太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

11 城内潜入

 西門の門番を任されている男は、茶髪の利発そうな少年と小柄な金髪の少女が城門へと近づいてくるのに気付いた。

「すみません。こちらで、犯罪者を預かって頂けると聞いて参りました」

 茶髪の少年はそう告げると、緊張した顔で門番の男を見た。

「ああ。確かに。こちらで受け付けているが……、まさか、その娘が犯罪者だと言うのか?」

 門番が不審に思い問いかけると、茶髪の少年は頷いた。

「はい。この女、メルケーター・ディべス・ナンモラン様のお屋敷から宝飾品を数点盗んだ窃盗犯なんです。処罰をお願いできますか?」
「また、ディべス氏か……」

 門番はディべスを知っていた。富豪だが、ケチで細かいことをネチネチと恨みに持つタイプの男で、商売上の契約不履行などの小犯罪があると、すぐにここに人を連れてくることで、仲間内で話題になっていたからだ。この忙しいのに小さな犯罪で手間をかけさせやがって、とは内心で思いながらも、富豪の依頼を無碍には出来ない。門番の男は頷くと、部下に目配せした。

「うむ。わかった。では、私が預かろう。裁判の日取りが決まったら、ディべス邸へ使いを出そう。ご苦労だったな。もう帰って良いぞ」

 少女の手首を縛っている縄を少年から預かると、少年は一瞬ホッとしたような顔になり、

「では、宜しくお願いします」

 と頭を下げると、帰っていった。

「では、娘を地下牢へ運んでくる。その間一人になるが、気を抜くなよ」

 部下が敬礼で返すのに頷き、門番の男は少女を連れて、城門をくぐった。窃盗犯の少女は、抵抗することなく大人しくついて来た。

 庭の芝は短く刈り込まれているが、若草の緑が美しい。花壇には色とりどりの春の花が咲き乱れており、庭師の腕の確かさが伺い知れた。何度見ても美しい庭の、石畳の上を歩き、城内へと入る。

 男は武術に覚えがあった。並の男なら一度に十人でも相手に出来るという自負もある。その腕を見込まれて、王国の要グラディウム城の西門を守るリーダーに選ばれたのだ。故に、男はこの時、完全に油断していた。その油断があだとなった。

 城内に入ったとたん、少女が全力で駆け出したのだ。手にして引っ張って来た縄が解けて、地面に垂れ下がっている。少女の手首を縛っていたはずの縄が。

「なっ! 待て貴様っ!」

 男はもちろん慌てて追いかけた。しかし、少女の足は早かった。廊下を駆け抜け、一番最初に目に入った部屋に飛び込み、その扉を勢いよく閉じられた。確か、あの部屋は普段は使われることのない部屋である。運の悪い、と内心舌打ちをして、男は少女が消えた扉に駆け寄った。

 そして、扉を開く。

 無人。

 窓が開いていた。薄曇りではあるが、昼間の光が入っていて、部屋の中は明るい。

 そこで男は、はたと気づく。

 自分は一体、何故こんな場所にいるのか?

 自分は西門の門番であり、門番であるからには用がなければ持ち場を離れて良いはずはない。しかし、何の用があってこんな部屋の前にいるのか、まったく思い出せない。

 男は気を取り直すと、ゆっくりと窓に近づいた。そして、そこから外を覗いた。顔を出し、左右を確認する。
 美しい庭園が広がっているだけだ。

 男は首を傾げる。しかし、いくら考えても何も思い浮かぶことはなかった。仕方がないので、持ち場に戻ると決めた。

「やあ、すまなかったな。待たせた」

 部下に手を上げて謝ると、部下は破顔して答える。

「いえ、用をたす時くらい、ゆっくりしてらして下さい」

 はて、自分は用をたしにいったのだったか。そうか、あれはその帰りだったのだな。記憶にないが、どうやらひどく疲れているらしい。

 男は納得すると、再び門番の任に勤めた。

 その頭の中には、金髪碧眼の窃盗犯の少女のことなど、既にひと欠片も残ってはいなかった。

* * *

 ステラは、近辺に衛兵の姿がないのを確認して、城の奥にある鍵のかかった部屋の前に駆け寄った。レオニスの説明通り、扉には三つの錠がかかっている。

 ステラは、ポケットに忍ばせていた針金を取り出すとほくそ笑んだ。そして、針金をおもむろに曲げ始める。そして、鍵穴にその針金を刺した。そして、なんの躊躇もなく針金を動かす。カシャンと音がして、鍵の開いた手応えを感じると、ステラはニッコリと微笑んだ。

「楽勝!」

 同様にして、残りの二つの鍵も開けてしまうと、もうステラを遮る障害はない。勢いよく扉を開け放つと、ステラは宝剣の間へ足を踏み入れた。

 窓がなく、真っ暗な部屋だった。代わりに、入口近くの壁に手持ちのランプがかかっているのを発見したステラは、ポケットからマッチを取り出して火をつける。そして、部屋の中を照らした。狭い部屋だが、部屋の壁際をぐるりと棚が設えてあり、その棚に整然と宝剣が並べられているようだ。

 ステラは、入口から時計回りに順番に、棚を見ていくことにした。近づいてランプの光をかざすと、どの剣にも柄の部分にルビーやサファイヤなどの宝石が散りばめられている。どれも売り払えば高額な値がつくだろうが、今回の目的は金ではないので、ステラは迷わず鞘から剣を抜き、剣身を調べていった。

 レオニスの説明によると、柄に特大のルビーがついた、剣身まで黄金色の大剣らしい。それらしい剣を見つけ、ステラはほっと胸をなでおろす。

「あったー。たぶん、これだよね。うーん。でも、もし人違いだったら困るし。もう一度取りに来るのはさすがのステラでも厳しいかも……」

 ステラは部屋を不安げに見回した。

「よーし。せっかくだから、全部チェックしちゃおうっと」

 ステラは意を決すると、素早い動作で部屋中の剣を確認してまわる。部屋には、全部で33本の宝剣が並べられていることがわかった。そして、ステラの不安は的中し、見つけてしまう。二本目の、剣身が黄金色の剣を。

 ステラは二本の剣を見比べて溜息をついた。どちらかがレオニス達が欲している聖剣サンクトルーメ。そしてもう一方はただの宝剣。

「ふえー。これ、どっちが本物だろう!? こっちはルビーが大きくてデザインも可愛いまさに聖剣って感じだけど、最初に見つけたのの方が大きくて強そう。でも地味だし……。これだったら、ステラに呪いをかけたおじさんが持ってた剣と似たりよったりだよね。でもレオニスは大剣って言ってたから、やっぱりこっちかな~。でも可愛いのはこっちだし……。う~ん。迷う……」

 ステラは、しばし、二本の剣を前にして首を捻った。しかし、こんなところで時間を浪費している暇はない。万が一、こうしている現場を目撃されたら、ステラの記憶はなくなっても宝剣を盗んだことはバレてしまうからだ。そうなれば、犯人の捜索がされて、物証を持っているレオニス達が捕まってしまうだろう。ステラは焦っていた。

「どうしよう……」

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