異世界に呼ばれたら世界を救う守護者になりました
狂った赤
ーーーー
「……眠れない!」
淡い光に照らされた天井の木目を数えながら、ベッドの上で手足をばたつかせた。
テーブルとイス&ベッドがやっと入るような狭さで、当然のごとく物に手足を打ち付けて悶絶する。
二階の一部屋を貸してもらい、眠ろうと目を閉じてから体感的に一時間以上。
一向にやって来ない眠気にほとほと呆れ果て、木目を数えても無駄な争いだった。
仕方ない。こんな状況で眠れるのはきっとあの少年だけだろう。
いや、流石に異世界へ飛ばされ変な奴等に追いかけ回されるという一身上に置かれれば無理なはず。助けて青いタヌキ。
「あー、カラスは無事かな」
窓から暗い空を見上げる。
せめてあの煩い鳥がいれば、無駄な事を考えなくてもいいのだろうか。
無駄。考えて悩むだけ無駄。
どうせ自分は無力で、ただ波に揺られるしかない人間なのだから。
《ーー本当に?》
「!?」
突然頭に響いた声に、竜夜は飛び起きた。部屋を見渡す。
《本当に無力?》
「なんだよ、これ。誰……なんで、声が」
《お前は知っている》
目の前に、黒い影が揺らめいた。
《チカラヲ》
「煩いッ!!」
叫び、拳を振り上げる。瞬間、
「きゃあ!?」
「っ!」
悲鳴が上がり、竜夜は両目を見開いた。
いつの間にかベッドに横になり、手を振り上げた格好になっていて。
つと横を見ると、ネフィが驚いた顔で尻餅をついていた。
「ネフィ?」
「あー、びっくりした! りゅーやお兄ちゃん、寝てたのに急に暴れだすから」
「え……寝てた?」
「うん。悪い夢見てたのかな、すっごい苦しそうな声がしたから見に来たの」
ネフィの言葉に、竜夜は深く肩を下げた。
「なんだ……夢か」
「大丈夫? お熱あるのかな?」
ネフィの暖かな手が額に触れ、その暖かさに安堵の笑みを浮かべる。
「ありがとね。平気だからさ」
「なら良かった! ほんとはね、ネフィも眠れなくて……」
悲しげに瞳を伏せる小さな少女に、竜夜は起き上がって頭を撫でた。
「よし! じゃあちょっと外の空気吸いに行こうか」
「うん!」
ネフィを引き連れて扉へと向かい、ノブへと手を伸ばす。と、竜夜が触れる前に扉がゆっくりと押し開かれた。
「あれ、ロンダさん?」
そこから顔を覗かせたのは、どこか顔色の悪いロンダだった。
「……起きてたのかい」
少し驚いたように言うロンダに、竜夜はあっと後ろを振り返る。
「もしかして、君のこと探してたのかも」
「そっか。……ごめんなさいママ、何も言わずに出て」
ネフィはそろりと背後から顔を覗かせる。が、それを見たロンダは安堵するどころか、一気に顔面から血の気が引いていった。
「どうしてネフィが此処に居るんだい!?」
叫び、竜夜を押し退けてネフィを抱き締めた。その異常なほどの反応に呆然とするしかない。
二人を見つめていた竜夜は、ふと気配を感じて開け放しの扉へ視線を移す。
この部屋は廊下をまっすぐ突っ切った最奥にあるのだが、灯りの消えた薄暗い廊下の奥ーー微かに光がチラつくのを見た。
その時、脳裏に一瞬の映像が浮かんだ。
廊下から飛んできた何かが、ロンダとネフィの頭を刺し貫く光景を。
「危ない!」
理由を考える前に、竜夜は反射的にロンダとネフィを突き飛ばしていた。
ベッドに倒れこむ二人の頭上、風を切って飛んできた何かが壁に突き刺さる。ソレは赤い細棒のようで、先端には鋭利な刃が括り付けられているのを見た。
「……矢?」
まさか本当に飛んでくるとは、もし間に合わなかったらと考えてゾッとする。
「残念、的を外したか」
その声に再び見た廊下の先、赤い髪を撫で付け、真紅のローブを羽織った男が陰から現れた。見たことのないその人物に怪訝な顔を向ける。
と、ネフィを抱きかかえて固まっていたロンダだけが、憎しみを込めて男を睨みつけた。
「結局、私達も殺すのかい」
「ママ、何? どうしたの?」
呆然と呟く娘に、ロンダが竜夜へ自傷的な笑みを送った。
「アンタを隠していた事、最初からバレていたらしいよ。……私達はまんまと泳がされていたのさ」
「実に愚かな奴だ。アレらと私は情報を共有しているのだ、嘘など通用するわけないだろう」
「は、くそくらえ」
脱力して俯くロンダに一瞥をくれ、男は竜夜へと向き直った。
