絶対守護者の学園生活記
縮まる距離
「……これで終わり」
「おお……」
学園長であるシャルが大事な用で不在のため、少し増えた事務仕事を出来るだけ素早くこなしていった。途中でレオ兄が訪ねてきて私が働いている姿を眺めてきて恥ずかしかったけど、無事に終わることが出来た。
「凄いな、見事な手腕だ」
「んっ……どういたしまして」
レオ兄が頭を撫でてくれた。いつも通りの気持ちよさに安心する。
「……それでレオ兄、なんでここに?」
「野外実習の件でな」
野外実習とは新入生に実際に魔物を狩らせてちゃんとした意識を持たせようというもの。魔物だって生き物であるため、命を奪うという行為がどのようなものかをしっかりと生徒に理解させる。必ずと言っていいほど殺すのに躊躇う人や流れた血を見て気分を悪くする人などが出てくる。
そして魔物もこちらの命を狙ってくる。怯えてしまい動けなくなってしまう生徒も出てきて命の危機に直面する人達が出てしまう。そんな生徒達の為に学園の教師がアドバイス兼監視役に就くけど、専門家として例年だと冒険者も呼んでいた。
だが今年の野外実習には冒険者ではなく騎士団が名乗り出てくれた。レオ兄の用件とはこのことだろう。
「こちらから出す人員は若手の騎士三名、それに俺だ」
「……レオ兄も?」
「念には念をってな。それに団長だからといって部下に丸投げするのもなぁと思って」
騎士団長であるレオ兄は当然忙しいはずだし、学園の一行事に出張るような身分でもない。面倒だからお前らに任せたといえば逆らえる騎士はいないはずなのに、自分から率先して参加してくる。こういうところが皆に好かれる要因なんだと思う。
「そういうわけでよろしく」
そう言うとレオ兄はいつもならシャルが座っている学園長用の椅子に座った。
「なんだこの椅子、座り心地が良すぎるだろ。俺の執務室のとは大違いだ」
「……レオ兄、戻らなくていいの?」
「いやー、アリスがいつも使ってたカップを割っちゃってな。しばらくここにいさせてくれ」
気まずそうに頬をぽりぽりと掻くレオ兄。理由は分かったけどこのままだと私まで共犯になってしまう。
「……私まで巻き込まないで。帰って」
「ぐっ……分かった」
とぼとぼと足取り重く部屋を出ていこうとする。きっとこの後アリスからきつい説教が待っているのだと思う。レオ兄にベタ惚れのアリスならお仕置きだからと膝枕させて甘々な雰囲気に持っていくのもありそう。
……なんかもやもやしてきた。
「……レオ兄待って」
気付けばレオ兄を呼び止めていた。
「……やっぱり匿ってあげる」
「い、いいのか……?」
「……うん」
ぱぁっと笑顔になるレオ兄。普段はしっかりしているのにどこか抜けていて、いざというときに頼りになる。駄目駄目で格好いい、私の自慢のお兄ちゃん。
「ちょっと待っててくれ!」
このまま部屋にいるのかと思ったらすごい勢いで出て行った。私はよく分からずに待っていると、五分もしないうちに戻って来た。
「ただ居座るのもアレかと思ってお茶請け買ってきた」
お茶請けが入っているだろう袋を執務机の上に置くと、再びさっきの椅子に座る。開いた脚の間に私は無言で座ると、ギュッと抱きしめてくれた。
「相変わらずリリィは軽いなあ」
む、私が気にしていることを……
たしかに私は背も低いし胸だって無い。レオ兄と再会してからほとんど成長しなかった。皆が大人っぽく色っぽくなっていく中で私だけ子供のまま。
「……レオ兄は、こんなちんちくりんは嫌い?」
今の私は凄く嫌な女だと思う。もう三年はレオ兄との関係は続いていて、たしかに私を愛してくれていて。既にレオ兄の気持ちは分かっているはずなのに、涙が出てくるのを止められない。
そんな私を、レオ兄はさらに強く抱きしめてきた。
「あのな、リリィが何を考えてるのかは分からんが、俺がリリィを嫌いになることなんてないからな?」
「……ほんと?」
「本当に決まってるだろ?」
レオ兄は幼い頃から私を守ってくれていた。人見知りだった私が村の人達と話せるようになったのも、こうして生きて皆と楽しくいられるのも、レオ兄が頑張ってくれたから。
「……言葉だけじゃ分かんない」
「んなこと言われてもなぁ……行動で示せって言われても何すりゃいいんだ」
「……キス、して」
「それでいいなら……」
軽く触れわせると、顔が熱くなってくるのが分かった。それにしてもなんでレオ兄は心配そうにしているのだろう?
