都市伝説の魔術師
第三章 少年魔術師と『幽霊少女、四谷さん』(8)
4
斧乃井凌。
魔術師組織『スノーホワイト』に所属する魔術師である。
春歌はユウの言っていた言葉を思い出していた。
――魔法少女。
それは魔術師とは違う概念のことを指すのだろうか。気になったが、結局質問することは出来なかった。
「……何か質問したそうな表情を浮かべているね?」
ユウに言われて、彼女は我に返った。
今、ユウと春歌は対面している。黒塗りのリムジンに乗っているためだ。
「……で、ボス。どこまで走ればいいんですかね?」
そう言ったのは運転手を務める井坂だった。
「ああ。そのまま進んで地下鉄の駅に向かってくれ。木崎中央駅の第一出口、そこまで頼むぞ」
「了解です。あの……今質問すべきことじゃないとは思うんですが」
「何だ、井坂。時間は限られている。猶予はそう残されていない。言うならばさっさと言ったほうがいいぞ」
「兄さんは……助かるんですか?」
「……助けるために向かっているのだよ。救援を求めて、同盟を結ぶために。そのためには遅延することなど一切許されない。解るだろう? この時点で相手の気持ちを逆撫でしてしまえば今までの苦労が水の泡だ」
井坂の言葉にユウは答える。まるで彼らの会話に台本があるかの如く、間髪を入れずに会話は続けられた。
もっとも、その会話はついさっき井坂の沈黙により終了したのだが。
「……そこで止めてくれ」
ユウの言葉を聞いて井坂は路肩にリムジンを止めた。
リムジンからユウは降りる。それと同時に町行く人々は(もう時間的に遅かったため、とても少なかったが)ユウに視線を向ける。
それはただ単純に彼女がリムジンから降りたから――というわけではない。
春歌は解っていた。ユウは魔術師であるが、容貌は普通に見ればまるでモデルか何かである。
「まあ、それを本人が自覚していないように見えるし……ある意味それって酷い話よね。自覚している方がまだマシかも」
春歌はぽつりとつぶやいたが、その言葉はユウに届くことなど無かった。
◇◇◇
地下鉄木崎中央駅は四郷線、柊木線、南春日井線の三路線が入り組むターミナル駅である。
地下街は周囲二キロにわたり、凡ての枝を歩き切るのに半日近くかかると言われている。出口は全部で二十以上、その半分が百貨店や商業ビルディングに直結している物ばかりである。
その出口に連結している商業ビルディング、キザキ100地下一階。
そこはレストラン街となっていた。その奥にある喫茶店『ゆめゆめ』には一人の少女が座っていた。ドレスのような青い服装を着ている少女だった。少女はアイスコーヒーを一口飲み、溜息を吐いた。
「遅くなって、申し訳ない」
その声を聞いて少女は声の聞こえる方を向いた。
そこに居たのはユウ・ルーチンハーグだった。ユウは微笑み、少女に言った。
「意外と道が混んでいてね。ほんとうはこちらが待つつもりだったのだが、逆に待たせてしまった」
「いいや、まだ来たばかりだ。それ程待っていたわけではないよ」
少女の名前は斧乃井凌。
ユウが言っていた救援を仰ぐ存在だった。
これからの戦いには、彼女の支援が必須である――ユウはそう考えたわけだ。
ただし、もちろんこの作戦が成功するとも限らない。これが成功する可能性は五分五分――ユウはそう言っていた。
それに春歌は不穏な雰囲気を抱いていた。ほんとうに成功するのか。そんな思いを持っていたのだ。
「さて……、まあ、先ずは座ればいいじゃないか。こう話すのは、どうも苦手だ」
「……そうだね。それもそうだ」
そう言ってユウは席に座る。春歌もそれに従う形でユウの隣に腰掛けた。
「話は連絡で聞いている。共に戦いたい、と」
単刀直入に凌は言った。
ユウは話を切り出す。
「ああ、そうだ。実はうちの魔術師を君の姉が攻撃してね、その魔術師は実生活を出来るかどうか危ういくらいの深刻なダメージを受けてしまった。それについて制裁を加えなくてはならないのだが……」
「そのために、私の手を借りたい、と」
こくり、ユウは頷く。
ふうん、と言って凌はもう一つ注文していたロールケーキを切り分けて、口に入れる。少しだけその瞬間笑みを浮かべたがすぐに元のクールな表情に戻る。
「結論から先に言わせてもらうと、私も姉の行動にはとても困っていたのよね。何と言うか、齷齪しているという感じかしら。だからそれについては手を貸しても構わない」
「それなら……!」
ユウは漸くやってきたウエイトレスのことにも気づかずに、声のトーンを上げた。
「だけど、一つ問題がある」
凌は持っていたフォークをユウに突きつける。
それを聞いてユウの表情が強張る。
「……何?」
「私は組織所属がヘテロダインではない。スノーホワイトなのよ。それを理解しているかしら?」
フォークを戻し、再びロールケーキを口にする凌。
それを聞いて、まるでそれを理解していたかのように、ユウは何かを取り出した。
それは小切手だった。名前も何も書いていない。
「これに好きな金額を書いてくれ。私の口座からその額が引き落とされるシステムとなる」
「……ふうん」
凌はフォークを口で押えてその小切手を手に取った。
そしてペンを手に取って、彼女はそこに一つ丸を書いた。
そのままユウに手渡した彼女だったが、ユウは一瞬その意味が理解出来なかった。
溜息を吐いて、凌は言った。
「これは私と姉の問題。それに口出ししなければ、いいだけの話よ。オーケイ?」
ユウは笑みを浮かべながら、その言葉に大きく頷いた。
