都市伝説の魔術師
第三章 少年魔術師と『幽霊少女、四谷さん』(7)
果の後を追うように春歌は歩く。
春歌は心配で仕方なかった。
香月が学校に来なかったことを心配に思い、ユウに訊ねた。
そして彼が病院に居ることを知った彼女は――居ても立っても居られなくなり、急いでここへ来たのである。
「一応言っておくが、香月クンは絶対安静だ。それに、意識を取り戻していない。だから、五月蠅くしないでくれよ? 周りの病室には安全面を考慮して誰も居ないから、周りに迷惑をかけることはないだろうが」
「……解りました」
その一言だけで、香月の状況が最悪なものであるということが理解できる。
「……香月クンは、いったいどうして」
「彼の力を妬む魔術師から、魔術師の力を奪われた……とでも言えばいいか」
冷静に、淡々と、果は言った。
一番この状況をつらいと思っているのは、他でもない親族だ。そして、彼女もその一人だ。
だが、彼女は感情を表に出すことは無かった。ただ冷静に、いつも通り業務にあたっていた。
「……果さん、香月クンは心配ですよね?」
そう質問を返されたので、立ち止まり踵を返す果。
「当たり前だろう。香月クンの家族だ。心配しないわけがない」
「なのに、普通に仕事をしていて……強いですね。果さんは。私ならできません」
「ただ、それを言うためだけに?」
「いけませんか?」
「別にダメなわけではないけれど……。ただ、私にカマかけていたように見えて、どうも気に入らないわねえ……」
「ごめんなさい! 別にそんなつもりは……」
頭を下げる春歌。
「いや、いいよ。別に。そんなこと君に言う必要も無いからね」
「そうですか。……そう言ってくれて、助かります」
果は足を止める。
春歌は顔を上げ、看板を見た。
扉の前には『面会謝絶』と書かれた板がかけられている。
春歌はごくりと、唾を飲み込み――中へ入る。
部屋の中は電子音が一定のリズムで刻まれていた。
電気は点いておらず、そのためか若干薄暗い。
「……香月、クン?」
恐る恐る――果のあとをついていくように、彼女は病室へ入っていった。
病室は静かだった。香月の息遣いと、その電子音だけが響いていた。
「かづ……き、くん?」
「無駄だよ。今の香月クンには何を言っても返してくれない。というか答えてくれない。意識を保っているかさえ危うい。今はそういう状態だ」
「……でも、外傷は無いように見えますけれど」
香月は病院服を着たまま眠っている。
「確かに外傷は見えない。相手もずるい人間だよ。見えないところに傷つけた。それでいて、人間が活動するうえで大事なところを、ね……。話によれば、『人の命のエネルギーが集まる場所』が魔力を生み出す糧となるのだという。精神力でも何でもなかった。魔術師はそんな簡単な方法でしか生まれない。簡単でありながらも、それを実際に実行できる人間は限られているということだ」
突発性と遺伝性。
魔術師を分類すれば、その二つに大別することが出来る。
そして魔術師を人工的に作り上げること――それは不可能だと言われていた。
だが、だからといってその研究が終わってしまったわけでは無い。
人工魔術師の研究は、いまだ進められている。
人の手で魔術師を作り上げることは、魔術師たちにとって神に背く行為であった。背徳的行為であった。
だが、そんなことどうでもよかった。
そんなことは魔術師たちに関係なかった。ただ、自分たちの手で魔術師を作り上げることこそが光栄であり栄光であった。
自分たちの手で、最強を作り上げること。それは悲願だったからだ。
それでも。
魔術師を作り上げることは出来なかった。
失敗した魔術師『もどき』は大した力も使うことが出来ず、魔術師を引退する人間ばかりだった。何人かは徒党を組み、組織を結成したが、それがどうなったのかは知る由も無い。
「……まあ、それが関係しているかどうかは知らないけれど、香月クンの魔術師としての源が奪われた。即ち、それが関係している可能性も捨てきれない。……というわけ」
その言葉を聞いて春歌は頷く。
今まで彼女は果から話を聞いていた。その話はとりとめのないものかもしれないが可能性があるから、ということで聞かされていた。
