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太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

3 不可解な供述

 楽しい食事が終わると、女性は居間へと移動となる。レオニスとデンテはアルサスに命じられ、使用人に預けていた荷物を受け取ってから食堂へ戻る。

 ディベス、カスタマー男爵、メディウム、アルサスの四人の男たちは席を移動して既に談笑を始めていた。テーブルには酒が並び、煙草に火をつけている者もいる。レオニス達は、アルサスに駆け寄り荷物を渡す。アルサスは、荷物を受け取ると、中身をひとつずつ取り出した。

 荷物の中身は、リベルタス商会の主力商品である宝飾品だ。団員達が山で制作したオパールの指輪やブローチなどで、かなりの数がある。しかし、アルサスはそれらを全て売り切っただけでなく、メディウム氏が持ちかけた商談も成立させてしまった。その鮮やかな手腕に、レオニスとデンテは本当に自分達が後を継げるか自信をなくすほどだ。

「いやあ、素晴らしい品物ばかりだったよ。さすがアルサス君だね。期待以上だったよ」

 宝石事業も軌道にのっている富豪のディベスが満足げに煙草をふかした。

「私もよい買い物ができました。きっと妻も喜んでくれるでしょう」

 妻の誕生日プレゼントにオパールとダイヤのついたネックレスを購入したカスタマー男爵も上機嫌で微笑む。

「ええ。私も商談が成立して良かったです。ありがとうございます。あとは絹の税率が上がらないよう祈るばかりです」

 メディウムが白ひげをなでて苦笑した。

「綿と牛肉は前回の税率引き上げで打撃を受けましたからなあ。いや、ウルティミス公は手厳しい。少しでも儲けがあると噂を聞けば、すぐに税率を変えて国庫に儲けを吸い取っておしまいになる。我々も気を付けませんと、いつ首が回らなくなってもおかしくないですからな」

 ディベスが首を手で切るジェスチャーをしておどけてみせた。
 レオニスは、どきりとする。久しぶりに兄の名前を聞いたからだ。

「冗談とも言っていられませんからね。幼少のおりはお身体が弱く臥せったきりだったと聞きますが、成長して病が快癒してからのウルティミス公は政治にも参加されるようになって。ウルティミス公の発言権が強まるごとに、我々商人は肩身が狭くなっていく気がいたします。この上、ウルティミス公が王位をお継ぎになるようなことがあれば、我々はどうなってしまうのか。考えるだに恐ろしいですよ」

 メディウムが身震いすると、カスタマー男爵が口を挟んだ。

「まさか、そんなことは起こりますまい。あの方はウルティミス公ですよ。ルナ神族を代表するお方。そもそもレクス神の御印をお持ちでないあの方に、王位継承権はありえません。杞憂ですよ」

「本当にそうでしょうか。あの授剣の儀の事件以来、レオニス様の信用は失われ、国中は混乱に陥りました。貴族はレオニス様の処遇を巡り真っ二つに分かれ、会議は紛糾。その時、頭角をあらわしたのがウルティミス公です。混乱を収めた手腕とカリスマ性で貴族には人気もあります。今やウルティミス公待望論は確かに存在すると言っても過言ではないですよ。実際、今や紋章院貴族でさえほとんどウルティミス公の言いなり状態。唯一対抗していたレオニス派のオーム侯は先日事故でお亡くなりになってしまったと聞きますし。後を継がれたエイブス様は行方不明という噂もあります。あの方はレオニス派の筆頭でしたのに」

 メディウムの発言に、レオニスは今度こそ本当に心臓が止まるかと思った。自分の名前が出てきたからだ。それに、オーム侯が死んだなど、レオニスは初耳だった。カースピット山では、遠い南西のオームを治める貴族の代替わりの話など話題に上らなかったからだ。そもそも、山賊団のメンバーは貴族嫌いが多く、話題に出すのも憚られるような空気があった。

 レオニスは、オーム侯を覚えていた。黒ひげの中年の男で、レオニスに会うときは必ず得意の狩猟で獲った獲物のキジや鹿を土産に持ってきてくれた。面倒見の良い男で、レオニスも懐いてよく遊んだことを思い出す。その彼が死んでいたなんて。

 カスタマー男爵が口を開く。

「いやいや、レオニス派の代表はラクス公でしょう。あそこは、ご令嬢のコーラル様もレオニス様の許嫁でいらっしゃいますし」

「表向きはそうですね。しかし、その許嫁のお話が取り消されるのも時間の問題と聞きましたよ。いまコーラル様本人が大反対してレオニス様ご帰還を待つと言い張って、ラクス公は手こずっているようですが、そもそもレオニス様がご存命かどうかも分かりませんからな。それに、ご存命だったとして、授剣の儀の事件が事件でしたから。処遇をどうされるのかという問題も結局まだ有耶無耶のままですし。となると、戻って来られてもすぐに元通りという訳にもいきますまい。だからと言ってウルティミス公が王位につくことは道理が通りませんからな。むしろ、私なんかは次の太子がお生まれになるのを待つのが得策かと思いますよ」

