太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜
13 意を決する
「しかし、まさか本当に持って来るとはなあ」
通路を急ぎながら、デンテがしみじみと呟いた。
「えへへ! これで、ステラもリベルタスの一員! ずうっと一緒だねー! レオニスー!」
スキップしそうな勢いのステラが、満面の笑みでレオニスの顔を覗き込む。思わず赤面してしまうレオニス。返事に困って慌てていると、アルサスが口を開いた。
「ちょっと待て。俺は記憶がないが、確かにステラを団の仲間に入れると約束したのか?」
問われて、ステラは一瞬考え込む。
「えっと――それは、確かに、ステラが言い出したことだけど」
言いよどむステラに、アルサスは告げる。
「悪いが、ステラ。お前を団に入れることは出来ない」
「ええ!? そんなあ! なんで!? ステラ、あんなに危険を冒して頑張ったのに!」
驚いて固まるステラ。デンテは憤慨してステラをかばった。
「団長! そりゃないぜ! こいつのおかげで聖剣は確かに手に入ったんだし、なんかよくわからないけど、こいつ可哀想じゃん! いつもだったら身寄りのないガキを拾ってくるのは団長の方なのに、どうしてステラだけダメなんだよ!?」
アルサスは溜息をついた。
「まあ、俺もステラの境遇には同情するが……、団の仲間に入れるには問題がある。ステラのことを覚えていられるのは、レオニスだけなんだろう? グラディウムにいる今は、俺とデンテにそのつど説明すれば何とかなるかもしれない。だが、アジトの山ではそうはいかない。集団生活だからな。毎回説明するのが面倒以上に、寝床や食事や、生活に関するあらゆる面で障害が出てくる。毎回の食事で、ステラの分を用意するのを忘れられたら? ステラのために用意したベッドを毎日物置に使われたら? 考えただけでキリがない」
「それくらいなら、ステラ我慢するよ! ごはんは自分で何とか出来る! 今までもそうだったし、回りが山なら葉っぱでも何でも食べれるもん。ベッドが毎日物置にされちゃうのは寂しいかもしれないけど、その度に説明してどけてもらうから! だから」
食い下がるステラに、アルサスは首を振った。
「だめだ。誰だか分からない人間を山に入れる訳にはいかないんだ。一人の例外を許していたら、団全体に気の緩みが生まれる。後でどんな大きな問題に繋がるかわからない」
「そんなあ! ステラ、やっと一人ぼっちじゃなくなると思ったのに! やだ! ステラ、レオニスとずっと一緒にいる! 皆の仲間に入りたいよ!」
瞳に涙をためて、ステラはダダをこねた。デンテも団のセキュリティのことを持ち出されては、かばいきれずに俯いた。
「やだやだ! ステラ、リベルタスに入る! ダメって言われても、絶対レオニスの傍から離れないもんっ!」
ステラは叫ぶとレオニスに抱きついた。しがみついて離そうとしないステラを、引き剥がすのに躊躇して、レオニスは助けを求めるようにアルサスを見上げた。
アルサスは、バツが悪そうに頭をかく。
「これじゃ、俺が完全に悪者だ。それでも良いけどな。ついでだから、はっきり言わせてもらう。ステラ、お前が抱えているその寂しさは、レオニスと一緒にいられたとしても埋まらないぞ」
アルサスに断言されて、ステラは反射的に反論した。
「そんなことないもん! ステラ、レオニスと一緒にいられたら寂しくないもん! 少なくとも、ステラのこと誰も覚えてくれない今までよりも、ずっとずっとマシだもん!」
涙をためた瞳できっと睨みつけるステラ。しかし、アルサスはそんなステラに容赦しない。
「そうかもしれないな。そうやって付きまとっていれば、寂しさが紛れたような気にはなるだろう。今はそれで良いかもしれない。だが、数年たって、レオニスが誰かと結婚したら? 言っておくがレオニスはモテるぞ。呪われて仕方なくひっつきたがるお前より、数倍良い女をいくらでも選べる。そうなったら、ステラ、お前はどうするつもりだ? 新婚家庭にどうやって入り込む? レオニスの奥さんになる人に説明のしようがないし、説明しても忘れられてしまうんだろう? 確実にお前の居場所はなくなる。そうなったら、お前は一人に逆戻りだ」
「やだ! 聞きたくない! なんでそんな怖いこと言うの!? そんな起こるか分からない未来なんてどうでもいい! ステラ、今だけでも、少しだけでも寂しくなくなるなら、それで良いんだもん! もう、『はじめまして』ばっかり言うのは嫌なの!」
レオニスの胸で泣き崩れるステラに、アルサスはそれでも口を開く。
