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太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

0 授剣の儀

 太陽神レクスを祀る大神殿の大聖堂に、ファンファーレが鳴り響いた。華やかで短い一曲が終わると、参列した国中の貴族や富豪達が固唾を飲んで見守る中、神官が重々しく口を開いた。

「これより、授剣の儀を行う。レオニス・レクス・ブリリアントー・デ・グラディウム王太子殿下」
「はい」

 9歳の誕生日を迎えたばかりの少年の声は高く、緊張と期待を含んで聖堂内によく響いた。レオニスは、最前列の席から立ち上がり、赤い絨毯を踏みしめ両親と神官が待つ祭壇へとのぼる。

 授剣の儀は、ここグラディウム王国の王族の男子が大人になるための通過儀礼の儀式だ。9歳の誕生日に、国王から剣を授けられ、国への忠誠を誓う。古来より、王族はこれを経て初めて大人と認められ、軍への参加や政治に携わることが許される重要な儀式だ。

 どきどきと高揚する気持ちを抑え、レオニスは祭壇の中央に向かう。真円の天窓から陽光が差込み、祭壇にひだまりを作っている。そこには、黄金に輝く聖剣サンクトルーメを持った父である国王アクイラと、その一歩後ろに控えるように母アネモネが微笑をたたえて立っている。

 聖剣サンクトルーメ。

 千年前、建国の祖エイウスが天界の王、太陽神レクスより授かった聖なる力を秘めし大剣。エイウスはこの聖剣の力で悪しき神々を各地に封じ、地上に安寧をもたらしたという。普段はグラディウム城の宝剣の間に保管されているそれを父が持っているのを見て、レオニスの緊張は高まった。授剣の儀で聖剣サンクトルーメを授けられるのは、王位継承者のみだからだ。

 近くで見るのは初めてだった。
 儀式の練習では鉄の剣を使っていたので、聖剣に触るのは儀式の本番が初めてだ。レオニスは、聖剣に触ることがとても楽しみだった。

 聞けば、聖剣に触るとレクス神の御心に触れることができるらしい。誰でもそれが叶う訳ではない。聖剣の真の力を解放できるのは、太陽神レクスに選ばれた王、御印を持つ者だけだ。

 王権神授のこの王国において、国王は太陽神レクスが選ぶ。レクス神は、次期国王がこの世に生を受ける時、必ずその身体のどこかに御印を授ける。生まれながらにレクス神の御印を持つ者だけが、このグラディウム王国の国王になることが出来るのだ。レオニスも、背中に指先程の大きさの薄茶色いあざを持って生まれてきた。太陽と同じ、輪の形をしているそれを産婆が見つけた時、レオニスは正式な王位継承者となり、誕生祭は立太子の儀も兼ねた盛大なものになった。

 レオニスは、自分を次期王に選んだレクス神に純粋に興味があり、一度でいいから話してみたいと思っていた。御心を知る、というのがどういうものかは、触れば分かるとはぐらかされるばかりで、どういうことか想像も出来なかったが、もしかしたら望みが叶うかも知れない。

 期待と興奮を抑え、レオニスが国王の前に片膝をつくと、国王はひとつ頷き、静かに聖剣を鞘から抜いた。陽光に輝く剣身で、レオニスの肩を軽く叩く。

「汝、レオニス・レクス・ブリリアントー・デ・グラディウムは、レクス神の御心のままに生き、いついかなる時もこの地上の王国に忠誠と勇気を捧げ、身命を賭することを誓うか」
「誓います」

 レオニスは、父を見上げて答えた。なんとか失敗せずに答えられたのは、練習の成果だろう。後ろに控えている母アネモネ王妃が笑顔で頷いた。

「では、汝に剣を授ける。謹んで受けよ」

 父が高らかに宣言すると、参列者達は来るべき瞬間を待ちかまえ、大聖堂内の緊張は最高潮に達した。
 レオニスは、立ち上がり、両手で国王の差し出す聖剣を捧げ持った。

 9歳の少年が扱うには大きすぎる。ずっしりと重く、ひんやりと冷たい。レオニスが聖剣を持った感想は、それだけだった。レクス神の御心に触れることができると聞いていたが、実際はこんなものかと期待が外れ、レオニスはがっかりした。

 瞬間、控えていた楽団が高らかに音楽を奏でた。参列者達は立ち上がり、歓声と拍手が聖堂内を包み込んだ。

「レオニス殿下、万歳!」
「おめでとうございます!」

 祝福の声に振り返ると、大聖堂に溢れるほどの群衆の笑顔がそこにあった。レオニスも笑顔がこみ上げてくる。

「レオニス、励めよ」

 滅多に笑顔を見せない厳格な父が、息子に口元をほころばせた。

「レオニス、母は貴方が陛下のように立派になれると信じていますよ」

 絶世の美女と名高い、母、アネモネ王妃もレオニスに優しい眼差しを送る。

「はい! 僕、頑張りま――」

 最後まで言い切ることは叶わなかった。風を切る音がして、肉が潰れる感触がレオニスの手に伝わる。

(え?)

