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太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

2 富豪商人家の晩餐会

 通された部屋には、花と果物の盛り合わせが飾られた長テーブルが鎮座している。他の招待客は既に席についているようだ。案内されて、上座から順にアルサス、デンテ、レオニスの順で席に着く。アルサスとレオニスが入口側の末席で隣同士になり、レオニスの対面にデンテが座る形だ。

 デンテは、隣に煌びやかなドレスを来た婦人が座っていることで緊張しているらしい。そわそわと部屋を見回している。レオニスも気になって部屋を見回す。

 どの壁にも金の額縁に入った立派な絵画が飾られており、部屋の隅には白い大理石の肖像彫刻が置いてある。森の女神シルヴァ神をかたどった女神像だ。部屋の高い天井には大きなシャンデリアがあり、部屋を暖かい光で照らしている。こんなに明るく照らすのに、一体何本の蝋燭が使われているのやら、クリスタルで乱反射する光がキラキラと輝いて、レオニスは思わず幼い頃見たグラディウム城の舞踏会場を思い出し、顔をしかめた。

「なあなあ、晩餐会だって言うから期待してたのに、果物しかないぜ。がっかりだな」

 対面に座るデンテが俯いたレオニスに声をひそめた。

「はい?」

 レオニスは何を言われているのかわからず、思わずデンテを凝視した。

「俺、どんなうまい肉が食えるかと思って楽しみにしてたのに」
「ばか。このテーブルに乗ってる果物は飾りだ。料理は晩餐会が始まってから前菜から順番に運ばれて来るんだよ」

 アルサスが、慌ててデンテに訂正する。まさかそんな勘違いをするなんて思いもしなかったので、気付かなかったレオニスは、アルサスに感心した。

「え、運ばれてくる? わざわざ? なんだ、良かったー。肉が食える、肉、肉! しかし、なんでそんなまだるっこしいことをするんだ? 皆早く肉食いたいだろうに」
「デンテ、頼む。恥ずかしいから黙っててくれないか?」

 アルサスが人目をはばかりにこやかに注意するが、その目は全然笑っていない。危険を察知したデンテが即座に口を閉じ、全力でこくこくと首を縦に振ると、隣に座っていたサファイアのブローチをつけた青いドレスの婦人が我慢できずにクスクスと笑いだした。アルサスは顔を手で覆った。

「ふふ。ごめんなさいね。坊やはどうしても早くお肉が食べたくて仕方ないのね」
「すみません。弟子が騒ぎまして。こういう場は初めてなものですから、興奮してしまったようで」

 アルサスが頭を下げると、婦人は首を横に振った。

「いいえ。最近気の重くなるような事件があったものですから、楽しい晩餐会になりそうで嬉しいですわ。確か、貴方はアルサスさんでしたかしら? リベルタス商会の」

 婦人に問われて、アルサスは完璧な微笑ではにかんだ。

「嬉しいな。こんな綺麗なご婦人に名前を知っていてもらえたなんて」

 対面に座るアルサスとばっちり視線が合うと、青いドレスの婦人は顔を真っ赤に染めて瞳を潤ませた。デンテとレオニスは、団長が女を落とす瞬間を初めて目撃し、衝撃を受けた。あまりの衝撃に、婦人の言う気の重たくなるような事件とは何か、聞きそびれるほどだ。

「こらこら、うちのをたぶらかすのはその辺にして頂こうか」

 口を開いたのは、婦人の横に座る白い髭の男性だ。絹の黒い衣装に身を包んでおり、婦人よりかなり年上だが清潔感のある男前である。

「そんな。とんでもない。私などが見初めても、奥様には振り向いて頂けませんよ。どんな手管を使ってお心を射止めたのか、参考に教えてほしいくらいです」

 年配の男性は苦笑いで答えた。

「ご冗談を。リベルタス商会のアルサスさんに落とせない女性はいないともっぱらの評判ですよ」
「いやだなあ。そんな訳ないじゃないですか。私はいつもふられてばかりですよ。おかげで未だに独身です。そちらこそ、絹織物には右に出るものはいないと評判のメディウムさんでいらっしゃいますよね? お噂はかねがね聞いておりますよ。お会いできて光栄です」

 アルサスが完璧な営業用スマイルで答えると、男性、メディウムも笑顔で答えた。

「こちらこそ。是非お会いしたかった。実は今度うちで高級ドレス事業を拡大しようと思っていまして、リベルタス商会さんのオパールを是非使わせて頂きたいと思っていたんですよ」
「貴方、お仕事のお話はお食事が終わってからになさって。楽しい時間が台無しですわ」

 メディウム夫人にたしなめられて、メディウムは平謝りする。

「それでは、商談は食後まで楽しみにとっておくとしましょう。奥様に嫌われてしまってはいけませんからね」

 アルサスがいたずらっぽく答えると、メディウム夫人は満足げに微笑んだ。

 その時、扉が開いて、恰幅のよい中年の男が部屋に入ってきた。この豪邸の主人で晩餐会の主催者、メルケーター・ディベス・ナンモランだ。ディベスは夫人と、その娘を伴っており、挨拶もそこそこに上座へと向かった。

