ヤミ属性な回復担当

月菜

目指せ引きこもり

「信じる信じないはお前らに任せる。めちゃくちゃ要約するよ?
僕はこことは違う異世界に生まれて、死んで、神様にちょっと頼み事をされてこの世界に来たんだ。その頼み事っていうのが、神様の力をちょこっと授かってその僕がこの世界に降りることで世界に恩恵をもたらす……天遣テンシっていうんだけどね。それになることらしくて。
で、恩恵をもたらすには僕はただ生きていればいいんだけど、僕が頼み事を受け入れるのをかなり渋ったのもあって、神様が色々サービスしてくれたんだ。……僕が死んだのって、自殺だったからさ。本当は、生きたくなくて。
僕は元いた世界では医者だったからーって考えてたら、神様に命主メイシュにならないかって言われて、なった。
だから聖属性はもちろんあるんだけど、僕は本質が闇らしくて闇属性もある。所謂、二属性ダブルだ」
こんなところかな?一言って言ってもさすがに無理がある。結構長くなった。……さて、二人は信じてくれるだろうか。二人はぽかーんと呆けたような顔だ。大丈夫か?
「…聞いてる?」
心配になって聞いてみると、今度はちゃんと反応が返ってきた。
「嘘、じゃないよね。本当に異世界人なんだ……」
「神直々に頼み事とか…どんなだよ…」
どうやら突拍子もなさ過ぎて思考がフリーズしたようだ。まあ気持ちは分かる。僕だって未だにちょっと夢だと思ってるんだから。

「ということで。僕はこの世界である程度生きなきゃいけない。人間とは極力関わりたくないし、一人でひっそり呼吸しているだけでいい。わざわざ疲れるような馬鹿な真似はしたくないんだ。……命主として働いて、金を稼いで、適当に国色々回る。で、どこか静かで深い森とか……とりあえず人が来ない場所に隠居。隠居が僕の人生の最終目標だ」
きっぱり言い切った。これはもう決定事項、誰に何と言われようと絶対に変えん!だって、隠居って、下手したら地球より快適に生きられるかもしれない。誰にも邪魔されず、人の生気を感じさせない場所でひっそりと生き、誰にも知られずひっそりと死ぬ。あぁ、やっぱり最高だ。一人満足していると、ハルトのげっという声が耳に入った。
「引きこもりかよ……」
「勘違いしないでよ?僕は生きたくて生きてるわけじゃない。むしろ死にたいんだ。死ぬために自殺したのに……全く、最悪だよ。だから、この世界ではできるだけ楽に生きてさっさと死ぬんだ」
異世界に来て、チート貰って……それで?ラノペとかでもよくあるよね、主人公が無双するって。珍しくもないよ。地球じゃダメ人間だったのが異世界で更正する、とか。
でも、僕はそうはならない。
だって元がこうだし。自殺して異世界トリップとか、最初から暗すぎでしょ。最終目標は引きこもりで、死ぬために生きるようなもの。否定はしないけどさ?

世界が変わったところで、僕は変わらない。変われない。変えられない。

……普通にしてるように思うかもしれないけどさ。本当は、今だって凄く苦しいんだよ。悲しくて、泣きたいのに泣けなくて、息も出来ないくらい苦しくて、震える程寒くて、痛くて___
もうなんて言ったらいいのか分からない。分からない人には、きっと一生分からないと思う。病気、だから。初めて精神科に行ってうつ病だと言われたのは19歳のとき。初めて自分を切ったのは11歳のとき。自殺しようと首を吊ったこともある。13歳のときだ。結局、縄が切れて無理だった。気がついたら倒れていて、冷たい床の感触があの人に殴られた後と同じで……死ぬことも許してくれないの?って、泣いた。あの頃はまだ良かった。泣くことができていたんだから。

次の自殺未遂は21歳。もう頭おかしくなって、いつも持ち歩いていたナイフを胸に突き刺した。めちゃくちゃ痛かったけど、やっと終われると思ったんだ。……無理だったよ。ちょうど骨に当たって、止まっちゃったから。病院に緊急搬送された。そのときの医者の顔は、妙に鮮明に覚えている。哀れみと理解できないモノを見るような目だった。可哀想だと言われた。

三回目は、ある意味事故だった。オーバードーズで色々薬を一気に煽ったら、死にかけたのだ。あれが一番苦しかったな……頭がガンガンして、ギーンっていう耳鳴りがして、吐いて、気持ち悪くて、心臓が痛かった。もう苦しくて苦しくて、その状態のまま無理矢理病院に行ったらそのまま気を失い、気がついたら全て終わっていた。医者が何か言っていたが、記憶が飛んでいて覚えていない。

「レイ?」
シオンの呼ぶ声にふっと回想から引き戻される。……あぁ、嫌なことを考えたな。
「悪い。で、これからのことだけど……人と関わるのが嫌だって言っても、生きていく以上完全に人との繋がりを絶つことはできない。それは分かってるんだ」
「……じゃあ、どうするんだ?」
怪訝そうに聞いてくるハルトににっこり笑う。
「0にはできない。でも、限りなく0に近くすることはできる」
「つまり?」
「基本的に、人間が他人に情を抱くのには、ある程度の時間が必要だ。当たり前だよね?誰も、会ったばかりの人にそこまで深い情は抱かない。
情を抱くことの何が問題か?人は基本的に脆いし弱い。別れる時には泣いて、離れた後も何らかの形で連絡を取りたがる……鬱陶しいんだよね、そういうの。
だから、そんなことを思わせないために、特定の街や村に滞在するのは短期間にする。だいたい一ヶ月ぐらいかな?一ヶ月半が限界だよ。それ以上は僕も周りの人間も心が傾く。それでとりあえず五年くらいブラブラして……」
今の僕の体は10才。普通に子供。この状態で長期間特定の場所にいると色々面倒だ。特に、大人なんかは無駄に心配してきたりする……虐待されて間もない頃は、施設をよく抜け出していた。誰かと同じ部屋では眠れなかったのだ。その時にも大人からは自己満足の心配をされて、ただただ迷惑だったのを覚えている。子供は色々面倒くさい。