「ほら、今の状況がなんか浮気を疑われている男みたいな感じでさ、体で無理矢理納得させようとする駄目男みたいだなぁと……」
「……レオ兄は元から駄目男」
「リリィさん!?」
ショックを受けているレオ兄の唇を奪う。今がこんなにも楽しい。
「なんかもう色々とどうでもよくなってきた……」
「……レオ兄、よしよし」
「ありがとうリリィ……あれ? 俺が悪いんだっけ?」
レオ兄が首を傾げて何かを呟いている間に私は態勢を変える。たしかこの態勢は対面座位って名前だった気がする。
「……リリィさんや、何してるんだい?」
「……何も?」
「いやいやいや! この態勢はおかしいからね!?」
レオ兄の言葉は無視して腰を前後に動かすと、すぐに硬い何かが当たるようになった。
「……レオ兄、やる気充分。もうするしかない」
「でも場所が……」
「……鍵を閉めれば問題ない」
「ほら、そろそろ本部に戻らないと」
「……アリスに会いに行くの?」
逃げ道を潰していくとレオ兄は黙ってしまった。しばらく考える素振りを見せた後に口を開いた。
「声、抑えろよ?」
「……うん」
レオ兄は、なんやかんやでノリノリだった。
※※※
事が終わって、今は二人で休憩がてらお茶をしている。レオ兄のあーん付きで。
「なあリリィ? そろそろその呼び方やめないか?」
「……呼び方?」
「レオ兄ってやつ。義兄妹でもあるけど、夫婦でもあるんだからさ」
夫婦……今までレオ兄はレオ兄だったから、他の呼び方なんて考えたことは無かった。でも、これは大事なことなのだと思う。だから
「……レオン」
「お、おお……」
感動した様子のレオン。私も恥ずかしいけど、呼び名を変えると変わるものなどもあるのだなと思った。
「……レオン、大好き」
例えば、二人の間の距離だとか。
「おお……」
学園長であるシャルが大事な用で不在のため、少し増えた事務仕事を出来るだけ素早くこなしていった。途中でレオ兄が訪ねてきて私が働いている姿を眺めてきて恥ずかしかったけど、無事に終わることが出来た。
「凄いな、見事な手腕だ」
「んっ……どういたしまして」
レオ兄が頭を撫でてくれた。いつも通りの気持ちよさに安心する。
「……それでレオ兄、なんでここに?」
「野外実習の件でな」
野外実習とは新入生に実際に魔物を狩らせてちゃんとした意識を持たせようというもの。魔物だって生き物であるため、命を奪うという行為がどのようなものかをしっかりと生徒に理解させる。必ずと言っていいほど殺すのに躊躇う人や流れた血を見て気分を悪くする人などが出てくる。
そして魔物もこちらの命を狙ってくる。怯えてしまい動けなくなってしまう生徒も出てきて命の危機に直面する人達が出てしまう。そんな生徒達の為に学園の教師がアドバイス兼監視役に就くけど、専門家として例年だと冒険者も呼んでいた。
だが今年の野外実習には冒険者ではなく騎士団が名乗り出てくれた。レオ兄の用件とはこのことだろう。
「こちらから出す人員は若手の騎士三名、それに俺だ」
「……レオ兄も?」
「念には念をってな。それに団長だからといって部下に丸投げするのもなぁと思って」
騎士団長であるレオ兄は当然忙しいはずだし、学園の一行事に出張るような身分でもない。面倒だからお前らに任せたといえば逆らえる騎士はいないはずなのに、自分から率先して参加してくる。こういうところが皆に好かれる要因なんだと思う。
「そういうわけでよろしく」
そう言うとレオ兄はいつもならシャルが座っている学園長用の椅子に座った。
「なんだこの椅子、座り心地が良すぎるだろ。俺の執務室のとは大違いだ」
「……レオ兄、戻らなくていいの?」
「いやー、アリスがいつも使ってたカップを割っちゃってな。しばらくここにいさせてくれ」
気まずそうに頬をぽりぽりと掻くレオ兄。理由は分かったけどこのままだと私まで共犯になってしまう。
「……私まで巻き込まないで。帰って」
「ぐっ……分かった」
