都市伝説の魔術師
第一章 少年魔術師と『七つ鐘の願い事』(5)
警視庁を離れ、ヘテロダインのアジトへと向かう香月。
木崎市まではここから一時間程度。しかもこの時間となれば通勤ラッシュも相まって混み合っている。
「……急いで帰らねばなあ」
香月は呟いて、とぼとぼと最寄り駅へと歩き始めた。
――その時だった。
「まさかこのような場所で出会うとはね、ランキングホルダー……しかもランキング四位の柊木香月クンに」
空間が暗転した。
その一帯だけが闇に落とし込まれたような錯覚を感じる。
「貴様……何者だ?」
香月は周りを警戒して、話している相手を探そうとする。
しかしそれよりも早く、彼の目の前に一人の青年が立っていた。
黒いセーターを着た男性だった。
男性は微笑み、呟く。
「僕の名前は……そうだね、ディーとでも呼んでもらおうか。木崎空港では魔術師が迷惑被ったらしいね。ここで改めて謝罪させてもらうよ」
「……成る程。木崎空港でテロを起こしたのはお前だったのか」
それを聞いたディーが肩を竦める。
「正確に言えば僕の同胞だ。僕は何もしちゃいない。計画くらいは指示したかもしれないけれど」
「……お前たちの目的は? 組織名は何だ?」
「組織名はここで明言することは出来ない。君たちは知りたいかもしれないけれどね、ヘテロダインの柊木香月クン」
「ほう。どうやら、僕のことは凡て知っているようだね」
「そりゃあ当然だ。敵になるかもしれない相手の情報は凡て仕入れておかねばね。妹が一人、両親はそれぞれランキングホルダー三位と五位を占める実力派。仲のいい女友達……魔術師の見習いだったかな? それが一人いたはずだ。どうだい、合っているだろう?」
「……その情報を得て、いったいどうするつもりだ?」
香月は冷や汗をかいていた。突然の敵に、凡てを把握されていることが――彼にとって想定外だったのだ。
ディーの話は続く。
「しかも、この妹ちゃん。とてもかわいいじゃないか。いいなあ、僕にもこういう妹が居ればなあ……。羨ましいよ、柊木香月クン。僕なんか、変わった魔術師一人と常にくっついているんだぜ? 別にそこに何も感情なんて無いってのにさ」
「それがどうした。彼女をどうするつもりだ……! 何かするのなら、絶対に許さない」
「おお、怖いね。シスコン、ってやつかい? 僕もきっと妹が居ればシスコンになるのかなあ。どうだと思う? ねえ、どう思う? 君は妹が居るから解らないよね。妹のいない人の思いを! 妹という神聖なる存在、その有無に応じて……その意味は大きく変わっていくということを! 君は知らないんだ! 知らないからそうやって放っておける! 君は何も理解しようとはしない! 理解することなど、考えようと思わないんだ!」
……何が言いたいのか、さっぱりわからなかった。
なぜ香月は自分が怒られているのか、全然解らなかった。
「……頼む、頼むから落ち着いてくれ。今のままだと何も話が進まないし話が何もまとまらない。だから今は……ゆっくりと話してくれ」
「……ああ、済まなかった。今はそんな話をしている場合では無かった。まあ、いずれそういう展開になるのだろうけれど。今は僕が話している。そうだ、一つ……頼み事がある。交渉とも言えばいいだろうか。まあ、そんな感じだ」
「回りくどい言い方をする必要があるなら、さっさと単刀直入に言えばいいんじゃないのか」
香月の言葉に隼人は笑みを浮かべる。
「じゃあ、単刀直入に言おう。お言葉に甘えてね」
一言クッションを置いてから、隼人は言った。
「柊木香月クン。僕たちの目的のために、おとなしく捕まってくれないかな?」
◇◇◇
夜。
柊木邸では食事の時間となっていた。
「……香月は今日も仕事か?」
夢月は新聞を読みながら、ビールを一口飲み、そう言った。
「うん。何だか木崎空港のテロについていろいろあったみたい」
答えたのは夢実だった。
夢実はそう答えたが自信をもって答えたわけでは無かった。
香月が任務に向かったとしても、遅れた場合は必ず電話なりメールなりで連絡をするはずだった。それが家族で決められたルールだからである。
にもかかわらず、今日は連絡が無かった。無論、こちらから電話もメールもした。最近話題のSNSでも連絡を取った。でも、一切返信が来なかった。それどころか圏外或いは電源を切ったようなお知らせすら聞こえていた。
「……ねえ、あなた。幾ら何でもおかしな話だとは思わない? どうして香月が電話をしてこないの。いや、それどころか圏外か電源を切っているなんておかしいわ。任務でそのような場所に行くことは今まで無かったはずだし」
「……それは私だって解っている。だから、私たちの方から行動せねばならない」
ビールを飲み干し、夢月は立ち上がる。
そしてゆっくりと彼は歩き出す。
「どちらへ?」
「決まっているだろう、ヘテロダインのアジトだ。ユウにあいつがどこに行ったのか聞き出す。そして、その場所へ向かう。バカ息子を呼び戻しに行くんだよ」
夢月はタンスに仕舞ってあったコンパイルキューブをポケットに仕舞い、ジャケットを羽織った。外ではさめざめと雨が降っていた。
「私も向かいます」
「わ、私も!」
香と夢実がそれぞれ言った。
その言葉を聞いて夢月は振り返ると、微笑む。
「ほんとうならば、ダメだと言いたいところだが……。二人が香月を心配するのは当然のことだからな。一緒に行こう。何かあったら、すぐに戻るんだぞ。もし攻撃があったら、私が必ず守ってやる。いいね?」
その言葉に二人は頷いた。
二人も準備を進めて、外に出た。
外では雨が降っていたため、全員傘を差して出た。
そして三人は、ヘテロダインのアジトに向かうため――ゆっくりと歩き出した。
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