お世辞にもイケメンとは言えない残念幼馴染が異世界で何故か優良物件になってた………え?結婚してくれ?

シフォン

魔法を習得………あれ?おかしいなぁ:2

………熱い。死ぬほど熱い。前世の都会での夏なんてまだやさしいものだったんだな、なんておもってしまうほどに熱い。
目を覚ました私を待っていたのは、いきなりの焦熱地獄とかいう酷い状況だった。
ちくせう、精霊王めよくもやってくれおったな。
いつか魔法を覚えてお前に復讐してやるぞー、本当だぞー。
というか、あの絶望するのが楽しみで仕方ない、みたいな表情をしながらもこんな仕打ちをするなんて、お前顔面詐欺が酷すぎるっての。

『いや、これは私のせいじゃないよ、天地神明と私自身の霊格に誓って私のせいじゃないよ』

じゃあ誰がやるんだよ、こんな酷い仕打ちを。
今のところ私は誰にも恨まれた覚えがないし、特に敵対している誰かもいないからお前以外にこんなことをする奴に覚えがないのだけれど。

『はぁ………じゃあ教えてあげるよ。僕に一切の非がないことを証明するために、ね』

自称精霊王はそう言うと、私にこうなるまでの経緯を教えてくれた。
まず手が発光して意識が飛んだあと、私はどうやらアルカくんによって呼ばれてきたお父さんにより、医者………というか物知りなおばあちゃんに相談した。
そしておばあちゃんはこう答えた。
『あぁ………これは精霊憑きの拒絶反応だね』と。
精霊憑きってのは今目の前で話している精霊王の子分というか、格下の精霊が誰かに取り憑いてとり憑いた相手の力を強化するってものらしい。
で、それを偶然体が拒絶してしまったから体内に入った精霊の力が暴走してあぁなって………
現在は私の火葬中。
どうやら精霊付きの拒絶反応ってのは大抵の場合死ぬし、生き延びても死ぬより辛い状況が続く、挙句死んでも体を燃やさない限りしばらくは拒絶反応としての暴走が続いてしまうらしい。
だからお父さんとお母さんは泣く泣く私を焼いているわけで………

………ところで1ついいかな。
精霊王、完全にこれはお前の責任じゃないか。
なんだよ聞いて損したよ。どうして私に取り憑いちゃったんだよこの野郎!
お前のせいで私はこの転生生活を開始15年で終えなきゃいけなくなっちゃったんだよ!本来ならもっともっと長生きできたはずなのに、ぐぐぐっと縮まって15年になっちゃったんだよ!
責任を取ってもらうよ!
半キレ気味に脳内でそう叫んだ。

確かに精霊王は直接私がこうなった理由を作ったわけじゃない。
でも………結局のところ精霊王が私に取り憑かなければこんなことにはそもそもならなかったはずだ。
つまり私にはキレる権利がある。多分。
この状況に対して本気で怒っても許されるはずなんだよ。
だから、私はこのエルフ生で初めて本気で怒る。
言い訳があるなら聞くけど、よほど筋の通った理由じゃなきゃ今の私は………止められないんだよ!
私は、徐々に怒りのボルテージを上げながら目の前の精霊王に手を伸ばし、その胸倉をつかんだ。

『えっちょっ………言い訳なら聞くって言っても、君があんまりにも良質な魔力を大量に垂れ流すもんだから精霊を呼ぼうとしてるって思ったんだよ!悪い!?』

あぁそうですかそうですか、とりあえず次からは良質な魔力って奴が垂れ流しになってても厳重に警戒してから近づくんだね。
次があるかは分からないけど、ねぇ!

私は精霊王の顔面に強烈なパンチを喰らわせようとする。
しかし精霊王はそれを喰らう直前に、ギリギリのタイミングでとんでもないことを口走った。

『殴られる理由が理不尽な気がするしこれをすることに関して非常に遺憾なんだけど………この状況から助け出すからこれ以上殴らないでおくれ』

この状況から助け出す、と言ったのだ。
そんなことが出来るなら最初からやれば良いと思うんだけど、まぁその誘いを受けない手はないよね。
命は大事。そして私なんかのくだらない怒りは助かることと比べれば割とどうでも良いことだから、この際イラつきやらいろいろな意味での怒りやらなにやらは忘れ………るのは厳しいし、一旦そこら辺に置いておこうと思う。

………もしこれが嘘だったら、死んだ後の世界で存分に恨んでやろう。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

side精霊王

………あーもう、なんなんだよこの子は!
私は最近自慢のバカどもが頑張りすぎて色々あって存在が薄れてきた手を頭に当てながら、脳内でそう呟いた。
いや、精霊王………あるいは全ての精霊の祖たる者オリジンオブザスピリットである私にそんな脳なんて機関があるのかどうかは疑問しかないのだけれども。
とにかく、一体何なんだこの子は。
ハッキリ言ってバカだし、エルフにしては精霊について知らなさすぎる。
魔法の才はどんな生物と比べても圧倒できるだけの魔力を持つ私であってもちょっと嫉妬するくらいに持ってるけどそもそも使えない、魔力の制御方法すら知らない、挙句の果てには隠れ住んでいる(少なくとも人間などの感知能力に長けてはいない種族からは)筈のエルフなのに気配もダダ漏れ。
というかエルフって生まれつき気配を消す力を常時発動してるはずなんだけどなぁ………

