都市伝説の魔術師
第四章 少年魔術師と『二大魔術師組織間戦争』(13)
10
次に目を覚ました時、ユウは牢獄に居た。服を着せられることもなく、足首と手首には手錠がつけられている。右手と左手は鎖で繋げられており、右足と左足は繋がっていて壁と鎖が繋がっているため、まともにこの部屋を移動することすら危うい。
だが、それでもユウは絶望することはなかった。
「……まだ、何とかなる」
息も絶え絶えになっていたユウだったが、何とか言葉を絞り出した。
絶望的な状況であったのは変わりないというのに、それでも彼女は諦めなかった。
何か具体的な策があるとでもいうのだろうか?
その考えは、彼女にしか解らない。
◇◇◇
木崎市が戦場と化して、一週間。
ヘテロダインとアレイスターの戦闘はヘテロダインの敗北に伴い、アレイスターが木崎市の全権を握ることとなった。実質的な侵略である。当然、法治国家であるのでそんなことは許されるわけもない。国が直接アレイスターと交渉することとなった。仮にそんなことが了承されようとしても、この国家は法治国家なのだから。
しかし、アレイスターはそれを拒否した。
国の使者を惨殺した映像を、送りつけたのだった。
アレイスターのボス、アリス・テレジアは映像中で語った。
――私たちは、魔術師の魔術師による魔術師のための国家を作ることを、ここに宣言する。
その言葉を宣戦布告と受け取った政府は木崎市を切り離すことを宣言、同時に非常事態宣言を発令した。
木崎市にはヘテロダインが蔓延っており、街の闇に潜んでいたといわれているが今回のアレイスターなる組織の宣戦布告を決定打として、ヘテロダインの壊滅を推測した。
誰かが言った。
魔術師と人間の戦争は、この後の歴史を大きく変えることになるだろう。
人々が魔術師の危険を意識する、重要なターニングポイントになるだろう。
その言葉の意味を、いつ人間たちが理解するのか――それはまだ知らない。
◇◇◇
上では爆撃音が聞こえる。
それを聴いて、彼女は自分が地下に居ることを理解する。
「……木崎市に自衛隊がやってきたというのか……。目的は、アレイスターの殲滅、か。いや、そんなことは無理だ。そんなことをしても、魔術師を倒すことは敵わない。魔術師を倒すなら、同じ魔術師でないと……倒すことはできない」
独り言のように、彼女は呟いた。けれど、それは地上の自衛隊に届くことはない。
「このままだと……木崎の街がなくなってしまう」
消失は無いにしろ、今まで人が住んでいた場所が失われてしまう。
それは避けなければならない。どうにかしなければならない。
そのためには、ここを脱出する必要がある。
「でも、さすがにこの状況では脱出できないわね……」
彼女は自分の恰好を見る。両手両足が鎖で繋がれ裸になっている。魔力をすべて吸われてしまったために――体力と少なからず関連づけられている。おそらく薬を使ったのだろう――今はまともに歩くことすら危うい。きっと今の状況でナイフを突きつけられても何も抵抗することはできないだろう。ユウはそう思っていた。
「どうすればいいかしらね……。スノーホワイトの人間はまだ捕まっていないといいけれど」
そうでないと、彼女の計画がすべてパァになってしまう。
だから、スノーホワイトには頑張ってもらわねばならない――そう思っていた。
そう思っていた。
彼女の牢屋の扉があけられたのは、その時だった。
「外に出ろ、ユウ・ルーチンハーグ」
声をかけたのはハイド・クロワースだった。
その声を聴いて、彼女はそちらの方を向く。
「……あなた自ら、姿を見せるとはね。どういう風の吹き回し?」
「別にそういう意味で来ているわけではない。まあ、少し君に用事が出来た、とでも言えばいいかな? 一応言っておくと、これはアリス・テレジアが実行せよ、と言ったことだ。僕としてはもっと君のことを研究したかったのだけれどね……」