「聞いて、どう思う? 香月クンをそんな組織が狙った可能性は考えられる。未だ確定では無いけれど……」
「そうですね。未だ感情をどう表現すればいいのか少し曖昧になってしまいますけれど……」
春歌はそれ以上、何も言わなかった。
それを見てうんうんと頷く果。
「あなたの感情は解る。だから……我々ヘテロダインも対策を取った。なに、簡単なこと。香月クンを傷つけた相手を探し出し、鏖殺する」
「鏖殺?」
「……皆殺しにするってことよ。私たちに攻撃をした、その意味を解らせてあげるのよ」
「それよりも先に、することがあるでしょう?」
それを聞いて振り返る果と春歌。
そこに立っていたのは、ユウ・ルーチンハーグだった。
「ユウさん……!」
春歌はユウの元に駆けだす。
ユウは彼女を抱きしめる。
「つらいのは私も一緒です。今は彼が元気になる為、組織一丸となって調査しています。それと並行して、香月クンを攻撃した相手も。……正確に言えば、もう解っているのですが」
「何ですって?」
果の言葉を聞いて、ユウは頷く。
ユウは一枚の写真を彼女に差し出した。それはアイドルのピンナップだった。
「それはあるアイドルのピンナップです。普通に見るとただの女子中学生に見えますが……彼女こそ、香月クンをあの状態に追い込んだ魔術師と言えるでしょう。彼女の名前は……斧乃井イリア。一応言っておきますが、彼女はとても強いです」
「あなたが対処できない程?」
「まさか。そんなわけがないでしょう」
「ならば、どうして?」
「……実は斧乃井イリアには姉が居るのです。それも、その姉も魔術師です。先ずは彼女をこちらに取り込もうと考えています」
「その名前は?」
果の質問に答える前に、ユウはもう一枚写真を見せる。
清楚な雰囲気を纏った黒髪の少女だった。
そしてユウは言った。
「彼女の名前は斧乃井凌。『魔法少女』が所属する魔術師組織スノーホワイトの魔術師だよ。先ずは彼女を、ヘテロダイン側に取り込む。このほうがこちらとしても戦いやすいだろうからね。外道かもしれないが、最初に仕掛けてきたのは『あちら側』だ。だからこちらもそれなりの手段を取らせてもらう、というわけだよ」
春歌は心配で仕方なかった。
香月が学校に来なかったことを心配に思い、ユウに訊ねた。
そして彼が病院に居ることを知った彼女は――居ても立っても居られなくなり、急いでここへ来たのである。
「一応言っておくが、香月クンは絶対安静だ。それに、意識を取り戻していない。だから、五月蠅くしないでくれよ? 周りの病室には安全面を考慮して誰も居ないから、周りに迷惑をかけることはないだろうが」
「……解りました」
その一言だけで、香月の状況が最悪なものであるということが理解できる。
「……香月クンは、いったいどうして」
「彼の力を妬む魔術師から、魔術師の力を奪われた……とでも言えばいいか」
冷静に、淡々と、果は言った。
一番この状況をつらいと思っているのは、他でもない親族だ。そして、彼女もその一人だ。
だが、彼女は感情を表に出すことは無かった。ただ冷静に、いつも通り業務にあたっていた。
「……果さん、香月クンは心配ですよね?」
そう質問を返されたので、立ち止まり踵を返す果。
「当たり前だろう。香月クンの家族だ。心配しないわけがない」
「なのに、普通に仕事をしていて……強いですね。果さんは。私ならできません」
「ただ、それを言うためだけに?」
「いけませんか?」
「別にダメなわけではないけれど……。ただ、私にカマかけていたように見えて、どうも気に入らないわねえ……」
「ごめんなさい! 別にそんなつもりは……」
頭を下げる春歌。
「いや、いいよ。別に。そんなこと君に言う必要も無いからね」
「そうですか。……そう言ってくれて、助かります」
果は足を止める。
春歌は顔を上げ、看板を見た。
扉の前には『面会謝絶』と書かれた板がかけられている。
春歌はごくりと、唾を飲み込み――中へ入る。
部屋の中は電子音が一定のリズムで刻まれていた。
電気は点いておらず、そのためか若干薄暗い。
「……香月、クン?」
恐る恐る――果のあとをついていくように、彼女は病室へ入っていった。
病室は静かだった。香月の息遣いと、その電子音だけが響いていた。
「かづ……き、くん?」