まぁ、それは良いか。別にこの子がいくら馬鹿でアホで愚かで愚図で何も出来ないエルフだったとしても魔力だけはたっぷりあるんだし、この子が何かされたときに抵抗できないほど弱くても私が蹴散らせばいい。
幸いにして存在を忘れられることによるデメリットは溢れ出ていた………私が放出を止めた………魔力で補えている。全盛期には遠く及ばずとも他の精霊となら高位精霊が数百匹か束になってかかってでも来ない限り蹴散らせるだろう。
なお高位精霊の数はこの世界にきっかり千匹だから、実際に何百匹かが束になってかかってくることは無いに違いない。
つまり私は現状向かうところ敵なし!という訳さ。

閑話休題。
さて、私と私が勘違い(宿主による主張)によって取り憑いた宿主サマについての説明はこれくらいで理解してくれたと思う。
今の私がやたら力に溢れていることも、なんとなく分かったと思う。
だから現状に目を移すよ。良いね?異論を言う奴は手を挙げろ。挙げた手ごと異論のある奴を消し飛ばすから。
………今は正直言って、かーなーり最悪の状況に近い。
この場所に住んでるのがエルフだったから幸いにしてさっき思ってたよりも強い力が流れ込んできてびっくりして力を漏らしちゃったアレを、精霊憑きの拒絶反応と思ってくれた(なお、宿主サマに真実は伝えないことにした。めんどくさいし)から良いけど………この子が人間だったら悪魔憑きだと思われて滅魔の炎で焼かれてた。
それがないからどうにか最悪ではないんだけど、しかし今現在焼かれてしまっている時点で割と大ピンチなことに変わりはないのだから。
ただの炎と言えど防ぐにはそれなりの魔力が必要だし、その魔力も無限にあるわけじゃない。
最悪の場合ダメージだけ完全カットするようにすれば数週間くらいは持つけどね。

『さーて、それじゃ行くよ?』

私はいっそこのまま耐え続けた方が正直楽だろうなーとか頭の片隅で考えつつも、言ったからには助けてやろうと魔法を用意する。

魔法とは、それ即ち魔の法。
その発動までの過程には詠唱を挟むことで式を作り出さなきゃいけない。
………まぁ精霊王である私には関係ないのだけれども。
理由は私自身がほとんど魔力で構成されているから………説明はしにくいけどね。例えると君達人間が腕を動かすときにその細かいプロセスを一から百まで全部説明出来るかい?ということさ。
とにかく、私は他の生物と違って魔法をまどろっこしい詠唱なしで使えるのさ。
だから人間が長ったらしい詠唱をして仲間との連携を必死こいてやることでようやく使えるような大魔法もパッと考えるだけで使えちゃうんだ。
ただいかにパッと使えるとしても無言でただただ魔法を連打するようじゃつまらないからあえて魔法名とかは全力で叫ぶのさ。

『【フレイムバニッシュ】!』
「うるさい!」

宿主サマはそれに何か物申したい様子だけど無視しよう。
今回使った魔法は火の中級魔法、【フレイムバニッシュ】。効果は読んで字のごとく火を消すだけ。
エルフたちの間ではそれなりによく使われている魔法だ。
魔物が火を吐いた時にそれが森全体を焼いたりしないよう消火したりとか、人間との戦争なんかでも相手が森に火を放った時に消火したり………とにかく消火するために使われる。
ちなみに火を消すという一点だけを見るならば【真空バキューム】っていう魔法で消火した方がはるかに魔力効率と一度に消火できる範囲が広いんだけどね。
でもこの魔法は【真空バキューム】の魔法があるにも関わらず使われている。それは何故か。
そう、この魔法は『特定の条件を作り出し消火』ではなく『消えるという概念を炎に付加して消火』という方式を使っているから、さ。
つまり魔法によって消えない火という属性を付加された火であっても、瞬時に消滅する。
だからこの魔法は重宝されているんだ。
たとえ瞬時に消すという点で【真空バキューム】で消した方が圧倒的に効率的であってもね。

『ほらほら、もう一度火を付けられる前にさっさと抜け出して!』

私は初めて魔法を見て混乱してるのか感動してるのか分からないけどボーっとしていた宿主サマに声を掛け、ひとまず移動することを提案する。

「ちょっと待って………なんか頭いたい………」

しかし何やら今度は頭を抱えて動かなくなった宿主サマに、もうこいつ放置して逃げてやろうかな………と思う私であった。

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