 助けたから、それによって、自分たちに危害が加わる可能性は?
ユウはきっと考えているだろう。考えていないわけがない。だが、あえてユウはそのデメリットを無視していた。誰にも伝えないでいようと思っていた。それの意味は、誰にだって容易に解ることだというのに。
「……とはいえ、実際問題、ここから大変になることは間違いないだろうな。アリス・テレジアをそう簡単に倒せるとは思えない。しかも、アリス・テレジアは確実に外的な力を得ているだろう」
「なぜ、そこまではっきりと言えるのですか?」
ユウの言葉に、疑問に思った春歌は訊ねる。
ユウは頷く。
「アリス・テレジアはもうとっくに七十は超えているはずなのよ。だって私たちが活動している頃にももう老齢だったのだし……。しかし、聞いたところによると美貌を保っているというじゃない。そうともなれば、確実に何らかの力を使っているでしょうね」
「何らかの力?」
「ええ、そしてその力を使うためには、何らかのデメリットがあるはずよ。制限時間、エネルギー、またはどれでもない何か……。それを探すしかないはず」
「でも、普通に考えれば制限時間じゃないですか?」
香月の言葉にユウは首を傾げる。
「どういうこと?」
「だって、サンジェルマンを幽閉していたのでしょう? サンジェルマンは、永遠の命を持っていたと言われている。だったら永遠の命を手に入れる方法だって、あるいは知っていたはずでしょう? だから、幽閉して、その情報を手に入れようとしていた。しかしながらサンジェルマンはそれを拒否して、そのまま幽閉させ続けている。……そう考えるのが自然じゃないですか?」
その言葉を聞いて、ユウはますます顔を青ざめさせていく。
彼女はようやくある一つの結論を導いたようだった。
「ということは……まさか!」
そう、と言って香月は言った。
「もしアリス・テレジアがサンジェルマンの丸薬を手に入れようとしていたのならば、それをこの世界へと持ち込ませることを、あるいは目的にしていたのかもしれない。そしてボス、あなたはそれを成し遂げてしまった。もしそれを知られていたら……、アリス・テレジアがこちらに向かってきているかもしれない。僕は、そう思いますよ」
◇◇◇
アリス・テレジアは目を瞑っていた。
ずっと何かを探しているようだったが――何かを見つけたらしく、目を見開いて笑みを浮かべる。
「何か、見つけられたようですね」
彼女の隣に寄り添っていた時雨は笑みを浮かべて、頷いた。
そしてアリスも彼女の質問に答えるべく、頷く。
「ええ、見つけたわ。ユウ・ルーチンハーグはあの世界から『サンジェルマンの丸薬』を持ってきてくれた。計画はついに最終段階まで到達した……。長かった、長かったわ、ここまで。あなたとともに長い間計画を進めてきた、その賜物といえるかしらね」
「私は、何も……。すべて、アリス様の考えを実行したまでです」
「謙遜しなくてもいいのよ。私はあなたを信頼しているのだから」
そう言ってアリスは時雨の頬を撫でる。時雨もその頬を撫でられる仕草に恍惚とした表情をとった。
「それじゃ、向かいましょうか」
アリスはゆっくりと立ち上がる。
それを見て時雨は目を丸くする。
「アリス様、大丈夫なのですか。お立ちになられて。足のご様子などは……」
「丸薬を早く手に入れなければ、私ももう長くないのよ。魔力だって徐々に使えなくなるかもしれない。そうなったら最後、この組織を統括することすら危うくなってくる。そうなったらもう、アリス・テレジアという魔術師は死んだも同然。私はそれを許せない。人間の命は呆気ない。あまりにも短い。だからといって、それに簡単に従うわけにはいかない。抗う術があるのなら、何度でも抗ってみせる。たとえどんな困難が待ち受けようとも」
そして、彼女たちは最後の戦いへと向かう。
その場所は、ユウ・ルーチンハーグたちが居る病院だった。
◇◇◇
「……来る」
カナエはそう言った。その言葉を聞いて、踵を返すユウ。
「え? いったい何が来るというの?」
「解らない。けれど……何かすごい高速でやってくる……。まっすぐに、この場所を目指して!」
その言葉と同時に、香月のいた病室の壁が崩落した。
土煙が起きて、ユウたちは目を瞑る。
土煙が晴れたタイミングを見計らって目を開けると、そこに立っていたのは二人の女性だった。
「アリス・テレジア……!」
そこに立っていたのはアリス・テレジアと神前時雨だった。
「やあ、ユウ・ルーチンハーグ。久しぶり、でいいのかな? 君が丸薬を手に入れていることは、私にだってもう理解出来ている。周知の事実ということだ。だから、提案しようじゃないか。その丸薬を私に寄越せ。それですべて解決する。このしょうもない出来事は、それで丸く収まる」
こくり、とユウは頷いた。
ユウの考えは、少なくとも果の言った仮説とは若干別物(まさしく、『仮説』に過ぎないもの)だったが、しかしながら彼女の仮説はいいところをついていたといえるだろう。
「魔神に恩を売って、何になるんですか? ……まさか、ある時に魔神が助けてくれるとでも?」
「可能性はあるだろうな。それが確実なものであるかどうかは解らないけれど」
ユウの言葉を聞いて溜息を吐く果。
そもそもあまり魔神について詳しく知らないからかもしれないが、果は半信半疑だった。
魔神を助けたところで、所詮人間とは違う別の存在。カテゴリ。生き物かどうかも危うい存在だ。
もし魔神がそれを忘れていたのならば? 助けたから、それによって、自分たちに危害が加わる可能性は?
