異世界に呼ばれたら世界を救う守護者になりました
新しい世界とカラス
明るい光が瞼越しに射しこみ、鳥の鳴き声と虫の羽音が朝を告げている。
浴びる風は肌寒くも、肌に触れる柔らかな草が毛布がわりとなっていた。
そんな中で爽やかに目覚め……るはずもなく、竜夜は勢いよく上体を起こした。
「ーーこ、ここは?」
どうやら、今まで森の中で倒れていたらしい。早朝の湿った空気で鼻腔を満たす。
草花が茂り、全方向を木々に囲まれた状況に頭を抱えた。
「なんで、森なんかに……」
言ってみて、一気に色々な事が蘇る。襲撃や少女に助けられたこと、そして最後に現れた赤いローブの存在のこと。
どんな理由かは別として、状況からみて其奴が転移魔術とかいうのを使用したのだろう。
もっとも、此処が本当に異世界かどうかも分からないが。
「とにかく」
ヒカリ達を探さなくては。
もし目が覚めて知らない場所にいたら、和樹もヒカリも不安に違いない。
……それに、リリアナという少女には聞きたいことが沢山あるのだ。
そう考え、立ち上がる。
ーー瞬間、膝上がもぞりと動いた。軽くて分からなかったが、どうやら膝に黒い塊が乗っていたらしく。
再びソレが動くと、ふわふわの隙間から二対の黒光りする目が現れた。
「うわあああぁぁ!!」
竜夜は仰け反って倒れ、塊は草に埋もれて見えなくなる。
と、上空へと何かが飛び上がった。
『ーーこんッの』
「え、え?」
妙な声が聞こえたと思えば、ソレは腹部へと捻じ込まれた。
『あほ人間がー!』
「ぐふ!?」
ドッチボールの球がぶつかったような衝撃に身を曲げる。呻く竜夜の目の前に、黒い塊が降り立った。
その姿に竜夜は眉間に皺を寄せた。黒い羽に黒い胴、そして黒い瞳と嘴。
唯一違うのは柔らかそうな毛だが、それ以外は何処からどう見てもアレだ。
「カラス?」
『からすとはなにか知らぬが……。それより、我が眠りを邪魔するとは何事なのだ! あ?』
「いやいや、邪魔したって勝手にお前がーーって」
目を見開く。
「か、カラスが喋ったぁ!?」
『喋っては不味いのか。そしてカラスではないと何度言わせるつもりだ』
「まさか、本当に異世界? 声帯はどうなってるんだ……」
『人の話しを聞かんか!』
叫ぶカラス?に正気に戻り、竜夜はシーっと指を当てて辺りを見回した。深い森には凶暴な獣がいるだろうし、あまり騒いでいるわけにいかない。
気になることはあるが一先ず置いておいて、
「考えることが沢山だ。なぁ、カラス」
『カラスでーーもうよいわ』
溜息を吐く動物はなかなかシュール。草を踏みしめて立ち、ちょこんと座ったままのカラスを見下ろした。
「そろそろ僕は行くけど、お前はどうするんだ? なにか用事とかないのか」
『いいや、我は記憶がないのだ。だから気ままに空を飛ぶのみ。目的などない』
「……辛いな」
『何故だ? 我はこれでも満足しておる』
「そっか。ーーあ」
ふと思い立って手を叩き、別れの挨拶もなく飛び立とうとするカラスの胴体を掴んだ。
『な、なにをする! 食う気か!?』
「違う! じゃなくて、お前って空を飛べるんだよな?」
『当たり前だ。飛べない鳥など聞いた事ないわ』
「お、おう。だから飛べるおまーーじゃなくて鳥様にお願いがある」
つと空を指差し、竜夜は笑みを浮かべた。
「空から案内してくれないかな」
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