都市伝説の魔術師
第四章 少年魔術師と『二大魔術師組織間戦争』(5)
3
木崎市にある魔術師組織、その最大勢力がヘテロダインである。しかしながら、ヘテロダインだけが魔術師組織を名乗っているわけではなく、それ以外にも小規模の組織が乱立している。当然彼らはヘテロダインに攻撃することなどしない。せいぜい小規模の組織同士で潰しあいをするか話し合いで併合するかのいずれかだ。まともに小規模の組織で生き残ることは不可能な業界となっている。弱肉強食を地で行く世界――それが魔術師の世界だった。
そしてヘテロダインがほかの組織と戦うことについては、ほかの組織も情報を仕入れていた。
そして今までヘテロダインと敵対していた組織のいくつかは、『木崎のテリトリーがその組織に侵されるのではないか』ということについて不安になった。実際、この木崎市にはいくつもの小規模の魔術師組織が乱立している。だから、お互いにお互いの境界を侵食しないように努力してきたわけだ。
ゆえに、争いを起こすときは絶対な勝機があるときのみ。
そうでないと、この世界で生き残ることはできない。
これはある意味、一種のルールと化していた。
「だからスノーホワイトはヘテロダインに全面協力をすることに至った――というわけです」
場所は変わり、魔術師組織『スノーホワイト』のボスの部屋。
そこにいたのは、ひとりの女性だった。
浴衣を着た、古風な雰囲気を放つ女性だった。しかしその古風な雰囲気の中から、隠し切れない圧倒的なオーラを感じる。
夢実はそれを見て――一瞬で彼女がスノーホワイトで一番偉い人間であると悟った。
「そう、緊張しなくてもいいのですよ。あなたはヘテロダインに所属する魔術師。我々にとっては同志のような存在ですから」
「私を……守ってくださる、と?」
「ヘテロダインと海外からやってきた組織『アレイスター』との対立……それは我々にもすでに情報が入ってきております」
「こちらにも……って、え? アレイスターとの対立?」
そもそも、夢実はアレイスターすら知らなかった。
それを聞いて巽家修司はいひひ、と笑いながら言った。
「アレイスターはねえ、海外で名前を馳せた最強の魔術師組織ともいわれているんだよ! だからその魔術師組織に立ち向かうってこと自体、僕たちから言わせてみれば、仮にヘテロダインほどの勢力があっても難しい。きっと倒すことはできないだろうね」
「……それじゃ、どうすれば……!」
「柊木香月。君の兄だったね?」
突然夢実は自分の兄の名前を出されて狼狽えたが、少ししてゆっくりと頷く。
「彼は今、病院にいる。病気というわけではないが、傷を負っている。そう私たちも情報を得ている。共有している、といえばいいだろうか、少なくとも今の私たちはヘテロダインと協力関係にある――」
それと同時に、ドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ」
ボスの声を聴いて、ドアの向こうの人間は答える。
「ヘテロダイン代表、ユウ・ルーチンハーグだ。ここに私の組織に所属する魔術師がいると聞いたものでね。保護しに来た」
「了解した。入り給え」
「許可を感謝する」
そう言って、ユウはドアを開けていく。
「ボス……」
夢実はユウの顔を見て、開口一番そう言った。
「夢実ちゃん、なんでこんなところに!?」
次いで反応を示したのは城山春歌だった。
「……それは私の言葉だよ、春歌さん。いったいどうして」
「皆、柊木香月を救うために尽力しているということだよ」
「お兄ちゃん……を?」
それを聞いてこくりと頷くユウ。
「正直難しい話になるが、一番簡単に説明するとすれば、『サンジェルマン』を探している」
「サンジェルマン――!」
それを聞いて夢実は目を丸くする。
「知っているのか?」
すかさず質問をするユウ。
夢実は何度も小刻みに頷く。
「はい。知っています……。私が閉じ込められていた白の空間にいたんですよ。永遠の牢獄に閉じ込められているとか、閉じ込めた相手が『アリス・テレジア』とか……」
「アリス・テレジアだと!? 夢実、サンジェルマンは確かにそう言ったのか?」
「は、はい」
いつもと違うユウの様子を見て怖気づいてしまう夢実。
対してそれを聞いたユウは踵を返し、春歌と隼人のほうを見た。
「……まさか、こんなにも早くつながりが見つかるとは思いもしなかったぞ。サンジェルマンとアリス・テレジア。まさか最初から手を打っていたとはな……。いや、あるいは『魔神』を使って何かを仕出かすつもりなのかもしれない」
「あの……アリス・テレジアを知っているのですか?」
「アリス・テレジアはアレイスターのボス。我々が倒すべき相手だ」
ユウは単刀直入にそう告げた。
「アレイスターの……ボス」
その言葉を聞いて俯き何かを考え始めるスノーホワイト・ボス。
「今回はその話だけをしたわけじゃない。確かに、夢実が持ち帰ってきた情報は有益であるがね」
ユウは踵を返し、再びスノーホワイトのボスと対面した。
「スノーホワイトのボス、篠川カナエ。ヘテロダインと正式に同盟を組んでもらえないか?」
「……ほんとうに回りくどい話をするのが嫌いね、あなたは」
カナエはくすり、と笑みを浮かべる。
対してユウはその視線を変えることなく、ただまっすぐカナエを見ていた。
「ああ、時間に余裕がないものでね。猶更だ。実際問題、ヘテロダインの魔術師とアレイスターの魔術師は交戦を繰り広げている。このままでは、いつ警察の武力介入があるかおかしくない。そうなって困るのは君たちだ。そうだろう?」
「……成る程。ここで同盟を結び、ヘテロダインとアレイスターの交戦をなるべく小さい段階で処理する。それによって警察の武力介入を防ぐ、と。そう言いたいのですね?」
ユウはその言葉にコクリ、と頷いた。
