ヤミ属性な回復担当

月菜

ギルド登録

あれから歩くこと約一時間。予定通り街に到着した。森を出てちょっと歩いたところに街はあった。地図で見た通り、やはりそれなりに大きな街らしい。門らしきところで憲兵?が立っている。列が出来ているのでその最後尾に並んだ、が。

「ハルト、シオン。お前達、人間の暮らし……というか一般的な常識は分かるか?」
ふと、疑問に思ったのだ。いやだって、夢魔だよ?なーんか色々ズレてそうだ。偏見だけど。
「…ある程度は、大丈夫だと思うけど。基本的に人間に交じって生活してるし」
シオンがそう答えた。じゃ、変な心配はしなくていいか……あ、でも。
真顔で二人の顔を見る。相変わらずイケメンですね、本当………。

(こいつらが目立たないわけがない)

普通に考えて、目立つ。二人とも美形だし……美形だし?雰囲気というか、とりあえずモブではないんだよね。ほら、自然と人の目を惹いてそう。
「…なんで二人共、無駄に美形なわけ?」
思わずジト目で問いかける。と、意外な答えが返ってきた。
「夢魔だからな。人間は美しいものを好むだろ?何かと便利なんだ」
「っていうか、レイも人間にしては綺麗な顔してるよね」

「………えっ?」

イマ、ナントオッシャイマシタカ。顔や声色的に、シオンが嘘を言っているようには見えない。というか僕相手に嘘は吐けないはずだ、契約で。え、僕が綺麗な顔?いやいやまさか、そんなはずはない。平凡な顔ですよ、何の特徴もないことが特徴です……いや待てよ、もしかして神様がちょっといじってたりする?
「…鏡。そうだ、鏡は持ってないか?」
不思議そうな顔をして、あるけどと小さな手鏡を差し出したシオンに礼を言って受け取って、覗いてみた。
(……誰だこいつ)
本気でそう思った。でも仕方ないと思う。

まるで闇を融かしたようなさらさらの黒い髪。深い深淵を思わせる黒い瞳。睫毛長いよー。髪と目とは対照的に、透き通るような白い肌はさすが十才児、見事にツヤツヤで張りがある。形の良い唇に、すっと通った鼻。少し前髪が長いせいか、どこか物憂げにも見える……いや、これは僕が無表情なせいか。

これはないだろ。

「はあぁぁぁ………もう嫌だ。死にたい」
「え、もう?!」
「早っ」
深ーいため息を吐いた僕だが、これはもう本当に仕方ない。だってこんな、こんな顔……目立つじゃん。何さ、この無駄な主人公要素は。ただでさえ子供一人で、しかも命主で目立つのに、この顔、そして従魔こいつらも!神様め……恨むぞ。絶対に、これは嫌がらせだ。

一人悶々としていると、いつの間にか僕らの番になっていた。
「身分証明になるものはお持ちですか?」
……あ、やば。憲兵さんの質問に、大事なことに気付く。ヤバイ、身分証明とかできないよ僕。さっきこの世界に来た異世界人ですなんて言えない。
「えーっと……ありません。あの、冒険者ギルドに登録するつもりなんですが……」
それで身分証明にはならないだろうか、という意味を込めて言うと、憲兵さんはあぁと納得したように頷いた。
「それでしたら構いません。ギルドまで私がついて行きますので、登録完了後カードを見せてください」
よかった……大丈夫みたいだ。
「分かりました」
「……後ろのお二人は?」
ん、ハルトとシオンのことか。
「僕の従魔です」
素直にそう言うと、憲兵さんはとても驚いたような顔をした。…あれ、従魔って変?
「人型の従魔……あ、失礼。初めて見たもので、つい」
「珍しいんですか?」
「それはもちろん。従魔は基本的に獣型ですし……知らないんですか?」
「え?いえ……その、魔法はほとんど独学なので、変に知識がなくて……」
「そうなんですか!凄いですね、まだお若いのに」
独学とか言っちゃったよ、勢いで。でも、多分それが一番しっくりくる。仕方ないね、うん。
……そういうことにしてくれ。


