太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

1 結界のある村

 月のない闇夜を、レオニス、デンテ、ステラ、ホークの四人は、風を切って飛んだ。眼下を見下ろすと、死の神オルクスが呼んだ亡者達はが、首都グラディウムの街にも溢れ、市民達を襲っていた。瘴気を含んだ毒の夜気を吸い、弱っているところを亡者に襲われてはひとたまりもない。人々は混乱し逃げ惑っている。

 しかし、苦しく思ってもレオニス達にはどうすることも出来ない。亡者達の数が多すぎる上に、無限に現れるからだ。今はただ、厄災の中心、死の神オルクスのいる首都グラディウムから逃げるのみだ。

 レオニスは、あばらを折ったことから熱で朦朧とする意識をなんとか保っていた。

「っく。やっぱり4人で飛ぶのはキツイですね。夜気を吸いすぎました。そろそろ限界のようです。確か、もう少し行ったところに神殿のある村があったはず……そこで降りますよ」

 ホークが言ったのは、首都グラディウムからほど近い街道沿いの村のことだろう。レオニスとデンテは、グラディウムへ行く道中通り過ぎたので覚えがあった。確かカウポナという、人口の少ない平和で小さな村で、グラディウムに近いことから宿場町でもある。

 ホークは最後の力を振り絞って、浮遊の魔法を使う。スピードはいくらか減じたが、それでも馬を駆るよりは速く、空を駆ける。街道や木々を眼下に見ながら、北上していった。

 あっという間にカウポナが見えて来た。

「おかしいな。松明の灯りが見える――って、あれは!」

 デンテが叫ぶ。

 無理もなかった。村の境界線辺りに亡者が群れをなしていたからだ。松明は村人が焚いたもので、亡者達が村に入ってこないように見張っているようだ。

 デンテが舌打ちする。

「こんなところにまで! ステラ、手離せ!」
「え? でも……」

 躊躇するステラにデンテは口の端を釣り上げて叫んだ!

「いいからっ!」
「もう! 知らないからね!」

 ステラが手を離した瞬間、ホークの浮遊の魔法から解放されたデンテは、引力に導かれ亡者達の蠢く中心に落下していった。

「くそったれがああっ!」

 吠えると、デンテは亡者達の頭を叩き斬った。断末魔の叫びを上げて、亡者は倒れる。頭を潰された亡者は、再び起き上がることはないようだ。

 デンテは次々と亡者達を仕留めて行く。

 それを見たレオニスも、

「僕も行く」

 呟くと、ホークの肩に担がれていた腕を離すと、自ら敵地へ飛び降りた。聖なる力を失った聖剣サンクトルーメを抜くと、亡者の顔面に叩きつけた。

 鈍い音を奏で、亡者の顔面が穿たれる。魔法の力は扱えなくても、打撃、斬撃の武器としては聖剣は申し分ないようだ。レオニスも亡者達を狩っていく。

「あー! レオニスまで! 怪我してるのに!」

 ステラが足をバタバタさせて憤慨すると、ホークもため息をついた。

「仕方がないですね。私達も行きますよ!」
「うん!」

 ホークとステラはふわりと地上に降り立つと、戦列に加わった。

 ホークは敵兵から奪った鉄の剣で、そしてステラは純金制の宝剣から光の刃を出して戦った。

 オルクスを前にしていたグラディウムの大神殿とは違い、ここカウポナの亡者達は死んだらそれきりで新しく現れることはないようだ。半ばストレス発散かのように暴れまわる今のデンテとレオニスにかかれば、数分で決着がついてしまった。

 亡者達がすべて動かなくなると、レオニス達は村へと入った。

「おお! ありがとうございます! 私は村長のヴィレッジです。魔法をお使いになられるということは、どこぞの貴族様でいらっしゃいますか。我が村をお救い頂き、ありがとうございます! このお礼はなんなりと申し付けて下さい」

