とある英雄達の最終兵器

世界るい

第121話 セリフを言うチャンス!

 どちらが獅子か分からなくなるようなローザの気迫にその場は一触即発の雰囲気となる。しかし元凶である喧嘩売りの幼女は目を爛々と輝かせ、テュールを見上げてくる。
 
 
(いやいやいや、なんでそんな、どう? 上手くいったでしょ? みたいな顔してるの? ぜんっぜん何も良くないよ?)


 テュールは、そんなレーベの暴走を止め、穏便に済まそうと口を開こうとする。しかし、そこで――。
 
 
「面白そうだな」


「うん、ボクも見てみたいね~」


「じ、実は私もちょっと興味あるかなっ、なーんてっ?」


(お、お前ら……)


 アンフィスを始め、皆が口々に喧嘩を煽り始める。なんてことはない、単純にエルフ最強と位置付けられているローザの実力を見てみたいのだ。
 
 
 そしてローザはエリーザとルチアに目配せをし、二人が止めないことを確認すると――。
 
 
「カカッ。よし、んじゃ移動するぞ。ついてきな」


 皆を引き連れて鍛錬場へとウキウキで歩いていった。よくよく見ればレーベの足取りも軽いのが分かる。


 そして皆が去った後の食堂にはイアンが座ったまま一人取り残される。
 
 
「あれ? 僕忘れられてない?」


 誰にも話しかけられないまま放置されたイアンは、ゆっくりと目を開け、一人そうゴチったあとゆっくりと鍛錬場へ向かうのであった。
 
 
 一方、ローザを先頭にして他の面々は鍛錬場へ到着する。早速レーベは鍛錬場の中央へと歩みを進め、準備運動を始める。そして、その行為は本来の目的ではなく、ここまできて怖気づくことなどない、闘う気満々だ、というアピールであった。そんなレーベを見て愉悦の笑みを浮かべるローザ。リエース共和国ではローザに喧嘩を売ってくるような者はいないのだろう。
 
 
 そして、もはや止める気が失せてしまったルチアがせめてもと審判を買ってでる。
 
 
「ローザ、あんたわかってるさね?」


「はいはーい」


「はぁ……。さて、レーベ、あんたはまぁ全力で勝ちにいくといいさね」


「ん。元からその気」


 こうして、遂にレーベの念願であったSSSランクとの手合わせが叶う。


 レーベは目の前に立つローザをキッと睨み、隠すことなく全身から闘気を立ちのぼらせる。
 
 
「おーおー、こえぇ。カカッ、それにしても活きがよくていいねぇ。ほれ、おばちゃんが遊んでやるからかかってこ――って、誰が年増だいっ!」


 それにしてもこの叔母様ノリノリである。
 
 
「はぁ……ったく、あんたはいくつになっても落ち着きがないさねぇ。だから貰い手が……ってあたしも年寄りくさい説教を――って、誰が年寄りだいっ!!」


 それにしてもこの母娘ノリノリである。だが、そんな和むか和まないか微妙なところであるやりとりをみてもレーベは一切視線を揺らさない。そしてその張り詰めた視線とは裏腹に四肢はゆらりと弛緩しており、ごく自然体な構えをとっている。
 
 
「……いい構えだ。ふざけて悪かったな。いいだろう、あたしが茨姫と呼ばれる所以を見せてやるよ。この世界でユグドラシルの姓を持つものだけが使える樹界の魔法を、な」


 先ほどまでの軽薄な雰囲気を消し去り、悠然と構えるローザ。目線でルチアに開始の合図を求める。
 
 
「ったく、好きにしな……ほれ、開始だ」


 ルチアがやる気の感じられない声でいつもの組手を開始するかのようにそう告げる。


 そして開戦と同時にレーベは両手に何枚も魔法陣を描きながらローザへと疾った。
 
 
 開始同時に突っ込みますと言わんばかりの闘気を浴びていたローザは当然これを予見している。しかし――。
 
 
(いいぞ、いいぞ! 魔法の構築速度は合格点だ。これは獅子族の得意とする身体強化か、よほど書きこんでいるな。それに単純そうに見えて器用なことをしてくるじゃないかっ!)


