太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜
4 リベルタスのアジト
街道沿いを北へ、三日馬で駆けた。その間にいくつか町を通り過ぎたが、夜中亡者達の群れに襲われるため、結界を張り、その上男達が寝ずの警備をしているため、どの町もどことなく空気が疲弊していた。エイブスの言うように、このままこんな状態が続けば、人間の殲滅も例え話ではなくなってしまうだろうことはステラにも容易に想像ができた。
不安に焦る心をなんとか静め、一行はとうとうカースピット山の麓に辿りついた。麓からはエイブスの飛行魔法で空を飛び、レオニスとデンテが所属する山賊団リベルタスのアジトへと向かった。馬で山を登ることは困難な上、徒歩で半日もの登山を重症のレオニスにさせる訳にはいかないと、エイブスが魔法を使うことを買って出たのだ。
夕暮れ時だった。
西に沈んでいく夕日を見ながら、一行はアジトへと急ぐ。
「いやな予感が的中だぜ。エイブス、急げ!」
山の中に突如現れる開けた土地に、大きなログハウスが建っているのが見えた時、デンテがいち早く気づき叫んだ。
建物の入り口付近で、数人の屈強な男たち、リベルタスのメンバーが、亡者達と戦っているのが見えたのだ。
「デンテ。そんなこと言うと、落としますよ」
「おう、望むところだ!」
「エイブス、僕からも頼む!」
レオニスにも頭を下げられて、エイブスはようやく頷いた。
「仕方ないですね。じゃあ、行きますよ!」
エイブスは言うと、4人は急降下して亡者達の群れの中に降り立った。
「デンテ! レオニス!」
リベルタスの男たちの歓声が沸く。
「さすがはレオニス! 魔法で飛んで帰って来るとは思わなかったぜ!」
「助かった! 4日前から亡者達が沸くようになって!」
「こいつら、叩いても斬ってもなかなか死なねえんだ! お前らも手伝ってくれ!」
口々に飛んでくる声にデンテとレオニスは頷く。
「任せとけ!」
「皆! 頭を狙って! 他はどこを斬っても意味がない!」
レオニスが叫ぶと、団員達はどよめいた。
「頭!? わかった!」
そして、鬨の声を上げて襲い来る亡者達の頭を片っ端から狩り始める。
「危ないっ!」
「きゃあ!」
ステラの背後に迫る屍人をレオニスが屠る。間一髪、危ないところを助けられ、ステラはドキドキとする鼓動を抑え、レオニスを振り返った。
「ありがとうー!」
「いや、君はまだ戦闘に慣れてないんだ。こいつらは死角を狙ってくるような知性は持ってないけど、気をつけて」
それだけ言うと、レオニスは額に脂汗をながしながら、次の獲物を狩りに駆けていった。
(レオニス、あんなに苦しそうなのに、ステラを助けてくれた……)
ステラは嬉しく思いながら、すぐに気持ちを切り替えて戦闘に集中する。ステラのでたらめに振るう純金の剣は、光の刃となって次々と亡者達を浄化していった。
勝敗はすぐに決まった。
リベルタスメンバーの圧勝だった。亡者達の屍の山が築かれている。
「皆、無事か!?」
デンテが問うと、玄関で弓を射ていた男が怒鳴り返した。黒の顎ひげを生やした右足が義足の大男である。
「無事だ! ここにいるのは全員な。マラとパウルはインペデに使いを出したきり、戻ってこない。明日には帰るだろうがな」
「ムステラのおっちゃん!」
デンテとレオニスが駆け寄った時、玄関の扉が開き、中から亜麻色の髪の三十くらいの女が飛び出してきた。そして、その勢いのまま、デンテに抱きついた。
「デンテ! おかえり! よく帰ったね!」
「か、かあちゃん!」
デンテが驚いて叫ぶ。
「あたしゃ、心配したんだよ。急にこんな亡者ばっかりうじゃうじゃ湧いて出てくるようになって。あんた達の身に何かあったらと思うと――」
「……」
デンテは言葉を返せず、黙って母の背中を叩いた。
ムステラは上機嫌でレオニスの頭を撫でた。
「でかしたぞ、ガキ共。亡者共め、なかなかくたばらないから難儀してたんだ。頭が弱点だなんてよくわかったな。俺達は蘇ってこなくなるまで全身メッタ刺しにしてたくらいだ」
がははと豪快に笑うムステラの顔を見ていられなくなったのか、レオニスは顔を伏せた。
「――団長が……。団長が、教えてくれたから……」
俯いて何かにじっと耐えるようにしているレオニスを見て、ムステラは不思議そうに首を傾げた。