 自分の見ている光景が信じられずにレオニスは呆然とした。自分の握る聖剣サンクトルーメが、母アネモネの心臓を貫いている。

(え?)

 次の瞬間、自分の右足が母を蹴り付けると、母の身体から剣が抜け、勢いよく血が噴出した。

(母上!?)

 参列者の悲鳴が聖堂内に響き渡る。

「アネモネ! レオニス、貴様!」

 父王の瞳が驚愕に見開かれている。そして、レオニスは、その父に向かって剣を振りかぶっていた。躱されて、勢いがつきすぎてつんのめって転ぶ。

(なんで!? 身体が勝手に!?)

 レオニスの意思とは裏腹に、身体が勝手に動く。起き上がり、父王に斬りかかる。抜剣した父と三度斬り結び、四度目に父の剣を弾き飛ばした。

 弾き飛ばした剣が宙を舞うわずかな時間の静寂に、レオニスは父の驚きと戸惑いの顔を見た。しかし、驚愕しているのはレオニスも同じだ。まさか、父との勝負に競り勝つとは。稽古でも一度も勝ったことはないのだ。

 落ちた剣が床を打つ甲高い音が静寂を破る。それまで自体が飲み込めず成り行きを見守っていた警備の神兵達が我に返り、国王を守ってレオニスの前に立ちはだかった。父王が声を荒げる。

「レオニス、貴様! 誓った舌の根も乾かぬうちに。これはどういうことだ!」

(違う! 僕じゃない! 僕、こんなことするつもりなんてない! 母上! 母上はご無事ですか!?)

 視界の端に映る母は、赤黒い血だまりの中に倒れてピクリとも動かない。駆け寄った神官達の手を赤く染めるばかりだ。

(なんで!? いやだ、こんなの! こんなことって!? うわああああああ!)

 心で絶叫しても喉は震えず、目を閉じることも叶わず、レオニスの身体は丸腰の父をめがけて斬りかかる。それを神兵達に阻まれると、その勢いのまま壇上にいた神官達をも次々と手にかけ始めた。

(皆、避けてえええええ!)

 参列者達の怒号と悲鳴の飛び交う中、レオニスはさらに二人、三人と斬り捨てる。そして、神兵達の隙をついて、今度こそ父王目掛けて、身体が勝手に走り出し、剣を振り上げた。

(やめろおおおおおおおおお!)

 金属音。

 振り下ろし肉を裂くはずの剣は、しかし、別の剣によって阻まれた。切り結んだ相手は、銀色の髪に同じ銀色の瞳を持つ少年だった。

「っは!」

 少年の気迫に押され、聖剣サンクトルーメはレオニスの手から弾き飛ばされた。床の上を滑り、祭壇の下に落ちた聖剣を、最前列で何もできずにいた貴族が慌てて拾う。それを確認して、首を元に戻したレオニスの前には、自分のことを憎悪の目で見下す銀髪の少年がいた。四つ年長の第一王子、異母兄のノクティス・ルナ・ブリリアントー・ノーブル・デ・ウルティミス公爵だ。

「兄上……」

 思わずこぼれた声に、レオニスは自分の身体に自由が戻ったことを知る。

「あ、兄上、どうしましょう。母上が――」
「貴様、太子でありながら弑逆し、王位簒奪を狙っていたのか!」
「違う! そんなこと考えてません! 信じて! 身体が勝手に動いたんです!」

 一歩、二歩と後ずさるレオニスを、兄ノクティスは追い詰める。

「笑止! 国王を斬ったとあっては、神に対する反逆と取られても文句は言えまい。もはやこの場で斬り捨てられる以外に道はない!」

 剣を構えたノクティスが、一歩踏み出す。

「兄上、そんな……」

 ノクティスの気迫に、何を言っても届かないとレオニスは悟った。その銀色の瞳の中に、憎悪が燃えている。

(殺される――!)

 レオニスは、なりふり構わずノクティスに背を向けて逃げ出した。

「うわあああああああ!」
「逃がすか!」

 赤い絨毯の通路を一直線に出口へと走るレオニス。追いすがるノクティス。兄が弟に向かって剣を振り上げた。

「あっ」

 背後からの気配に気を取られたレオニスは、足を滑らせた。バランスを崩すレオニスの背に、刃が振り下ろされる。肉が裂け、鮮血の花が咲いた。倒れこむレオニス。薄れいく意識の中で、足音が迫ってくるのを聞いた。それが兄のものだと確認したのを最後に、レオニスは意識を手放した。

 故に、気付かなかった。
 たった今自分を斬った兄ノクティスが、まるで計画が成功したことを祝うかのように、酷薄な笑みを浮かべていたことに――。

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