「初めまして、だなリルシェイド。ーー我が名はエクエス。以後お見知り置きを」
異常な空気を放つ男に、眉間に皺を寄せる。
「誰?」
「酷いではないか。お前には丁寧に使者を送っただろう? ーーもっとも、役立たずにもあっさり殺されたようだが、な」
その返答は、先程からの違和感と共に納得へと導いた。竜夜は苦渋に顔を歪める。
気配が前回の襲撃者とよく似ていたのだ。
「やっぱ、襲ってきた奴の仲間なのか」
「正解だ。リルシェイド」
嬉しそうに言う男に、苛立ちを込めて自分の胸元を叩いた。
「リル、何だかじゃなく僕の名前は竜夜だ! ずっと付き纏ってきて、誰かと間違えてるんじゃないのか!?」
ハッと怒鳴ってから後悔する。突然矢を放ってくるような危ない奴を刺激して、殺されたらどうするんだ。
そう考えて肝を冷やす竜夜に、しかし男は顔色変えず口を開いた。
「間違いなどするものか。見れば分かる、確実に我等が求めし存在であるのを」
「は、ぁ? 意味わからないって! 眼科行った方がいいんじゃないか!?」
「知りたければ共に来い。ーーもちろん、その際は丁重に扱うと約束しよう」
「断ったら?」
「自分や周りの人の為にも、その選択肢を選ばないことを勧めるがな」
肩を竦める男に、親友二人の姿が思い浮かぶ。
「もう散々巻き込んでるくせに、ふざけるな」
「だが次は容赦なく周りへ刺客を送る。もっと後悔する事になるだろうが、それでいいならば断ればいい」
ーー結局、一つの選択しかないだろ。
余裕ある表情で手を差し出す姿が癪に触るが、NOと言った後の事を想像すれば無下には出来なくて。
二人の間に沈黙が流れる。と、ずっと黙っていたロンダがネフィを抱いたまま立ち上がった。
「……ロンダさん?」
声をかける竜夜の身体を押し退け、男へ向かって走り出した。
「ああぁあぁ!!」
何をするのかと驚愕するが、叫んだロンダはエクエスの横を通り過ぎて飛び出していった。
「愚かな奴だ」
「?」
何故か引き止めることなく見逃した男に、疑問が浮かぶ。
その答えに気づいたのは、窓の外から聞こえた悲鳴によってだった。
「……眠れない!」
淡い光に照らされた天井の木目を数えながら、ベッドの上で手足をばたつかせた。
テーブルとイス&ベッドがやっと入るような狭さで、当然のごとく物に手足を打ち付けて悶絶する。
二階の一部屋を貸してもらい、眠ろうと目を閉じてから体感的に一時間以上。
一向にやって来ない眠気にほとほと呆れ果て、木目を数えても無駄な争いだった。
仕方ない。こんな状況で眠れるのはきっとあの少年だけだろう。
いや、流石に異世界へ飛ばされ変な奴等に追いかけ回されるという一身上に置かれれば無理なはず。助けて青いタヌキ。
「あー、カラスは無事かな」
窓から暗い空を見上げる。
せめてあの煩い鳥がいれば、無駄な事を考えなくてもいいのだろうか。
無駄。考えて悩むだけ無駄。
どうせ自分は無力で、ただ波に揺られるしかない人間なのだから。
《ーー本当に?》
「!?」
突然頭に響いた声に、竜夜は飛び起きた。部屋を見渡す。
《本当に無力?》
「なんだよ、これ。誰……なんで、声が」
《お前は知っている》
目の前に、黒い影が揺らめいた。
《チカラヲ》
「煩いッ!!」
叫び、拳を振り上げる。瞬間、
「きゃあ!?」
「っ!」
悲鳴が上がり、竜夜は両目を見開いた。
いつの間にかベッドに横になり、手を振り上げた格好になっていて。
つと横を見ると、ネフィが驚いた顔で尻餅をついていた。
「ネフィ?」
「あー、びっくりした! りゅーやお兄ちゃん、寝てたのに急に暴れだすから」
「え……寝てた?」
「うん。悪い夢見てたのかな、すっごい苦しそうな声がしたから見に来たの」
ネフィの言葉に、竜夜は深く肩を下げた。
「なんだ……夢か」
「大丈夫? お熱あるのかな?」
ネフィの暖かな手が額に触れ、その暖かさに安堵の笑みを浮かべる。
「ありがとね。平気だからさ」
「なら良かった! ほんとはね、ネフィも眠れなくて……」
悲しげに瞳を伏せる小さな少女に、竜夜は起き上がって頭を撫でた。
「よし! じゃあちょっと外の空気吸いに行こうか」
「うん!」
ネフィを引き連れて扉へと向かい、ノブへと手を伸ばす。と、竜夜が触れる前に扉がゆっくりと押し開かれた。
「あれ、ロンダさん?」
そこから顔を覗かせたのは、どこか顔色の悪いロンダだった。
