とある英雄達の最終兵器

世界るい

第123話 ロマン溢れる湖の名前

 レーベの怪我に対する心配もあり、対ラグナロク作戦に関しては、明日の夜改めて相談をすることとなった。


 そのため本日は早めに就寝する一同。夜は明けてリエース共和国での二日目が始まる。


 心配されていたレーベはケロリとしており、朝にはいつも通りマイペースな様子で食事をとっている。


 というわけで、テュール率いる第一団は、予定通りセシリアをガイドとし、リエースの名所巡りを行う。


「みなさーん。あちらが、ユグドラシルが生み出した神秘の湖と言われるロ・マン――」


「だーかーら、団名はギャラクティカ・アルティメット・フォースが良いに決まってんだろ!」


「おい、テップ? だからお前正気かって言ってんだよ。そんな名前にしたら世界中から笑われるぞ? もう少しスマートでシンプルなのにしろ。そうだな、旅団――名も無き旅団ってのはどうだ?」


「ないな」


「ないね~」


「なしですね」


「ぐっ、じゃあお前らも意見出せよ!」


「んー、そうだな。黒とかどうだ? 一文字で」


「アンフィスも変わらないねぇー。ボクだったらそうだなぁ~、白狼団かなぁ」


「それでは、ここにいる九名が当てはまらなく――おっと、ウーミル様も入れて十名ですね」


「フ。こういう時はカグヤが無難かつ良いものを考えていたりするんだ」


「え゛、私? うーーん、ラブ&ピース団……と、か、ゴメンッ! やっぱなしっ」


「……強き者達」


「お菓子大好きなのだーの団!」


「いや、全然まとまらねぇな……ん?」


 フルフルフル……。


「皆さん? ちゃんとリエースのことを聞く気はありますか? それならいっその事、人の話を聞かない人達の団という名前にしたらどうでしょう? フフフ」


 セシリアのガイドを一切聞かず、団名を考えていた皆に黒い笑みでそう告げるセシリア。


「う、う、う――」


 そのただならぬ雰囲気に泣き始めるウーミア。震えるテュールとテップ。慌てて謝り始める女性陣。


 今日も平和であった。


 そして、セシリアのご機嫌をなんとか回復し、空いた時間に話し合った結果――。


「ギャラクティカ・アルティメット・人の話を聞かない人達の団に――」


「決まるわけないだろ! 厳正なる話し合いと多数決の結果、遊楽団ゆうらくだんだ。えぇい、文句は作者に言えぃ!」


 と、言うわけで無事団名が決まったところで、遊楽団の面々はランチタイムとなる。そして訪れたのが――。


「じゃじゃーん。こちらは、半年以上予約が埋まっている超有名人気店です! 私はなんとこの第一団、もとい遊楽団が結成された時点で研修旅行の日程を調べ、このお店を予約していました!」


 おーパチパチパチ。


 セシリアが案内した料理屋は学生ではまず入るのを躊躇う趣ある高級料理店のそれであった。
 
 
 そこに躊躇することなく突撃しようとしているセシリア。恐らく小さい頃から通い慣れているのであろう。しかしテップは――。
 
 
「あぁー、俺ちょっとお腹痛くなってきたかも? そういう高級っぽい料理食べるとほらボツボツとか出ちゃうかもだし……」


 そんなことを言って回れ右をする。
 
 
「おい、テップ何言ってんだよ。折角セシリアがこの日のために予約してくれた店なんだぞ? 変なこと言うな。ほれ行くぞ」


「い、いやぁぁああああ」


 当然、人ひとりを引きずるなど訳ないテュールは問答無用でテップを店へと引きずりこむ。
 
 
 そんなテップはしぶしぶ席に着き――座った途端にテーブルに顔を突っ伏してしまう。
 
 
 皆が顔を見合わせ、不思議そうにするが、テップの挙動が不審なのは今に始まったことではないため放っておくこととする。


「あ、そうです! このお店はなんと種族毎にそれぞれ味付けを変えてくれるんです! だから、このお店は外国からの著名人なども多く――あっ、ほら、あそこにいらっしゃるのなんて、聖女様ですね!」


 店の説明を途中で中断しまっていたセシリアが説明を再開する。そしてその中で聖女を見つけたという言葉にセシリアの視線を追うテュール。


「ほぇー。あれが聖女様か。初めて見たが、綺麗な人だな。おい、お前の好きそうな美人さんじゃないか。見なくていいのか? あっ、目が合った! おい手を振ってるぞ? テップいいのか!?」