「ステラ」
「いや! 聞きたくない!」
耳を塞ごうとしたステラの手を、レオニスは掴んで、それを防いだ。
「ステラ、話を最後まで聞いて」
それでも嫌がろうとするステラの瞳を、レオニスは見つめた。ステラは、瞳から涙をこぼしながら、レオニスの黒真珠の瞳を見つめ返した。レオニスの真摯な表情を見て、ステラは少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりとアルサスの方を見た。
「ステラ、寂しくなくなる方法がひとつだけある」
アルサスの言葉に、ステラの瞳が、戸惑って揺れる。
「――呪いを解くんだ。その寂しさは、呪いを解かない限り、一生お前についてまわるぞ」
なかば呆然とするステラの様子を見て、レオニスは内心苦笑した。
(やっぱり、言うと思った。アルサスさんらしいや)
しかし、確かにステラのことを思うなら、呪いを解くことが一番彼女を幸せにするだろう。誰が考えても明らかな答えだった。
そして、レオニスは、呪いや魔法を解くことは出来ないが、それらを解く手段について調べる方法は知っていた。今まで、魔法の使えなくなった自分には関係ないことだと決めつけて試そうとはしなかったが、何度も脳裏をよぎり、考えてきた方法だった。
「呪い、解けるの? 本当に!? 教えて! その方法を! ステラ、呪いを解く方法を教えてくれるなら、何だってするよ!」
言葉の意味が馴染んだのか、ステラは急に血相を変えてアルサスに詰め寄った。
「それは、レオニスが詳しいんじゃないか?」
アルサスが言うと、ステラはレオニスの方へ戻って来て肩を揺さぶる。
「お願い! 教えて!」
碧眼に涙をためて、必死の表情で見つめて来るステラを見て、レオニスは意を決した。
「呪いを解く方法を、僕は知らない。だけど、呪いや魔法について調べる方法なら、ひとつだけある。神殿に所蔵されている魔術書を閲覧すること。そこには王国に伝承されているすべての魔法の情報が記録されているはずなんだ。もちろん、誰でも閲覧できる訳じゃない。唯一神官長だけが魔術書が所蔵されている部屋の鍵を持っている」
静かに話すと、ステラは息を飲んだ。
「じゃあ、その魔術書を読めば、ステラの呪いを解けるかもしれないんだな? よかったじゃねえか、ステラ!」
デンテは楽観的にそう言うと、ステラの頭をぽんぽんと叩いた。
「でも、ステラ文字読めないし……。読めたとしても、書いてある魔法を使えないよ。それ以前に、神官長様に謁見を申し込んでも、それが本人に伝わる前に伝令係の人がステラのこと忘れちゃうから……。神殿に忍び込んで直接お願いしようにも、ステラ神官長様のお顔を知らないよ」
ステラが、今にも泣き出しそうな声で呟く。レオニスは口を開いた。
「僕が一緒に行くよ」
そう言うと、デンテは驚いてレオニスの顔を見た。
「レオニス、いいのか?」
「神官長のメイガス様は僕を牢屋から出して団長に託してくれた人だから、僕が生きていることを知っても大丈夫だと思うんだ。まだお礼も言ってないしね」
「いや、そうじゃなくて。あれだけ昔の自分に関わるのを嫌がってたのに……」
デンテに心配そうに見つめられて、レオニスは苦笑で答えた。
「まあね。でも、良いんだ。不安がないって言ったら嘘になるけど。こんなに必死なやつを前にして、助けられるかもしれないのに黙って無視するなんて出来ないよ。それに、魔法文字を読めるのはこの中では僕だけだから――」
「そっか。そうだよな!」
デンテとレオニスは頷き合う。
「ついでだから、レオニス、お前の問題の解決方法も探してきたらどうだ?」
アルサスが、今思いついたかのような調子で促す。
「団長、確信犯ですか? まあ、いいです。そうですね。僕も、負けていられませんから」
レオニスが言うと、デンテとアルサスは破顔した。ステラだけが、不思議そうな顔で三人の顔を見比べるのだった。
それから少し歩いて、ようやく地下通路から四人は抜け出した。出口は人目につかない路地裏の石畳の中に紛れている。石畳の石の中にひとつだけ、外すと地下に通じているものがあるのだ。レオニス達は見つからないように、急いでその場を後にした。
しかし、四人は気付かなかった。地下通路の入口をずっと見張っていた男の存在を。路地の影に身を潜め、レオニス達をじっと見つめるその少年は、黒髪の長髪をひとつに縛った十代後半の男。ホークだった。ホークは、レオニス達が移動すると、気づかれないように距離をあけ、静かに追跡を始める。
そして、それすらも見届ける影があった。闇の中、二つの紅い瞳が四人とその追跡者の姿を見つめていた――。
