太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜
18 闇夜
「ふん。美しい親子愛だな。反吐が出る」
ノクティスは、蔑んだ目で吐き捨てた。
「――兄上、あなたって人は!」
レオニスは、眼光鋭くノクティスを見やる。
「悔しいか。ならば、かかって来い! 儀式の前に軽く相手をしてやろう!」
ノクティスが父を殺し紅く光る剣をレオニスに向ける。レオニスはとっさに父の持っていた聖剣サンクトルーメを掴み、立ち上がった。
全身が熱を持って燃えるように熱い。しかし、不思議とレオニスはしっかりと立ち、兄と対峙し剣を構えた。
母を、そしてたった今父までもを殺した男を睨みつける。
「――僕は、僕はあなたを許さない!」
「だからどうした! 負け犬の遠吠えにしか聞こえぬぞ、レオニス! 来ないのならば、こちらから行くぞ!」
ノクティスは一息で間合いを詰めると、剣を振り下ろす。
「っく!」
レオニスはなんとか剣撃を受け止めた。衝撃が身体に響き、突き刺さるような痛みが襲う。つばぜり合いに押し負けそうになるのを、歯を食いしばって足を踏ん張った。
「るあああああああ!」
兄ノクティスは、必死の形相のレオニスを見て、口の端を釣り上げた。
「これで全力か? 隙だらけだぞ!」
言い放ったノクティスは、剣と剣が交差する部分を滑らせ、気付いた時にはその剣先はレオニスの喉元に突きつけられていた。
「――っぐ」
切っ先が喉に触れ、生暖かいものが首をつたう。
しかし、レオニスは半分朦朧としながらも、目を見開き兄を睨み据えた。
「ふん。諦めの悪いことだ」
ノクティスは言うと、剣を引いて間合いをとる。引き際に腹を浅く斬りさかれたレオニスは、傷を抑えて膝をついた。
「レオニス様!」
傀儡兵と戦っていたホークが、レオニスの危機に気付いて叫ぶ。デンテとアルサスも、操られていた神兵をすべて倒して駆けつけた。
「レオニス、大丈夫か!?」
「なんとか……」
デンテ、アルサス、ホークは間合いをとってノクティスを取り囲む。
ノクティスは面白くなさそうに口を開いた。
「命拾いしたな、レオニス。貴様を冥府に送るのは、儀式が終わった後だ!」
「儀式!? さっきから、なんのことだ!」
アルサスが問うが、ノクティスはそれには答えない。
「モア! いつまでかかっている!」
「はーい! ただいま参ります、ノクティス様! はあっ!」
「きゃあ!」
刹那、モアが放った特大の闇球が命中し、月の女神ルナは空中から撃ち落とされた。地面にルナが転がると、モアの紅い双眸が光る。
闇が蠢き、地底から沸き起こった闇がルナの身体を飲み込むと、ルナの姿が大聖堂から消失した。それと同時に、空に昇っていた月も姿を消す。
「黄昏よ、汝の時を連れ退け。我、闇夜と影を統べし者、闇の女神モア、ここに顕現する!」
漆黒の巻き毛が波打ち、逆立つ程の気がモアから発せられる。すると、窓から差し込んでいた日差しが全て失われ、聖堂内の灯りは蝋燭の光が残るのみとなった。
モアの発した夜気は月の消えた空を満たし、首都グラディウムを包み込んだ。
完全な夜の到来だ。
「日が暮れた――? うぐっ」
アルサスが、心臓を抑えて膝をつく。
「なんだこれ!? 苦し、い……」
「瘴気……!?」
デンテも、そしてホークもその場にくずおれる。レオニスは、血を流し熱を持つ脇腹を抑え、さらに夜気にあてられ息をするのもやっとの状態で、ノクティスを睨んだ。
「お待たせ致しました。ノクティス様! 月の女神を始末し、夜気を降ろしました。これで準備が整いましたわ」
モアは、ふわりとノクティスの横に舞い降りると、微笑んだ。ノクティスは、闇の女神の神具である指輪を身につけているためか、夜気を吸ってもダメージを受けないようで、愉快そうに口の端を上げた。
「印付きが二人、か。今夜こそ、儀式を成功させてみせる」
ノクティスは言うと、両手をレオニスへ向けて突き出した。
「――なにをして!?」
手のひらを向けられ、戸惑うレオニス。すると、膝をつくレオニスと横たわる父王アクイラを中心として、魔法陣が浮かび上がる。燐光で描き出されたそれは、初めて見る図柄だが、やけに古めかしいものだとレオニスは思った。
「我ここに、継承者の血と聖剣サンクトルーメを捧ぐ! 古の封印よ、その力を解き放ち、封じられし者を解放せよ!」
ノクティスは叫んだ。しかし、何も起きない。
「――?」
レオニスは、混乱しながら、同じように驚き戸惑うモアとノクティスを思わず凝視した。
「なんで!? なんで継承者の血と聖具が揃っているのに封印が解けないの!?」
モアが地団駄を踏んで憤る。ノクティスは、考えるように顎を撫でた。
「あるいは、捧げる血が足りない、か? もう少し切り刻んでみるとするか」
ノクティスは、言ってレオニスの方を見た。身構えるレオニス。しかし、もはやレオニスに、闘う力はほとんど残されていなかった。
(どうする――どうすればいい!?)
