都市伝説の魔術師
第一章 少年魔術師と『七つ鐘の願い事』(1)
1
「……木崎空港でテロリストが立てこもっている、だと?」
中学校の屋上。今日も今日とて妹の夢実が作った弁当を、彼女と春歌と三人で食べている香月。
今彼は突然の『電話』がかかってきたことにより、二人より離れた位置に立って会話をしていた。彼の持つ黒いスマートフォンは『仕事用』のものであり、普段持ち歩いている日常使用の携帯とは異なる。
そして今、彼の電話は黒いスマートフォンで受けていた。
『木崎空港は国際化が進んでおり、年間成田や羽田に引けをとらない程の人間が飛行機を乗り降りしていることは知っているわね?』
「それくらいなら。社会の授業で耳にタコが出来るくらい聞いたよ」
電話の相手――トーンからして女性――は微笑みながら会話を続ける。なぜそう断定出来るかといえば、どことなくその声が笑声になっていたからだ。
『……木崎空港は一企業レミリ・インダストリィが設立した、世界でも数少ない私立空港。レミリ・インダストリィとしては、穏便に事を済ませたいらしい。だから直ぐに警察にお呼び立てがかかった』
「だったら僕が出るようなことは無いのでは? 例えば、テロリストが魔術師でも無い限り、そのようなこと……」
『その「例えば」が実現してしまっているから、あなたに依頼が入っているのよ』
それを聞いた香月は耳を傾ける。
「……ほんとうか?」
『私が嘘を吐くとでも思っているの? そうだと思っているのならば、心外。私は別に君に疑われるようなこともしていないし、しようとも思っていない。だからあえて、改めて言おう。これは事実であり真実であり確実である。まったくもって、不甲斐ないことだよ。そう簡単に魔術師によるテロ行動が起こるなんてね』
魔術師によるテロ。
その文言の重さを理解していない香月では無い。彼も魔術師の端くれであるのだから。
そもそも魔術師は世間一般に認知されているが、その有害性によって世間が二分されているのも現状である。魔術師は魔術を行使することが出来る。しかし、魔術を使ったことのない人間からすれば、それは奇術と言ってもいい。自分には理解できない術を自由自在に使うことが出来る者というのは、畏怖の対象に入る。仮に普通に過ごしていたとしても、魔術師を怖がる人間が一定数居るのはもはや当然のこととも言えるだろう。
魔術師が事件を起こした時、魔術師の管理にあたっている魔術協会はその事後処理に追われることになる。その中でも一番難しいことは信頼の回復だろう。関係各所への謝罪、費用の清算などが行われる。
信頼程、簡単に回復しないものも無い。
『……魔術師は白いワンピースを着ている少女だという。兵器が今のところ何も聞かないらしい。いわゆる銃火器だね、その類が一切効かなかったらしい。まあ、それは防壁魔術で説明がつくがね』
「即ち、言う程強いものではないということか?」
『そういうことになるね』
溜息を吐く香月。
「そういうことを処理するのに適任なのは他にもいるだろう……、と言いたいところだが、致し方ない。今すぐ向かうよ。木崎空港だったな?」
『ええ。そう言ってくれると思っていたよ』
電話を切り、香月は二人の元へ戻る。
「……依頼?」
春歌の質問に頷く香月。
弁当箱を早々に片付けると、夢実に手渡した。
学生服を脱ぎ、シャツの上から鞄に入っているジャージを着る。ジャージは彼の仕事着だ。魔術師として――だけでもなく、単純に動きやすい恰好なためである。
そのままズボンを着替えようと思ったが、そこで春歌と夢実が居ることに気付いて、そこで止めた。
学生服を鞄に仕舞い込んで、右手にそれを持った。
「済まない、これから仕事に行かなくてはならない。夢実、先生に言われたら早退したと言っておいてくれ」
「了解」
頷いた夢実を見て、香月は走り出す。
同時に鞄に入っていたコンパイルキューブを取り出し、何かを呟く。基本コードと呼ばれるそれをコンパイルキューブに呟くことで、キューブがコードを変換する。そして、それにより魔術が漸く使えるようになる。
そして彼は屋上から飛び出していった。
◇◇◇
木崎空港。
白いワンピースの少女は小さく笑みを浮かべていた。
「……こんなに弱いのね。この街の兵力って」
溜息を吐き、彼女は辺りを散策する。まるでウインドーショッピングをしているかのように、辺りを見わたしながら歩いていた。
彼女は退屈だった。怠けていた。暇だった。だからここにやってきたというのに、それは彼女を満足させるものでは無かったということになる。
