とある英雄達の最終兵器
第137話 作者が置き忘れてきた青春の喫茶店
そんなルーナの視線に気付かない振りをして遊楽団はそそくさと講堂を後にする。
そして、シャルバラとセシリアに先導してもらい紅茶屋を目指す。大通りをしばらく歩き、陽の入らない狭い路地へと入ると、その紅茶屋はひっそりと隠れるようにあった。シャルバラが慣れた様子で扉を開けると涼し気なベルの音が響く。
カランカラン。
「いらっしゃい。おや、シャルバラ様。それに……セシリア様まで、久しぶりだね」
「フフ、マスターお久しぶりです」
顔の下半分はヒゲで埋め尽くされており、まるで熊のように大柄なエルフのマスターが嬉しそうに挨拶をする。セシリアも久しぶりの再会に顔がほころぶ。
「マスター? 今日は大人数なんだけど、大丈夫かしら?」
「ハハハ、シャルバラ様、うちは相変わらず見ての通りだよ。五人でも十人でも連れてきたらいい」
狭い店内は十五人も入れば満員だろう。そして、本日はシャルバラ達以外に客の姿は見えない。
「ありがとう。ではセシリア入りましょう」
「フフ、はいはい。皆さーん、入っても大丈夫ですよ~」
マスターから許可を貰ったので、セシリアが店外で待っているカレーナと遊楽団のメンバーに声を掛ける。
「うーい、失礼しまーす」
「お邪魔するねー」
「マスター、お願いします。あっ、シャルバラ様この男が無礼を働かないよう見張っておきました!」
「セシリアぁ、カレーナちゃんの圧力スゴイからなんとかしてくれ……。って、うげっ、熊かよ! 普通こういう時は美人巨乳エルフがピチピチブラウスで谷間を覗かせながら紅茶を淹れる店って相場が──」
「ほら、テップ後ろつかえてんだから、進め」
「フフ、アンフィス。紅茶屋で人の臀部を蹴り飛ばす行為はどうかと思いますよ?」
「おぉーー、いい香りなのだー! ケーキもあるのだ!?」
「……たぶん?」
「うぅー……食べたいけど私最近ちょっと気になるんだよねっ……」
「フ。なんだカグヤ? 最近イイコトがあったから幸せ太りか?」
「ぶとりかー?」
ゾロゾロと入ってくる面々。
「…………」
「マスター……。その、ごめんなさい」
「い、いや。ハ、ハハ。シャルバラ様とセシリア様は随分愉快な友達が多いんだね。あ……安心したよ。ハハ」
クマスターの動きが固まったのを見て、察したセシリアが恥ずかしそうに頭を下げる。クマスターはなんとか大人の対応で苦笑し、この現実を受け止めた。
「ふぅ。ひとまず貸し切りだな。まぁ滅多に客はこないからいつも貸し切りみたいなもんだが、一応看板を下ろしてくる。座って待っててくれ」
そして、クマスターは店先の看板をクローズドに変えにいく。
その間に席に座るのだが──。
「セシリア、セシリア……」
この時、シャルバラがこっそりセシリアに耳打ちをする。するとセシリアはニコリと笑い──。
「ヴァナルさん、テュールさん、お二人はこちらです。で、シャルはこっち。私はここ、と」
四人掛けテーブルにこの四人で座ることが決まった。更に言えば座る位置まで指定されており、シャルバラの隣にヴァナル。セシリアの隣にテュールだ。
そして呼ばれていないが、そのテーブルの横、ヴァナルのすぐ側にシレッと一人の少女が立って待機している。
「……カレーナ? 何かしら?」
「いえ、お気になさらず。私はシャルバラ様の護衛です。この店内のどこに刺客がいるやも分かりません。私は敵と認識したら容赦しませんから」
シャルバラの質問にそう答え、視線は送らずともヴァナルへと圧力をかけるカレーナ。
「あははは……。良い護衛さんだねー」
これにはヴァナルも苦笑いを浮かべ、お世辞半分、嫌味半分の言葉が出てしまうのであった。
「もう、カレーナ! そんなところに立っていたら気になって紅茶を楽しめないでしょ? 私は大丈夫だから向こうに座ってて」
「ですがっ!!」
「向こうに座ってて?」
「ひぅっ!? は、はぃ……」
満面の笑みを浮かべるシャルバラ。その笑顔に何かトラウマがあるのか、それを見た途端顔を蒼くしてトボトボと別のテーブルに着くカレーナ。そして、全員が着席したところでクマスターが戻ってくる。
「ん? おやおや? ほほぉーう。ふむふむ」