通路を急ぎながら、デンテがしみじみと呟いた。
「えへへ! これで、ステラもリベルタスの一員! ずうっと一緒だねー! レオニスー!」
スキップしそうな勢いのステラが、満面の笑みでレオニスの顔を覗き込む。思わず赤面してしまうレオニス。返事に困って慌てていると、アルサスが口を開いた。
「ちょっと待て。俺は記憶がないが、確かにステラを団の仲間に入れると約束したのか?」
問われて、ステラは一瞬考え込む。
「えっと――それは、確かに、ステラが言い出したことだけど」
言いよどむステラに、アルサスは告げる。
「悪いが、ステラ。お前を団に入れることは出来ない」
「ええ!? そんなあ! なんで!? ステラ、あんなに危険を冒して頑張ったのに!」
驚いて固まるステラ。デンテは憤慨してステラをかばった。
「団長! そりゃないぜ! こいつのおかげで聖剣は確かに手に入ったんだし、なんかよくわからないけど、こいつ可哀想じゃん! いつもだったら身寄りのないガキを拾ってくるのは団長の方なのに、どうしてステラだけダメなんだよ!?」
アルサスは溜息をついた。
「まあ、俺もステラの境遇には同情するが……、団の仲間に入れるには問題がある。ステラのことを覚えていられるのは、レオニスだけなんだろう? グラディウムにいる今は、俺とデンテにそのつど説明すれば何とかなるかもしれない。だが、アジトの山ではそうはいかない。集団生活だからな。毎回説明するのが面倒以上に、寝床や食事や、生活に関するあらゆる面で障害が出てくる。毎回の食事で、ステラの分を用意するのを忘れられたら? ステラのために用意したベッドを毎日物置に使われたら? 考えただけでキリがない」
「それくらいなら、ステラ我慢するよ! ごはんは自分で何とか出来る! 今までもそうだったし、回りが山なら葉っぱでも何でも食べれるもん。ベッドが毎日物置にされちゃうのは寂しいかもしれないけど、その度に説明してどけてもらうから! だから」
食い下がるステラに、アルサスは首を振った。
「だめだ。誰だか分からない人間を山に入れる訳にはいかないんだ。一人の例外を許していたら、団全体に気の緩みが生まれる。後でどんな大きな問題に繋がるかわからない」
「そんなあ! ステラ、やっと一人ぼっちじゃなくなると思ったのに! やだ! ステラ、レオニスとずっと一緒にいる! 皆の仲間に入りたいよ!」
瞳に涙をためて、ステラはダダをこねた。デンテも団のセキュリティのことを持ち出されては、かばいきれずに俯いた。
「やだやだ! ステラ、リベルタスに入る! ダメって言われても、絶対レオニスの傍から離れないもんっ!」
ステラは叫ぶとレオニスに抱きついた。しがみついて離そうとしないステラを、引き剥がすのに躊躇して、レオニスは助けを求めるようにアルサスを見上げた。
アルサスは、バツが悪そうに頭をかく。
「これじゃ、俺が完全に悪者だ。それでも良いけどな。ついでだから、はっきり言わせてもらう。ステラ、お前が抱えているその寂しさは、レオニスと一緒にいられたとしても埋まらないぞ」
アルサスに断言されて、ステラは反射的に反論した。
「そんなことないもん! ステラ、レオニスと一緒にいられたら寂しくないもん! 少なくとも、ステラのこと誰も覚えてくれない今までよりも、ずっとずっとマシだもん!」
涙をためた瞳できっと睨みつけるステラ。しかし、アルサスはそんなステラに容赦しない。
「そうかもしれないな。そうやって付きまとっていれば、寂しさが紛れたような気にはなるだろう。今はそれで良いかもしれない。だが、数年たって、レオニスが誰かと結婚したら? 言っておくがレオニスはモテるぞ。呪われて仕方なくひっつきたがるお前より、数倍良い女をいくらでも選べる。そうなったら、ステラ、お前はどうするつもりだ? 新婚家庭にどうやって入り込む? レオニスの奥さんになる人に説明のしようがないし、説明しても忘れられてしまうんだろう? 確実にお前の居場所はなくなる。そうなったら、お前は一人に逆戻りだ」
「やだ! 聞きたくない! なんでそんな怖いこと言うの!? そんな起こるか分からない未来なんてどうでもいい! ステラ、今だけでも、少しだけでも寂しくなくなるなら、それで良いんだもん! もう、『はじめまして』ばっかり言うのは嫌なの!」
レオニスの胸で泣き崩れるステラに、アルサスはそれでも口を開く。
「ステラ」
「いや! 聞きたくない!」
耳を塞ごうとしたステラの手を、レオニスは掴んで、それを防いだ。
「ステラ、話を最後まで聞いて」
