とある英雄達の最終兵器

世界るい

第114話 主人公のいないところでようやく物語が動き始めそう

「あぁ、すまんすまん。エフィルお前何を遊んでいるんだ?」


「ぐむぅ、ロ、ローザ様……も、申し訳ありません……」


 ローザが足をどかすとエフィルは直ぐ様立ち上がり、頭を下げる。そして、ローザは改めてテュール達一行を見渡す。


「さて、うちのセシリアが世話になっている。女性陣は中々豪華な顔ぶれだな。男どもは、ふふ~ん。お前かぁ? お前かぁ? そ・れ・と・も・お前かぁ?」


 女性陣を見る時はやや目尻が下がり、柔らかい表情だが、男連中への眼光は鋭い。


「ササッ」


 そして、その鋭い眼光は最後にリリスに突き刺さる。いや、正確に言うならばリリスの後ろにササッと口にしながら回り込んで隠れたテップにだ。


「きもいのだぁ」


 ぴとっと背後につかれたリリスはにべもなくそう言ってのけ、足を高く上げ、勢いよく下ろす。その踵がテップのつま先にのめりこむが、テップは鋼の意思でノーリアクションを貫く。そんなテップを見て、ローザはニヤリと笑うと――。


「まぁいい。積もる話はエリーザへの挨拶の後にしよう。ほれさっさと済ませてこい」


 扉の前からどき、親指でテュール達一行の入室を促す。そして、入室した先にはエリーザが待っており――。


「改めましてセシリアおかえりなさい。それに皆さんも急な招待に応じていただきありがとうございます。この家ではセシリアのお母さんとしてよろしくね。変に固くならないでいいわ。こちらも娘の友だちとして歓迎しますから」


 カラカラと笑いながら挨拶をする。これに対し、リリスやレーベは言葉通り受け取り、本当に友達の母親に挨拶をするノリで話し始める。流石にレフィーとカグヤは向こうの意向を汲み取った姿勢をとりながらも失礼にあたらないよう挨拶をしている。ウーミア? 可愛らしい挨拶だ。当然テュールは頬をゆっるゆるに緩めた。


 ちなみに男連中はこういった場面では意外にもきちんとしており、そつなく挨拶をこなす。そして、最後はテュールの番だ。


「初めまして、テュールと申します。本日はお招き――」


「あら、あららら! あらー! あなたがテュールさんね? ローザ! カレよ!」


「ほぉー。お前かぁ。ふむ、ちと頼りなさそうだが……不思議と安心できる雰囲気を持っているな」


 テュールが挨拶をしようとするとエリーザに遮られる。そして、ローザを呼ばれ、二人はふんふん言いながら品定めするようにジロジロとテュールを観察する。


「だが、可能性は低かったが、私はあいつだったら面白いと思ったんだがなぁー」


 そう言って、テュールから視線を外し、テップの方を見るローザ。


「アハ、アハハ、い、いえ自分は身の程を弁えていますんで~」


(おい、まるでそれだと俺が身の程を弁えていない――いないっすね)


 焦るテップ。それを見て心の中で一人ボケツッコミし、勝手に落ち込むテュール。


「カカカ、そこらへんでやめておやり。あたしは子供の恋路に顔を突っ込むような子を育てた覚えはないよ」


 と、そこでようやくルチアが止めに入る。


「ほら挨拶は済んだんだ。すぐに夕食だよ。その時にでも話せばいいさね。ほら散った散った」


 こうして、テュール達一行は本当に存在していたエルフメイドに案内され各々の客室へと通される。ウーミアはレフィーと同室だが、それ以外は一人一室が与えられた。テュールもエルフメイドに従い、部屋に入る。そして、扉が閉まり一人になるとようやく気が抜け、長い息を吐く。


「はぁ~~~。つっかれたぁー」


 テュールは誰もいない空間へ一人呟き、そのままベッドにドサリと倒れ込む。


(あー、王族の家とか気を使わないわけないよなぁ。みんなよくあんな自然体で……、って言っても女性陣、それにアンフィスやヴァナルだって王族、ベリトは特殊だし、一般人て俺とテップだけなんだよなぁ。しかしテップはあんなキャラだし――いや、あぁ見えて人一倍周りを見てるし、気使いぃか)


 そして目を閉じながらそんなことを考えていると――。

 
「ぐーー。すかーー。ぴーー」


 いつの間にか夢の世界へと誘われていた。


 一方、広間では――。


「さて、エフィル。人払いを頼むさね」


「はっ、畏まりました!」


 ルチアがエフィルにそう指示を出すと、エフィルは直ちに部屋を出る。そして扉を閉め、姿は見えなくなったが部屋へ通さないために立って待機しているだろう。


「で、ママどうしたんだい?」


「ママのことだから人払いまでして母娘水入らずの時間を楽しみたいというわけじゃないわよね?」


 広間に残った2人、ローザとエリーザが訝しむようにルチアへと尋ねる。


「かぁ、あんた達いい加減そのママってのはやめな。もうお互いイイ歳なんだ、あたしは恥ずかしいさね」


 ルチアがジト目で二人にそう返す。その視線を受けエリーザとローザは互いを見つめ合い肩をすくめて苦笑する。恐らくこのやり取りをもう何十年、何百回としているのだろう。そして、ルチアもやめさせられるとは思っていないようで、一応は言葉にしておくものの、さほど気にした風でもない。



「まぁ、そんなことはどうでもいいさね。ここからはマジメな話しだよ。あたし達が表舞台に戻ってきた、ということはどういうことか分かるかい?」


 ルチアの表情が一転し、先程までのふざけた空気を吹き飛ばす。エリーザとローザも表情を引き締め、返答する。


「まぁ、な。当然冒険者ギルドでもやつらの動きは追っている」


「えぇ、私の方にも情報は入ってきています。今回の聖女はとても優秀な方とも……」


「あぁ、そうさね。ラグナロクのバカどもは、本格的な召喚の準備に入った。そして、器に降ろすための代償にされようとしているのが――」


 ローザとエリーザは痛々しい表情でルチアの言葉の先を待つ。半ば予想できており、そして絶対に当たって欲しくない言葉を頭の中に思い浮かべながら。


「サーディア。樹界から来たあたしらの親であり友であるユグドラシルさね」

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