そして、店内を見回したクマスターは、セシリアのテーブルを見て、アゴヒゲをさすり、妙に楽しげに頷きはじめる。
「シャルバラ様も、セシリア様ももうお年頃ってわけだ。ハハハハ」
「マ、マスター! そ、そんなんじゃありません! ヴァナル様とは今日お会いしたばかりです、し……それに無理を言って、隣に座ってもらっているだけでっ──」
「んー? 何がそんなんじゃないんだい? それに俺は何も彼とどうなんてことは言ってないんだがなぁ」
「ぐっ……。マ、マスターいじわるです……」
これでは自分からヴァナルを意識していますと自白したようなものだ。墓穴を掘ってしまったシャルバラは髪と同じ淡い桜色に頬と耳を染める。
「もう、マスター。シャルをいじめない下さいっ」
「ハハハ、すまんすまん。つい嬉しくてな。それでセシリア様の隣の方は──?」
「どうも、テュールです。えぇとセシリアとは友人として、あとは家族のように仲良くさせてもらっています」
ほぅと言いながらクマスターの視線がテュールを捉える。そして、隣のセシリアが補足するように──。
「えぇ、テュールさんです。家族と言っても私の旦那様になってもらう予定の方ですよ♪」
ウィンクしながら茶目っ気たっぷりにそんな紹介をする。これにはテュールもクマスターもギョッと驚き、視線をセシリアに向けたまま固まってしまう。
「……プッ。ハハハハ!! こりゃセシリア様の方が一枚上手だな。これくらい開き直られたら、からかう気もなくなるってもんだ。みんなゆっくり紅茶を楽しんでってくれ」
そして、吹き出して豪快に笑うクマスター。テュールはややむず痒そうに苦笑する。そして、そんなラブコメテーブルを見ていた他の面々は──。
「なぁー。あっちめっちゃ楽しそうなんだけどー。カレーナちゃんこっちもラブコメしないー?」
「喋るな下郎。紅茶が不味くなる」
「いや、まだ出てきてないじゃん……。あと、冷たすぎない? ほら、もう模擬戦も終わったんだし仲良くしよーよ。シャルバラちゃんはヴァナルに夢中だし、もしかしたら遊楽団とこの先長い付き合いになるかもよ?」
「……み、認めん。断じてそんなことは認めることはできないっ!」
テーブルを叩くことはないが、置かれた拳はプルプルと震えている。
「そっかー。カレーナちゃんはシャルバラちゃん好きだもんね……」
「しゅ、しゅきぃ? も、妄言はそこまでにしてもらおうか? 貴様の勘違いだが、もしシャルバラ様の耳に入れば不敬罪にあたる重大な規律違反だ。金輪際そのようなことは──」
わざとやっているのか? と皆に思わせるレベルで上ずった声を出し、茹でダコのように顔を赤く染め、挙動不審になるカレーナ。
「でも、憧れるよねっ。主君と従者の許されざる恋っ。障害があった方が恋は燃えるもんねっ」
そして、それを聞いていたカグヤは両手を頬に当てぽやぁっとした表情になり、遠い目をしながらそんなことを言い始める。だが、そんなカグヤにリリスは冷ややかな視線を送る。
「うわー、出たのだー。乙女カグヤなのだ。でもそれ以前に女同士なのに好きっていうのが分からないのだー」
「……リリスはおこちゃまだから」
「むー! じゃあレーベは分かるのだ?」
「……当然。主君とは強い者。強い者に惹かれるのに女も男もない」
そんなリリスの恋愛観をあざ笑うのはレーベ。自称恋が分かるレーベは独自の理論を展開したが、それを聞いていた他の面々はリリスと五十歩百歩だなと断じるのであった。そして──。
「うーもわかるのだー!」
ノリだけで発言する子がここにも一人。そんな我が子に母はピシリと注意する。
「おい、ミア。リリスを真似するのはいいが、その内本当に戻らなくなると困るからそれは暫く禁止だ」
「やーなのだー!」
反抗するミア。
「言うことを聞かないとおやつは抜きだぞ?」
切り札を切るレフィー。
「うー……。なのだやめる……」
「よし、いい子だ」
そして、頭を撫でて一件落着。
「っは。にしてもレフィーがちゃんと母親やってるってんだから世の中わからねぇよなー」
「いえいえ、元からレフィー様は面倒見が良い方ですから意外ではありませんよ」
そんな様子を見ていたアンフィスは可笑しそうに笑い、ベリトも微笑ましいものをみるように笑う。
「あー……歓談中申し訳ないんだが、注文を先にいいか?」
