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太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

7 鎮魂歌

 大鹿に乗ったレオニスとデンテを見送った後、ステラとエイブスはラクーンに呼ばれて食堂へと案内された。

 朝食として用意されていたのは、ふかしたじゃが芋とチーズ、そしてソーセージの入ったレンズ豆のスープである。昨晩と同じメニューだが、二人はありがたく頂くことにした。

「ふわー。このじゃが芋? チーズと一緒に食べるとすごいおいしー! ほくほくしてて、チーズがとろっと溶けて伸びーる!」

 チーズのかかったふかし芋を頬張って、ステラは満面の笑顔を浮かべた。

「そうかい? 芋は先月植えた春蒔き用の種芋のあまりで、南の方で採れた秋蒔き芋だから新鮮でもないし、そんなに感動するようなもんでもないんだけどねえ」

 対面に座ったラクーンがそう言うと、ステラは大きく首を横に振った。

「ううん、美味しい! ステラ、じゃが芋食べたの初めて!」

「じゃが芋をかい? じゃああんた、普段一体何を食べて来たんだい?」

 息子のデンテと同じ濃い茶の目を見開いて驚くラクーンに、ステラは首を傾げた。

「うーん。普段はパンとかチーズかなあ? お金がなくてどうしようもない時は遠出して野原に生えてる草とか摘んで食べたり……。あ、でも踊りカルミナの路上ライブで投げ銭をはずんでもらった時には、ちょっと豪華にサティタスでトマトと鰯のスープとかあさりのパスタとか食べたりもしたよ!」

「サティタス?」

 ラクーンが首を傾げると、エイブスが目を輝かせて口を開いた。

大衆食堂ビストロサティタス。オームで有名な大衆食堂ビストロですよ。いやあ、ステラさんがサティタスで食事したことがあるなんて、なんだか嬉しいなあ。私もお忍びでよく食べに行きましたよ! 料理は美味しいし、店主はゴツいけど粋な男で、店内はいつも人であふれて活気があって! 私はあの店の揚げ物フリッティに目がありません!」

「エイブスもサティタスに行ったことあるの? 侯爵令息なのに意外! ステラも揚げ物フリッティ頼んだことあるよ。ステラはイカとズッキーニが好きだったな」

「イカとズッキーニ! 私もイカとズッキーニ好きですよ! あと日替わりでたまに入る茹でうずら卵とチーズも外せません!」

 エイブスのテンションの上がり方に驚いてステラが目をぱちくりしていると、ラクーンが感心したように頬をなでた。

「へえ! あんた達二人ともオームの出身かい? あそこは海が近いらしいからねえ。魚介なんて山では手に入らないから、あたしゃ逆にイカなんて食べたことないよ。そんなに美味しいのかい?」

 問われて、ステラとエイブスは顔を見合わす。

「イカを食べたことがないなんて、人生損してますよ! 揚げてレモン汁をかけたら最高です!」

 エイブスが強く勧めると、ステラはこらえきれずに吹き出した。

「エイブス、そんなに揚げ物フリッティが好きなのっ。あれ、サティタスでも安いメニューなのに! 貴族のくせに庶民的!」

「そうですか? いいじゃないですか、庶民的なもの。私は、城から抜け出して市民に紛れて街を歩くのが好きでして。踊りカルミナも城の広間や劇場で大々的に行われる堅苦しいショーよりも、路上ライブで見習いの踊り子達が腕を競っているのを見る方が数倍楽しいと思うんですよねえ。父上にはもの好きと言われましたが」

