都市伝説の魔術師
第一章 少年魔術師と『七つ鐘の願い事』(8)
5
「……ここは」
彼が目を覚ましたとき、そこに広がっていたのは繁華街だった。見覚えのある繁華街――木崎駅前のロータリーである。
「いったいここは、どこなんだ?」
香月は呟く。
そこで漸く、香月は左手に感じる違和に気付いた。
そちらを見やると――アイリスが彼の左腕をしっかりと抱えていた。
すうすう、と寝息を立てて彼女は目を瞑っていた。
時刻は深夜。人は疎らなので見られることは無い、のだが……。
「なんというか、面倒なことになりそうだなぁ……」
香月はそう考えると、頭を掻いた。
アイリスを連れて行く言い訳をどうすればいいか――その言い訳によっては彼が五体満足でいられるかどうかが決まるといってもいい――先ずはそれについて考える必要があった。
◇◇◇
「お兄ちゃん、お兄ちゃん? 一体全体どうして毎回女の子を連れ込んでくるのかな? これは私に対する宣戦布告? それともモテる自分を見せようとしている?」
「……どうして夢実はさっきからコンパイルキューブを持って、微笑んでいるのかな?」
「私の質問に答えてよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは一体どうしていつもそういうトラブルばかり抱えてくるのかな? 全然理解ができないのだけれど」
「僕は君の言動に理解出来ないよ、夢実」
香月は溜息を一つ。
彼が言いたかったのは、たった一言。
――最近妹の様子がおかしいんだが。
「……だが、そんな一言で片付けられるわけも無く」
香月の呟きは続く。
「お兄ちゃんはほんとうに、私のことをまったく思っていないよね。私というエレガントでプリティーな可愛い妹が居ながら!」
「……言っておくが、プリティーという単語には可愛いという意味があってだな?」
「それくらい解っているっつーの! お兄ちゃんは堅物過ぎるよ! 何で私の可愛さは一言で表せないから二言分使いました、ってことが解らないわけ!? まったくもって理解に苦しむよ!」
お前の言っていることの方が解らねぇよ、とは言わないでおいた。
「……ひとまず、これからどうするか」
香月の部屋にはアイリスと香月の二人が、ちょこんと座っていた。場所が無いのだから、致し方無い。
「ほんとうは夢実の部屋が一番とは思ったが……当の本人があれじゃあなぁ」
夢実は兄に会えなかった約十年間、兄にして欲しいことを延々と考えていた、らしい。らしい――というのは本人から聞いた話では無いからだ。
ずっと彼女は兄のことを想っていた。兄のことを信じていたわけだが、なぜだかこの十年間でその方向が少々おかしな方向に邁進してしまったようだった。
ヘテロダインの代表、ユウ・ルーチンハーグ曰く。
「まあ、これに関してはしょうがないね。時間が戻してくれるのを待つしかない。私も彼女が変わってしまったことは非常に辛いが……仕方ないと言えば、それまでだろうね」
……とどのつまり、解決法なんて何も考えつかないから自分たちでどうにかこうにかしてくれ、というのが本音のようだった。
「役に立つんだか立たないんだか解んねえよ……」
香月は溜息を吐いた。
「柊木香月クン、どうかしたのかい?」
「どうもしないよ……。強いて言うならば面倒なことになったから少し疲れただけだ」
それが誰のことを言っているのか、アイリスは理解していないようだった。
「……まぁ、そんなことはどうだっていい。ひとまず、アイリス、君はいったい何を知っているんだ?」
唐突に。
彼は核心に踏み込んだ。
アイリスの笑顔が一瞬だけ曇ったのを、彼は見逃さなかった。
「アイリス、頼むから教えてくれ。君はいったい何を知っている?」
「……それを聞いて、何になるというの?」
アイリスはきょとんとした表情で、首を傾げた。
「それを知って、何にもならないかもしれない。それは確かだ」
先ず彼は、否定から入った。
「だが、それが間違っていると解らなければ、それが正しいとも解らない。間違っていると証明できることは、実は有意義であり、必要なことなんだ」