そして遂にしびれを切らしたクマスターが切り込む。話に夢中になり紅茶を頼むのを忘れている一同であった。
そして、シャルバラとセシリアに先導してもらい紅茶屋を目指す。大通りをしばらく歩き、陽の入らない狭い路地へと入ると、その紅茶屋はひっそりと隠れるようにあった。シャルバラが慣れた様子で扉を開けると涼し気なベルの音が響く。
カランカラン。
「いらっしゃい。おや、シャルバラ様。それに……セシリア様まで、久しぶりだね」
「フフ、マスターお久しぶりです」
顔の下半分はヒゲで埋め尽くされており、まるで熊のように大柄なエルフのマスターが嬉しそうに挨拶をする。セシリアも久しぶりの再会に顔がほころぶ。
「マスター? 今日は大人数なんだけど、大丈夫かしら?」
「ハハハ、シャルバラ様、うちは相変わらず見ての通りだよ。五人でも十人でも連れてきたらいい」
狭い店内は十五人も入れば満員だろう。そして、本日はシャルバラ達以外に客の姿は見えない。
「ありがとう。ではセシリア入りましょう」
「フフ、はいはい。皆さーん、入っても大丈夫ですよ~」
マスターから許可を貰ったので、セシリアが店外で待っているカレーナと遊楽団のメンバーに声を掛ける。
「うーい、失礼しまーす」
「お邪魔するねー」
「マスター、お願いします。あっ、シャルバラ様この男が無礼を働かないよう見張っておきました!」
「セシリアぁ、カレーナちゃんの圧力スゴイからなんとかしてくれ……。って、うげっ、熊かよ! 普通こういう時は美人巨乳エルフがピチピチブラウスで谷間を覗かせながら紅茶を淹れる店って相場が──」
「ほら、テップ後ろつかえてんだから、進め」
「フフ、アンフィス。紅茶屋で人の臀部を蹴り飛ばす行為はどうかと思いますよ?」
「おぉーー、いい香りなのだー! ケーキもあるのだ!?」
「……たぶん?」
「うぅー……食べたいけど私最近ちょっと気になるんだよねっ……」
「フ。なんだカグヤ? 最近イイコトがあったから幸せ太りか?」
「ぶとりかー?」
ゾロゾロと入ってくる面々。
「…………」
「マスター……。その、ごめんなさい」
「い、いや。ハ、ハハ。シャルバラ様とセシリア様は随分愉快な友達が多いんだね。あ……安心したよ。ハハ」
クマスターの動きが固まったのを見て、察したセシリアが恥ずかしそうに頭を下げる。クマスターはなんとか大人の対応で苦笑し、この現実を受け止めた。
「ふぅ。ひとまず貸し切りだな。まぁ滅多に客はこないからいつも貸し切りみたいなもんだが、一応看板を下ろしてくる。座って待っててくれ」
そして、クマスターは店先の看板をクローズドに変えにいく。
その間に席に座るのだが──。
「セシリア、セシリア……」
この時、シャルバラがこっそりセシリアに耳打ちをする。するとセシリアはニコリと笑い──。
「ヴァナルさん、テュールさん、お二人はこちらです。で、シャルはこっち。私はここ、と」
四人掛けテーブルにこの四人で座ることが決まった。更に言えば座る位置まで指定されており、シャルバラの隣にヴァナル。セシリアの隣にテュールだ。
そして呼ばれていないが、そのテーブルの横、ヴァナルのすぐ側にシレッと一人の少女が立って待機している。
「……カレーナ? 何かしら?」
「いえ、お気になさらず。私はシャルバラ様の護衛です。この店内のどこに刺客がいるやも分かりません。私は敵と認識したら容赦しませんから」
シャルバラの質問にそう答え、視線は送らずともヴァナルへと圧力をかけるカレーナ。
「あははは……。良い護衛さんだねー」
これにはヴァナルも苦笑いを浮かべ、お世辞半分、嫌味半分の言葉が出てしまうのであった。
「もう、カレーナ! そんなところに立っていたら気になって紅茶を楽しめないでしょ? 私は大丈夫だから向こうに座ってて」
「ですがっ!!」
「向こうに座ってて?」
「ひぅっ!? は、はぃ……」
満面の笑みを浮かべるシャルバラ。その笑顔に何かトラウマがあるのか、それを見た途端顔を蒼くしてトボトボと別のテーブルに着くカレーナ。そして、全員が着席したところでクマスターが戻ってくる。
「ん? おやおや? ほほぉーう。ふむふむ」
そして、店内を見回したクマスターは、セシリアのテーブルを見て、アゴヒゲをさすり、妙に楽しげに頷きはじめる。