ユウ・ルーチンハーグと斧乃井凌の交渉が成功した瞬間であった。
斧乃井凌。
魔術師組織『スノーホワイト』に所属する魔術師である。
春歌はユウの言っていた言葉を思い出していた。
――魔法少女。
それは魔術師とは違う概念のことを指すのだろうか。気になったが、結局質問することは出来なかった。
「……何か質問したそうな表情を浮かべているね?」
ユウに言われて、彼女は我に返った。
今、ユウと春歌は対面している。黒塗りのリムジンに乗っているためだ。
「……で、ボス。どこまで走ればいいんですかね?」
そう言ったのは運転手を務める井坂だった。
「ああ。そのまま進んで地下鉄の駅に向かってくれ。木崎中央駅の第一出口、そこまで頼むぞ」
「了解です。あの……今質問すべきことじゃないとは思うんですが」
「何だ、井坂。時間は限られている。猶予はそう残されていない。言うならばさっさと言ったほうがいいぞ」
「兄さんは……助かるんですか?」
「……助けるために向かっているのだよ。救援を求めて、同盟を結ぶために。そのためには遅延することなど一切許されない。解るだろう? この時点で相手の気持ちを逆撫でしてしまえば今までの苦労が水の泡だ」
井坂の言葉にユウは答える。まるで彼らの会話に台本があるかの如く、間髪を入れずに会話は続けられた。
もっとも、その会話はついさっき井坂の沈黙により終了したのだが。
「……そこで止めてくれ」
ユウの言葉を聞いて井坂は路肩にリムジンを止めた。
リムジンからユウは降りる。それと同時に町行く人々は(もう時間的に遅かったため、とても少なかったが)ユウに視線を向ける。
それはただ単純に彼女がリムジンから降りたから――というわけではない。
春歌は解っていた。ユウは魔術師であるが、容貌は普通に見ればまるでモデルか何かである。
「まあ、それを本人が自覚していないように見えるし……ある意味それって酷い話よね。自覚している方がまだマシかも」
春歌はぽつりとつぶやいたが、その言葉はユウに届くことなど無かった。
◇◇◇
地下鉄木崎中央駅は四郷線、柊木線、南春日井線の三路線が入り組むターミナル駅である。
地下街は周囲二キロにわたり、凡ての枝を歩き切るのに半日近くかかると言われている。出口は全部で二十以上、その半分が百貨店や商業ビルディングに直結している物ばかりである。
その出口に連結している商業ビルディング、キザキ100地下一階。
そこはレストラン街となっていた。その奥にある喫茶店『ゆめゆめ』には一人の少女が座っていた。ドレスのような青い服装を着ている少女だった。少女はアイスコーヒーを一口飲み、溜息を吐いた。
「遅くなって、申し訳ない」
その声を聞いて少女は声の聞こえる方を向いた。
そこに居たのはユウ・ルーチンハーグだった。ユウは微笑み、少女に言った。
「意外と道が混んでいてね。ほんとうはこちらが待つつもりだったのだが、逆に待たせてしまった」
「いいや、まだ来たばかりだ。それ程待っていたわけではないよ」
少女の名前は斧乃井凌。
ユウが言っていた救援を仰ぐ存在だった。
これからの戦いには、彼女の支援が必須である――ユウはそう考えたわけだ。
ただし、もちろんこの作戦が成功するとも限らない。これが成功する可能性は五分五分――ユウはそう言っていた。
それに春歌は不穏な雰囲気を抱いていた。ほんとうに成功するのか。そんな思いを持っていたのだ。
「さて……、まあ、先ずは座ればいいじゃないか。こう話すのは、どうも苦手だ」
「……そうだね。それもそうだ」
そう言ってユウは席に座る。春歌もそれに従う形でユウの隣に腰掛けた。
「話は連絡で聞いている。共に戦いたい、と」
単刀直入に凌は言った。
ユウは話を切り出す。
「ああ、そうだ。実はうちの魔術師を君の姉が攻撃してね、その魔術師は実生活を出来るかどうか危ういくらいの深刻なダメージを受けてしまった。それについて制裁を加えなくてはならないのだが……」
「そのために、私の手を借りたい、と」
こくり、ユウは頷く。
ふうん、と言って凌はもう一つ注文していたロールケーキを切り分けて、口に入れる。少しだけその瞬間笑みを浮かべたがすぐに元のクールな表情に戻る。
「結論から先に言わせてもらうと、私も姉の行動にはとても困っていたのよね。何と言うか、齷齪しているという感じかしら。だからそれについては手を貸しても構わない」
「それなら……!」
ユウは漸くやってきたウエイトレスのことにも気づかずに、声のトーンを上げた。
「だけど、一つ問題がある」
凌は持っていたフォークをユウに突きつける。
それを聞いてユウの表情が強張る。
「……何?」
「私は組織所属がヘテロダインではない。スノーホワイトなのよ。それを理解しているかしら?」
フォークを戻し、再びロールケーキを口にする凌。
それを聞いて、まるでそれを理解していたかのように、ユウは何かを取り出した。
それは小切手だった。名前も何も書いていない。
「これに好きな金額を書いてくれ。私の口座からその額が引き落とされるシステムとなる」
「……ふうん」
凌はフォークを口で押えてその小切手を手に取った。
そしてペンを手に取って、彼女はそこに一つ丸を書いた。
そのままユウに手渡した彼女だったが、ユウは一瞬その意味が理解出来なかった。
溜息を吐いて、凌は言った。
「これは私と姉の問題。それに口出ししなければ、いいだけの話よ。オーケイ?」
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