絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

身バレ

 俺は今、王城の謁見の間で王様と二人きりで向かい合っている。今回のドラゴンの件について説明をするためだ。
 俺はダルクさんとの話し合いの内容や自分の考察などを含め、全てを話した。

「ふむ……とりあえず順に考えよう。まずはうちの馬鹿息子についてだが、普通なら国に危機をもたらす行いをしてしまったために、王位継承権の剥奪が妥当だと思うが……」
「なぜ王位継承権の剥奪をしたかの理由が必要、か」
「そうだ。他の理由をでっち上げる方法もあるが、王位継承権の剥奪がされるだけのことをしてしまったという事実自体は変わらない。ただでさえ娘の婚約に関してわがままを通しているだけに、王族の信用を下げるようなことは避けたい」

 娘には自由な恋愛をさせてやりたいというわがままを通しているだけに、下手な隙を見せて貴族に揚げ足を取られないようにしなければいけない。ちょっとしたことでもネチネチ嫌味を言ってくるような貴族共に大きな隙を見せたらそれをダシに何を言い出すか分からないからな。

「だが幸いなことに真実を知っている者は少ない。だからこのまま隠し通すことにする。馬鹿息子はしばらく謹慎処分ということで許して欲しい」

 王子がドラゴンを連れてきたことを知ってるのは俺とリリィにダルクさん。あとはダルクさんに白状させたことでユフィさんと学園長も知っていたはずだ。
 生徒達の中にもドラゴンの咆哮を聞いてしまった者もいたが、突然の事にも対応出来るようにと学園側がわざと流したものとして話を通しといた。俺が急に班から離れたのも、そのわざと流された咆哮を聞いてリリィの身の心配をしたからということにしておいた。

 つまり真実を知っているのは王様を除いて全部で五人。そして全員が知り合いであり、ほぼ身内である。
 根回しはバッチリであろう。

「次に馬鹿息子に協力していたとされる者についてだが、馬鹿息子は相手のことは何も覚えてないみたいなんだ」
「覚えてない?」
「ああ。嘘を言っている感じでもなかった。恐らく記憶を消されている」

 協力者は記憶を操ることが出来るということか?
 ユフィさんが出来ることでもあるが、ユフィさん自体がそもそも特例であり、記憶操作は禁忌の力でもある。

「それにレオンが言っていた黒龍の魔力の流れ方がおかしかったという件だが、さっきの記憶のこととも合わせると、ある仮説が立てられる」
「仮説?」
「記憶操作のような禁忌の力を扱うことが出来、魔物の生態などにも精通しているとなれば思いつくのはただ一つ。魔族の生き残りだ」
「完全に滅んだわけではなかったってことか?」
「あくまで仮説だがな」

魔族。人族などには扱えないような強力な力を持つ種族で、成長につれて自我を持った魔物から誕生したとされる。そのため、魔物の知識に関してはかなり豊富でもある。

「魔族なら記憶操作の力を持ってるやつがいても不思議じゃない。黒龍に関しても、手を加えるくらいなら朝飯前だろう」
「仮にそれが本当だとしたら、かなり大変なことになるのでは?」
「また昔と同じく魔族との大戦が起こる可能性はあるな。でも考えてもみろ。なぜ直接手を下さなかった?」

 たしかに。わざわざ王子を使ってまでドラゴンを連れ込んできたのは何故か。魔族が直接手をくださなかった理由は?

「可能性としてあるのは、まだ魔族の力が戻りきっていないか、出るまでもないと判断したのかだな」

 王様が挙げた可能性は充分に有り得るものだと思った。
 結局は推測の域を出ないのだが。

「ま、今出来ることは監視の目をより光らせることぐらいだな。それはこっちに任せとけ」
「俺も一応少しぐらいは手伝うぞ」
「程々にな。お前にはもっと考えて欲しいことがあるからな」

あ、脳内センサーさんが活動を始めた。

「アリスとの婚約の件、忘れてないよな」
「忘れてねえよ」
「それについてだが、お前の正体バラしてみないか?」
「どういうことだ?」
「お前にはそれなりの地位につけって話をしたが、そもそも英雄の息子ってだけで既に満たしている気がしてな。血筋も問題ないだろ」

 貴族が多くの妻を娶るのはその優秀な血筋を絶やさないためだ。そう考えると人族を、実質的には世界を救った英雄の息子というのは充分であろう。だが……

「俺はあくまで養子だぞ?」
「分かっている。だがお前の容姿は世にも珍しい黒髪黒目だ。加えて親も同じだ。それだったら親子と言われても不思議がられない」
「つまり養子であるということは隠すと。でもそれだと親父も表舞台に顔を出さなければいけなくなるんじゃ?」

 ダルクさんは擦り寄る貴族共の対応などに辟易し、ほぼ隠居のような生活を送ることに決めた。でも俺が英雄の息子だと証明するには英雄自身が出てこなければ、信じられるかすら怪しい。

「ダルクもお前のためならやると言っていた。だから近いうちにダルクとレオンのことを世間に発表することになる」
「でも信じてもらえるのか?」
「俺とダルクの師が言えば信じてもらえるとは思う。俺だって伊達に王様やってないからな」

 少しの間だが王都で過ごしてみて、王様が民にどれだけ好かれてるのかは伝わってきた。学園長だって信用されてなければ学園長という地位にはつけなかったはずだ。

「それでも出る杭は打ちたいってのが貴族ってもんだ。恐らく文句でも言ってくるだろう。本当に英雄親子なのかってな」
「まーた貴族か」
「だからダルクとレオンには力を示してもらいたい。具体的には二人のガチバトルだな」
「なぜ俺の周りには脳筋ばかり集まんだよ……」
「誰も文句が言えなくなるほどの圧倒的な力を見せればいい。それで納得してくれれば万々歳だし、下手に手を出せばこちら側が潰されると思わせれば充分だ」

 脅しかよ。

「まぁどれもこれもアリスがレオンとの婚約を了承したらの話だからな。俺の目に狂いがなければ好意は持っているはずなんだが」

 正直いまだに信じられないんだが……。
 俺がアリスに好かれてるなんてありえないと思うんだが。

「とにかく、お前はアリスと話し合え。婚約の件は俺が伝えとくから気持ちの確認だな。英雄云々の話はそれが終わってからだな」

 そうして、俺はアリスに俺のことをどう思ってるか聞くという難易度の高い試練を突きつけられたのだった。
 あれ? 俺の気持ちは確認しないの?

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