太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

3 これからのことについて

「そうです、レオニス様! 我々の手で死の神オルクスを封印し、地上に安寧を取り戻しましょう!」

 エイブスが身を乗り出す。

「ああ、やってやろうぜ!」

 デンテも拳を握った。ステラも両拳を握りしめ、頷いた。

「うん! ステラも頑張る!」

 一同が頷き合う。すると、エイブスが口を開いた。

「では、まずはオームに行きましょう」

「オームに?」

 レオニスが問いかけると、エイブスは頷いた。

「そうです。私がオームに帰れば、1万人の兵をすぐにでも用意できます。まずは拠点を構え、軍を編成し、こちらの兵力を整えましょう」

 しかし、これにはデンテが憤る。

「貴族だからって、上から命令すんなよ!? まずはアジトに帰ってリベルタスの皆の無事を確かめるのが先だ!」

 睨むデンテに、エイブスも負けずに言い返す。

「馬鹿言わないで下さい。レオニス様しか死の神オルクスを封印することは出来ないんですよ!? オルクスを封印しない限り、夜には亡者共が湧き出し続けます。神殿のある都市には結界があるとは言え、毎日毎日攻撃され続けてはやがて疲弊してしまうでしょう。例えオルクス封印が叶わなくとも、急いで軍議を開き、より危険な地域に兵を派遣しなければ、地上の人間はすぐに殲滅してしまいますよ!」

 反論につまるデンテの代わりに、今度はステラが声を荒らげた。

「エイブスは黙って! オームに行くなんてダメに決まってるよ! レオニスは怪我してるんだよ! 見て分からない!? こんな状態のレオニスをオームなんて遠いところまでどうやって運ぶの!? 身体がもたいないよ! 今だって苦しそうなのに。ステラは、レオニスの怪我が治るまで、ここでじっとしてるのが良いと思う!」

 きっと睨みつけるステラに、エイブスは女に弱いらしく、困惑したように頬をかいた。

「しかし、傷の癒えるのを待っている暇なんて私達にはありません。ことは一刻を争うのです」

「だから、そのためにも山に帰るのが先だって言ってんだろ!?」

 デンテが言って、そこでレオニスはデンテの提案の裏の意味に気付く。

「デンテ、ありがとう。確かに、シルヴァ様にお会いすれば、こんな傷一瞬で癒して頂ける。こんな傷だらけの今の僕では、軍議に参加しても士気を下げるだけで役に立たないだろう。それにこれ以上、仲間を見殺しにしてしまったら、僕は自分で自分が許せないよ。マラやパウルや、ムステラさんやラクーンさん、リベルタスのメンバー皆が心配だ。僕は、デンテの案に賛成する」

 レオニスが言うと、エイブスが首を傾げた。

「シルヴァ様……シルヴァ神? 森の女神の? 確かに森の女神にお会い出来れば、傷の一つくらい癒して頂けるかもしれませんが――。インペデ侯でもないのに、そんな簡単にお会い出来るんですか?」

 インペデ侯とは、森の女神シルヴァの御印を持つ紋章院貴族のことである。

 レオニスはエイブスに頷いた。

「ああ。ヴェンタス神はその本性が風だから、あまり人に姿を見せないんだっけ。でも、シルヴァ様はそうでもないみたいだよ。会いたいと思った時に会えるかは分からないけど、神域の森に間違って足を踏み入れた人間に、よく目撃されているみたいだ。あの人大雑把なところあるから」

「まるで知人みたいに話すんですね」

 エイブスの疑問には、デンテが答えた。

「ああ、よーく知ってる。リベルタスはシルヴァ様にはずっと世話になって来たからな」

「どういうことです?」

 首をかしげるエイブスとステラに、デンテが得意げに答えた。

「オパールのことだ!」

「オパール? オパールと言えば、確かリベルタス商会の主商品がオパールの宝飾品でしたね。ですが、それとシルヴァ様とどんな関係が?」

「そのオパールをくれてるのが、シルヴァ様なんだ。初めて頂いたのは、6年前。レオニスと俺が初めてシルヴァ様に出会った時だ。シルヴァ様はレオニスのことを気に入ってるから、レオニスが頼めば、いくらでもオパールを出してくれる。リベルタス商会が始まったのは、そのオパールを加工して売り始めたところからなんだぜ」