「シャルバラ様も、セシリア様ももうお年頃ってわけだ。ハハハハ」
「マ、マスター! そ、そんなんじゃありません! ヴァナル様とは今日お会いしたばかりです、し……それに無理を言って、隣に座ってもらっているだけでっ──」
「んー? 何がそんなんじゃないんだい? それに俺は何も彼とどうなんてことは言ってないんだがなぁ」
「ぐっ……。マ、マスターいじわるです……」
これでは自分からヴァナルを意識していますと自白したようなものだ。墓穴を掘ってしまったシャルバラは髪と同じ淡い桜色に頬と耳を染める。
「もう、マスター。シャルをいじめない下さいっ」
「ハハハ、すまんすまん。つい嬉しくてな。それでセシリア様の隣の方は──?」
「どうも、テュールです。えぇとセシリアとは友人として、あとは家族のように仲良くさせてもらっています」
ほぅと言いながらクマスターの視線がテュールを捉える。そして、隣のセシリアが補足するように──。
「えぇ、テュールさんです。家族と言っても私の旦那様になってもらう予定の方ですよ♪」
ウィンクしながら茶目っ気たっぷりにそんな紹介をする。これにはテュールもクマスターもギョッと驚き、視線をセシリアに向けたまま固まってしまう。
「……プッ。ハハハハ!! こりゃセシリア様の方が一枚上手だな。これくらい開き直られたら、からかう気もなくなるってもんだ。みんなゆっくり紅茶を楽しんでってくれ」
そして、吹き出して豪快に笑うクマスター。テュールはややむず痒そうに苦笑する。そして、そんなラブコメテーブルを見ていた他の面々は──。
「なぁー。あっちめっちゃ楽しそうなんだけどー。カレーナちゃんこっちもラブコメしないー?」
「喋るな下郎。紅茶が不味くなる」
「いや、まだ出てきてないじゃん……。あと、冷たすぎない? ほら、もう模擬戦も終わったんだし仲良くしよーよ。シャルバラちゃんはヴァナルに夢中だし、もしかしたら遊楽団とこの先長い付き合いになるかもよ?」
「……み、認めん。断じてそんなことは認めることはできないっ!」
テーブルを叩くことはないが、置かれた拳はプルプルと震えている。
「そっかー。カレーナちゃんはシャルバラちゃん好きだもんね……」
「しゅ、しゅきぃ? も、妄言はそこまでにしてもらおうか? 貴様の勘違いだが、もしシャルバラ様の耳に入れば不敬罪にあたる重大な規律違反だ。金輪際そのようなことは──」
わざとやっているのか? と皆に思わせるレベルで上ずった声を出し、茹でダコのように顔を赤く染め、挙動不審になるカレーナ。
「でも、憧れるよねっ。主君と従者の許されざる恋っ。障害があった方が恋は燃えるもんねっ」
そして、それを聞いていたカグヤは両手を頬に当てぽやぁっとした表情になり、遠い目をしながらそんなことを言い始める。だが、そんなカグヤにリリスは冷ややかな視線を送る。
「うわー、出たのだー。乙女カグヤなのだ。でもそれ以前に女同士なのに好きっていうのが分からないのだー」
「……リリスはおこちゃまだから」
「むー! じゃあレーベは分かるのだ?」
「……当然。主君とは強い者。強い者に惹かれるのに女も男もない」
そんなリリスの恋愛観をあざ笑うのはレーベ。自称恋が分かるレーベは独自の理論を展開したが、それを聞いていた他の面々はリリスと五十歩百歩だなと断じるのであった。そして──。
「うーもわかるのだー!」
ノリだけで発言する子がここにも一人。そんな我が子に母はピシリと注意する。
「おい、ミア。リリスを真似するのはいいが、その内本当に戻らなくなると困るからそれは暫く禁止だ」
「やーなのだー!」
反抗するミア。
「言うことを聞かないとおやつは抜きだぞ?」
切り札を切るレフィー。
「うー……。なのだやめる……」
「よし、いい子だ」
そして、頭を撫でて一件落着。
「っは。にしてもレフィーがちゃんと母親やってるってんだから世の中わからねぇよなー」
「いえいえ、元からレフィー様は面倒見が良い方ですから意外ではありませんよ」
そんな様子を見ていたアンフィスは可笑しそうに笑い、ベリトも微笑ましいものをみるように笑う。
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