ユウはきっと考えているだろう。考えていないわけがない。だが、あえてユウはそのデメリットを無視していた。誰にも伝えないでいようと思っていた。それの意味は、誰にだって容易に解ることだというのに。
「……とはいえ、実際問題、ここから大変になることは間違いないだろうな。アリス・テレジアをそう簡単に倒せるとは思えない。しかも、アリス・テレジアは確実に外的な力を得ているだろう」
「なぜ、そこまではっきりと言えるのですか?」
ユウの言葉に、疑問に思った春歌は訊ねる。
ユウは頷く。
「アリス・テレジアはもうとっくに七十は超えているはずなのよ。だって私たちが活動している頃にももう老齢だったのだし……。しかし、聞いたところによると美貌を保っているというじゃない。そうともなれば、確実に何らかの力を使っているでしょうね」
「何らかの力?」
「ええ、そしてその力を使うためには、何らかのデメリットがあるはずよ。制限時間、エネルギー、またはどれでもない何か……。それを探すしかないはず」
「でも、普通に考えれば制限時間じゃないですか?」
香月の言葉にユウは首を傾げる。
「どういうこと?」
「だって、サンジェルマンを幽閉していたのでしょう? サンジェルマンは、永遠の命を持っていたと言われている。だったら永遠の命を手に入れる方法だって、あるいは知っていたはずでしょう? だから、幽閉して、その情報を手に入れようとしていた。しかしながらサンジェルマンはそれを拒否して、そのまま幽閉させ続けている。……そう考えるのが自然じゃないですか?」
その言葉を聞いて、ユウはますます顔を青ざめさせていく。
彼女はようやくある一つの結論を導いたようだった。
「ということは……まさか!」
そう、と言って香月は言った。
「もしアリス・テレジアがサンジェルマンの丸薬を手に入れようとしていたのならば、それをこの世界へと持ち込ませることを、あるいは目的にしていたのかもしれない。そしてボス、あなたはそれを成し遂げてしまった。もしそれを知られていたら……、アリス・テレジアがこちらに向かってきているかもしれない。僕は、そう思いますよ」
◇◇◇
アリス・テレジアは目を瞑っていた。
ずっと何かを探しているようだったが――何かを見つけたらしく、目を見開いて笑みを浮かべる。
「何か、見つけられたようですね」
彼女の隣に寄り添っていた時雨は笑みを浮かべて、頷いた。
そしてアリスも彼女の質問に答えるべく、頷く。
「ええ、見つけたわ。ユウ・ルーチンハーグはあの世界から『サンジェルマンの丸薬』を持ってきてくれた。計画はついに最終段階まで到達した……。長かった、長かったわ、ここまで。あなたとともに長い間計画を進めてきた、その賜物といえるかしらね」
「私は、何も……。すべて、アリス様の考えを実行したまでです」
「謙遜しなくてもいいのよ。私はあなたを信頼しているのだから」
そう言ってアリスは時雨の頬を撫でる。時雨もその頬を撫でられる仕草に恍惚とした表情をとった。
「それじゃ、向かいましょうか」
アリスはゆっくりと立ち上がる。
それを見て時雨は目を丸くする。
「アリス様、大丈夫なのですか。お立ちになられて。足のご様子などは……」
「丸薬を早く手に入れなければ、私ももう長くないのよ。魔力だって徐々に使えなくなるかもしれない。そうなったら最後、この組織を統括することすら危うくなってくる。そうなったらもう、アリス・テレジアという魔術師は死んだも同然。私はそれを許せない。人間の命は呆気ない。あまりにも短い。だからといって、それに簡単に従うわけにはいかない。抗う術があるのなら、何度でも抗ってみせる。たとえどんな困難が待ち受けようとも」
そして、彼女たちは最後の戦いへと向かう。
その場所は、ユウ・ルーチンハーグたちが居る病院だった。
◇◇◇
「……来る」
カナエはそう言った。その言葉を聞いて、踵を返すユウ。
「え? いったい何が来るというの?」
「解らない。けれど……何かすごい高速でやってくる……。まっすぐに、この場所を目指して!」
その言葉と同時に、香月のいた病室の壁が崩落した。
土煙が起きて、ユウたちは目を瞑る。
土煙が晴れたタイミングを見計らって目を開けると、そこに立っていたのは二人の女性だった。
「アリス・テレジア……!」
そこに立っていたのはアリス・テレジアと神前時雨だった。
「やあ、ユウ・ルーチンハーグ。久しぶり、でいいのかな? 君が丸薬を手に入れていることは、私にだってもう理解出来ている。周知の事実ということだ。だから、提案しようじゃないか。その丸薬を私に寄越せ。それですべて解決する。このしょうもない出来事は、それで丸く収まる」
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