憲兵さんと話しながら街を歩くこと数分。大きな木造りの風格ある建物の前で僕らは足を止めた。
「ここが冒険者ギルドです。入ってすぐ右側に新規登録の場所がありますから、終わったらカードを見せてください。私はここで待っていますので」
「分かりました。ありがとうございます。ハルトとシオンは……あー、僕の影に入れるんだっけ?」
「うん。念話も出来るよ」
「じゃあそうしておいて」
この二人を連れていたら目立つこと必須だからな。出来るだけ隠す。さっき歩いてた時もちらちら見られてたし。

そして扉を開けると、そこにはまるでラノベの中のような光景が広がっていた。
(うわ……凄い)
まず思ったのは、なんというかむさ苦しい。あれだ、流石は体力仕事というか、ムキムキな男が多い。次に多いのが恐らく後衛だろう矢を抱えた射手やローブを着ている魔法使いらしき人。中には獣の耳と尻尾を持つ____獣人もいた。
一瞬立ち止まったが、入り口でつっ立っていては邪魔だろうとすぐに新規登録の場所に向かう。憲兵さんの言った通り、入ってすぐの右側にあった。

「あの、新規登録をしたいのですが」
「新規登録ですね!通常ランクか、Xランクか、どちらでしょう?」
中々元気な女性だ。迷わず答える。
「Xランクで」
「かしこまりました。では、こちらの水晶玉に手をかざしてください」
水晶玉?疑問に思っているのが分かったのか、女性が説明してくれる。

「この水晶玉は土の精霊王様の加護がかけられていて、手をかざした人の真実が映るのです。犯罪者対策ですよ。これにはどんな隠蔽も通用しませんから」
ほう……便利な者だな。確かに、流れ者ばかりの冒険者ギルドなら、当然の用心だろう。そして僕も手をかざすと、言われた通りステータスに書かれているのと同じような情報が出てきた。

name:レイ
age:10
job:命主

「え……め、命主?!」
女性が信じられないという顔でこちらを見る。
「ええ、まぁ……一応」
曖昧に苦笑いで応えると、女性はずいっと身を乗り出して語った。
「どうして命主様がこんな所へ…?命主様はお国の上の方にいたり、教会にいるものでしょう?」
「縛られるのって嫌いなんですよ。教会は……僕、そんなに信仰心ないので」
信仰心ないというか、もう今日で完全に神様が嫌いになった。あんなクソみたいな人生送らせた挙げ句、異世界行ってこいだ。あり得ない……まぁそれは今は置いておいて。
「そうですか…?いえ、こちらとしては物凄くありがたいのですが」
「そうなんですか?」
「それはもちろん!まず、あまりXランクの存在が一般に認識されていないこともあり、通常ランクの冒険者ばかり増えて裏方仕事の手が回っていなくて……」
あぁ、確かにそれは大変そうだ。
「しかも、Xランクでは鍛冶師や薬師はいるんですが、医者と癒し手は常時不足状態でして。一般でもかなり数が少ないですし」
「…大変ですね」
しみじみとそう呟くと、女性はうんうんと頷いた。これは、地球でもそうだったからよく分かる。僕は都内の病院に勤めていたが、都市から離れた地方などの病院では、科を問わず常に医師が不足していた。何度か僕も、地方へ移動されそうになったことがある。面倒だったので、さりげなーく回避した。だから実際に僕は行っていないが、行った人は本当に大変だったと言っていた。
「そうなんですよ。だから、本当にありがたいです」
「なら良かったです。僕としては、とりあえず誰かの為になることが出来ればそれでいいので」
地球でよくやっていたいかにも“優しくて良いお医者さん”な感じな笑顔を作る。軽い物だ、小説や漫画だとよくあるが、演技も嘘も、大して苦しいものではないのだ。慣れてしまえば。そもそも、綺麗なままあんな冷えた世界で生きていけるはずがない。
「はぁ……まだ10歳なのに、偉いですね」
「え?いやそんな!全然ですよ」
中身は36歳で四捨五入すれば40歳のおじさんですよ、おじさん。それが今はこんな……はぁ、やめよう。余計嫌になる。