「……そう、なのでしょうか」
「そうだよ」
香月は次に肯定に回る。
「だから、教えてほしい。君が何を知っているのか。そして、あの組織は君を使って、何をしようとしているのか……ということについて」
「私がそれを知っている、とでも?」
アイリスの言葉遣いが徐々に変化してくる。
香月はそれでも動じることなく、話を続けていく。
「そうだ。知っているはずだ。知らないとは言わせない。何があったのか、教えてくれ」
アイリスはずっと何もいわなかった。言いたくなかったと言えばいいかもしれない。
だが――漸く彼女は口を開いた。
「……組織はあるものを魔力の源としている。それをコンパイルキューブに通すことによって、魔術を発動させている。それは……都市伝説」
「都市伝説?」
「アメリカにも都市伝説はあるでしょう? その一例がホワイトアリゲーター……白いワニよ」
白いワニ、とはペットのワニが逃げ出して地下道で野生化している――というものである。そのワニは地下生活を続けるにつれ、色素が抜け落ち、白くなってしまったのだという。
アメリカの有名な都市伝説の一つに入っているが、日本ではあまりポピュラーではない。だから香月もそのワードだけ聞いても、何が何だか解らなかった。
「だからあなたもそのワードを聞いても、全然理解できないでしょう? だけれど、都市伝説は世界各地にあるのですよ。……その中で、ある一都市に都市伝説が集中している。その数は……六つ。知っていますか?」
「六つ? ……いや、全然解らないのだが」
「あなたは考えるのが少し遅すぎやしませんか? 私は何度もヒントをあなたにあげたつもりですよ。だのに、あなたは解ってくれないのですか」
「……まさか」
「そうです」
アイリスは一言置いて、言った。
「六つの都市伝説が揃っている……組織にとって力があふれている土地というのは、この街……木崎市です。木崎市は組織にとって、どんなことをしても手に入れたい土地なのですよ」
アイリスの言葉を聞いて、香月はその言葉を飲み込むしかなかった。
「……ここは」
彼が目を覚ましたとき、そこに広がっていたのは繁華街だった。見覚えのある繁華街――木崎駅前のロータリーである。
「いったいここは、どこなんだ?」
香月は呟く。
そこで漸く、香月は左手に感じる違和に気付いた。
そちらを見やると――アイリスが彼の左腕をしっかりと抱えていた。
すうすう、と寝息を立てて彼女は目を瞑っていた。
時刻は深夜。人は疎らなので見られることは無い、のだが……。
「なんというか、面倒なことになりそうだなぁ……」
香月はそう考えると、頭を掻いた。
アイリスを連れて行く言い訳をどうすればいいか――その言い訳によっては彼が五体満足でいられるかどうかが決まるといってもいい――先ずはそれについて考える必要があった。
◇◇◇
「お兄ちゃん、お兄ちゃん? 一体全体どうして毎回女の子を連れ込んでくるのかな? これは私に対する宣戦布告? それともモテる自分を見せようとしている?」
「……どうして夢実はさっきからコンパイルキューブを持って、微笑んでいるのかな?」
「私の質問に答えてよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは一体どうしていつもそういうトラブルばかり抱えてくるのかな? 全然理解ができないのだけれど」
「僕は君の言動に理解出来ないよ、夢実」
香月は溜息を一つ。
彼が言いたかったのは、たった一言。
――最近妹の様子がおかしいんだが。
「……だが、そんな一言で片付けられるわけも無く」
香月の呟きは続く。
「お兄ちゃんはほんとうに、私のことをまったく思っていないよね。私というエレガントでプリティーな可愛い妹が居ながら!」
「……言っておくが、プリティーという単語には可愛いという意味があってだな?」
「それくらい解っているっつーの! お兄ちゃんは堅物過ぎるよ! 何で私の可愛さは一言で表せないから二言分使いました、ってことが解らないわけ!? まったくもって理解に苦しむよ!」
