都市伝説の魔術師
第五章 少年魔術師と『一度きりの願い事』(3)
「ひどい話もあったものだ。あの男、昔からいけ好かない男だと思っていたが、まさかそこまで闇が深いとはな……」 ユウの言葉を聞いて夢実はそちらを向いた。
「そういえばユウさん……あなた、そこまでの仲だったのですか? あのハイドと」
「仲は良くないよ。しいて言うならかつて同じ組織で活動していただけのことだ。しかしながら、あいつと私は実際に協力したわけではない。あくまで、ああいうやつがいたな……と思うレベルだけのことだ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、そこまで気にすることはないぞ」
ユウの言葉を聞いて夢実は俯く。
「そう……ですか。ならいいのですけれど」
サンジェルマンは溜息を吐いた。
「さて……。それじゃ、そろそろ戻る時では無いかね? その助けるべき相手を助けることのできる時間は、もうそれほど残ってはいないだろう?」
サンジェルマンの言葉を聞いて、ユウたちは頷くと踵を返す。
ユウたちの背後、それから少し離れた位置には光り輝く丸い球体があった。
「きっと、それが出口だろう。私は残念ながら縛り付けられている鎖が解き放たれない限り脱出することは出来ないが、きみたちならきっと脱出できるはずだ」
「ありがとう。……ほんとうにありがとう。いつかきっと、あなたを助けに来ます」
「ああ、そうしてくれると助かる。そしてその時は……その助けたいと願っている人間にも出会ってみたいものだな。私としては命の恩人に近い存在だ。出来ることならなんだってしてやろう」
そして、ユウたちは再び元の場所へと戻っていった。
◇◇◇
そこは病院の廊下だった。
「あれ……ここはもしかして……!」
「もしかしても何もないよ。一体全体、何があったんだ? ユウたちは行方不明になるし、行方不明になったと思ったらこんなところで横になっているし……。何だい? 最近は発信機の電波をシャットアウトする近代的な魔術も使えるようになったのか? だとすれば時代は進歩したものだなあ……」
そう言って書類を束ねたものでトントンと肩を叩く白衣の女性が居た。
その女性はユウたちのよく知る女性だった。
「何で……あなたがここにいるの? 湯川果」
「何で、と言いたいのはこちらのセリフよ。ここは今宮病院、私の所属している病院よ? そして私が立っている目の前にある扉、ここを開ければ香月クンの眠っている病室。……転移魔術を使ったのか知らないけれど、転移先を調べる暇も無かったのかしら?」
「転移先……。そうね、その転移魔術を使ったのは少なくとも私たちじゃなくて、あの魔神なのかもしれないけれど。それにしても魔神は封印されてもなお、ここまで影響力を発揮することが出来るとは……。正直驚きね」
「済まない。ユウ、君が一体何を言っているのかさっぱりわからないのだが?」
「ごめんなさい。あとで説明するわ……。取り敢えず今は、香月クンを助けないと!」
そう言ってユウは香月の眠る病室へと走り出した。
「あ、こら! 病院は走るな、って言われているでしょーッ!」
正確には廊下は走らないほうがいいのだが、それについて果は言及する余裕も無かった。
2
香月の病室には城山春歌が居た。正確には、彼女は香月の身体に寄り添うように、椅子の上で眠っていた。
それを見てユウは春歌に毛布をかけた。
「……これを使えば、香月クンは助かる。彼はまた再び、魔術師として活動することが出来る……!」
そしてユウは袋から黒い丸薬を一錠だけ取り出すと――それを香月の口に入れた。
「あ、こら! いったい何を香月クンの口に入れたの! 彼は患者よ……」
その一部始終を見ていた果は思わずユウの行為を窘めた。
しかし彼女の言葉は途中で停止した。
理由は単純明快。香月の目が、開いていたからだ。
「香月クンが……起きている、だと?」
それを聞いたからか、あるいは彼女の周りが五月蠅くなったのを煩わしくなったからか、春歌は目を覚ました。
そして、香月の目が開いていることに気づくと――彼女は涙を流していた。
「香月クン……大丈夫? ここがどこだか解る?」
「ここは……病院、だよな? ええと、たぶん……湯川……果さんが居る場所……」
「そうだ。どうやら記憶の混濁は無いようだね」
果は春歌の隣にある椅子に腰かける。
「それにしても、ユウ。いったい何をすればこんな回復する? まったくもって理解できないぞ」
「……サンジェルマンの丸薬、そいつを使った。湯川、お前も魔術師の端くれならその名前くらい聞いたことがあるだろう?」
「ああ、訊いたことがある。飲めばなんでも治るという薬だろう? だが、それは伝説上の産物だと聞いていたが……」
「まあ、いろいろあってね。本人から手に入れることが出来た。しかし、条件はあったがね」
「条件……。それは?」
「サンジェルマンは囚われている。永遠の牢獄にも似た空間だ。そこから出してほしいというのが彼の条件だった。しかも出してくれれば願いをかなえてくれるという。だから、了承した」
それを聞いて果は頷いた。
「……どうやって脱出させるのかは、調べたの?」
「アリス・テレジアを倒せば問題ないらしい」
「アリス……テレジア」
「アレイスターのボス、即ち今回のラスボスだよ。そいつを倒すことで、封印が解放される。そうして、サンジェルマンは解放されるらしい。サンジェルマンは魔神としても有名な存在だ。だから出来ることなら我々で回収したいものだが……、まあ、今回はダメだろうな。というか、やめたほうがいい。魔神に太刀打ちできるほど、今の我々に戦力は無い」