そう言って、ハイドはユウに毛布をかける。
「……情けのつもり?」
「まさか。まあ、間違っていないのかもしれないな。それは僕が君にする最初で最後の情けかもしれないし。さあ、出ておいで。……おっと、そうか。部屋の鎖を解かないといけないのか。まったく面倒だなあ、こんな仕組みに誰がしたというのか……」
つまらなそうに鍵を外していくハイド。それでも彼女の両手両足には鎖が繋がれている状態となっていることには変わりなく、あくまでも彼女が自由に動けるようになっただけである。
「さあ、ついてきたまえ」
「……嫌だと言えば?」
「この場に及んで、そんな子供のような言動をする君でもあるまい?」
ハイドは笑っていた。笑みを浮かべていた、とでも言えばいいだろう。
しかしその表情は非常に冷酷で、残酷だった。そうして彼女はこれから自分に降りかかることが、なんとなく少しだけ予測できた。
◇◇◇
到着した場所は、とても熱い場所だった。毛布しかかけられていない状態となっている彼女ですら、汗が止まらなかった。
「ふう……。さすがにここは暑いな。脳が停止してしまうくらいだよ。早く人間の脳にもファン機能を付けてくれれば、また何か変わるかもしれないけれど。まあ、それは提案の問題だ。実際の実用段階にはまだ時間がかかるが」
無駄な言葉を付与させつつも、彼はユウに付けられた鎖を接続する。
先端となった――岬と言っても過言ではないような場所。
そこに接続された鎖を見て、彼女は見当がついた。
「処分する、ということか。私を」
「残念ながら」
ハイドの言葉は冷たかった。
「まあ、僕としてはもう少しデータを収集したかったところなのだけれど、これだけは致し方ないことなのかな。アリス・テレジアがもう価値はないと言い切ってしまったからね。断言してしまったからね。そうなってしまえば、僕にはもう何も言えない。僕としてはあくまでも利用しているだけに過ぎないからねえ」
次に目を覚ました時、ユウは牢獄に居た。服を着せられることもなく、足首と手首には手錠がつけられている。右手と左手は鎖で繋げられており、右足と左足は繋がっていて壁と鎖が繋がっているため、まともにこの部屋を移動することすら危うい。
だが、それでもユウは絶望することはなかった。
「……まだ、何とかなる」
息も絶え絶えになっていたユウだったが、何とか言葉を絞り出した。
絶望的な状況であったのは変わりないというのに、それでも彼女は諦めなかった。
何か具体的な策があるとでもいうのだろうか?
その考えは、彼女にしか解らない。
◇◇◇
木崎市が戦場と化して、一週間。
ヘテロダインとアレイスターの戦闘はヘテロダインの敗北に伴い、アレイスターが木崎市の全権を握ることとなった。実質的な侵略である。当然、法治国家であるのでそんなことは許されるわけもない。国が直接アレイスターと交渉することとなった。仮にそんなことが了承されようとしても、この国家は法治国家なのだから。
しかし、アレイスターはそれを拒否した。
国の使者を惨殺した映像を、送りつけたのだった。
アレイスターのボス、アリス・テレジアは映像中で語った。
――私たちは、魔術師の魔術師による魔術師のための国家を作ることを、ここに宣言する。
その言葉を宣戦布告と受け取った政府は木崎市を切り離すことを宣言、同時に非常事態宣言を発令した。
木崎市にはヘテロダインが蔓延っており、街の闇に潜んでいたといわれているが今回のアレイスターなる組織の宣戦布告を決定打として、ヘテロダインの壊滅を推測した。
誰かが言った。
魔術師と人間の戦争は、この後の歴史を大きく変えることになるだろう。
人々が魔術師の危険を意識する、重要なターニングポイントになるだろう。
その言葉の意味を、いつ人間たちが理解するのか――それはまだ知らない。
◇◇◇
上では爆撃音が聞こえる。
それを聴いて、彼女は自分が地下に居ることを理解する。
