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太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

1 街道沿いの町の安宿

 目覚めると、視界には見慣れない天井があった。

 安物のごわごわする毛布に簡易ベッド。辺りを見回して、ここが昨夜とった街道沿いの町にある安宿だと気づく。自分は、幼少から何度となく繰り返し見る悪夢にうなされて、また今日も明け方に目覚めたようだと、レオニスは気が付いた。

(またこの夢か。あれから6年……。今日はいよいよグラディウムに着くというのに、こんなんで大丈夫かな)

 茶色い髪をぐしゃぐしゃとかき回して、レオニスは自嘲の溜息をついた。

 佩剣の儀から、6年。レオニスは、15歳になった。あの事件で瀕死の傷を負った少年は、奇跡的に一命を取り留めた。そして、傷のショックで生死の境を彷徨っている間に、グラディウム城の地下牢から助け出され、北のカースピット山へ運ばれた。そこには山賊団リベルタスのアジトがあり、レオニスはそこで傷の治療を受ける。首都グラディウムでは、消えた王太子レオニスの行方を血眼になって捜索されたが見つからず、懸賞金の額も跳ね上がったと聞く。そのせいで行き場を失くしたレオニスは、そのまま山賊団リベルタスの一員となった。

 山賊団リベルタスは、60人程の大所帯で、元々は首都のごろつきや孤児や寡婦、首都にいられなくなった者等、訳ありが団長アルサスの下に集まって出来た団だ。必要とあらば山賊行為も厭わないが、ここ数年はほとんど蜜採掘で入手したオパールを宝飾品に加工して売りさばくことで生計を立てている。団員の中にはレオニスと同世代の子供も混じっていて、レオニスは彼らと共に山の中で成長した。

 今、レオニスの横で寝息を立てているのも、そのうちの二人だった。

 一人は、山賊団リベルタスの団長、アルサスだ。28歳独身。金茶の髪の美丈夫で、街を歩けば女が放っておかないという。しかし親密な関係になると揃って観賞用の烙印を押されると、レオニスは年かさの団員から酒の席で聞かされた。そんな女癖の悪さはあっても、仲間思いで団員からの信頼も厚い、レオニスも尊敬する男だ。

 また、レオニスを首都から運び出したのもアルサスである。アルサスは山賊行為で捕まり、城の地下牢に監禁されていた所を、グラディウムの神官長からレオニスを助け出すことを条件に解放された。レオニスの背中の傷を縫合したのもアルサスだ。処置が的確で素早かったおかげで、レオニスは今こうして生きている。いわば、命の恩人なのだ。

 そして、もう一人は、団員のデンテだ。歳はレオニスと同じ15歳。亜麻色の髪に濃茶の目の快活な少年だ。幼少期に父親を貴族に殺されたことがきっかけで、大の貴族嫌いなため、レオニスが山に運ばれてきた当初は突っかかって来ることもあったが、今ではレオニスの良き理解者であり親友となった。デンテがいなければ、レオニスはもっと塞ぎ込んでいて、こうして山から降りてくることも出来なかったかもしれない。

「う~ん。もう食べらんねえよ……」

 寝言を言いながら、出した腹を右手でボリボリとかいているデンテを見て、レオニスは苦笑した。

(ほんと、デンテには悩みとかなさそうで羨ましいよ)

 デンテのおかげで多少気持ちが和んだが、レオニスの心は不安でいっぱいだった。

(大丈夫。あれからだいぶ成長したし、今の僕を見てあの王太子レオニスだと気づく人なんかいないんだ。ずっと山の中に引きこもってる訳にもいかないし。僕だってリベルタスの一員。仕事を覚えなきゃ、皆のお荷物にはなりたくない)

 団長アルサスが、レオニスとデンテを呼び出して、首都グラディウムへの行商に参加するように命じたのは、一週間前。カースピット山を出発する前日のことだった。

「明日の行商、お前らも来い。宝飾品の取引を覚えてもらう。儲けるには勘が必要だが、これを養うには慣れしかないからな」
「マジでか!? 団長! そんな大仕事、俺らに任せてくれんのか!?」

 話を聞いたデンテは、飛び上がらんばかりに喜んでいた。アルサスは苦笑した。

「ばか。早まるな。お前らは俺の後について黙って見てるだけだ。変に口出してせっかくの商談をちゃらにするんじゃねえぞ」
「わかった! くう~! 楽しみ! な、レオニス! ん? どうしたんだよお前。そんな浮かない顔して。腹でも壊したのか?」
「いや。……あの、団長。僕なんかが首都に行ったりして大丈夫でしょうか? 手配書も回ってるみたいですし。見つかったりしたら、皆にも迷惑がかかるんじゃ――って痛ってええ!」

 思いつめるレオニスに、団長のデコピンが炸裂した。

「あほたれ。リベルタスの男が手配書を怖がっててどうする」

 うずくまるレオニスを見て、デンテはケラケラと腹を抱えて笑いだした。

「っかしい。そりゃそうだ。レオニス、団長の手配金額知ってるか? 金貨100枚だぜ! 100枚! 俺ら貧乏人にとっちゃ、金貨一枚もありゃ一ヶ月楽勝に暮らせるのに、それが100枚も団長の首にはかかってんだぜ!」