「ギルドカードが完成するまで、ギルドについて説明しますね。
まず、ここ冒険者ギルドは魔物の討伐、迷宮攻略、危険な場所の薬草採取……等の体を張った依頼を請け負っています。通常ランクは下から順にF、E、D、C、B、A、Sで、Sランクが最高ランクです。一般的には、Fが駆け出し、Eが見習い、Dが半人前、Cで一人前、Bが熟練、Aがエリート、Sで英雄……と言われています。基本的に依頼中の怪我、死亡についてギルドは一切の責任を負いません。全て個人の実力次第です。

Xランクは基本的に冒険者のサポート、所謂裏方ですね。下位、中位、上位、最上位と四段階あります。色々な職業の方がいらっしゃいますが、レイさんは命主ということなので、あらかじめ治療の料金を設定しておき、治療後相手の人から直接料金をもらってください」
「分かりました」
簡潔だし、まあ分かりやすい。料金は自分で設定するようだが、相場はどのくらいだろうか?
「料金は、だいたいどれくらいが相場ですかね?」
すると女性は、少し考え込むようにして顎に手を当てて首を捻った後、答えた。
「そうですねえ……治療にも色々ありますし、命主ならそれこそ怪我から毒による状態以上、呪い、病気など、その種類は多岐に渡るでしょう。普通の怪我の治療はだいたい8000メルくらいでしょうか」
…えっ。高くない?地球、ってか日本じゃもう少し安いよ。
「…そんなに高いんですか?」
女性は当然という風に頷いた。
「そもそも数が少ないですから。適当な値段ですよ」
はぁ……そうなのか。何だか、嫌だなぁ。どうせ魔法だし、大したことはしないのに、あんまり高いお金をもらうと詐欺みたいだ。
「…5000くらいでいいです」
真面目に僕がそう言うと、女性はぽかんと呆けたような顔をした。
「…え?安すぎですよ?!そんな、いいんですか?!」
「むしろ8000ももらうだなんて、申し訳ないです。皆さんだって大変でしょうに…」
すると、女性は何故か涙を拭うような仕草をした。
「あぁ……本当にありがとうございます!」
感無量といった様子だった。いや、本当にそんな大したことじゃないんだけど……僕の気分の問題だし。

と、そこからは問題なく登録は終わり、外にいる憲兵さんにカードを見せた。
「まさか命主様だったとは……驚きです」
「あはは…あの、ここら辺で良い宿ってあります?」
そのまま宿を聞いて、そこへ向かった。


急いで宿に向かって、部屋を取った。ここまで急いだのには理由がある。主に2つほど。
「ハルト、シオン……お前らこれからずっと影に入ってろ。目立つ」
ギルドから出た途端影から出てきた二人は、余計に周りの人に驚かれた。
「えぇ……」
「外に出るなら、せめて顔を隠せ。いいな?」
「…分かったよ」
とりあえずこれは1つ目。2つ目は____

「とりあえず寝る」
「え?」
「多分すぐに起きると思う……神様に会うだけだから」
「は?」
「おやすみ」


何故寝れば神様と会えるのか。それは、勘だ。確証はなかった。しかし間違ってはいなかったようだ。
「やあ……さっきぶりだね」
目を覚ますと、そこはまた白い空間。金髪の青年。やはり、合っていた。
「嫌がらせですか?」
こちらに微笑みかける神様を思いきり睨み付ける。
「え?」
「体の傷のことです」
そう。これだ。傷がない____自傷の痕がない。あれは、あの傷は、僕にとってはなくてはならないものだ。ないと、苦しいのだ。
「消しては、いけなかったのか」
驚いたように、そう呟く神様。
「…貴方には分からないでしょうが、僕は本当に死にたかったんです。つまり正常な人間じゃないんですよ。貴方の勝手な常識に、当て嵌めないでください」
神様は、痛々しげに顔を歪ませた。
「……すまない。私の配慮が足りなかった。傷は全て、元に戻そう」
その言葉を最後に、また意識は黒に飲み込まれた。


「ん……」
まず目に入ったのは、赤髪と金髪。
「あ、起きた」
思わずがばっと勢いよく起き上がったせいで、ハルトと額を強くぶつけた。
「いっ?!」
「ッつぅ……」
しばらく二人で悶えた。

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