木崎市にある魔術師組織、その最大勢力がヘテロダインである。しかしながら、ヘテロダインだけが魔術師組織を名乗っているわけではなく、それ以外にも小規模の組織が乱立している。当然彼らはヘテロダインに攻撃することなどしない。せいぜい小規模の組織同士で潰しあいをするか話し合いで併合するかのいずれかだ。まともに小規模の組織で生き残ることは不可能な業界となっている。弱肉強食を地で行く世界――それが魔術師の世界だった。
そしてヘテロダインがほかの組織と戦うことについては、ほかの組織も情報を仕入れていた。
そして今までヘテロダインと敵対していた組織のいくつかは、『木崎のテリトリーがその組織に侵されるのではないか』ということについて不安になった。実際、この木崎市にはいくつもの小規模の魔術師組織が乱立している。だから、お互いにお互いの境界を侵食しないように努力してきたわけだ。
ゆえに、争いを起こすときは絶対な勝機があるときのみ。
そうでないと、この世界で生き残ることはできない。
これはある意味、一種のルールと化していた。
「だからスノーホワイトはヘテロダインに全面協力をすることに至った――というわけです」
場所は変わり、魔術師組織『スノーホワイト』のボスの部屋。
そこにいたのは、ひとりの女性だった。
浴衣を着た、古風な雰囲気を放つ女性だった。しかしその古風な雰囲気の中から、隠し切れない圧倒的なオーラを感じる。
夢実はそれを見て――一瞬で彼女がスノーホワイトで一番偉い人間であると悟った。
「そう、緊張しなくてもいいのですよ。あなたはヘテロダインに所属する魔術師。我々にとっては同志のような存在ですから」
「私を……守ってくださる、と?」
「ヘテロダインと海外からやってきた組織『アレイスター』との対立……それは我々にもすでに情報が入ってきております」
「こちらにも……って、え? アレイスターとの対立?」
そもそも、夢実はアレイスターすら知らなかった。
それを聞いて巽家修司はいひひ、と笑いながら言った。
「アレイスターはねえ、海外で名前を馳せた最強の魔術師組織ともいわれているんだよ! だからその魔術師組織に立ち向かうってこと自体、僕たちから言わせてみれば、仮にヘテロダインほどの勢力があっても難しい。きっと倒すことはできないだろうね」
「……それじゃ、どうすれば……!」
「柊木香月。君の兄だったね?」
突然夢実は自分の兄の名前を出されて狼狽えたが、少ししてゆっくりと頷く。
「彼は今、病院にいる。病気というわけではないが、傷を負っている。そう私たちも情報を得ている。共有している、といえばいいだろうか、少なくとも今の私たちはヘテロダインと協力関係にある――」
それと同時に、ドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ」
ボスの声を聴いて、ドアの向こうの人間は答える。
「ヘテロダイン代表、ユウ・ルーチンハーグだ。ここに私の組織に所属する魔術師がいると聞いたものでね。保護しに来た」
「了解した。入り給え」
「許可を感謝する」
そう言って、ユウはドアを開けていく。
「ボス……」
夢実はユウの顔を見て、開口一番そう言った。
「夢実ちゃん、なんでこんなところに!?」
次いで反応を示したのは城山春歌だった。
「……それは私の言葉だよ、春歌さん。いったいどうして」
「皆、柊木香月を救うために尽力しているということだよ」
「お兄ちゃん……を?」
それを聞いてこくりと頷くユウ。
「正直難しい話になるが、一番簡単に説明するとすれば、『サンジェルマン』を探している」
「サンジェルマン――!」
それを聞いて夢実は目を丸くする。
「知っているのか?」
すかさず質問をするユウ。
夢実は何度も小刻みに頷く。
「はい。知っています……。私が閉じ込められていた白の空間にいたんですよ。永遠の牢獄に閉じ込められているとか、閉じ込めた相手が『アリス・テレジア』とか……」
「アリス・テレジアだと!? 夢実、サンジェルマンは確かにそう言ったのか?」
「は、はい」
いつもと違うユウの様子を見て怖気づいてしまう夢実。
対してそれを聞いたユウは踵を返し、春歌と隼人のほうを見た。
「……まさか、こんなにも早くつながりが見つかるとは思いもしなかったぞ。サンジェルマンとアリス・テレジア。まさか最初から手を打っていたとはな……。いや、あるいは『魔神』を使って何かを仕出かすつもりなのかもしれない」
「あの……アリス・テレジアを知っているのですか?」
「アリス・テレジアはアレイスターのボス。我々が倒すべき相手だ」
ユウは単刀直入にそう告げた。
「アレイスターの……ボス」
その言葉を聞いて俯き何かを考え始めるスノーホワイト・ボス。
「今回はその話だけをしたわけじゃない。確かに、夢実が持ち帰ってきた情報は有益であるがね」
ユウは踵を返し、再びスノーホワイトのボスと対面した。
「スノーホワイトのボス、篠川カナエ。ヘテロダインと正式に同盟を組んでもらえないか?」
「……ほんとうに回りくどい話をするのが嫌いね、あなたは」
カナエはくすり、と笑みを浮かべる。
対してユウはその視線を変えることなく、ただまっすぐカナエを見ていた。
「ああ、時間に余裕がないものでね。猶更だ。実際問題、ヘテロダインの魔術師とアレイスターの魔術師は交戦を繰り広げている。このままでは、いつ警察の武力介入があるかおかしくない。そうなって困るのは君たちだ。そうだろう?」
「……成る程。ここで同盟を結び、ヘテロダインとアレイスターの交戦をなるべく小さい段階で処理する。それによって警察の武力介入を防ぐ、と。そう言いたいのですね?」
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