「アルサスが? さすがあいつだな。そういえば、その本人の姿が見えないが? お前たちだけ先に帰るように言われたのか?」
「…………」
思いがけず無言の返事が返ってきて、ムステラはそこで初めて異変に気づく。そして、よぎる最悪のシナリオを否定するかのように首を振った。
「いや、まさかな。あいつに限ってそんなはずはない。なんたって最強の男だからな。百人でかかって来たって負けやしねえ……。なあ、そうだろ?」
ムステラの問いかけに、デンテがくぐもった涙声で答えた。
「ごめん、おっちゃん。……俺、俺、団長を、団長だけ置いてきちまった。っう、うう」
そこまで言って、デンテは抑えていたものが決壊したのか涙をぼろぼろとこぼして泣き始めた。母ラクーンが直立不動で泣き出したデンテのその頭に手を伸ばして優しくなでる。そして、ラクーン自身も涙をこぼした。
「待ってくれ。どういうことだ!?」
混乱するムステラに、レオニスが俯いたまま答えた。
「団長は……僕らを逃がすために敵と戦ってくれて……死にました。僕の異母兄――ノクティスが、死の神オルクスの封印を破り……オルクスが呼んだ亡者達に取り囲まれて……。団長は、団長は僕らを守って! 僕らの目の前で……っ! 魔法で操られた沢山の剣に襲われて……! 団長がいなかったら、僕らはここに帰って来ることは出来なかったっ!」
震えて涙をこぼすレオニス。それを見て、ようやくムステラは事態を察した。周りで聞いていたリベルタスメンバーがどよめく。
「団長が……死んだ?」
「そんな訳あるかよ!」
口々に叫ぶ声が広がり、やがてそれが現実だということが浸透してくると、どこからともなくすすり泣く声が響き始めた。
「団長っ団長がっ! リベルタスを、たの、頼むって、言った、から……っ! 俺、戻って来た――っ! 皆に合わす顔ない、って思っ、思った、けど! 俺、絶対、リベルタスを守る、から! オルクスなんかに負けねえから!」
号泣しながら、デンテは叫ぶ。
「わかった。もういい。黙ってろ!」
オルクスがデンテに叫ぶと、デンテの慟哭は激しさを増した。
それを見て、ステラも一緒に涙を流した。エイブスだけは涙を流しはしなかったが、心中を察せられるだけに、苦しそうにそれを見ていた。
日はとっくに暮れて、四日連続で月のない夜を迎えていたが、それを指摘する声もなく、ただただ、アジトは悲しみに包まれていた。
不安に焦る心をなんとか静め、一行はとうとうカースピット山の麓に辿りついた。麓からはエイブスの飛行魔法で空を飛び、レオニスとデンテが所属する山賊団リベルタスのアジトへと向かった。馬で山を登ることは困難な上、徒歩で半日もの登山を重症のレオニスにさせる訳にはいかないと、エイブスが魔法を使うことを買って出たのだ。
夕暮れ時だった。
西に沈んでいく夕日を見ながら、一行はアジトへと急ぐ。
「いやな予感が的中だぜ。エイブス、急げ!」
山の中に突如現れる開けた土地に、大きなログハウスが建っているのが見えた時、デンテがいち早く気づき叫んだ。
建物の入り口付近で、数人の屈強な男たち、リベルタスのメンバーが、亡者達と戦っているのが見えたのだ。
「デンテ。そんなこと言うと、落としますよ」
「おう、望むところだ!」
「エイブス、僕からも頼む!」
レオニスにも頭を下げられて、エイブスはようやく頷いた。
「仕方ないですね。じゃあ、行きますよ!」
エイブスは言うと、4人は急降下して亡者達の群れの中に降り立った。
「デンテ! レオニス!」
リベルタスの男たちの歓声が沸く。
「さすがはレオニス! 魔法で飛んで帰って来るとは思わなかったぜ!」
「助かった! 4日前から亡者達が沸くようになって!」
「こいつら、叩いても斬ってもなかなか死なねえんだ! お前らも手伝ってくれ!」
口々に飛んでくる声にデンテとレオニスは頷く。
「任せとけ!」
「皆! 頭を狙って! 他はどこを斬っても意味がない!」
レオニスが叫ぶと、団員達はどよめいた。
「頭!? わかった!」
そして、鬨の声を上げて襲い来る亡者達の頭を片っ端から狩り始める。
「危ないっ!」
「きゃあ!」
ステラの背後に迫る屍人をレオニスが屠る。間一髪、危ないところを助けられ、ステラはドキドキとする鼓動を抑え、レオニスを振り返った。
