都市伝説の魔術師
第四章 少年魔術師と『二大魔術師組織間戦争』(11)
「私はもっと別の問題があると思うのですが」
風香は持っていたペンをくるくると回しながら、言った。
対して近藤は訝しげな表情を浮かべて、彼女に訊ねる。
「ん? 別の問題、とはどういうことかね?」
「課長はきっと、チャンスを待っているのだと……私は思うのですよ。だから、それまではほかの人の助けを借りない、と。もちろん、それを待っていては意味はありませんが」
立ち上がり、風香は部屋を出ていく。
「どこへ行くのかね? 課長は待機命令を下していたが」
「いずれにせよここで待っていれば上が私たちを強制的に稼働させるでしょう。だったらそれよりも早く動いてしまうのが吉です。ああ、近藤さんもついていきますか? なんと今なら近藤さんを私が拉致ったってことにして報告書を提出するつもりですが」
「……君、そんなことがもし上に知られたら懲戒物だぞ!」
「でしょうね。最悪、クビにされるかもしれません。ですが、課長を守るため。木崎市を守るため、です。そのためなら私は悪魔と取引をしたってかまわない」
それを聞いて近藤は溜息を吐いた。
「……君がどうしてそこまで課長のために働けるのか、それは私にも解らない。だが、私にだって一肌脱がせておくれよ。私だって、魔術師だ。むろん、君や課長に比べればそのレベルは月と鼈程度のものだがね」
「そんなもの、やってみないと解りませんよ。そうでしょう?」
風香の問いに、近藤は頷く。
「……それもそうだ」
そう言って、ようやく近藤は重い腰を上げた。
風香の隣に立った近藤を見て、彼女は小さく笑みを浮かべる。
「いいのですか、一緒についてきたりして」
「君が『勝手に連れ出した』とでも言うのだろう? ……別に、いずれにせよ、あいつには恩がある。それを返すまで、あいつを死なせるわけにはいかないのだよ」
「恩があると言っている割には、ぶっきらぼうな言い回しですね?」
「そういうもんだよ。男同士の間柄にゃ、丁寧な言葉遣いなんて必要ない」
とん、と自らの胸に拳を当てて、
「心が通じ合っていりゃ何だっていいんだ」
そう言ったので、溜息を吐いて、風香は言った。
「……まあ、別に私にとってそんなことはどうでもいいですけれどね。取り敢えず、課長を助けることだけ。私にとっては、それさえ考えればいいんです」
「少しは素直になることを覚えたらどうだ?」
「余計なお世話です」
そして二人は歩き始める。
彼らの上長である課長――高知隼人を助けるために。
7
ユウ・ルーチンハーグを先頭にして、彼女たちは自らのアジトに戻ってきた。
「こんなことになっているなんて……」
ユウは自らの拠点がこんなことになっているとは思いもしなかったのだろう。それと同時にアリス・テレジアに対して怒りを募らせていた。
「どうやら、ほかの魔術師は気絶こそしているけれど、どうやら大きな怪我はしていないようね。それは一安心、と言えるかもしれませんけれど」
そう言ったのは夢実だった。夢実の発言を聞いて少しだけ安心するユウ。
もちろんユウもそれについては理解していたのかもしれない。けれど、夢実の発言を聞いて他人もそう思っていることを理解したためか、安堵したのかもしれない。
「一先ず、アリス・テレジアをどうにかするしかないようね。これほどまでにヘテロダインのアジトをしてくれたのだから、私は許さない。彼女を許さない」
「おやおや、そう言ってもらえると嬉しいね。まさか『育ての親』にそこまで言えるとはね。さすがは一組織のリーダーを務めるまでに成長したものだ」
その声は、ひどく冷たいものだった。
そしてその声は、一度聞いただけですぐわかる特徴的なものだった。
「……アリス・テレジア……!」
彼女は浮いていた。
ふわり、とわずかに浮いていた。
目を瞑っていた彼女だったが、ユウの言葉を聞いて――目を見開いた。
「おや、育ての親を呼び捨てにするなんて、ほんとうに恩知らずってことだね。まったく、そんなやつに育てた覚えはないのだけれど……」
そして、アリスはそのまま基礎コードを呟く。
刹那、彼女の目の前から氷の刃が放たれた。
「コンパイルキューブを使わずに、魔術を行使する……ですって!?」
「魔術の技術は、日々進歩しているのだよ。コンパイルキューブの技術など、もうとっくに解明されている。そしてそれをどうやって人間に利用していくか、それが今からの我々の使命ということになる。だが、それほど難しいことではない。もっと頑張ればいいだけのことだ。我々は常に魔術師の地位向上に……」
「嘘を吐くな! だとすれば、どうしてこの街へやってきた! どうして我々のアジトへ攻撃を仕掛けた! お前たちがやっていることすべて、魔術師の地位向上に逆効果だと解らないのか!」
それを聞いてアリスは笑みを浮かべる。
歪んだ笑みだった。
「……ああ、一つ忘れていたよ。その魔術師の地位向上、だったが……それは今も昔。今はただ私の目的のために行動しているだけに過ぎないよ」
「一つの目的……だと?」
「木崎市には七不思議がある。七不思議の一つ一つにはそれぞれ『人の伝聞』によるエネルギーが蓄えられている。そしてそのエネルギーを蓄えることによって、普通の人間じゃ成し遂げることのできない魔術だって行使することが出来る。それさえ使えれば、世界征服だって世界滅亡だってできる。だが、だがね、そんなツマラナイことなんてする必要はない。世界を征服したって、どうせいずれまた、誰かが世界を征服するだろう。永遠には続かない。だったら、私はこう考えるわけだ」
一拍おいて、アリスは言った。
「不老不死。人間にとっての悲願。それを実現することこそが、よっぽど素晴らしいとは思わないかね?」