 ディベスがしたり顔で自分の大きな腹を撫でる。

(コーラル様……僕が生きていると思ってくれているのか)

 レオニスは、コーラルを思い起こす。授剣の儀には熱を出して不参加だったから、その数ヶ月前に会ったのが最後の記憶になる。10歳のシルバーブルーの髪の少女の顔が浮かぶ。レオニスのひとつ年上の従姉妹で許嫁。一緒に本を読んだり城の庭を駆け回った思い出が蘇る。

「おい、レオニス。お前、許嫁なんていたのか? 初耳だぞ」

 デンテが肘でつついてきた。何故か不満げである。

「いや、許嫁って言っても従姉妹だから、姉弟みたいな感じだよ。小さすぎて結婚とかピンと来なかったし」
「だからって親友の俺に黙ってることないだろ?」
「うるさいな。公然の事実なのに知らないのが悪いんだろ。大体、デンテに言ったら無駄にからかわれるだけだ」
「バレたか」

 ニヤっと不敵に笑うデンテ。レオニスは溜息をついた。そこで、二人でこそこそと話していたのに気づかれ、メディウムに話しかけられた。

「そう言えば、レオニス君も王太子殿下と同じ名前だね。珍しい名前ではないけれど、歳も近いことだし、夜道は気をつけた方がいいよ。最近王太子派のレクス神信者が襲われる物騒な事件が続いているからね。レオニス様と同じ名前なんて、なんだか物騒じゃないか。……いや、忘れてくれ。名前を唱えながら道を歩く訳じゃあるまいし」

 メディウムは苦笑して撤回するが、やや疲れたように溜息をついた。

「いえ。大丈夫です」

 レオニスは慌てて答えた。

「そう言えば、奥様の妹さんが嫁がれた先の子爵がお亡くなりになったそうですね。それも、信頼していた使用人に殺害されたとか」

 今まで黙って話を聞いていたアルサスが、突然メディウムに問うた。

「いやさすが、お耳が早いですね。実はそうなんです。それでうちのも影響されて食も細くなってしまって、今日はいい機会なんで連れ出したという訳です」

 ディべスも心配そうにメディウムを見た。

「私もその話は聞いたよ。なんでもその使用人、返り血を浴びて凶器のナイフを持って立ち尽くしている現場を侍女に発見された上、『自分はやってない、身体が勝手に動いた』と供述しているらしいじゃないか。言い訳をするにしても、もっとマシな言い分があっただろうに。まったく何と言えば良いのか。酷い話だ」

『身体が勝手に動いた』?

 レオニスは、驚愕してディべスを凝視した。デンテも混乱してディべスとレオニスを交互に見た。

「そんな、まさか。似たような話を別のところでも聞きましたよ。たしか、知り合いのノトス男爵夫人が亡くなったのも、同じような状況で、犯人の侍女の供述がその話と一致しています。『私じゃない。身体が勝手に動いただけだ』と。夫人は熱心なレクス神信者で有名で、その日も祈りを捧げているところを、後ろから刺されたそうです」

 カスタマー男爵が興奮したように言い募る。

「なんと。その方もレクス神信者でしたか……。子爵も厳格なレクス神信者でした。とても思いやりのある素晴らしい人物でしたのに。オーム侯といい、良い人物ほど早く亡くなってしまうなんて、まったく不条理なことです。それにしても、こう立て続けにレクス神信者が殺害されるようでは、信者をやめたくなってしまいます」

 メディウムの発言に、ディべスもカスタマー男爵も目をむいた。

「とんでもない。滅多なことを言うもんではありませんぞ」
「そうですよ。レクス神の御加護がなければ、この世は死の神オルクスの独壇場になってしまいます。恐ろしい」

 しかし、メディウムは疲れたように白ひげをなでおろした。

「いや、申し訳ない。しかし、現国王アクイラ様が病で臥せっておいでの今、政治は実質ウルティミス公の独壇場。これでは、レクス神信者が次々と襲われることが、レクス神がこの地上の王国を見限られたことの表れではないか、と邪推したくもなりますよ。考えすぎであれば良いのですが。妻の弱気が移ってしまいましたかな」

 その後は、乾いた笑いを浮かべるメディウムを励ますことで、一同は食堂に漂った言い知れぬ不安を払拭しようと努めた。

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