絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

幼馴染で終わりたくない

 アリスを連れて控え室へと戻ったが、そこに居たのはカレンだけだった。

「あれ?マルクとミーナとリリィは来なかったのか?」
「三人なら帰ってもらったわ」
「もらった?」
「まぁ色々あってね。それよりもアリス」

 カレンに名を呼ばれたアリスは小さく頷いた。

「レオン。私はここでお暇させてもらおう」
「そうか。また学園でな」

 そしてアリスは控え室を出ていった……と思いきや俺の方へと近付いてきた。なんだ?

「まだ唇同士は恥ずかしいから……」

 小さくそう呟いたあと、アリスは少し背伸びをし

 俺の頬にキスをした。
 ……え?

「そ、それでは!」

 俺が何かを言う前に素早く退室するアリス。ドレスを着ているため走らず早歩きだがかなりの早さだった。
 俺は急な出来事に、頬に手を当てしばらく呆然としていた。

「中々やってくれるじゃない、アリス……」

 カレンがほとんど聞こえないような声で何か呟いていた。……般若のスタ〇ドがまた出てますよカレンさん。

 そんなカレンを見ている間に落ち着きを取り戻せた俺。とりあえず本題に入ろう。

「それでカレン。俺に話があるんだっけか」
「そうよ」

 スタ〇ドも消えて、いつも通りのカレンに戻った。一安心だ。

「……とりあえず目を閉じて」
「え? なんで?」
「さっさと閉じる!」
「了解であります!」

 カレン閣下の命令通りに目を閉じる。俺はこれから何をされるんだろうか。もしかして知らない間にカレンを怒らせていたのだろうか?そうすると考えられるのは……折檻。死なない程度だと良いなぁ……。

 俺が半ば諦めたような考えをしている間にもカレンの気配は近づいてくる。そして俺の目の前で気配が止まる。俺、生きて帰ったらアリスと結婚するんだ……。

 そんな死亡フラグを立てているとも知らず、カレンはさらに近づいてき.....ってそれは近付きすぎじゃ。

「ん……」

 瞬間、俺の唇に柔らかい何かが触れた。
 俺はその正体を確かめるために目を開いた。そして目の前にあるのは、カレンの顔。
 そしてしばらくしてカレンの顔が離れていく。
 え? 今のはもしかして……。

「……私はレオンの事が好き」

 カレンが発した言葉に衝撃を受けた。
 好き? カレンが俺のことを?
 今までそんな素振りなんて一切無かった気がするが……。

「レオンは私のこと、どう思ってる?」

 何の因果か、この前のアリスと同じことを聞いてくるカレン。

「カレンは俺にとっては大切な人だ」
「それは幼馴染として?」

 俺の答えにすぐさま言葉を返してくる。
 カレンは真剣な眼差しをしている。

「……幼馴染として、だ」

 正直よく分からなかった。村にいた頃から気が合うというか、親しみやすい女の子だった。いわゆる幼馴染みという関係。互いのことを分かってるからこそ、気を許せるカレンと過ごす時間は楽しかった。これは幼馴染だから? それとも……

「私は幼馴染って関係は嫌。一人の女の子として、レオンの大切な人になりたい」

 真剣な表情を崩さぬままカレンは続けざまに話す。

「レオンは馬鹿で不器用でヘタレで鈍感で本っっっっ当にどうしようもない男」

 え? 君、俺のこと好きなんだよね? どう聞いても嫌いになる要素しかない気がするんですが。

「不必要なことを負い目に感じて、変な責任背負い込んで、面倒臭い性格してて、無駄に力だけ付けてきて。……なんでこんな奴好きになったのかしら?」
「俺に聞くなよ……」

 もう俺の心はボロボロよ……。

「でも、そんなレオンだからこそ、傍で支えてあげたいと思った。惚れた弱みってやつかしら?えいっ!」

 掛け声とともに俺の胸へとカレンが飛び込んでくる。
 それを優しく受け止める。

「だから、幼馴染みじゃない。幼馴染みの関係を超えて、私も婚約者になりたい」

 俺を見上げるカレン。
 カレンがそんなに俺の事を想ってくれていたなんて。胸の中が暖かくなるのを感じる。
 でも……。

「俺にはもう、アリスがいるんだ。彼女を裏切ることなんて出来ない」

 この世は一夫多妻制。だが前世が一夫一妻制だった影響か、複数の妻を持つというのには抵抗がある。そもそも俺に複数の妻を持てるだけの甲斐性があるとは思えない。

「……あんた、やっぱり面倒臭いわね」

 呆れたように言うカレン。もしかして考えてる事がバレた?
 てかアリスにも同じこと言われた気が.....。

「アリスにならちゃんと許可を貰ってるわ。二人一緒にってね。それにあんたは私とアリスが選んだ男よ?もっと自信持ちなさい」
「へ?」

 アリス公認? なにそれ僕知らない。
 でもそうか……。

「俺なんかでいいのか?」
「レオンだからなの!」

 流石に恥ずかしいことを言ってる自覚があるのか、頬を少し赤く染めながらも、俺から目を逸らさない。

 ……俺にはもったいないぐらいだな。

「これからよろしくな」
「! うん!」

 俺の言葉を聞いたカレンは、まるで太陽のような明るい笑顔をしていた。

 こうして俺は婚約発表をしたすぐ後に二人目の婚約者が出来るという、世にも珍しい経験をしたのであった。

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