レオニスは何かないかと瞳を揺らす。しかし、助けとなりそうなものは見当たらない。
ノクティスが、残忍な笑みを浮かべ、ゆっくりとレオニスに向かって歩いてくる。
その時。
「ダメー!」
レオニスの前に金髪の小柄な少女が飛び出してきた。
「ステラ!?」
ステラは、純金の剣を構えて、レオニスを背にかばいノクティスと対峙する。
「レオニスが死んじゃう! これ以上、レオニスを傷つけたら、ステラが許さないんだから!」
「ほう? 貴様に何が出来る」
「うるさいうるさい! やっと見つけたステラを覚えていてくれる人! 絶対殺させたりなんかしない! レオニスはステラが守る! かかって来なさい!」
語気も荒くステラは叫んだ。驚いていたモアが、くすりと微笑んだ。
「ぶるぶる震えて、無理しちゃって。でもあたし、邪魔する女は大っきらい! 神兵達、行け!」
モアの号令で、倒れていた神兵達が再び起き上がり、ステラに向かって剣を振りかぶり押し寄せた。
「ステラ、危ない! 下がるんだ!」
レオニスの叫びを無視し、ステラは、剣を構える。
華奢な背中を見ながら、レオニスは戦慄する。このままでは、ステラは確実に死ぬ。また自分のせいで、罪のない命が奪われる。そんなこと、絶対に許せない。しかし、今の自分にはどうすることも出来ない。全身が焼けるように痛み、腹から流れ出る血が、地面に滴り落ちている。意識は朦朧とし、気絶しないように保つのがやっとだ。
(レクス神よ、天空の王。力を貸して下さい! この状況を打開する剣を僕に――!)
その刹那、ステラは燐光を帯びて輝いた。
「はあっ!」
ステラが剣を振り下ろすと、光刃が舞い、神兵達が四方に吹っ飛んだ。
「きゃあっ!」
ステラは自らが発した風圧に驚き、尻餅をつく。後ろにいたレオニスも巻き込まれ、ステラを抱える形で尻餅をついた。
「!?」
「なんでっ!?」
ノクティスとモアも驚きに目を見張る。
そのとき、先ほどから輝いていた魔法陣が怪しく明滅し始めた。
「――なに? 何なの!?」
悲鳴を上げるステラ。ステラ自身、何が起こっているのか理解していないのだ。
「危ないっ!」
「きゃあ!」
レオニスのとっさの判断で二人が魔法陣の上から転がり出た瞬間、魔法陣から黒い光がほとばしる。
風が唸り、魔法陣は大量の闇を吐き出す。そして、最後に一人の男が現れた。
後ろで縛った白い長髪を風になびかせ、紅い瞳を光らせている。身長程もある大鎌を持った、人間でいうと三十代くらいの容姿の男だ。背が高く、筋骨たくましい。
「死の神、オルクス……!」
レオニスは驚愕に目を見開いた。古より恐れられて来た、悪しき神々の一人。そして、冥界の王にして最強の男。この国に生まれた者なら、絵画や壁画でその姿を一度は目にしたことがあるだろう。
「そんな――!」
ノクティスは、蔑んだ目で吐き捨てた。
「――兄上、あなたって人は!」
レオニスは、眼光鋭くノクティスを見やる。
「悔しいか。ならば、かかって来い! 儀式の前に軽く相手をしてやろう!」
ノクティスが父を殺し紅く光る剣をレオニスに向ける。レオニスはとっさに父の持っていた聖剣サンクトルーメを掴み、立ち上がった。
全身が熱を持って燃えるように熱い。しかし、不思議とレオニスはしっかりと立ち、兄と対峙し剣を構えた。
母を、そしてたった今父までもを殺した男を睨みつける。
「――僕は、僕はあなたを許さない!」
「だからどうした! 負け犬の遠吠えにしか聞こえぬぞ、レオニス! 来ないのならば、こちらから行くぞ!」
ノクティスは一息で間合いを詰めると、剣を振り下ろす。
「っく!」
レオニスはなんとか剣撃を受け止めた。衝撃が身体に響き、突き刺さるような痛みが襲う。つばぜり合いに押し負けそうになるのを、歯を食いしばって足を踏ん張った。