お前の言っていることの方が解らねぇよ、とは言わないでおいた。
「……ひとまず、これからどうするか」
香月の部屋にはアイリスと香月の二人が、ちょこんと座っていた。場所が無いのだから、致し方無い。
「ほんとうは夢実の部屋が一番とは思ったが……当の本人があれじゃあなぁ」
夢実は兄に会えなかった約十年間、兄にして欲しいことを延々と考えていた、らしい。らしい――というのは本人から聞いた話では無いからだ。
ずっと彼女は兄のことを想っていた。兄のことを信じていたわけだが、なぜだかこの十年間でその方向が少々おかしな方向に邁進してしまったようだった。
ヘテロダインの代表、ユウ・ルーチンハーグ曰く。
「まあ、これに関してはしょうがないね。時間が戻してくれるのを待つしかない。私も彼女が変わってしまったことは非常に辛いが……仕方ないと言えば、それまでだろうね」
……とどのつまり、解決法なんて何も考えつかないから自分たちでどうにかこうにかしてくれ、というのが本音のようだった。
「役に立つんだか立たないんだか解んねえよ……」
香月は溜息を吐いた。
「柊木香月クン、どうかしたのかい?」
「どうもしないよ……。強いて言うならば面倒なことになったから少し疲れただけだ」
それが誰のことを言っているのか、アイリスは理解していないようだった。
「……まぁ、そんなことはどうだっていい。ひとまず、アイリス、君はいったい何を知っているんだ?」
唐突に。
彼は核心に踏み込んだ。
アイリスの笑顔が一瞬だけ曇ったのを、彼は見逃さなかった。
「アイリス、頼むから教えてくれ。君はいったい何を知っている?」
「……それを聞いて、何になるというの?」
アイリスはきょとんとした表情で、首を傾げた。
「それを知って、何にもならないかもしれない。それは確かだ」
先ず彼は、否定から入った。
「だが、それが間違っていると解らなければ、それが正しいとも解らない。間違っていると証明できることは、実は有意義であり、必要なことなんだ」
「……そう、なのでしょうか」
「そうだよ」
香月は次に肯定に回る。
「だから、教えてほしい。君が何を知っているのか。そして、あの組織は君を使って、何をしようとしているのか……ということについて」
「私がそれを知っている、とでも?」
アイリスの言葉遣いが徐々に変化してくる。
香月はそれでも動じることなく、話を続けていく。
「そうだ。知っているはずだ。知らないとは言わせない。何があったのか、教えてくれ」
アイリスはずっと何もいわなかった。言いたくなかったと言えばいいかもしれない。
だが――漸く彼女は口を開いた。
「……組織はあるものを魔力の源としている。それをコンパイルキューブに通すことによって、魔術を発動させている。それは……都市伝説」
「都市伝説?」
「アメリカにも都市伝説はあるでしょう? その一例がホワイトアリゲーター……白いワニよ」
白いワニ、とはペットのワニが逃げ出して地下道で野生化している――というものである。そのワニは地下生活を続けるにつれ、色素が抜け落ち、白くなってしまったのだという。
アメリカの有名な都市伝説の一つに入っているが、日本ではあまりポピュラーではない。だから香月もそのワードだけ聞いても、何が何だか解らなかった。
「だからあなたもそのワードを聞いても、全然理解できないでしょう? だけれど、都市伝説は世界各地にあるのですよ。……その中で、ある一都市に都市伝説が集中している。その数は……六つ。知っていますか?」
「六つ? ……いや、全然解らないのだが」
「あなたは考えるのが少し遅すぎやしませんか? 私は何度もヒントをあなたにあげたつもりですよ。だのに、あなたは解ってくれないのですか」
「……まさか」
「そうです」
アイリスは一言置いて、言った。
「六つの都市伝説が揃っている……組織にとって力があふれている土地というのは、この街……木崎市です。木崎市は組織にとって、どんなことをしても手に入れたい土地なのですよ」
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