「そうでしたか」

 エイブスは頷くと、思案するように顎を撫でた。

「確かに、女神の力を仰ぐのは得策です。オームに行く前に、一度シルヴァ様のいる神域の森へ行ってみるのも悪くありませんね」

「ステラも、レオニスの怪我が治るなら、その森に行くのに賛成する!」

 片手を挙げて、ステラが賛成の意を表明したことで、全員の意見が一致した。レオニスは頷く。

「うん。じゃあ、さっそく明日の朝には出発しよう。なるべく早く出て、夜になる前に結界のある町に入らなきゃ、亡者達に出くわすからね。馬が買えると良いんだけど……」

「わかりました。手配しておきます」

 エイブスが承ると、デンテが疑わしげに眉をひそめた。

「手配しておきますってお前、金あんのかよ? 馬は高いぜ」

「プルマ家を舐めないで下さい。資金なんてどうとでもなりますよ。まあ、楽しみにしていて下さい」

 怪しく笑うエイブスに、デンテは半信半疑で頭をかいた。

「さっ! 話しがまとまったんなら、部屋から出てって! レオニスは休まなきゃなんだからね!」

 ステラはデンテとエイブスの背中を押して、部屋から追い出した。

* * *

 翌早朝、レオニスが宿を出ると、どうやって交渉したのか、エイブスは馬を2頭用意していた。

「おはようございます。レオニス様。申し訳ありません。2頭しか準備できませんでした。ですので、お怪我をされているレオニス様には、私の後ろに乗って頂きます」

 エイブスに言われ、レオニスは素直に頷く。

「わかった。頼むよ」

「お任せ下さい」

 エイブスが頭を下げる。それを見て、レオニスはかねてから思っていたことを指摘した。

「あの、エイブス様。そんなにかしこまらなくても良いですよ。僕は山育ちですし、御印を失ってからは魔法すら使うことができません。敬われるのが久々過ぎて、むず痒いというか……恐縮です」

「そんな、とんでもない。確かに今は魔法が使えない状態かもしれませんが、魔力を取り戻す方法を必ず見つけましょう。そうでなくてはオルクス封印は叶いません。レオニス様には、太陽王エイウスの再来として活躍して頂かなければならないのです。この地上の世界で、レオニス様にしか出来ないことです。そんなお方を敬うな、など、それこそこちらの方が恐れ多いですよ。むしろ、レオニス様が私のことを呼び捨てにして下さい! デンテですら私のことをエイブスと呼ぶくらいです。わかりましたね!」

 エイブスの猛反発にあい、レオニスはたじろぐ。

「――う。はあ。わかったよ、エイブス」

 レオニスが根負けすると、エイブスは満足げに微笑んだ。

「さあ、出発進行だよー!」

 元気いっぱいにステラが叫ぶ。見ると、ステラは早々に準備された馬にまたがっていた。

「はあ!? 何勝手に馬乗ってんだよ! お前は誰だ!?」

 デンテが怒鳴った。ステラは、ケロっとした顔で上を向き数秒思案し、口を開く。

「え? えっとー。レオニスの彼女だよ?」

「「はあ!?」」

 驚くデンテとレオニス。エイブスも驚いているようだが、声には出さなかった。

「ステラ!? 君、何言ってるんだよ! 僕は君と付き合った覚えはない!」

「えー!? だって、何度も説明するの面倒なんだもーん」

 ステラは、頬を膨らませて首を振った。

「はあ!? 何の話だよ!? この女はなんなんだ!?」

 混乱するデンテ。無理もない。呪いの影響でデンテとエイブスは、ステラのことだけ綺麗さっぱり忘れてしまっているのだから。

「よくわからんが、とにかく馬から降りろ! これは俺達がカースピット山に行くためのものなんだっ!」

 言うと、デンテはステラの腕を引っ張って引きずり下ろそうとする。ステラは抵抗した。

「いーやー! ステラも行くのっ! ステラ絶対レオニスの傍から離れないって決めたの!」

 見るに見かねて、レオニスが止めに入る。

「デンテ。待ってくれ。ステラは仲間だ。聖剣サンクトルーメの力をその身に宿している。戦力にもなるし、邪魔はさせない。だから、連れて行ってやってくれ」

「レオニスー! ありがとうー! 愛してるーっ!」

 ステラが瞳を輝かせてレオニスに礼を言うと、レオニスは照れて少し顔を赤らめながら、怒ったように口を開いた。

「ばか。昨日話しただろ!? 君には聖剣の力が宿ってるんだよ!? こんなところに放っておいて、兄上に見つかったりしたら、何をされるか分からない。君を守るってことは、聖剣を守るってことにも繋がるんだからね。ステラ、君も自覚して、自分の身を守ることを最優先に考えるんだよ!? 無闇に敵の前に飛び出したりしないこと。いいね!?」

 一息で言いステラに釘を刺す。しかし、当のステラには響かない。

「へーきへーきっ! ステラ、今まで武芸とか習ったことないけど、舞踏カルミナで運動神経鍛えてるから、戦闘になってもそれなりに戦えたもん! 聖剣の力も使えるなら、ステラ最強だよっ」

 未だ平らな胸を張り、得意げなステラに、レオニスは呆れる。

「だからって……」

「で? さっきから、何の話をしてるんだ!? わかるように説明しろよ!」

 レオニスとステラの会話を聞いていたデンテだが、痺れを切らして割り込んできた。しかし、ステラはデンテにそっぽを向く。

「えー? でもデンテ、説明してもすぐ忘れちゃうしなー。話すの面倒!」

「はあ!? 忘れねえよ! 忘れるわけないだろ! あほか。何言ってんだこいつ。レオニス、こいつ何言ってんだ?」

「いや、だから――ステラには人から忘れられる呪いがかけられてて……」

 デンテとホークにもう何度目かになるがまたしてもステラの事情を説明しながら、レオニスは上機嫌なステラを見やる。

(この呪いは、本当にきついな。ステラは平気そうな顔してるけど――)

 気の毒に思う気持ちを悟られないように、レオニスは説明に務めた。

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