「るあああああああ!」
兄ノクティスは、必死の形相のレオニスを見て、口の端を釣り上げた。
「これで全力か? 隙だらけだぞ!」
言い放ったノクティスは、剣と剣が交差する部分を滑らせ、気付いた時にはその剣先はレオニスの喉元に突きつけられていた。
「――っぐ」
切っ先が喉に触れ、生暖かいものが首をつたう。
しかし、レオニスは半分朦朧としながらも、目を見開き兄を睨み据えた。
「ふん。諦めの悪いことだ」
ノクティスは言うと、剣を引いて間合いをとる。引き際に腹を浅く斬りさかれたレオニスは、傷を抑えて膝をついた。
「レオニス様!」
傀儡兵と戦っていたホークが、レオニスの危機に気付いて叫ぶ。デンテとアルサスも、操られていた神兵をすべて倒して駆けつけた。
「レオニス、大丈夫か!?」
「なんとか……」
デンテ、アルサス、ホークは間合いをとってノクティスを取り囲む。
ノクティスは面白くなさそうに口を開いた。
「命拾いしたな、レオニス。貴様を冥府に送るのは、儀式が終わった後だ!」
「儀式!? さっきから、なんのことだ!」
アルサスが問うが、ノクティスはそれには答えない。
「モア! いつまでかかっている!」
「はーい! ただいま参ります、ノクティス様! はあっ!」
「きゃあ!」
刹那、モアが放った特大の闇球が命中し、月の女神ルナは空中から撃ち落とされた。地面にルナが転がると、モアの紅い双眸が光る。
闇が蠢き、地底から沸き起こった闇がルナの身体を飲み込むと、ルナの姿が大聖堂から消失した。それと同時に、空に昇っていた月も姿を消す。
「黄昏よ、汝の時を連れ退け。我、闇夜と影を統べし者、闇の女神モア、ここに顕現する!」
漆黒の巻き毛が波打ち、逆立つ程の気がモアから発せられる。すると、窓から差し込んでいた日差しが全て失われ、聖堂内の灯りは蝋燭の光が残るのみとなった。
モアの発した夜気は月の消えた空を満たし、首都グラディウムを包み込んだ。
完全な夜の到来だ。
「日が暮れた――? うぐっ」
アルサスが、心臓を抑えて膝をつく。
「なんだこれ!? 苦し、い……」
「瘴気……!?」
デンテも、そしてホークもその場にくずおれる。レオニスは、血を流し熱を持つ脇腹を抑え、さらに夜気にあてられ息をするのもやっとの状態で、ノクティスを睨んだ。
「お待たせ致しました。ノクティス様! 月の女神を始末し、夜気を降ろしました。これで準備が整いましたわ」
モアは、ふわりとノクティスの横に舞い降りると、微笑んだ。ノクティスは、闇の女神の神具である指輪を身につけているためか、夜気を吸ってもダメージを受けないようで、愉快そうに口の端を上げた。
「印付きが二人、か。今夜こそ、儀式を成功させてみせる」
ノクティスは言うと、両手をレオニスへ向けて突き出した。
「――なにをして!?」
手のひらを向けられ、戸惑うレオニス。すると、膝をつくレオニスと横たわる父王アクイラを中心として、魔法陣が浮かび上がる。燐光で描き出されたそれは、初めて見る図柄だが、やけに古めかしいものだとレオニスは思った。
「我ここに、継承者の血と聖剣サンクトルーメを捧ぐ! 古の封印よ、その力を解き放ち、封じられし者を解放せよ!」
ノクティスは叫んだ。しかし、何も起きない。
「――?」
レオニスは、混乱しながら、同じように驚き戸惑うモアとノクティスを思わず凝視した。
「なんで!? なんで継承者の血と聖具が揃っているのに封印が解けないの!?」
モアが地団駄を踏んで憤る。ノクティスは、考えるように顎を撫でた。
「あるいは、捧げる血が足りない、か? もう少し切り刻んでみるとするか」
ノクティスは、言ってレオニスの方を見た。身構えるレオニス。しかし、もはやレオニスに、闘う力はほとんど残されていなかった。
(どうする――どうすればいい!?)