「……うるさい。黙れ。今はそんな気分じゃないんだ。あと俺は聖女はなんとなく苦手だ。宗教心とかないし……」


「お、おう、そうか」


 噂に聞いていた聖女を初めて見るテュールはテンションが上がっていたが、普段こういう時にはしゃぐであろうテップはモゴモゴとそう答え、机にベッタリと顔を伏せたままである。

 そして、そんな噂の聖女は、立ち上がり――。


「おい、聖女が近づいてくるぞ?」


「あん? そうだな」


「ん、そーだねー」


「はい、こちらに向かっていますね」


「…………」


 男子一同の反応は鈍かった。テップに至ってはもはや返事すらしない始末だ。そして、女性陣は――メニューとのにらめっこに夢中で聖女に気付かない。恐らく聖女をここまでないがしろにするのは遊楽団くらいであろう。


「ほら、皆さん聖女様が来ましたよ。メニューを置いてご挨拶を――」


 唯一聖女に対して気を使っていたのはセシリア。その言葉に女性陣もようやく顔を上げる。そして近づいてきた聖女に対し、慌てて挨拶をしようとしたところで――。


「テップさん、お久しぶりです。お元気でしたか? フフ、また会えて嬉しいです」


 聖女が笑顔でとんでもない先制パンチを放ってきた。あまりの衝撃に挨拶など忘れ、何事かと遊楽団の面々がざわつく。そんな中、仕方ないといった様子でテップが顔を上げ――。


「ど、どうも。お久しぶりです。聖女様、ハハ」


 引き攣った笑みで他人行儀にそう答えるのであった。しかし、これが悪手であった。


「あら、テップさん? 寂しいじゃないですか、この前みたいにユウリって呼んで下さい」


「ユウリ?」「ユウリ……」「ユウリか……」「ユウリだって」


 ヒソヒソヒソヒソ……。


 遊楽団の皆は、テップがまたナンパしたのかと邪推をするが、しかし、どうも聖女の方がテップに関心がある様子のため、状況を見守ることとした。


「おや、ユウリ様? お知り合いですか?」


 そこに一人の優男がやってくる。それはとても丁寧で優しく、そして――粘りつくような声であった。


「あら、ノイン。そうよ? テップ君と――」


「ふむ、ユウリ様? 既知の者との時間は尊きものですが、なにぶんユウリ様は忙しい身です。皆様、大変申し訳ないのですが、失礼させていただきますね? さ、ユウリ様?」


 ゾクリ。


(な、なんだ? 今、鳥肌が……)


 ノインと呼ばれた男から出る僅かな苛立ち――、その僅かな感情の発露によりテュールの全身に鳥肌が立つ。


「ぶー。分かりましたー。テップ君とそのお友達もまたねー」


 そして、聖女はそんなノインの苛立ちを全く気にする様子もなく、そのまま一緒に店を出る。チラッと聖女が先程いたテーブルの上を見ると――今しがた並べられたばかりの料理は何一つ手がつけられていなかった。


「……ふぅ。さって、飯だ、飯だー! なーに食べよっかなー? ウーは何食いたいー?」


「うーは肉ぅー!!」


 皆が後味と気味の悪さを感じている中、テップが急に大声を上げ、メニューを眺め始める。ウーミアを巻き込む辺りが、策士と言えよう。それ以降は聖女の話を出す雰囲気ではなくなり、皆がメニューとにらめっことなる。しかし、どことなく皆の表情が固かったのは言うまでもない。


 一方、店を出た聖女たちは魔導車へと乗り込み、移動を開始する。車内は当然、防音の魔法陣が組み込まれており――。


「ユウリ様、困りますね。何度も言っていますが私の名前を外で呼ぶのはやめていただきたい」


「あら、あなたの名前はいくつもあるのだから、一つくら――グッ」


「いえ、例えいくつあろうとそれが私を表す符号の一つであることに変わりはないんですよ」


 ノインは片手で聖女の細い首元を掴みながら笑顔でそう言う。


「カハッ……、ゲホッ、ゴホッ……。オ゛ェェェ……。ッフゥ……。まったく聖女にあるまじき声を出してしまった、わ……」


「いえいえ、それだけ強がれれば聖女として満点ですよ。それにまぁ――」


(良いこともありました。あの場にいたのは――、あれは――に似て、良い器になりそうだ……クク)


「それに?」


「いえ、なんでもありません。そんなことよりご自身の心配をされて下さい。帰ったらその強がりを素直にする教育・・が待ってますから」


「あら、怖い。フフフ」


 そして、魔導車はそっと人々の目から消えるように走り去っていった。

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