 その予見をいい意味で裏切られ、ローザは僅かに昂揚する。そして、瞬きほどの瞬間に20mに及ぶ魔法陣を完成させたレーベは素人から見れば単純な突撃に映るであろうが、その実、視線と重心を巧みに操り、相手の意識をごく僅かズラすことに成功している。
 
 
「ほぅ。流石はテュール様の弟子ですね。テュール様の良いところをきちんと吸収できています」


 観戦していた者の一人、ベリトがからかい半分でテュールにそう話しかける。
 
 
「はいはい、どうせ俺は小賢しい戦い方ですよっ。……てか、ベリトいたんだな?」


「……言わないで下さい。ここ暫くセリフがなかっただけで常に隣にはいましたから」


「……そ、そうか。その……なんかすまん」


 いたたまれない空気が流れたため、どちらともなく口を閉ざし、視線を戻す。
 
 
 そしてその視線の先、鍛錬場では――。
 
 
「……っ!! らぁぁあっ!!」


 普段は平坦な声で言葉少なのレーベが吼え、その拳を一片の容赦無く振り抜こうとしていた。しかし――。
 
 
「ざーんねん。これもダメ」


 ローザは両手に幾重にも重ねられた蔦を握りしめ、その拳を、蹴りを巧みに反らしていた。その度にレーベの手や足から鮮血が舞う。


「いいぞ、いいぞ! 人は痛みを学習する。そして痛みが生じるであろうパターンを覚えた時、体は無意識下のレベルでそのパターンを逸脱しようとする。その歳でよくもそこまでいじめ抜いたものだ、お前の体は既に痛みの学習能力がない。完全にぶっ飛んでるぞ! カカカッ!」


 いくら弾かれ反らされようが、ただひたすらに己ができることを全て試しつつ、ローザに向かっていくレーベ。そこに躊躇はない。


(……あの蔦は厄介。柔の技。剛でいっても受け流されるだけ……。なら……)


 レーベは一旦、後方へ飛び、その両手に魔法陣を浮かべる。その魔法陣を読み解き、ローザはまたしても笑い始める。


「カカカカカッ!! 本物のバカだな! いいぞ、嫌いじゃない。全部受け流してやる。きな」


 そして、レーベの魔法陣が輝くと、その足元からミシリと嫌な音が聞こえる。


(剛でいっても受け流されるだけなら……受け流せないほどの剛でいけばいいっ)


 先ほどと変わらぬ速度でレーベがローザへと迫る。そしてその拳は――。


「くっ! いってぇな」


 蔦に反らされる瞬間、衝撃音を轟かせ、蔦ごとローザを吹っ飛ばす。


「おや、重力魔法ですか。彼女は魔法の取捨選択をしっかりしているようですね。それにしても、あの小さな拳であれだけの衝撃波、いったいあの拳の質量は何百倍になっているんでしょうかね……。いやはや恐ろしい、ねぇ? テュール君」


「え、あ、そうですね。彼女は格闘戦にプライドを持ってますから、魔法も格闘を高められるものならばひたむきに練習しますよ。質量に至ってはキロじゃなく、トンはいってるでしょうね。音速を超える早さでトンを超える質量がぶつかってきたらいくら柔軟な蔦でも受け流すのは困難でしょうね。あ、あとイアンさんいらっしゃったんですね……」


「「…………」」


 そして、再び舞台は戦場へ――。


「ふぅー。さて、ここから本当は、バラの一枚一枚を魔力でコーティングして、鋭利な刃として敵を切り刻む、その名も風華円――」


「これ、ローザ! その技名はダメだと、開始前に言ったさねっ!!」


「……陣を見せて遊ぼうかとも思ったが、中々どうしてあたしも血が騒いできた。生命を司る樹界魔法の真髄を見せようじゃないか」


 そう言うと、今試合始めてローザは魔法陣を描く。当然周りも――。


「見たことが――、あ、いやルチアの治癒魔法の式に似ているな……」


 見慣れない魔法陣の式であったが、人一倍ケガが多く、幼少の頃からルチアの治癒魔法の世話になってきたテュールは、それが樹界魔法であったことに気付く。


「そう。この世界の魔法に治癒魔法はない。治癒を使えるのは樹界魔法を会得した者のみ。それが世界樹の守り手でありエルフの守り手であるあたし達一族の誇りであり証明。そして、それを戦闘用に組み替えたのがこのあたしさ。カカッ、小さなライオンちゃん、奇遇だね。実はあたしも――」


 ローザがそこまで言ったところで樹界魔法の陣が完成し、発光する。そして、光が止むとローザの身体を青い粒子がキラキラと光り纏う。


「格闘術が得意なんだよ」

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