とぼとぼと足取り重く部屋を出ていこうとする。きっとこの後アリスからきつい説教が待っているのだと思う。レオ兄にベタ惚れのアリスならお仕置きだからと膝枕させて甘々な雰囲気に持っていくのもありそう。
……なんかもやもやしてきた。
「……レオ兄待って」
気付けばレオ兄を呼び止めていた。
「……やっぱり匿ってあげる」
「い、いいのか……?」
「……うん」
ぱぁっと笑顔になるレオ兄。普段はしっかりしているのにどこか抜けていて、いざというときに頼りになる。駄目駄目で格好いい、私の自慢のお兄ちゃん。
「ちょっと待っててくれ!」
このまま部屋にいるのかと思ったらすごい勢いで出て行った。私はよく分からずに待っていると、五分もしないうちに戻って来た。
「ただ居座るのもアレかと思ってお茶請け買ってきた」
お茶請けが入っているだろう袋を執務机の上に置くと、再びさっきの椅子に座る。開いた脚の間に私は無言で座ると、ギュッと抱きしめてくれた。
「相変わらずリリィは軽いなあ」
む、私が気にしていることを……
たしかに私は背も低いし胸だって無い。レオ兄と再会してからほとんど成長しなかった。皆が大人っぽく色っぽくなっていく中で私だけ子供のまま。
「……レオ兄は、こんなちんちくりんは嫌い?」
今の私は凄く嫌な女だと思う。もう三年はレオ兄との関係は続いていて、たしかに私を愛してくれていて。既にレオ兄の気持ちは分かっているはずなのに、涙が出てくるのを止められない。
そんな私を、レオ兄はさらに強く抱きしめてきた。
「あのな、リリィが何を考えてるのかは分からんが、俺がリリィを嫌いになることなんてないからな?」
「……ほんと?」
「本当に決まってるだろ?」
レオ兄は幼い頃から私を守ってくれていた。人見知りだった私が村の人達と話せるようになったのも、こうして生きて皆と楽しくいられるのも、レオ兄が頑張ってくれたから。
「……言葉だけじゃ分かんない」
「んなこと言われてもなぁ……行動で示せって言われても何すりゃいいんだ」
「……キス、して」
「それでいいなら……」
軽く触れわせると、顔が熱くなってくるのが分かった。それにしてもなんでレオ兄は心配そうにしているのだろう?
「ほら、今の状況がなんか浮気を疑われている男みたいな感じでさ、体で無理矢理納得させようとする駄目男みたいだなぁと……」
「……レオ兄は元から駄目男」
「リリィさん!?」
ショックを受けているレオ兄の唇を奪う。今がこんなにも楽しい。
「なんかもう色々とどうでもよくなってきた……」
「……レオ兄、よしよし」
「ありがとうリリィ……あれ? 俺が悪いんだっけ?」
レオ兄が首を傾げて何かを呟いている間に私は態勢を変える。たしかこの態勢は対面座位って名前だった気がする。
「……リリィさんや、何してるんだい?」
「……何も?」
「いやいやいや! この態勢はおかしいからね!?」
レオ兄の言葉は無視して腰を前後に動かすと、すぐに硬い何かが当たるようになった。
「……レオ兄、やる気充分。もうするしかない」
「でも場所が……」
「……鍵を閉めれば問題ない」
「ほら、そろそろ本部に戻らないと」
「……アリスに会いに行くの?」
逃げ道を潰していくとレオ兄は黙ってしまった。しばらく考える素振りを見せた後に口を開いた。
「声、抑えろよ?」
「……うん」
レオ兄は、なんやかんやでノリノリだった。
※※※
事が終わって、今は二人で休憩がてらお茶をしている。レオ兄のあーん付きで。
「なあリリィ? そろそろその呼び方やめないか?」
「……呼び方?」
「レオ兄ってやつ。義兄妹でもあるけど、夫婦でもあるんだからさ」
夫婦……今までレオ兄はレオ兄だったから、他の呼び方なんて考えたことは無かった。でも、これは大事なことなのだと思う。だから
「……レオン」
「お、おお……」
感動した様子のレオン。私も恥ずかしいけど、呼び名を変えると変わるものなどもあるのだなと思った。
「……レオン、大好き」
例えば、二人の間の距離だとか。
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