風香は持っていたペンをくるくると回しながら、言った。
対して近藤は訝しげな表情を浮かべて、彼女に訊ねる。
「ん? 別の問題、とはどういうことかね?」
「課長はきっと、チャンスを待っているのだと……私は思うのですよ。だから、それまではほかの人の助けを借りない、と。もちろん、それを待っていては意味はありませんが」
立ち上がり、風香は部屋を出ていく。
「どこへ行くのかね? 課長は待機命令を下していたが」
「いずれにせよここで待っていれば上が私たちを強制的に稼働させるでしょう。だったらそれよりも早く動いてしまうのが吉です。ああ、近藤さんもついていきますか? なんと今なら近藤さんを私が拉致ったってことにして報告書を提出するつもりですが」
「……君、そんなことがもし上に知られたら懲戒物だぞ!」
「でしょうね。最悪、クビにされるかもしれません。ですが、課長を守るため。木崎市を守るため、です。そのためなら私は悪魔と取引をしたってかまわない」
それを聞いて近藤は溜息を吐いた。
「……君がどうしてそこまで課長のために働けるのか、それは私にも解らない。だが、私にだって一肌脱がせておくれよ。私だって、魔術師だ。むろん、君や課長に比べればそのレベルは月と鼈程度のものだがね」
「そんなもの、やってみないと解りませんよ。そうでしょう?」
風香の問いに、近藤は頷く。
「……それもそうだ」
そう言って、ようやく近藤は重い腰を上げた。
風香の隣に立った近藤を見て、彼女は小さく笑みを浮かべる。
「いいのですか、一緒についてきたりして」
「君が『勝手に連れ出した』とでも言うのだろう? ……別に、いずれにせよ、あいつには恩がある。それを返すまで、あいつを死なせるわけにはいかないのだよ」
「恩があると言っている割には、ぶっきらぼうな言い回しですね?」
「そういうもんだよ。男同士の間柄にゃ、丁寧な言葉遣いなんて必要ない」
とん、と自らの胸に拳を当てて、
「心が通じ合っていりゃ何だっていいんだ」
そう言ったので、溜息を吐いて、風香は言った。
「……まあ、別に私にとってそんなことはどうでもいいですけれどね。取り敢えず、課長を助けることだけ。私にとっては、それさえ考えればいいんです」
「少しは素直になることを覚えたらどうだ?」
「余計なお世話です」
そして二人は歩き始める。
彼らの上長である課長――高知隼人を助けるために。
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ユウ・ルーチンハーグを先頭にして、彼女たちは自らのアジトに戻ってきた。
「こんなことになっているなんて……」
ユウは自らの拠点がこんなことになっているとは思いもしなかったのだろう。それと同時にアリス・テレジアに対して怒りを募らせていた。
「どうやら、ほかの魔術師は気絶こそしているけれど、どうやら大きな怪我はしていないようね。それは一安心、と言えるかもしれませんけれど」
そう言ったのは夢実だった。夢実の発言を聞いて少しだけ安心するユウ。
もちろんユウもそれについては理解していたのかもしれない。けれど、夢実の発言を聞いて他人もそう思っていることを理解したためか、安堵したのかもしれない。
「一先ず、アリス・テレジアをどうにかするしかないようね。これほどまでにヘテロダインのアジトをしてくれたのだから、私は許さない。彼女を許さない」
「おやおや、そう言ってもらえると嬉しいね。まさか『育ての親』にそこまで言えるとはね。さすがは一組織のリーダーを務めるまでに成長したものだ」
その声は、ひどく冷たいものだった。
そしてその声は、一度聞いただけですぐわかる特徴的なものだった。
「……アリス・テレジア……!」
彼女は浮いていた。
ふわり、とわずかに浮いていた。
目を瞑っていた彼女だったが、ユウの言葉を聞いて――目を見開いた。
「おや、育ての親を呼び捨てにするなんて、ほんとうに恩知らずってことだね。まったく、そんなやつに育てた覚えはないのだけれど……」
そして、アリスはそのまま基礎コードを呟く。
刹那、彼女の目の前から氷の刃が放たれた。
「コンパイルキューブを使わずに、魔術を行使する……ですって!?」
「魔術の技術は、日々進歩しているのだよ。コンパイルキューブの技術など、もうとっくに解明されている。そしてそれをどうやって人間に利用していくか、それが今からの我々の使命ということになる。だが、それほど難しいことではない。もっと頑張ればいいだけのことだ。我々は常に魔術師の地位向上に……」
「嘘を吐くな! だとすれば、どうしてこの街へやってきた! どうして我々のアジトへ攻撃を仕掛けた! お前たちがやっていることすべて、魔術師の地位向上に逆効果だと解らないのか!」
それを聞いてアリスは笑みを浮かべる。
歪んだ笑みだった。
「……ああ、一つ忘れていたよ。その魔術師の地位向上、だったが……それは今も昔。今はただ私の目的のために行動しているだけに過ぎないよ」
「一つの目的……だと?」
「木崎市には七不思議がある。七不思議の一つ一つにはそれぞれ『人の伝聞』によるエネルギーが蓄えられている。そしてそのエネルギーを蓄えることによって、普通の人間じゃ成し遂げることのできない魔術だって行使することが出来る。それさえ使えれば、世界征服だって世界滅亡だってできる。だが、だがね、そんなツマラナイことなんてする必要はない。世界を征服したって、どうせいずれまた、誰かが世界を征服するだろう。永遠には続かない。だったら、私はこう考えるわけだ」
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