異世界に呼ばれたら世界を救う守護者になりました

ノベルバユーザー21100

新しい世界とカラス


明るい光が瞼越しに射しこみ、鳥の鳴き声と虫の羽音が朝を告げている。

浴びる風は肌寒くも、肌に触れる柔らかな草が毛布がわりとなっていた。

そんな中で爽やかに目覚め……るはずもなく、竜夜は勢いよく上体を起こした。

「ーーこ、ここは?」

 どうやら、今まで森の中で倒れていたらしい。早朝の湿った空気で鼻腔を満たす。
草花が茂り、全方向を木々に囲まれた状況に頭を抱えた。

「なんで、森なんかに……」

言ってみて、一気に色々な事が蘇る。襲撃や少女に助けられたこと、そして最後に現れた赤いローブの存在のこと。

どんな理由かは別として、状況からみて其奴が転移魔術とかいうのを使用したのだろう。
もっとも、此処が本当に異世界かどうかも分からないが。

「とにかく」

ヒカリ達を探さなくては。
もし目が覚めて知らない場所にいたら、和樹もヒカリも不安に違いない。

……それに、リリアナという少女には聞きたいことが沢山あるのだ。

そう考え、立ち上がる。

ーー瞬間、膝上がもぞりと動いた。軽くて分からなかったが、どうやら膝に黒い塊が乗っていたらしく。

再びソレが動くと、ふわふわの隙間から二対の黒光りする目が現れた。

「うわあああぁぁ!!」

竜夜は仰け反って倒れ、塊は草に埋もれて見えなくなる。

と、上空へと何かが飛び上がった。

『ーーこんッの』

「え、え?」

妙な声が聞こえたと思えば、ソレは腹部へと捻じ込まれた。

『あほ人間がー!』

「ぐふ!?」

ドッチボールの球がぶつかったような衝撃に身を曲げる。呻く竜夜の目の前に、黒い塊が降り立った。

その姿に竜夜は眉間に皺を寄せた。黒い羽に黒い胴、そして黒い瞳と嘴。
唯一違うのは柔らかそうな毛だが、それ以外は何処からどう見てもアレだ。

「カラス?」

『からすとはなにか知らぬが……。それより、我が眠りを邪魔するとは何事なのだ! あ?』

「いやいや、邪魔したって勝手にお前がーーって」

目を見開く。

「か、カラスが喋ったぁ!?」

『喋っては不味いのか。そしてカラスではないと何度言わせるつもりだ』

「まさか、本当に異世界? 声帯はどうなってるんだ……」

『人の話しを聞かんか!』

叫ぶカラス?に正気に戻り、竜夜はシーっと指を当てて辺りを見回した。深い森には凶暴な獣がいるだろうし、あまり騒いでいるわけにいかない。

気になることはあるが一先ず置いておいて、

「考えることが沢山だ。なぁ、カラス」

『カラスでーーもうよいわ』

溜息を吐く動物はなかなかシュール。草を踏みしめて立ち、ちょこんと座ったままのカラスを見下ろした。

「そろそろ僕は行くけど、お前はどうするんだ? なにか用事とかないのか」

『いいや、我は記憶がないのだ。だから気ままに空を飛ぶのみ。目的などない』

「……辛いな」

『何故だ? 我はこれでも満足しておる』

「そっか。ーーあ」

ふと思い立って手を叩き、別れの挨拶もなく飛び立とうとするカラスの胴体を掴んだ。

『な、なにをする! 食う気か!?』

「違う! じゃなくて、お前って空を飛べるんだよな?」

『当たり前だ。飛べない鳥など聞いた事ないわ』

「お、おう。だから飛べるおまーーじゃなくて鳥様にお願いがある」

つと空を指差し、竜夜は笑みを浮かべた。

「空から案内してくれないかな」


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品