「無駄だよ。今の香月クンには何を言っても返してくれない。というか答えてくれない。意識を保っているかさえ危うい。今はそういう状態だ」
「……でも、外傷は無いように見えますけれど」
香月は病院服を着たまま眠っている。
「確かに外傷は見えない。相手もずるい人間だよ。見えないところに傷つけた。それでいて、人間が活動するうえで大事なところを、ね……。話によれば、『人の命のエネルギーが集まる場所』が魔力を生み出す糧となるのだという。精神力でも何でもなかった。魔術師はそんな簡単な方法でしか生まれない。簡単でありながらも、それを実際に実行できる人間は限られているということだ」
突発性と遺伝性。
魔術師を分類すれば、その二つに大別することが出来る。
そして魔術師を人工的に作り上げること――それは不可能だと言われていた。
だが、だからといってその研究が終わってしまったわけでは無い。
人工魔術師の研究は、いまだ進められている。
人の手で魔術師を作り上げることは、魔術師たちにとって神に背く行為であった。背徳的行為であった。
だが、そんなことどうでもよかった。
そんなことは魔術師たちに関係なかった。ただ、自分たちの手で魔術師を作り上げることこそが光栄であり栄光であった。
自分たちの手で、最強を作り上げること。それは悲願だったからだ。
それでも。
魔術師を作り上げることは出来なかった。
失敗した魔術師『もどき』は大した力も使うことが出来ず、魔術師を引退する人間ばかりだった。何人かは徒党を組み、組織を結成したが、それがどうなったのかは知る由も無い。
「……まあ、それが関係しているかどうかは知らないけれど、香月クンの魔術師としての源が奪われた。即ち、それが関係している可能性も捨てきれない。……というわけ」
その言葉を聞いて春歌は頷く。
今まで彼女は果から話を聞いていた。その話はとりとめのないものかもしれないが可能性があるから、ということで聞かされていた。
「聞いて、どう思う? 香月クンをそんな組織が狙った可能性は考えられる。未だ確定では無いけれど……」
「そうですね。未だ感情をどう表現すればいいのか少し曖昧になってしまいますけれど……」
春歌はそれ以上、何も言わなかった。
それを見てうんうんと頷く果。
「あなたの感情は解る。だから……我々ヘテロダインも対策を取った。なに、簡単なこと。香月クンを傷つけた相手を探し出し、鏖殺する」
「鏖殺?」
「……皆殺しにするってことよ。私たちに攻撃をした、その意味を解らせてあげるのよ」
「それよりも先に、することがあるでしょう?」
それを聞いて振り返る果と春歌。
そこに立っていたのは、ユウ・ルーチンハーグだった。
「ユウさん……!」
春歌はユウの元に駆けだす。
ユウは彼女を抱きしめる。
「つらいのは私も一緒です。今は彼が元気になる為、組織一丸となって調査しています。それと並行して、香月クンを攻撃した相手も。……正確に言えば、もう解っているのですが」
「何ですって?」
果の言葉を聞いて、ユウは頷く。
ユウは一枚の写真を彼女に差し出した。それはアイドルのピンナップだった。
「それはあるアイドルのピンナップです。普通に見るとただの女子中学生に見えますが……彼女こそ、香月クンをあの状態に追い込んだ魔術師と言えるでしょう。彼女の名前は……斧乃井イリア。一応言っておきますが、彼女はとても強いです」
「あなたが対処できない程?」
「まさか。そんなわけがないでしょう」
「ならば、どうして?」
「……実は斧乃井イリアには姉が居るのです。それも、その姉も魔術師です。先ずは彼女をこちらに取り込もうと考えています」
「その名前は?」
果の質問に答える前に、ユウはもう一枚写真を見せる。
清楚な雰囲気を纏った黒髪の少女だった。
そしてユウは言った。
「彼女の名前は斧乃井凌。『魔法少女』が所属する魔術師組織スノーホワイトの魔術師だよ。先ずは彼女を、ヘテロダイン側に取り込む。このほうがこちらとしても戦いやすいだろうからね。外道かもしれないが、最初に仕掛けてきたのは『あちら側』だ。だからこちらもそれなりの手段を取らせてもらう、というわけだよ」
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