絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

甘えん坊

「どうすっかなぁ」

 早朝の鍛錬の時間、俺はアリスとソフィ先輩の模擬戦を眺めながら考え事をしていた。
 一週間前にも同じようなことをしていた気がするが、考え事をする時はこの時間にするのが恒例になっていた。
 二人の剣戟の音がいい感じの雑音になって集中出来るんだ。

 考え事はこの前の告白のこと。
 ミーナの告白を受け入れるかどうかだ。
 ……前世の俺では有り得ないような悩みだよなぁ。
 カレンとアリスには自身を持てと言われてはいるが、俺のどこに好かれるような魅力なんてあるのだろう。前世ではいわゆるオタクをしていて、俺に二次元の素晴らしさを布教した親友と馬鹿やったりしていた。勇気を出して告白をしてみたこともあったが、見事に玉砕した。女性経験0のまま就職し、死んだ。
 ……あれ?目から何かが流れてきたぞ?昨日飲んだオレンジジュースかな?

「……何をしているんだお前は」
「あぁアリスか……少し死にたくなっただけだ」
「そうか」

 え? それだけ? 婚約者が落ち込んでんだよ?
 まぁ俺が本気でそう思ってる訳では無いと分かってるからこその反応なのだろう。
 男としてどうなのだろうと思うが、俺は思いっきりカレンとアリスに尻に敷かれている。
 はいそこ、ダサいとか言わない。レオンくんだって頑張ってるんですよ! ほら謝りなさい!

 そんなくだらない脳内小劇場はさておき。

「何の用だ? もう終わったのか?」
「いや、戦ってる最中にレオンが落ち込んでるのが見えてな。中断してきた」
「え」

 アリス越しに、少し離れたところでソフィ先輩が休憩しているのが見える。
ソフィ先輩もかなり強いのに、その相手をしながら俺の様子も見てたの?
 模擬戦だし普段使ってる獲物ではなく、刃引きされた訓練用の武器だから本気はあまり出せないだろうが、結構化け物じみてませんかアリスさん。

「流石学園最強だな」
「やめてくれ、あまりその呼び方は好きではない。それに最強はレオンだろう」
「俺は学園長からお前はカウントしないって言われたからなぁ」

 お主は学園最強どころか下手したら世界最強だからのぅ。そんな化物を数に入れるわけないじゃろ?と前に言われた。

「学園長の気持ちも分かる。お前は別格だ」
「ま、そういうことになってるからな。つまり最強はお前だ!」
「素直に喜べないのだが……。それに、私なんかよりお姉様の方が……」
「ん? 後ろの方が聞こえなかったんだが」
「別に気にしなくていい。単なるレオンの悪口だからな」
「気にするわ!」

 まぁ冗談だって分かってるからいいんだが。
 それよりも、アリスの表情が一瞬だけ暗くなったのが気になった。
 ……無闇に踏み込んだらいけなそうだな。いつか話してもらえたらいいな。

「それで、なにかあったのか?」
「あぁ、実はミーナに関して悩んでてな」
「告白の件か?」
「知ってるのか?」
「昨日の試合が終わった後、カレンから聞いたのでな」

 ほんと仲いいよなぁカレンと。いや、二人共俺の婚約者な訳だから仲が悪かったら困るんだが。

「どうせレオンの事だ。うじうじ悩むんだろう。だから少しアドバイスしてやる」
「なんか刺がある言い方だが、ありがたい」
「ミーナなら、私もカレンも認めている。だからレオンの気持ちだけ考えて決めればいい」
「俺の気持ち……」
「そもそもミーナの気持ちは疑うまでもないのだろう?」

 獣人族にとって、かなり大事である尻尾を触らせてくれた。それが許されるのは、最大級の好意をもっている相手に限られてるわけで。たしかにミーナの気持ちには疑いようがない。

「……今日の放課後、返事をする。俺はミーナの気持ちに応える」
「そうか。今のお前はいい顔をしているな。それでこそ、私達の旦那様だ」
「お、その呼び方いいな。なんかイケナ「黙れ」……はい」

 流石に二度目は駄目だったか。
 ともかく、今日も一日がんばるぞい!

※※※

「レオンく~ん。えへへ~」

 甘えるような声を出しながら、俺の胸に頭を擦り付けているミーナ。
 ……どうしてこうなった。

 学内最強決定戦は初日に準決勝まで進め、その後一日空けて準決勝と決勝を行う。それは連戦をしたことで最高のパフォーマンスが出来なくなるのを防ぐためである。
 そんな訳で学内最強決定戦初日の翌日である今日は普通の登校日となっている。
 お気付きだろうか? 準決勝、決勝以外は初日で終わらせるということは、一回戦を勝利した後に帰ってしまったミーナは不戦敗となってしまうことに。
 それを聞いたミーナは、特段気にしてる様子は無かった。まぁあの戦いのために参加したようなもんだしな。
 そして告白の返事をするために、放課後にミーナを俺の部屋に呼び出した。ここでなら集中して話せるからな。

 そして俺はミーナを受け入れる旨を伝えた。
ミーナは嬉し涙を流しながら、俺に抱き着いてきた。俺も抱き返し、しばらく頭を撫でながら落ち着くのを待っていたんだが。

「レオンくぅ~ん。えへへ、レオンくぅ~ん」

 そして冒頭に戻る。引き続き頭を俺の胸に擦り付けながらも甘えてくるミーナ。
 なにこの可愛い生き物。お持ち帰りしていい?あ、そもそも既に俺の部屋じゃんここ。

「くんくん。レオン君の匂いだぁ~」

 ああああああああああ可愛いいいいいいい!!
 うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
 見てください、皆さん! この子、俺の婚約者なんですよ! 羨ましいでしょ!

 コホン。

 少し平静を失っていたが、僕は元気です。俺は一体誰に語りかけているのだろうか。
 それはともかく、やたらと甘えてくるミーナ。可愛さが天元突破してるから、この状態をこれからは覚醒ミーナと呼ぶことにする。
 なんで急に覚醒ミーナ状態になったのか。
 既に予想は出来ている。
 恐らくは今までの生活の影響であろう。
 幼い頃から差別に遭い、父親を亡くし、自分の無力さを感じて殻に閉じこもってしまったら。
 甘えるという行為自体が全く出来なかったのであろう。子供なら親に甘えるもんだ。でもそれが出来なく、その反動が今に来てると。
 こんな小さな体で、大きなもの背負ってきたんだな。
 なら俺に出来ることなら何でもやってやろう。存分に甘えさせることなんて、バッチコイだ!

 そんなこんなで、甘えん坊な三人目の婚約者が出来たのであった。








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