「……木崎市に自衛隊がやってきたというのか……。目的は、アレイスターの殲滅、か。いや、そんなことは無理だ。そんなことをしても、魔術師を倒すことは敵わない。魔術師を倒すなら、同じ魔術師でないと……倒すことはできない」
独り言のように、彼女は呟いた。けれど、それは地上の自衛隊に届くことはない。
「このままだと……木崎の街がなくなってしまう」
消失は無いにしろ、今まで人が住んでいた場所が失われてしまう。
それは避けなければならない。どうにかしなければならない。
そのためには、ここを脱出する必要がある。
「でも、さすがにこの状況では脱出できないわね……」
彼女は自分の恰好を見る。両手両足が鎖で繋がれ裸になっている。魔力をすべて吸われてしまったために――体力と少なからず関連づけられている。おそらく薬を使ったのだろう――今はまともに歩くことすら危うい。きっと今の状況でナイフを突きつけられても何も抵抗することはできないだろう。ユウはそう思っていた。
「どうすればいいかしらね……。スノーホワイトの人間はまだ捕まっていないといいけれど」
そうでないと、彼女の計画がすべてパァになってしまう。
だから、スノーホワイトには頑張ってもらわねばならない――そう思っていた。
そう思っていた。
彼女の牢屋の扉があけられたのは、その時だった。
「外に出ろ、ユウ・ルーチンハーグ」
声をかけたのはハイド・クロワースだった。
その声を聴いて、彼女はそちらの方を向く。
「……あなた自ら、姿を見せるとはね。どういう風の吹き回し?」
「別にそういう意味で来ているわけではない。まあ、少し君に用事が出来た、とでも言えばいいかな? 一応言っておくと、これはアリス・テレジアが実行せよ、と言ったことだ。僕としてはもっと君のことを研究したかったのだけれどね……」
そう言って、ハイドはユウに毛布をかける。
「……情けのつもり?」
「まさか。まあ、間違っていないのかもしれないな。それは僕が君にする最初で最後の情けかもしれないし。さあ、出ておいで。……おっと、そうか。部屋の鎖を解かないといけないのか。まったく面倒だなあ、こんな仕組みに誰がしたというのか……」
つまらなそうに鍵を外していくハイド。それでも彼女の両手両足には鎖が繋がれている状態となっていることには変わりなく、あくまでも彼女が自由に動けるようになっただけである。
「さあ、ついてきたまえ」
「……嫌だと言えば?」
「この場に及んで、そんな子供のような言動をする君でもあるまい?」
ハイドは笑っていた。笑みを浮かべていた、とでも言えばいいだろう。
しかしその表情は非常に冷酷で、残酷だった。そうして彼女はこれから自分に降りかかることが、なんとなく少しだけ予測できた。
◇◇◇
到着した場所は、とても熱い場所だった。毛布しかかけられていない状態となっている彼女ですら、汗が止まらなかった。
「ふう……。さすがにここは暑いな。脳が停止してしまうくらいだよ。早く人間の脳にもファン機能を付けてくれれば、また何か変わるかもしれないけれど。まあ、それは提案の問題だ。実際の実用段階にはまだ時間がかかるが」
無駄な言葉を付与させつつも、彼はユウに付けられた鎖を接続する。
先端となった――岬と言っても過言ではないような場所。
そこに接続された鎖を見て、彼女は見当がついた。
「処分する、ということか。私を」
「残念ながら」
ハイドの言葉は冷たかった。
「まあ、僕としてはもう少しデータを収集したかったところなのだけれど、これだけは致し方ないことなのかな。アリス・テレジアがもう価値はないと言い切ってしまったからね。断言してしまったからね。そうなってしまえば、僕にはもう何も言えない。僕としてはあくまでも利用しているだけに過ぎないからねえ」
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