しかし、頭の中にある知識によるとこの世界の人間の成人は20代後半ぐらいという認識らしい。何でも、魔力の高い人間程寿命が長くなり、15~25くらいで成長が急激に遅くなるらしい。
僕の魔力はステータスによると10000。思いっ切りカンストしている。この世界の人間の魔力の平均はだいたい4000。魔法使いだと5000~6000がせいぜいだ。つまり、僕の10000は完全に異常。まぁでも、命主とか賢者とかだと9000いってたりするらしいので、隠す必要はないんだけど。

で。寿命は、平均の4000で80歳くらい。魔法使いの5000で120歳くらい、6000で180歳くらい。7000で250歳くらい。8000からはもう人による。とりあえず300歳はゆうに越えるらしいが……一番長く生きたと言われているのは、数千年前の命主。魔力は10000。僕と同じでカンストしている。548年、生きたそうだ。
(……本当、嫌だ)
地球で36年、あんなに自堕落に生きてただけであれほどの苦痛だったんだ、548年なんて……考えただけでもゾッとする。そんな長い時間、人と生きていくのは無理だ。だから隠居。全力で引きこもる。

……。まぁ、それはいいとして。とりあえず僕の寿命は絶対長い。多分、成長が止まるのは15か16くらいだ。
「僕の成長が止まったら、ある程度の長居もオーケーかな。と言ってもせいぜい一年が限度だけど」
「なんで、成長が止まるとオーケーなの?」
「なんとなく……かな。人間の認識だと、成長が止まればとりあえず子供から大人になった、ってことらしいから。面倒事も少しは減るかと」
「……徹底してるな」
「当然」
呆れた顔で言うハルトに僕は大きく頷く。けっ、そんな顔で見ても無駄だからな。どうせお前らには分からないさ、人間に対するこのどうしようもない嫌悪感は。
「後は……そうだな。眠ることも調べていかないと」
「どういうこと?」
不思議そうに尋ねてくるシオンに軽く笑みを浮かべて応える。
「神様に言われてるから、自殺はできない……できないことはないけど、しないつもり。変な文句つけられても嫌だし。限界になったらするけどね?
死ねないなら、長い寿命を全うしなきゃいけない。そんなの、嫌だろ?だから眠ったまま、時間を流す……これなら僕に意識はないから、楽に寿命を迎えられる。そうだなぁ、百年くらい?眠れたらいいな。魔法か薬か、どっちでもいいけど」
眠ったまま死ねるなら、きっとそれは最高だろう。僕も最初は睡眠薬で自殺したいと思っていた。でも、そう上手くはいかないもので。

僕のような一般市民が致死量の睡眠薬を手に入れるのはそれだけで一苦労だ。そもそも、薬局にもあまり売っていないからね。病院で処方してもらうということもできるけど、それでもらえるのはほんの少量だ。沢山買うとなるとネット通販くらいしかない。しかも、これがまた高いんだ。ま、金なんてほとんど溜まる一方だったし、それはいいんだけど。仮に睡眠薬が手に入ったとしても、それで本当に死に至るとは限らない。薬で眠ったまま死ぬには、死に至るような劇薬と大量の睡眠薬を一緒に服用しなければならない。それが反発したりしてはいけないし、もし失敗したらそれはただのオーバードーズになり、悲惨なことになる。劇薬の効果が変に残って、後々の生活に支障が出る、なんてことがあればそれこそ洒落にならない。

(地球じゃ睡眠薬を使っての自殺は諦めてたけど、この世界には魔法がある)
童話にもあるじゃないか、眠りの森の美女とかさ?あれと同じ、眠りの魔法を開発して、自分にかければ……体の時だけが流れて、僕はそんなに苦労しない。いやぁ、最っ高だね!

一人楽しく自殺方法を考えていたが、一旦それは中断。
「と、大まかな予定はこんな感じかな。質問はある?」
一応聞いてみたが、二人とも質問はないようだった。
「よし。……じゃあ、まずは近くの街に行って冒険者ギルドで登録だ。あ、念のため言っておくけど、冒険者としてじゃないよ?僕戦えないし」

冒険者ギルドと聞くと冒険者しかいないように聞こえるが、実際はそうでもない。ギルド専属の医者や癒し手、薬師、鍛冶師、解体屋……などもいる。地味だが、冒険者にとってなくてはならない存在だ。冒険者はEランクからA、Sランクまででランク分けされるが、その他の人達は全員、“Xランク”と呼ばれる。その中で、下級、中級、上級、特級と四つの位に分かれている。言い方は、『下級Xランク医師○○』というような感じだ。

「Xランクで命主として登録すればいいかな、とりあえず。えーっと、近くの街は………」
確か、調べる用の魔法があったはずだ。なんだっけ……?……あ、思い出した。
(探索サーチ)
すると、目の前にステータスと同じような透明な画面が出てきた。うん、もう驚かないぞ。そこには、地図のようなものが書かれていた。
「森を出てすぐ……中々大きな街だな」
森はそんなに大きくない。一時間もあれば出られるだろう。

そして僕達は歩き出した。

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