「ありがとうー!」
「いや、君はまだ戦闘に慣れてないんだ。こいつらは死角を狙ってくるような知性は持ってないけど、気をつけて」
それだけ言うと、レオニスは額に脂汗をながしながら、次の獲物を狩りに駆けていった。
(レオニス、あんなに苦しそうなのに、ステラを助けてくれた……)
ステラは嬉しく思いながら、すぐに気持ちを切り替えて戦闘に集中する。ステラのでたらめに振るう純金の剣は、光の刃となって次々と亡者達を浄化していった。
勝敗はすぐに決まった。
リベルタスメンバーの圧勝だった。亡者達の屍の山が築かれている。
「皆、無事か!?」
デンテが問うと、玄関で弓を射ていた男が怒鳴り返した。黒の顎ひげを生やした右足が義足の大男である。
「無事だ! ここにいるのは全員な。マラとパウルはインペデに使いを出したきり、戻ってこない。明日には帰るだろうがな」
「ムステラのおっちゃん!」
デンテとレオニスが駆け寄った時、玄関の扉が開き、中から亜麻色の髪の三十くらいの女が飛び出してきた。そして、その勢いのまま、デンテに抱きついた。
「デンテ! おかえり! よく帰ったね!」
「か、かあちゃん!」
デンテが驚いて叫ぶ。
「あたしゃ、心配したんだよ。急にこんな亡者ばっかりうじゃうじゃ湧いて出てくるようになって。あんた達の身に何かあったらと思うと――」
「……」
デンテは言葉を返せず、黙って母の背中を叩いた。
ムステラは上機嫌でレオニスの頭を撫でた。
「でかしたぞ、ガキ共。亡者共め、なかなかくたばらないから難儀してたんだ。頭が弱点だなんてよくわかったな。俺達は蘇ってこなくなるまで全身メッタ刺しにしてたくらいだ」
がははと豪快に笑うムステラの顔を見ていられなくなったのか、レオニスは顔を伏せた。
「――団長が……。団長が、教えてくれたから……」
俯いて何かにじっと耐えるようにしているレオニスを見て、ムステラは不思議そうに首を傾げた。
「アルサスが? さすがあいつだな。そういえば、その本人の姿が見えないが? お前たちだけ先に帰るように言われたのか?」
「…………」
思いがけず無言の返事が返ってきて、ムステラはそこで初めて異変に気づく。そして、よぎる最悪のシナリオを否定するかのように首を振った。
「いや、まさかな。あいつに限ってそんなはずはない。なんたって最強の男だからな。百人でかかって来たって負けやしねえ……。なあ、そうだろ?」
ムステラの問いかけに、デンテがくぐもった涙声で答えた。
「ごめん、おっちゃん。……俺、俺、団長を、団長だけ置いてきちまった。っう、うう」
そこまで言って、デンテは抑えていたものが決壊したのか涙をぼろぼろとこぼして泣き始めた。母ラクーンが直立不動で泣き出したデンテのその頭に手を伸ばして優しくなでる。そして、ラクーン自身も涙をこぼした。
「待ってくれ。どういうことだ!?」
混乱するムステラに、レオニスが俯いたまま答えた。
「団長は……僕らを逃がすために敵と戦ってくれて……死にました。僕の異母兄――ノクティスが、死の神オルクスの封印を破り……オルクスが呼んだ亡者達に取り囲まれて……。団長は、団長は僕らを守って! 僕らの目の前で……っ! 魔法で操られた沢山の剣に襲われて……! 団長がいなかったら、僕らはここに帰って来ることは出来なかったっ!」
震えて涙をこぼすレオニス。それを見て、ようやくムステラは事態を察した。周りで聞いていたリベルタスメンバーがどよめく。
「団長が……死んだ?」
「そんな訳あるかよ!」
口々に叫ぶ声が広がり、やがてそれが現実だということが浸透してくると、どこからともなくすすり泣く声が響き始めた。
「団長っ団長がっ! リベルタスを、たの、頼むって、言った、から……っ! 俺、戻って来た――っ! 皆に合わす顔ない、って思っ、思った、けど! 俺、絶対、リベルタスを守る、から! オルクスなんかに負けねえから!」
号泣しながら、デンテは叫ぶ。
「わかった。もういい。黙ってろ!」
オルクスがデンテに叫ぶと、デンテの慟哭は激しさを増した。
それを見て、ステラも一緒に涙を流した。エイブスだけは涙を流しはしなかったが、心中を察せられるだけに、苦しそうにそれを見ていた。
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