絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

轟く雷鳴

 シャルと魔族の女シミルの戦いが始まった。
 戦いを長引かせてもメリットは無い。ならばひたすら攻めるのみ。
 シャルは大鎌を構えシミルへと接近しようとするが、かなりの長さを誇る鞭が襲いかかってくる。

 ガキン!!

 大鎌を魔力で強化し柄で攻撃を防ぐと、鞭と交えたとは思えない音を響かせた。

「細かな刃が連なっている……。切り裂くことも出来る鞭といったところでしょうでしょうか」
「アハハ! 正解!!」

 シャルの呟きにシミルは楽しそうに答える。
 実際に打ち合ったことから、シミルの鞭は目には見えない程の小さな、それでいて鋭利な刃で埋め尽くされていることが分かった。
 打ち付けた際に引くことで、鋸のように切り裂くことも出来る。
 リーチなどを考慮するとシャルの方が明らかに不利であった。

 幾回にも繰り返される斬撃ともいえる鞭の攻撃をいなすシャルであったが、守りに回るばかりで攻めに転じられない。

 呪いを解いてもらってから一ヶ月程であり、圧倒的な才能により、鍛錬を重ねたことで動き自体に問題はあまりなかった。
 だが圧倒的に足りなかったのは経験。
 学園では結界によって、命の危険はない状態で戦う。さらには呪いによって自身の実力は伸びないことは分かっていたので積極的に実技に取り組むことは無かった。

 そんな温室で長い間過ごしてしまったシャルにとって、命をかけた戦いというのは少しばかり荷が重い。さらに仲間はおらず、一人で立ち向かわなければならない。

 しかしシャルは笑っていた。
 諦めるわけにはいかないから。面倒事に巻き込まれでばかりで嫌気がさしていたはずの彼が、そこにいるから。

(だから私は、恐れない)

 ただ受けに回っているシャルを歪んだ笑みで見ながらも鞭を振るい続ける。
 だがその笑みが、途絶えた。

「なっ!?」
「これぐらい、今まで味わってきた痛みと比べれば屁でもないですね」

 王女らしからぬ言葉遣いは一体誰に似たのか。
 シャルは振るわれた鞭を片手で掴んでいた。
 それだけならシミルも想定内であっただろうが、驚愕する原因はシャルが鞭を掴んでいる手にあった。

 魔力で強化せずに掴んでおり、少なくない量の血が流れ出ていた。

 ポタン、ポタンと地面に垂れる血。恐らく左手はもう使えない。
 それでも使う。
 力を振り絞り、鞭を全力で引き寄せる。
 それによってシミルの態勢が崩れる。
 その瞬間を待っていたとばかりに、シャルは間を詰めた。前のめりになったことにより突き出たシミルの首を刈り取るために大鎌を振るう。

 シミルは踏みとどまろうとはせずに、そのまま前に倒れ両手を地面につく。そしてそれを支えに足を振り上げ大鎌を弾き返す。
 シャルはそれに抗うことはせず、弾かれた勢いを利用して回転し、二撃目を狙おうとする。
 シャルは決して筋力があるという訳では無いため、大鎌を振るう際は重心を上手く移動させて舞うようにして振るっていく。
 今度はシミルが受けに回ることとなるが、腕と脚を巧みに扱いいなしている。
 されどそれも長くは続かないと判断し、バク転を幾回か繰り返して後方へと距離をとった。

 そして再びシャルへと目を向けると、黒い巨大な何かがかなりの速さで回転しながら飛来してくる。

「しゃらくさいね!」

 飛んできたのはシャルの大鎌だった。鞭を打ち付けて軌道を逸らして事なきを得る。
 だが大鎌に視界を遮られ、気を逸らした一瞬。
 シミルの目の前にシャルが突如として現れた。

「上手くいきました」

 シャルが行ったのは、少し前に行われた英雄親子お披露目の際の試合でダルクが行ったもの。
 投げた武器を囮にし接近する。

「常に一手先を考えて戦うのは基本ですよ?」

 シャルは大鎌を失っても戦えるように隠し持っていたナイフを突き立てようとするが、シミルが無理矢理体を捻ったことによって腕に刺さった。

「残念だったね!」
「いえ? 計算内ですよ?」

 シャルの一撃は致命傷を与えるには至らなかった。そう思ったシミルにシャルは自信満々といった笑みで答える。

「轟け」

 シャルがそう呟くと同時、鼓膜が破れるのではと思われる程の爆音と共に、巨大な雷が天からシミルへと落ちる。

 シャルは雷属性魔法を発動した。それは、先程刺したナイフの元へと向かって撃ったもの。

 衝撃によって地面が破壊されたらことによる煙が発生していたが、それが晴れるとシミルが仰向けに倒れている姿が見られた。ボロボロになっており、立ち上がる気配はない。

「どうやら私の魔法はかなり強力らしくて、その代わりに上手くコントロールが利かないのですよ。レオンくんに相談しておいて良かったです」

 シャルの言う通り、力を取り戻したものの制御に少し難があった。レオンに相談したところ、自身の魔力同士を繋げれば上手くいくのではないかと言われ、試した。魔力を付与したナイフに向かって魔法を放つと、そこに引き寄せられるように魔法が走ったのだ。

 さらに鞭を素手で掴んだのも、この一撃の為に魔力を極力残しておく為でもあった。

「だからこれは、彼と一緒に掴んだ勝利です」

 ナイフを引き抜き、シミルの首へと突き付ける。

「あは、あはは、アハハハハハ!!!」
「何がおかしいのですか?」
「もう勝ったつもりでいるみたいだけどさぁ、これならどうかな?」

 シャルの問いに、ニヤリと口角をシミルが上げた瞬間だった。

「があああああああああああああ!!!!」

 痛みを必死に堪えるように、悲痛な叫びが訓練場内に響いた。

「レオンくん!!!」

 それは、シャルにとって最愛の者の叫びだった。

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