「……起きてたのかい」
少し驚いたように言うロンダに、竜夜はあっと後ろを振り返る。
「もしかして、君のこと探してたのかも」
「そっか。……ごめんなさいママ、何も言わずに出て」
ネフィはそろりと背後から顔を覗かせる。が、それを見たロンダは安堵するどころか、一気に顔面から血の気が引いていった。
「どうしてネフィが此処に居るんだい!?」
叫び、竜夜を押し退けてネフィを抱き締めた。その異常なほどの反応に呆然とするしかない。
二人を見つめていた竜夜は、ふと気配を感じて開け放しの扉へ視線を移す。
この部屋は廊下をまっすぐ突っ切った最奥にあるのだが、灯りの消えた薄暗い廊下の奥ーー微かに光がチラつくのを見た。
その時、脳裏に一瞬の映像が浮かんだ。
廊下から飛んできた何かが、ロンダとネフィの頭を刺し貫く光景を。
「危ない!」
理由を考える前に、竜夜は反射的にロンダとネフィを突き飛ばしていた。
ベッドに倒れこむ二人の頭上、風を切って飛んできた何かが壁に突き刺さる。ソレは赤い細棒のようで、先端には鋭利な刃が括り付けられているのを見た。
「……矢?」
まさか本当に飛んでくるとは、もし間に合わなかったらと考えてゾッとする。
「残念、的を外したか」
その声に再び見た廊下の先、赤い髪を撫で付け、真紅のローブを羽織った男が陰から現れた。見たことのないその人物に怪訝な顔を向ける。
と、ネフィを抱きかかえて固まっていたロンダだけが、憎しみを込めて男を睨みつけた。
「結局、私達も殺すのかい」
「ママ、何? どうしたの?」
呆然と呟く娘に、ロンダが竜夜へ自傷的な笑みを送った。
「アンタを隠していた事、最初からバレていたらしいよ。……私達はまんまと泳がされていたのさ」
「実に愚かな奴だ。アレらと私は情報を共有しているのだ、嘘など通用するわけないだろう」
「は、くそくらえ」
脱力して俯くロンダに一瞥をくれ、男は竜夜へと向き直った。
「初めまして、だなリルシェイド。ーー我が名はエクエス。以後お見知り置きを」
異常な空気を放つ男に、眉間に皺を寄せる。
「誰?」
「酷いではないか。お前には丁寧に使者を送っただろう? ーーもっとも、役立たずにもあっさり殺されたようだが、な」
その返答は、先程からの違和感と共に納得へと導いた。竜夜は苦渋に顔を歪める。
気配が前回の襲撃者とよく似ていたのだ。
「やっぱ、襲ってきた奴の仲間なのか」
「正解だ。リルシェイド」
嬉しそうに言う男に、苛立ちを込めて自分の胸元を叩いた。
「リル、何だかじゃなく僕の名前は竜夜だ! ずっと付き纏ってきて、誰かと間違えてるんじゃないのか!?」
ハッと怒鳴ってから後悔する。突然矢を放ってくるような危ない奴を刺激して、殺されたらどうするんだ。
そう考えて肝を冷やす竜夜に、しかし男は顔色変えず口を開いた。
「間違いなどするものか。見れば分かる、確実に我等が求めし存在であるのを」
「は、ぁ? 意味わからないって! 眼科行った方がいいんじゃないか!?」
「知りたければ共に来い。ーーもちろん、その際は丁重に扱うと約束しよう」
「断ったら?」
「自分や周りの人の為にも、その選択肢を選ばないことを勧めるがな」
肩を竦める男に、親友二人の姿が思い浮かぶ。
「もう散々巻き込んでるくせに、ふざけるな」
「だが次は容赦なく周りへ刺客を送る。もっと後悔する事になるだろうが、それでいいならば断ればいい」
ーー結局、一つの選択しかないだろ。
余裕ある表情で手を差し出す姿が癪に触るが、NOと言った後の事を想像すれば無下には出来なくて。
二人の間に沈黙が流れる。と、ずっと黙っていたロンダがネフィを抱いたまま立ち上がった。
「……ロンダさん?」
声をかける竜夜の身体を押し退け、男へ向かって走り出した。
「ああぁあぁ!!」
何をするのかと驚愕するが、叫んだロンダはエクエスの横を通り過ぎて飛び出していった。
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何故か引き止めることなく見逃した男に、疑問が浮かぶ。
その答えに気づいたのは、窓の外から聞こえた悲鳴によってだった。
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