「……木崎空港でテロリストが立てこもっている、だと?」
中学校の屋上。今日も今日とて妹の夢実が作った弁当を、彼女と春歌と三人で食べている香月。
今彼は突然の『電話』がかかってきたことにより、二人より離れた位置に立って会話をしていた。彼の持つ黒いスマートフォンは『仕事用』のものであり、普段持ち歩いている日常使用の携帯とは異なる。
そして今、彼の電話は黒いスマートフォンで受けていた。
『木崎空港は国際化が進んでおり、年間成田や羽田に引けをとらない程の人間が飛行機を乗り降りしていることは知っているわね?』
「それくらいなら。社会の授業で耳にタコが出来るくらい聞いたよ」
電話の相手――トーンからして女性――は微笑みながら会話を続ける。なぜそう断定出来るかといえば、どことなくその声が笑声になっていたからだ。
『……木崎空港は一企業レミリ・インダストリィが設立した、世界でも数少ない私立空港。レミリ・インダストリィとしては、穏便に事を済ませたいらしい。だから直ぐに警察にお呼び立てがかかった』
「だったら僕が出るようなことは無いのでは? 例えば、テロリストが魔術師でも無い限り、そのようなこと……」
『その「例えば」が実現してしまっているから、あなたに依頼が入っているのよ』
それを聞いた香月は耳を傾ける。
「……ほんとうか?」
『私が嘘を吐くとでも思っているの? そうだと思っているのならば、心外。私は別に君に疑われるようなこともしていないし、しようとも思っていない。だからあえて、改めて言おう。これは事実であり真実であり確実である。まったくもって、不甲斐ないことだよ。そう簡単に魔術師によるテロ行動が起こるなんてね』
魔術師によるテロ。
その文言の重さを理解していない香月では無い。彼も魔術師の端くれであるのだから。
そもそも魔術師は世間一般に認知されているが、その有害性によって世間が二分されているのも現状である。魔術師は魔術を行使することが出来る。しかし、魔術を使ったことのない人間からすれば、それは奇術と言ってもいい。自分には理解できない術を自由自在に使うことが出来る者というのは、畏怖の対象に入る。仮に普通に過ごしていたとしても、魔術師を怖がる人間が一定数居るのはもはや当然のこととも言えるだろう。
魔術師が事件を起こした時、魔術師の管理にあたっている魔術協会はその事後処理に追われることになる。その中でも一番難しいことは信頼の回復だろう。関係各所への謝罪、費用の清算などが行われる。
信頼程、簡単に回復しないものも無い。
『……魔術師は白いワンピースを着ている少女だという。兵器が今のところ何も聞かないらしい。いわゆる銃火器だね、その類が一切効かなかったらしい。まあ、それは防壁魔術で説明がつくがね』
「即ち、言う程強いものではないということか?」
『そういうことになるね』
溜息を吐く香月。
「そういうことを処理するのに適任なのは他にもいるだろう……、と言いたいところだが、致し方ない。今すぐ向かうよ。木崎空港だったな?」
『ええ。そう言ってくれると思っていたよ』
電話を切り、香月は二人の元へ戻る。
「……依頼?」
春歌の質問に頷く香月。
弁当箱を早々に片付けると、夢実に手渡した。
学生服を脱ぎ、シャツの上から鞄に入っているジャージを着る。ジャージは彼の仕事着だ。魔術師として――だけでもなく、単純に動きやすい恰好なためである。
そのままズボンを着替えようと思ったが、そこで春歌と夢実が居ることに気付いて、そこで止めた。
学生服を鞄に仕舞い込んで、右手にそれを持った。
「済まない、これから仕事に行かなくてはならない。夢実、先生に言われたら早退したと言っておいてくれ」
「了解」
頷いた夢実を見て、香月は走り出す。
同時に鞄に入っていたコンパイルキューブを取り出し、何かを呟く。基本コードと呼ばれるそれをコンパイルキューブに呟くことで、キューブがコードを変換する。そして、それにより魔術が漸く使えるようになる。
そして彼は屋上から飛び出していった。
◇◇◇
木崎空港。
白いワンピースの少女は小さく笑みを浮かべていた。
「……こんなに弱いのね。この街の兵力って」
溜息を吐き、彼女は辺りを散策する。まるでウインドーショッピングをしているかのように、辺りを見わたしながら歩いていた。
彼女は退屈だった。怠けていた。暇だった。だからここにやってきたというのに、それは彼女を満足させるものでは無かったということになる。
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