レオニスは何かないかと瞳を揺らす。しかし、助けとなりそうなものは見当たらない。
ノクティスが、残忍な笑みを浮かべ、ゆっくりとレオニスに向かって歩いてくる。
その時。
「ダメー!」
レオニスの前に金髪の小柄な少女が飛び出してきた。
「ステラ!?」
ステラは、純金の剣を構えて、レオニスを背にかばいノクティスと対峙する。
「レオニスが死んじゃう! これ以上、レオニスを傷つけたら、ステラが許さないんだから!」
「ほう? 貴様に何が出来る」
「うるさいうるさい! やっと見つけたステラを覚えていてくれる人! 絶対殺させたりなんかしない! レオニスはステラが守る! かかって来なさい!」
語気も荒くステラは叫んだ。驚いていたモアが、くすりと微笑んだ。
「ぶるぶる震えて、無理しちゃって。でもあたし、邪魔する女は大っきらい! 神兵達、行け!」
モアの号令で、倒れていた神兵達が再び起き上がり、ステラに向かって剣を振りかぶり押し寄せた。
「ステラ、危ない! 下がるんだ!」
レオニスの叫びを無視し、ステラは、剣を構える。
華奢な背中を見ながら、レオニスは戦慄する。このままでは、ステラは確実に死ぬ。また自分のせいで、罪のない命が奪われる。そんなこと、絶対に許せない。しかし、今の自分にはどうすることも出来ない。全身が焼けるように痛み、腹から流れ出る血が、地面に滴り落ちている。意識は朦朧とし、気絶しないように保つのがやっとだ。
(レクス神よ、天空の王。力を貸して下さい! この状況を打開する剣を僕に――!)
その刹那、ステラは燐光を帯びて輝いた。
「はあっ!」
ステラが剣を振り下ろすと、光刃が舞い、神兵達が四方に吹っ飛んだ。
「きゃあっ!」
ステラは自らが発した風圧に驚き、尻餅をつく。後ろにいたレオニスも巻き込まれ、ステラを抱える形で尻餅をついた。
「!?」
「なんでっ!?」
ノクティスとモアも驚きに目を見張る。
そのとき、先ほどから輝いていた魔法陣が怪しく明滅し始めた。
「――なに? 何なの!?」
悲鳴を上げるステラ。ステラ自身、何が起こっているのか理解していないのだ。
「危ないっ!」
「きゃあ!」
レオニスのとっさの判断で二人が魔法陣の上から転がり出た瞬間、魔法陣から黒い光がほとばしる。
風が唸り、魔法陣は大量の闇を吐き出す。そして、最後に一人の男が現れた。
後ろで縛った白い長髪を風になびかせ、紅い瞳を光らせている。身長程もある大鎌を持った、人間でいうと三十代くらいの容姿の男だ。背が高く、筋骨たくましい。
「死の神、オルクス……!」
レオニスは驚愕に目を見開いた。古より恐れられて来た、悪しき神々の一人。そして、冥界の王にして最強の男。この国に生まれた者なら、絵画や壁画でその姿を一度は目にしたことがあるだろう。
「そんな――!」
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