それでも嫌がろうとするステラの瞳を、レオニスは見つめた。ステラは、瞳から涙をこぼしながら、レオニスの黒真珠の瞳を見つめ返した。レオニスの真摯な表情を見て、ステラは少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりとアルサスの方を見た。
「ステラ、寂しくなくなる方法がひとつだけある」
アルサスの言葉に、ステラの瞳が、戸惑って揺れる。
「――呪いを解くんだ。その寂しさは、呪いを解かない限り、一生お前についてまわるぞ」
なかば呆然とするステラの様子を見て、レオニスは内心苦笑した。
(やっぱり、言うと思った。アルサスさんらしいや)
しかし、確かにステラのことを思うなら、呪いを解くことが一番彼女を幸せにするだろう。誰が考えても明らかな答えだった。
そして、レオニスは、呪いや魔法を解くことは出来ないが、それらを解く手段について調べる方法は知っていた。今まで、魔法の使えなくなった自分には関係ないことだと決めつけて試そうとはしなかったが、何度も脳裏をよぎり、考えてきた方法だった。
「呪い、解けるの? 本当に!? 教えて! その方法を! ステラ、呪いを解く方法を教えてくれるなら、何だってするよ!」
言葉の意味が馴染んだのか、ステラは急に血相を変えてアルサスに詰め寄った。
「それは、レオニスが詳しいんじゃないか?」
アルサスが言うと、ステラはレオニスの方へ戻って来て肩を揺さぶる。
「お願い! 教えて!」
碧眼に涙をためて、必死の表情で見つめて来るステラを見て、レオニスは意を決した。
「呪いを解く方法を、僕は知らない。だけど、呪いや魔法について調べる方法なら、ひとつだけある。神殿に所蔵されている魔術書を閲覧すること。そこには王国に伝承されているすべての魔法の情報が記録されているはずなんだ。もちろん、誰でも閲覧できる訳じゃない。唯一神官長だけが魔術書が所蔵されている部屋の鍵を持っている」
静かに話すと、ステラは息を飲んだ。
「じゃあ、その魔術書を読めば、ステラの呪いを解けるかもしれないんだな? よかったじゃねえか、ステラ!」
デンテは楽観的にそう言うと、ステラの頭をぽんぽんと叩いた。
「でも、ステラ文字読めないし……。読めたとしても、書いてある魔法を使えないよ。それ以前に、神官長様に謁見を申し込んでも、それが本人に伝わる前に伝令係の人がステラのこと忘れちゃうから……。神殿に忍び込んで直接お願いしようにも、ステラ神官長様のお顔を知らないよ」
ステラが、今にも泣き出しそうな声で呟く。レオニスは口を開いた。
「僕が一緒に行くよ」
そう言うと、デンテは驚いてレオニスの顔を見た。
「レオニス、いいのか?」
「神官長のメイガス様は僕を牢屋から出して団長に託してくれた人だから、僕が生きていることを知っても大丈夫だと思うんだ。まだお礼も言ってないしね」
「いや、そうじゃなくて。あれだけ昔の自分に関わるのを嫌がってたのに……」
デンテに心配そうに見つめられて、レオニスは苦笑で答えた。
「まあね。でも、良いんだ。不安がないって言ったら嘘になるけど。こんなに必死なやつを前にして、助けられるかもしれないのに黙って無視するなんて出来ないよ。それに、魔法文字を読めるのはこの中では僕だけだから――」
「そっか。そうだよな!」
デンテとレオニスは頷き合う。
「ついでだから、レオニス、お前の問題の解決方法も探してきたらどうだ?」
アルサスが、今思いついたかのような調子で促す。
「団長、確信犯ですか? まあ、いいです。そうですね。僕も、負けていられませんから」
レオニスが言うと、デンテとアルサスは破顔した。ステラだけが、不思議そうな顔で三人の顔を見比べるのだった。
それから少し歩いて、ようやく地下通路から四人は抜け出した。出口は人目につかない路地裏の石畳の中に紛れている。石畳の石の中にひとつだけ、外すと地下に通じているものがあるのだ。レオニス達は見つからないように、急いでその場を後にした。
しかし、四人は気付かなかった。地下通路の入口をずっと見張っていた男の存在を。路地の影に身を潜め、レオニス達をじっと見つめるその少年は、黒髪の長髪をひとつに縛った十代後半の男。ホークだった。ホークは、レオニス達が移動すると、気づかれないように距離をあけ、静かに追跡を始める。
そして、それすらも見届ける影があった。闇の中、二つの紅い瞳が四人とその追跡者の姿を見つめていた――。
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