 村長と名乗る髭の男がレオニス達に近づいて来て言った。

「ありがとうございます。プルマと申します。そういう事でしたら、申し訳ないのですが、部屋を用意して頂けますか。怪我人がいます」

 ホークが答えると、村長は笑顔で頷いた。

「分かりました。用意させましょう。それにしても、今夜は新月の晩でもないはずなのに、亡者共がこんなに沸くなんて、私が村長を勤めてから初めてのことですよ。幸い村には三人の巫女がおり、毎晩交代で結界を張っておりましたゆえ事なきを得ましたが、恐ろしいことです。何かご存知ないですか?」

「いえ――私たちも何がなんだか……」

 ホークが言葉を濁すと、村長はがっかりとしたように溜息をついた。

「そうですか。分かりました。では、部屋にご案内します」

 村長の後について村の奥に進みながら、デンテがホークを肘でつつく。

「おい、良いのかよ。本当のこと言わなくて。今一番正確な事情知ってるのは俺達くらいだぜ」

「いいんです。事情を知りすぎていては怪しまれます。変に期待されて身動きが取れなくなると困るので、レオニス様のことは内密に致しましょう」

「そっか。そうだな」

 デンテは頷く。ステラに心配そうに見守られながら、レオニスも後に続いて歩いた。

 村長が案内してくれたのは、村一番の宿屋だった。男部屋二部屋と女部屋一部屋。しかし、女部屋の一部屋をステラが断ったので、二人部屋を二部屋用意してもらうことになった。

「お前、良いのかよ。せっかく一人部屋用意してくれるって言ってるのに」

 デンテが尋ねると、ステラは首を振った。

「ううん、いいの。ステラ、レオニスの看病したいし」

「なーんだ。デンテとレオニスの幼馴染カップルと、私達のけ者組が一緒になれると思って喜んでいたのに」

 ホークがうそぶくと、デンテが切れる。

「ああん? ふざけんなよ。誰がカップルだ誰が」

「おお怖い。それでは、私はそろそろ失礼させて頂きますよ。村の中の空気は清浄ですが、今夜は夜気を吸いすぎてもうフラフラです。レオニス様、お嬢さん。明日また会いましょう。おやすみなさい」

 ホークは軽やかに礼をすると、足取りもしっかりと用意されたもう一部屋へ向かった。

「ったく。調子の良い野郎だぜ。じゃあステラ、悪いけどレオニスを頼むな」

 そう言い残すと、デンテも部屋を後にした。

「うん。ばいばい」

 見送って、ステラは呟く。

 彼らにとって、次にステラに会う時は、ステラは一緒に死線をくぐり抜けた仲間ではなく、初対面の他人になっているだろう。記憶をなくされるというのは、そういうことだ。

 しかし、ステラは寂しそうな気配をすぐに断ち切ると、レオニスに振り返った。

「はい。包帯巻くから服ぬいで! ステラ体力には自信があるから、一晩中レオニスの看病してあげるからね!」

 笑顔を見せるステラに、レオニスは溜息をついた。痛む身体を動かして上着を脱ぎながら、口を開く。

「ステラ、僕は大丈夫だから、君も早く寝てくれ。いつ何が起こるかわからないんだから、いつでも動けるように体調は万全にしといてくれないと困る……てて」

「ほら、やっぱり痛いんじゃない! じっとしてて!」

 きつく言われ、レオニスは黙った。実際、ここまで無理をして来たが、意識は朦朧としているし、限界に近かった。大人しく村長から分けてもらった消毒薬を塗り包帯を巻かれると、レオニスは倒れるようにベッドに横になった。

 その額に、ステラが冷たい水を絞った布巾を乗せてくれる。

「レオニス、おやすみ。また明日も会えるよね」

 ステラが不安そうな顔でレオニスを見つめた。

「ああ……おそらく……」

 レオニスは、目を閉じた時にはもう意識を手放していた。

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