「そういえばユウさん……あなた、そこまでの仲だったのですか? あのハイドと」
「仲は良くないよ。しいて言うならかつて同じ組織で活動していただけのことだ。しかしながら、あいつと私は実際に協力したわけではない。あくまで、ああいうやつがいたな……と思うレベルだけのことだ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、そこまで気にすることはないぞ」
ユウの言葉を聞いて夢実は俯く。
「そう……ですか。ならいいのですけれど」
サンジェルマンは溜息を吐いた。
「さて……。それじゃ、そろそろ戻る時では無いかね? その助けるべき相手を助けることのできる時間は、もうそれほど残ってはいないだろう?」
サンジェルマンの言葉を聞いて、ユウたちは頷くと踵を返す。
ユウたちの背後、それから少し離れた位置には光り輝く丸い球体があった。
「きっと、それが出口だろう。私は残念ながら縛り付けられている鎖が解き放たれない限り脱出することは出来ないが、きみたちならきっと脱出できるはずだ」
「ありがとう。……ほんとうにありがとう。いつかきっと、あなたを助けに来ます」
「ああ、そうしてくれると助かる。そしてその時は……その助けたいと願っている人間にも出会ってみたいものだな。私としては命の恩人に近い存在だ。出来ることならなんだってしてやろう」
そして、ユウたちは再び元の場所へと戻っていった。
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そこは病院の廊下だった。
「あれ……ここはもしかして……!」
「もしかしても何もないよ。一体全体、何があったんだ? ユウたちは行方不明になるし、行方不明になったと思ったらこんなところで横になっているし……。何だい? 最近は発信機の電波をシャットアウトする近代的な魔術も使えるようになったのか? だとすれば時代は進歩したものだなあ……」
そう言って書類を束ねたものでトントンと肩を叩く白衣の女性が居た。
その女性はユウたちのよく知る女性だった。
「何で……あなたがここにいるの? 湯川果」
「何で、と言いたいのはこちらのセリフよ。ここは今宮病院、私の所属している病院よ? そして私が立っている目の前にある扉、ここを開ければ香月クンの眠っている病室。……転移魔術を使ったのか知らないけれど、転移先を調べる暇も無かったのかしら?」
「転移先……。そうね、その転移魔術を使ったのは少なくとも私たちじゃなくて、あの魔神なのかもしれないけれど。それにしても魔神は封印されてもなお、ここまで影響力を発揮することが出来るとは……。正直驚きね」
「済まない。ユウ、君が一体何を言っているのかさっぱりわからないのだが?」
「ごめんなさい。あとで説明するわ……。取り敢えず今は、香月クンを助けないと!」
そう言ってユウは香月の眠る病室へと走り出した。
「あ、こら! 病院は走るな、って言われているでしょーッ!」
正確には廊下は走らないほうがいいのだが、それについて果は言及する余裕も無かった。
2
香月の病室には城山春歌が居た。正確には、彼女は香月の身体に寄り添うように、椅子の上で眠っていた。
それを見てユウは春歌に毛布をかけた。
「……これを使えば、香月クンは助かる。彼はまた再び、魔術師として活動することが出来る……!」
そしてユウは袋から黒い丸薬を一錠だけ取り出すと――それを香月の口に入れた。
「あ、こら! いったい何を香月クンの口に入れたの! 彼は患者よ……」
その一部始終を見ていた果は思わずユウの行為を窘めた。
しかし彼女の言葉は途中で停止した。
理由は単純明快。香月の目が、開いていたからだ。
「香月クンが……起きている、だと?」
それを聞いたからか、あるいは彼女の周りが五月蠅くなったのを煩わしくなったからか、春歌は目を覚ました。
そして、香月の目が開いていることに気づくと――彼女は涙を流していた。
「香月クン……大丈夫? ここがどこだか解る?」
「ここは……病院、だよな? ええと、たぶん……湯川……果さんが居る場所……」
「そうだ。どうやら記憶の混濁は無いようだね」
果は春歌の隣にある椅子に腰かける。
「それにしても、ユウ。いったい何をすればこんな回復する? まったくもって理解できないぞ」
「……サンジェルマンの丸薬、そいつを使った。湯川、お前も魔術師の端くれならその名前くらい聞いたことがあるだろう?」
「ああ、訊いたことがある。飲めばなんでも治るという薬だろう? だが、それは伝説上の産物だと聞いていたが……」
「まあ、いろいろあってね。本人から手に入れることが出来た。しかし、条件はあったがね」
「条件……。それは?」
「サンジェルマンは囚われている。永遠の牢獄にも似た空間だ。そこから出してほしいというのが彼の条件だった。しかも出してくれれば願いをかなえてくれるという。だから、了承した」
それを聞いて果は頷いた。
「……どうやって脱出させるのかは、調べたの?」
「アリス・テレジアを倒せば問題ないらしい」
「アリス……テレジア」
「アレイスターのボス、即ち今回のラスボスだよ。そいつを倒すことで、封印が解放される。そうして、サンジェルマンは解放されるらしい。サンジェルマンは魔神としても有名な存在だ。だから出来ることなら我々で回収したいものだが……、まあ、今回はダメだろうな。というか、やめたほうがいい。魔神に太刀打ちできるほど、今の我々に戦力は無い」
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