「やあやあ、お待たせ致しました。本日はお集まり頂きましてありがとうございます。準備が整いましたので、晩餐会を始めたいと思います」

 ディベス達が席に着くと、使用人がやって来て、客のグラスに葡萄酒をついでいく。

「それでは、祈りましょう。食前の祈り」

 皆一斉に手を合わせ、ディベスの祈りの言葉を復唱する形でレクス神へ祈りが捧げられた。この国では一般的な信者は自身の信仰する神へ食前に祈りを捧げる。どうやらこの晩餐会の主催者はレクス神を信仰しているらしい。レオニスは久しぶりにこの祈りを唱えた。山では食前の祈りを捧げるような習慣はなかったからだ。信仰心がないわけではないようだが、山では上品な習慣は定着しなかったのだ。おかげで、デンテは目を白黒させている。

「レクス神の御心のままに」
『レクス神の御心のままに』

 祈りの言葉が終わると、ディベスはグラスを掲げた。

「今日の良き出会いに、乾杯!」
『乾杯!』

 グラスを合わせると、いよいよ晩餐会が始まった。

「今日はいつものメンバーに加えて遠方からリベルタス商会さんが来てくれましたので、まずは自己紹介から始めましょう。私はメルケーター・ディベス・ナンモラン。ディベス商会の会長をやっております。そしてこれが妻のローズと、娘のリデルです」

 ディベスの横に座っている巻き髪を高く結い上げた夫人が会釈する。娘のリデルは10歳ほどの少女で、大柄でまるまると太っていた。

「続いて、こちらはカスタマー男爵とその奥様のリリウム様」

 リデルの対面に座っている若い夫妻をディベスの太った手が示した。夫妻は派手で悪趣味だが高級そうな衣装に身を包んでいる。

「続いて、こちらはメディウム商会の会長メディウム氏とその奥様イベリス様」

 リデルの横に座る白ひげのメディウムが会釈し、サファイアのブローチのイベリスはいたずらっぽく片目をつぶってみせた。

「そして最後に、リベルタス商会のアルサス君と、そのお弟子さん達だ。今日は我々の晩餐会へようこそ。たくさん食べて行ってくれ」

 ディベスが恰幅のよい身体を揺らして笑う。

「ご紹介ありがとうございます、ディベスさん。私だけでなく、弟子二人までご招待頂きまして。一同今日の晩餐会を心待ちにしておりました。ほら、デンテ、レオニス、皆様にご挨拶しなさい」

 アルサスが、完璧な笑顔と丁寧な言葉遣いで答える。普段自分達を問答無用で殴りとばす団長とのあまりのギャップに感心していたレオニスは、自分達に水を向けられて思わず焦る。慌てて姿勢を正した。

「デンテです。よ、宜しくお願いします!」
「レオニスです。今日はお招き頂きありがとうございます!」

 二人が緊張して頭を下げると、ディベスは豪快に笑った。

「そうかしこまらんでも結構だよ。気心の知れた仲で集まったごくささやかな会だからね。はは。それにしてもなかなか元気が良い。若い頃を思い出すよ。アルサス君は良いお弟子さん達を見つけたようだ」
「ありがとうございます。うるさいだけが取り柄ですが、これから勉強させてやって下さい」

 アルサスが頭を下げると、ディベスが満足げにうなずいた。ちょうどその時、給仕の使用人達が手に何枚も皿を載せてやって来た。

「ちょうど前菜も届きましたので、さっそく頂きましょう」
「うわあ!」

 使用人の一人が、バランスを崩して左手に持っていた皿を二枚落としてしまった。デンテとレオニスに給されるはずだった皿だ。

「すみません!」

 黒の長髪を後ろで束ねた十代後半の少年が、慌てて割れた皿を拾い始める。

「お怪我はありませんか?」

 ディベスが太った身体を揺らしながら慌てて駆け寄った。

「ええ。わたくしは大丈夫ですわ」

 メディウム夫人が答える。デンテも頷いた。それを確認して、ディベスは使用人の少年に向き直った。

「また君かね、ホーク君。君は今日はもういい。下がっていなさい。誰か給仕を変わってやってくれ」

 ホークと呼ばれた少年はうなだれた様子で部屋を出ていき、代わりに年長の使用人がやってきた。何もかも心得ていると言わんばかりのきびきびとした動作で床を片付けさがっていった。

「すまないね。新入りが粗相をして。すぐに新しい皿を用意させるので待っていてください」

 ディべスはデンテとレオニスに詫びると、自分の席に帰っていった。
ひと皿目は、大きな皿の真ん中に角切りの梨に生ハムとスライスしたきゅうりを巻いたものがちょこんと載っている。

 デンテが物欲しそうにじっと見ているのに気付いたメディウム夫人が、手を止めてデンテに微笑みかけた。

「召し上がります? わたくし、最近食が細くてあまり食べられないから、もしよろしかったら頂いてくださらない?」
「いいんですか!?」

 デンテが目を輝かせた。

「ええ。ご遠慮なさらずに」

 アルサスが頷くのを確認して、デンテは皿を受け取った。

「いただきま~す」

 一口だ。頬張って、デンテは感動の声をあげる。

「く~。なんだか分かんないけど、美味しいです!」
「ふふ。それは良かったわ」

 その後、前菜が2皿、パン、スープ、魚料理、口直しのシャーベット、肉料理、デザート2皿が次々と運ばれ、レオニス達は舌鼓を打った。どれも趣向のこらされた料理でとても美味しかったが、レオニスは、山では食べることのない海の魚料理が特に気に入った。デンテは、肉料理に出された牛の葡萄酒煮込みを食の細いメディウム夫人からもらい、一人で2皿平らげた。

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