都市伝説の魔術師
第四章 少年魔術師と『二大魔術師組織間戦争』(3)
「成る程、ね。君のメリットではなく、警察全体のメリットということか」
「安くない取引だと思うがね?」
隼人の言葉にユウは俯く。
確かに、隼人の言っていた言葉はヘテロダインにとってメリットしかない。ヘテロダインにとっても今回の事象はなるべく大きくならないうちに鎮めてしまいたいからである。
だが、それ以上に、そう簡単に信じていいのだろうか? という思いが付き纏う。
「……まあ、ダメでも構わない。別の手段を探すまでだ」
「別の手段?」
「出来ることならしたくないが……魔対課先導で、警察による強制排除だ。これはヘテロダインも排除対象となる。言っている意味が解るか?」
「……それはいつから開始するつもり? まさか、私があなたに『NO』と突きつけてからすぐ、なんて言わないでしょうね」
もしそうだとすれば、それは立派な脅迫である。
だが、それを理解しているのかは不明だったが、隼人は頷いた。
小さく溜息を吐くユウ。
「成る程。もともと、我々に救いを求める予定でしたか。銃火器を使って魔術師と応戦するよりも、魔術師組織と手を組んでこの事態を収束させる……。郷に入っては郷に従え、ではないけれどまさにその感じかしら?」
「そう考えてもらって構わない」
隼人の目線は真っ直ぐユウを捉えていた。
それを見て、ユウは重く頷いた。
「どうやら警察はいい交渉人を用意したようね」
立ち上がり、出口へと向かうユウ。
それを隼人は眺めていたが、出口の前で立ち止まったユウに首を傾げる。
踵を返したユウは呆れたように溜息を一つ吐き、言った。
「……何をしているの? さっさとついてきて。これから『戦場』に出向くのだから」
それを聞いて隼人は急いで立ち上がり、ユウの後をついていく。
この後始まる、魔術師の歴史に残るだろう戦いの一部始終を目の当たりにすることになる彼だが、未だ、今はそれを知る由も無い。
2
アレイスターの魔術師、霧峰杜道は街を駆けていた。
霧峰は木崎市をあまり良く知らない。そもそもこの組織『アレイスター』自体が木崎ではない別の町からわざわざこの街へとやってきたのである。
だからこそ、疑問も残る。
――どうしてこの街を、アレイスターは選んだのか?
木崎市は大きな街である。この街を侵略して、アレイスターのものにしたいというのも解る。
だが、別の街――という手段だって充分考えられたはずだった。それがほんとうの目的だというのなら、別に木崎市を狙う必要だって無かったはずだ。
「何か別の目的があったのではないか?」
ぽつり、と霧峰は呟く。
しかし、実際問題、そう考えるのは至極当然のことにも思えた。
アレイスターが木崎市を狙うようになったのはつい最近の事であるし、ヘテロダインとの戦争を発表したのもつい先日のことであった。行き当たりばったりで行動しているとは言えないが、そう思えてしまうほどの行動ぶりである。
「やはり、何か……」
裏がある。
この戦争には裏がある。
そう信じて疑わない彼であったが、それを実際に言うことは出来ない。なぜなら彼は雇用されている身だからである。仮にこの戦争に裏があるとしてそれを摘発しても、アレイスターには少なくとも在籍することは出来ない。ならば他の組織に移ればいいということになるが、案外それも簡単にいかないのが現実である。
そもそも。
いくら正義とはいえ、戦争の裏を暴く――即ち組織の裏を暴いた存在を、別の組織がそのまま在籍させてくれるかというと微妙なところである。どの組織も、後ろめたい場所はある。そこを暴かれるのではないか、という不安を抱くこともあるだろう。そんな魔術師を在籍させておくほど組織も余裕が無い。
即ち、ここで言葉を飲み込むほか今の彼には残されていなかった。
(それにしても……)
ここまで考えて霧峰は考えた。
どうしてヘテロダインは反撃をしてこないのだろうか、ということに。
ヘテロダインのアジトまであと一キロを切ったあたりだと報告が上がっている。ということはそろそろヘテロダインの足止めなどがあってもおかしくないはずである。にもかかわらずそんなことが一切見られない。これはいったいどういうことなのだろうか?
