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太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

9 それぞれの朝・Ⅱ

 カースピット山の麓にある都市、インペデ。人口10万人ほどで、人口はそれなりだが山に囲まれた他は特に何もない都市である。徒歩で6日の距離を離れた首都グラディウムとの交易で生計を立てている。

 寒冷な土地のため小麦の生産量も低く、周辺の村はじゃが芋農家が多い。農家は長男以外は畑を継げない。従って、あぶれた他の兄弟達はグラディウムか、インペデに職を求めてやってくる。

 農民出の市民は、植物を司る森の神であるシルヴァ神の信仰者が多い。従って、シルヴァ神のインペデ大神殿は力を持つようになった。

 都市の最北、森との境にある小高い丘に立つその大神殿は、天にそびえるように高い白亜の柱で支えられており、それは見る者に溜息をもたらす程に美しい。

 いつもなら静謐な空気が漂うはずのそこは、しかし、数日前から緊張感の漂うピリピリとした空気に包まれていた。

 正面入り口に見張りとして立つ神兵達にも疲れが見え始めている。何しろ、彼らはここ数日ろくに眠っていないのだ。しかし、いつ敵が襲ってくるか分からない。よって、彼らはひと時たりとも気が抜けないのだ。

 そう、彼らは戦闘態勢にあった。

 夜は結界の外から都市に侵入して来ようとする亡者達を退け、また昼は、古にシルヴァ神より授けられた聖笛グローリアをよこせと宣戦布告してきた、領主インペデ侯爵ウッド率いるインペデ兵達との戦闘がある。

 インペデ兵との戦闘は今のところ小競り合い程度で、大した損害は出ていないが、いつ現れるか分からないインペデ軍を一日中警戒していなければならず、神兵達は休息をとる暇がない。

 交代で睡眠をとってはいるが、その厳戒態勢も6日目となれば、神兵達も憔悴してきていた。

 今、この大神殿には神兵が2000人いる。そのうち、負傷者が100名。そして、半分が一晩中亡者達と戦ってきて、先ほど眠りに就いたばかりだ。神兵達もふだんは街にそれぞれ自宅があるのだが、緊急時につき、大聖堂に藁で作った簡易ベッドを敷きつめ、雑魚寝をしている。

 負傷者の看病は、神兵達の家族や、町医者などが行っていた。彼らはこの緊急時に自ら手を挙げ、都市の住民のため、無償で奉仕をしているのだった。

 そして、その中にマラとパウルの姿もあった。

「マラ姉ちゃん、消炎に使うヒガンバナの地下茎って、飲むんだっけ? 塗るんだっけ?」

 若干11歳の鉄錆色の髪をした少年が、肩につかないくらい短く切りそろえたうす茶色の髪の少女に問いかけた。少女は団長アルサスと同じ榛色の目を驚きに見開き、慌てて少年を振り返る。

「パウル、絶対飲ませちゃダメよ! 毒だからね。ヒガンバナの地下茎は、生のまますりがねでおろして、直接塗って湿布すれば大丈夫よ。いい、絶対飲ませちゃダメだからね」

 きっちり念を押すと、パウルは元気よく頷いた。

「ほーい! お医者さーん! すりがね余ってなーい!?」

 元気よく駆けていくパウルを見送って、マラは溜息をついた。大丈夫かな、と心配に思いながらも、分からないことを質問するだけパウルは賢いわね、と思い直し包帯を巻きなおす作業に戻った。すると、目の前の患者から声がかかる。

「すまないね、お嬢さん。昨日からずっと働き詰めだろう。お家に帰らなくても大丈夫かい?」

 三十代後半の男は、今朝方誤って亡者に足を噛まれ、仲間の兵士に担がれてこの神殿に帰ってきたばかりだ。出血がひどく、こうして包帯を取り替えているのである。

 マラは、痛みでそれどころではないだろう神兵の心遣いが嬉しくて、安心させるように微笑んだ。

「大丈夫です。家には、わたしよりもっと医学に詳しい人がいますので、心配いりません!」

 マラの言ったのはムステラのことだ。マラに限らずデンテやレオニス達リベルタスの子供は皆ムステラに薬草の知識を叩き込まれている。

「いや、そうじゃなくて。こんな戦いの中心地にいて親御さん達が心配してるだろう?」

 首を傾げた神兵の言葉に、マラは考え込む。

「う~ん。わたし、親は赤ちゃんの頃に死んじゃったからいないんです」

「あ、そうだったのかい。悪いことを聞いちゃったね」

「いえ、いいんです。皆と一緒に住んでるから全然寂しくないんで。そうですね、親はいないけど、お兄ちゃんならいますよ。でも、今お兄ちゃんは幼馴染二人を連れて、グラディウムに行ってるんです」

「グラディウムへかい!? 噂ではグラディウムは今大変なことになってるらしいじゃないか。結界が破れて、街の中にも亡者が沸いたとか。それで、いまグラディウムからの難民がこの街にも流れてきているっていうのに」

 つい驚いて口を滑らせてしまったことに神兵は気づいたが、マラは微苦笑で答えた。

「はい。大変みたいですね。でも、大丈夫です! お兄ちゃんも、デンテとレオニスもとっても強いから! だから、亡者なんかひとひねりですよ! きっと、無事に帰ってきてくれます」

 そして、マラはふわりと笑った。

「わたし、だからそのために、ここに来たんです。シルヴァ様に三人のご加護を頂くために、お祈りに来たんですよ」

 そう、マラはムステラにアジトの薬草棚に足りなくなった薬草を買ってくるようお使いを頼まれた時、二つ返事で承諾したのは、お使いのついでにここインペデ大神殿でアルサス、デンテ、レオニスの無事を祈るためだった。

 一人でも大丈夫だと言うマラに、パウルが「オレがマラ姉ちゃんのボディーガードになってやるよ!」と言ってついて来た。

 そして、やって来たインペデ大神殿では連日の戦闘で負傷者が絶えず、人手が足りないという現場に遭遇したのだ。お人好しなところのあるマラは、一も二もなく救護の手伝いを始めた。そのせいで、日帰りで帰る予定が延長して、大神殿に泊まり込むことになってしまったのだが、マラ本人はそれを特に気にしていない。

 兄は山賊団の団長などをしているが、元々は兄妹ともに孤児だった。それもあり、孤児や寡婦、怪我人などの頼る者のない者がいれば手を差し伸べ、力を合わせて生きてきた。だから、マラは基本的に困った時はお互い様という考え方なのだ。

 アジトの仲間は、多少心配しているかもしれないが、話せば分かってくれるだろう。それよりは、人命救助の方が優先。

 きっと、話を聞いたら兄も褒めてくれるだろう。と思っていた。

 マラの信念は揺るぎない。だから、その笑顔に迷いはなかった。

 神兵は、その笑顔に癒されて、自らも微笑んだ。

「そうかい。じゃあ、気の済むまで祈ったら、日が暮れる前に家に帰るんだよ。ここは危険だからね」

「はーい」

 マラは頷くと、次の患者の元へと駆けていった。

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