 そう言うデンテは、何故か自分のことのように誇らしげだ。

「知ってるよ。それに手配書の額で言ったら僕は3000枚なんだが……」

 デンテは何かを計算するように沈黙した。すかさず、レオニスが口を開く。

「ちなみに、生活水準を変えなければ250年分の生活費になる計算だ。そのせいで僕は何度か団員に売られそうになったこともある」
「だ~っうるっせえ! わかってらい! だからって、ビビってんじゃねえよ! こんな大事な仕事させてもらえるなんて最高じゃんか! マラ達に自慢できるぜ!」

 デンテが切り札のように持ち出したマラとは、レオニスとデンテと同じ歳の団員の少女で、歳が近いことから特に仲の良いメンバーの一人だ。マラなら、確かに素直に感心して喜んでくれそうだ。それは確かに嬉しい。しかし。

「うーん、でもマラは人見知りだし、今の仕事(宝飾品の彫金)が好きみたいだから自慢っていうのとは違うんじゃ――。それに、僕はビビってるんじゃなくて、迷惑かけないか心配なだけで」
「それがビビってるって言うんだよ、ばーか!」
「はあ!? デンテにばかと言われる覚えはないね!」
「うっせ、ばーか!」
「やるか!?」

 デンテとレオニスが取っ組み合いを始める寸前に、アルサスのげんこつが二人の頭に降ってきた。

「ばかはお前ら二人ともだ。まだ話は終わってねえぞ。ったく、仲の良いのは結構だが、すぐ暴力で解決しようとするのは悪い癖だ。俺はお前らをそんなやつらに育てた覚えはないぞ?」

 今、思いっきり暴力で解決したのは誰ですか、とは思っていても言わない。レオニスもデンテもそこは学習済みだった。正確には、痛みをこらえるのに必死だったというのもある。頭を押さえてうずくまる二人を見て、アルサスは溜息をついた。

「現状、商談のほとんどを俺が担っているが、いつ俺が死ぬとも限らない。そうなってから、また一から客を作るのは時間がかかるだろう。その間、人数の膨れた団の奴らをどうやって食わすか。今までは客を増やすのに精一杯だったが、そろそろ余裕も出て来たし、後継を作ってもいい頃だと思ったんだよ」

 デンテが、怒ったように口を開いた。

「団長が死ぬ訳ないだろ! 何弱気になってんだ!」
「ああ。無論、俺も簡単に死ぬつもりはない。が、もしもの仮定だ。死なないにしても、理由はどうあれ、俺が商談に出れなくなることだってあるかもしれない。それを考えたら、どちらにしろ、後継は必要なんだよ。
 お前らも、もう15だ。ガキじゃねえ。腕っ節も鍛えた甲斐あって、どこの兵隊にも負けないだろう。ウチにはもっとゴツいのもいるが、あいつらは商売するには客に警戒されていけねえ。そこへ行くとお前らは顔も悪くない。もろもろ含めて、今後はお前らに取引の仕事を任せていきたいと思ってる」

「団長……!」

 デンテは感激に瞳を潤ませている。

「この仕事が、どれだけ大事か、改めてわかった気がする! 俺、頑張るよ!」
「期待してるぞ。……レオニスは、まだ不安そうだな」

 アルサスに呼びかけられて、レオニスは黒瞳を彷徨わせた。

「いえ、その。大事な仕事を任せてもらえること自体は嬉しいんですけど、でもやっぱり」
「まあ、気持ちはわからなくもない。事件が事件だったらしいからな。が、俺がいる。お前が突然見境なく暴れ始めたとしても、絶対に止めてやれる。いつも言ってるだろ? だから、そこは心配するな。お前が抱えてるものは、前に進まないと解消されないんじゃないか?」

 アルサスの榛色の目が厳しくレオニスを見据えていた。

「……そう、ですね。わかりました。僕、行きます」

 レオニスは、もう観念するしかなかった。団長はそういうところは厳しい人で、レオニスの逃げを許してくれはしないだろう。それに、レオニスは団長が自分のことも考えてくれていることが嬉しくて、その期待に応えたいと思った。

「覚悟を決めろ! リベルタスの男だろ!」

 デンテが、レオニスの背中を思い切り叩く。

「ってえ! 何すんだ! だから行くって言っただろうがこのガサツ!」

 レオニスはお返しとばかりに、すかさずデンテの後ろに回り込み、ヘッドロックをかけ始めた。

「わああ! 悪かった! ギブギブ!」
「お前ら、出発は明日だぞ。ほどほどにしとけよ~」

 アルサスは、そう言い残して去っていったので、レオニスとデンテの喧嘩はしばらく続いた。

 それが、つい一週間前のこと。それから一頭立の荷車をひいて、団のアジトのカースピット山から街道沿いを南へ徒歩で7日間。いよいよ、今日の夕方には百万人都市、首都グラディウムへ到着するだろう。着いたらすぐに、馴染み客の富豪商人の豪邸に向かうことになっている。晩餐会の招待を受けていると聞かされている。

(大丈夫。神殿に近づく訳でもないし。授剣の儀をする訳でもないし。聖剣に近づく訳でもないし。そもそも何が原因でああなったのか分からないけど……。僕の意思と無関係に身体が動いたのも、あの一回だけだし。例え僕が、何かの呪いにかけられていたとしても。僕は仕事をして、一人前のリベルタスの男になるんだ。もし、僕が何かやらかしたとしても、今度は団長やデンテが止めてくれる。そしたら、今度はなんでああなったか原因が分かるかもしれないし。……とにかく、逃げてたら、ダメだ)

 レオニスは、決意して目を閉じた。出発まではまだ時間がある。二度寝しようと、ゴワゴワする布団の中に潜り込んだ。

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