ヘテロダインの罠――すぐに彼はそう考えた。ヘテロダインがアレイスターを貶めるために考えた罠なのではないか、と。あえて魔術師を奥地まで誘い出しておいて、そのまま罠にかける――よくあるパターンだ。けっして間違いでは無いし、至極当たり前な戦術の一つとも言えるだろう。
「どうした、霧峰。不安がっているのかい?」
声が聞こえて、そちらを向く霧峰。
そこに居たのはディーと呼ばれる魔術師だった。ディーの隣には白いワンピースを着た少女――ミスティだった。
霧峰にとってもディーとミスティの関係性は理解できないものがあった。兄妹にも見えるが、主従関係にも見える。人によっては兄妹そのものが主従関係の一つであると語るものも居るが、そうは見えない。かといって本人に直接聞くのも変な話であるし、任務には関係ないことだとあしらわれる可能性だってある。だから彼は思っていても口には出さなかった。
ミスティは笑みを浮かべて、霧峰に言った。
「……不安なの?」
「はあ?」
唐突の問いかけに、思わず素の反応を示す霧峰。
そのやり取りを見たディーはミスティを苛める。
「ミスティ、そんなことを言ってはいけないよ。不安に決まっているじゃないか。魔術師組織同士の戦争というのは、近年実施されなかった。いろいろと時代が変わったからね……。だから戦争を経験していない魔術師だってたくさんいる。君だってそうだよ、ミスティ。だから一概に不安だとか言ってはいけない。不安なんだよ、皆」
「安くない取引だと思うがね?」
隼人の言葉にユウは俯く。
確かに、隼人の言っていた言葉はヘテロダインにとってメリットしかない。ヘテロダインにとっても今回の事象はなるべく大きくならないうちに鎮めてしまいたいからである。
だが、それ以上に、そう簡単に信じていいのだろうか? という思いが付き纏う。
「……まあ、ダメでも構わない。別の手段を探すまでだ」
「別の手段?」
「出来ることならしたくないが……魔対課先導で、警察による強制排除だ。これはヘテロダインも排除対象となる。言っている意味が解るか?」
「……それはいつから開始するつもり? まさか、私があなたに『NO』と突きつけてからすぐ、なんて言わないでしょうね」
もしそうだとすれば、それは立派な脅迫である。
だが、それを理解しているのかは不明だったが、隼人は頷いた。
小さく溜息を吐くユウ。
「成る程。もともと、我々に救いを求める予定でしたか。銃火器を使って魔術師と応戦するよりも、魔術師組織と手を組んでこの事態を収束させる……。郷に入っては郷に従え、ではないけれどまさにその感じかしら?」
「そう考えてもらって構わない」
隼人の目線は真っ直ぐユウを捉えていた。
それを見て、ユウは重く頷いた。
「どうやら警察はいい交渉人を用意したようね」
立ち上がり、出口へと向かうユウ。
それを隼人は眺めていたが、出口の前で立ち止まったユウに首を傾げる。
踵を返したユウは呆れたように溜息を一つ吐き、言った。
「……何をしているの? さっさとついてきて。これから『戦場』に出向くのだから」
それを聞いて隼人は急いで立ち上がり、ユウの後をついていく。
この後始まる、魔術師の歴史に残るだろう戦いの一部始終を目の当たりにすることになる彼だが、未だ、今はそれを知る由も無い。
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アレイスターの魔術師、霧峰杜道は街を駆けていた。
霧峰は木崎市をあまり良く知らない。そもそもこの組織『アレイスター』自体が木崎ではない別の町からわざわざこの街へとやってきたのである。
だからこそ、疑問も残る。
――どうしてこの街を、アレイスターは選んだのか?
木崎市は大きな街である。この街を侵略して、アレイスターのものにしたいというのも解る。
だが、別の街――という手段だって充分考えられたはずだった。それがほんとうの目的だというのなら、別に木崎市を狙う必要だって無かったはずだ。
「何か別の目的があったのではないか?」
ぽつり、と霧峰は呟く。
しかし、実際問題、そう考えるのは至極当然のことにも思えた。
アレイスターが木崎市を狙うようになったのはつい最近の事であるし、ヘテロダインとの戦争を発表したのもつい先日のことであった。行き当たりばったりで行動しているとは言えないが、そう思えてしまうほどの行動ぶりである。
「やはり、何か……」
裏がある。
この戦争には裏がある。
そう信じて疑わない彼であったが、それを実際に言うことは出来ない。なぜなら彼は雇用されている身だからである。仮にこの戦争に裏があるとしてそれを摘発しても、アレイスターには少なくとも在籍することは出来ない。ならば他の組織に移ればいいということになるが、案外それも簡単にいかないのが現実である。
そもそも。
いくら正義とはいえ、戦争の裏を暴く――即ち組織の裏を暴いた存在を、別の組織がそのまま在籍させてくれるかというと微妙なところである。どの組織も、後ろめたい場所はある。そこを暴かれるのではないか、という不安を抱くこともあるだろう。そんな魔術師を在籍させておくほど組織も余裕が無い。
即ち、ここで言葉を飲み込むほか今の彼には残されていなかった。
(それにしても……)
ここまで考えて霧峰は考えた。
どうしてヘテロダインは反撃をしてこないのだろうか、ということに。
ヘテロダインのアジトまであと一キロを切ったあたりだと報告が上がっている。ということはそろそろヘテロダインの足止めなどがあってもおかしくないはずである。にもかかわらずそんなことが一切見られない。これはいったいどういうことなのだろうか?
ヘテロダインの罠――すぐに彼はそう考えた。ヘテロダインがアレイスターを貶めるために考えた罠なのではないか、と。あえて魔術師を奥地まで誘い出しておいて、そのまま罠にかける――よくあるパターンだ。けっして間違いでは無いし、至極当たり前な戦術の一つとも言えるだろう。
「どうした、霧峰。不安がっているのかい?」
声が聞こえて、そちらを向く霧峰。
そこに居たのはディーと呼ばれる魔術師だった。ディーの隣には白いワンピースを着た少女――ミスティだった。
霧峰にとってもディーとミスティの関係性は理解できないものがあった。兄妹にも見えるが、主従関係にも見える。人によっては兄妹そのものが主従関係の一つであると語るものも居るが、そうは見えない。かといって本人に直接聞くのも変な話であるし、任務には関係ないことだとあしらわれる可能性だってある。だから彼は思っていても口には出さなかった。
ミスティは笑みを浮かべて、霧峰に言った。
「……不安なの?」
「はあ?」
唐突の問いかけに、思わず素の反応を示す霧峰。
そのやり取りを見たディーはミスティを苛める。
「ミスティ、そんなことを言ってはいけないよ。不安に決まっているじゃないか。魔術師組織同士の戦争というのは、近年実施されなかった。いろいろと時代が変わったからね……。だから戦争を経験していない魔術師だってたくさんいる。君だってそうだよ、ミスティ。だから一概に不安だとか言ってはいけない。不安なんだよ、皆」
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