 苦笑するエイブスが、実は路上ライブをする踊り子を身分を偽ってナンパしたりしていたとは微塵も思わないステラは、エイブスの言葉にまんざらでもない笑顔を浮かべた。

「まあね! オームはカルミナ発祥の地だからね! 皆レベル高いよ! まあ、その中でもステラが一番だけどねっ」

「へーえ。あんたそんなにカルミナ上手なのかい? それなら、ぜひ観せてもらいたいね。そこで踊っておくれよ」

 ラクーンが促すと、エイブスも身を乗り出した。

「いいですねえ! 私もぜひ観せて頂きたいです!」

 エイブスは一度ステラの踊っているところを見たことがあるのだが、すっかり忘れて期待に胸をふくらませている。ステラは未だ平らな胸を張り、得意気に頷いた。

「えー? しょうがないなあ。じゃあ、見てて!」

 言うなり、ぴょこんと椅子から立ち上がると、テーブルと壁の間のちょっとしたスペースに躍り出て、スカートの裾を少し持ち上げ優雅に一礼をする。

 そして、口を開いた。

 高く澄んだ歌声が食堂に響く。長く伸びる声がメロディを奏でると、食堂にいた他の団員達も何事かと歌うステラを注視し始める。自然、喋り声は静まり、息を飲んでステラを見守る体勢が整ったとき、見計らったようにステラは両腕と片足を上げて羽ばたくように踊り始めた。

 天使が舞うように飛び跳ね、くるくると回るとふわりとスカートが広がる。細くしなやかな腕と足が神秘的に躍動し、見ている者の心を魅了した。

「――鎮魂歌ですね」

 エイブスがほうと溜息をつくと、ラクーンはおもむろに立ち上がる。そして、壁際に置いてあった大きな竪琴の前に座ると、ステラの歌声にかぶせるようにその琴線を弾いた。

「ルーパス、お前も弾けよ!」

 団員達に催促されて、筋骨たくましい男が壁にかかっていたリュートを手に取りかき鳴らし始める。竪琴とリュートの二重奏にあわせて、楽器を持たない団員達は歌いだす。一人が歌い始めると、伝染するように、たちまちその場にいた二十人ばかりの大合唱になった。

 ステラは微笑を浮かべると、ますます激しく、美しく舞ってみせた。リベルタスのアジトの食堂は、今や完全にステラのためのダンスホールに変わっていた。

* * *

 一曲踊ると、団員達の拍手が起こった。

「素晴らしい舞でした。こんなに美しいカルミナを見たのは初めてです! オームで1番を自負するだけのことはありますね!」

 瞳を輝かせてエイブスがステラに駆け寄ると、ステラは照れたように微笑んだ。

「まあね! よく言われる! そして、次会った時もすっかり忘れてまた同じこと言われる――うう」

 そして、途中から自虐的になり、涙目で壁に寄りかかっていじけ始めた。

「すみません。そうでしたね、呪いがあったんでした。軽率な発言で傷つけてしまったのならすみません。でも、あまりの美しさに、私は貴方に恋に落ちてしまいました! きっと、何度忘れても、この踊りを見たらまた恋に落ちると思います、ステラさん!」

 エイブスは団員達の面前で恥ずかしげもなく言い放つと、片足をついてステラを見上げた。ステラは、そんなエイブスを半眼で見やり、溜息をついた。

「ありがとー。でも、どうせ次会った時忘れてるからー。気持ちだけ受け取っとくねー」

 棒読みの声で答えると、さらに凹んで壁にへばりついたステラに、さらにモーションをかけようと身を乗り出したエイブスの首根っこを、ラクーンが捕まえて引き戻した。

「オームの男はチャラいって聞くけど、本当だったみたいだねえ。やめときよ。嫌がってるじゃないか」

「失礼な! ステラさんは恥じらっているだけです! でも、確かにしつこい男は嫌われますからね。徐々に距離を縮めていくことにします」

 上機嫌で頷いたエイブスに、ラクーンはやれやれと溜息をついた。

 その時、食堂の入り口の扉が勢いよく開いた。

「エイブス、ステラ、いるか!?」

 緊張した面持ちのレオニスとデンテが部屋になだれ込んでくる。

「急げ! インペデへ行くぞ! マラとパウルの命が危ない!」

「ええ!?」

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