絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

プロローグ1

 桐谷守きりたにまもるはこれといって特徴のない学生生活を送ってきた。
 小中高の学生生活を通しても自分が将来やりたいことが見つからず、就活の時に便利かな程度の理由で大学に進学したが、無気力な生活を送っていた。

 大学に入り初の夏季休暇になった。だが守はバイトもしておらず、サークルにも入っていないため、自室でゴロゴロしていた。
 片手にはスマホを持っており、友達から勧められたソシャゲをやっている。
 その途中で電話がかかってきたため、相手を確かめてみると母だった。すぐに出ると母からあるお願いをされた。

 そのお願いが、守の今後の人生を大きく変えることになった。

 そのお願いとは、母の知り合いが働いている保育園の保育士が病気にかかってしまい出勤できなくなったため、息子さんをボランティアとして貸してくれないかというものだった。  
 他の予定が無かったことと、お願い元である母の知り合いには昔から何かとお世話になっていたため、受けることにした。

 ボランティア当日、保育園にて、守は他の保育士さんのアドバイスを元に、子供たちの世話をしていた。大変な仕事ではあったが、子供たちの笑顔を見ていると悪い気分ではなかった。
 今回の守の働きは周りの保育士さんにも評価され、また、子供たちも守を気に入っていたため、その後もちょくちょくボランティアに呼ばれることとなった。
 そして守自身も、やりがいを感じ始めていた。


 ※※※


「まもるおにいちゃんじゃーねー!」
「じゃーなー」

 迎えに来た親と手を繋いで帰ろうとしている男の子が振ってきた手に振り返す。

「後は優ちゃんだけか……にしても、俺が保育士になるなんてな……」

 そう、守は大学を卒業し、保育士となっていた。
 きっかけはもちろん大学生時代に行ったボランティアだ。
 親や友達、そして自分自身もこうなるとは昔は思っていなかっただろう。

「実際に働き始めたが……うん、この仕事に就いてよかった」

 確かに大変な仕事ではあるが、守は日々が充実していると実感している。

「っと、独り言してる場合じゃないな」

 守は保育園の建物へと向かい、扉を開けて中に入ると、奥の方で本を読んでいる女の子に声をかける。

「そろそろお母さんが迎えに来るから行こっか、優ちゃん」
「うん」

 声をかけられた女の子は本を片付け始める。
 守は片付けが終わるのを待っていた。

 その時――

「きゃああああああああぁぁぁぁぁあ!」

 突然、女性の悲鳴が響いた。
 守は突然の悲鳴に驚き、その場で固まっていた。
 少し時間が経ち守は落ち着きを取り戻したが、その時、守がいた部屋の扉が突然開かれた。そこには――

 包丁とみられる刃物を持った男が立っていた。

 またしても突然の展開に驚き、固まっていた守だったが男の視線が優に向いていることに気付いた。
 その直後、男は包丁を構え、優に向かって走り出した。

 (まずいっ!)

 守はとっさに男の進路に割り込み、動きを抑えるために正面から男に思いっきり抱きつき、腕を男の背中側で交差させ拘束した。だが男は包丁を構えながら走っていたため、当然――

 守の腹部に包丁が刺さっていた。

 (っ!)

 襲い来る痛み。 
 薄れゆく意識。
 だがそれでも、守は意地でも男を離さなかった。
 後ろにいる子を守るために。
 そして守の限界も近づき、意識が完全に途切れる瞬間、部屋の扉から他の保育士さんに呼ばれて来たであろう警官の姿が目に入った。

 (あぁ……よかっ――)

 そして、守の意識はそこで完全に途切れた。






コメント

  • コイズミ

    ドキドキして読めました!

    0
  • りり

    どきどきしながら、読めちゃいます!次が気になります!

    0
  • ノベルバユーザー602641

    波乱な学園生活がドキッとしました。

    0
  • ノベルバユーザー601233

    面白いですね。

    0
  • ノベルバユーザー601712

    面白いです
    続きも気になりました

    0
コメントをもっと見る / 書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品